立命館大学、カプコン小林プロデューサーの特別講義を実施

「DMC4」、「BASARA」などのヒットゲームを生み出す手法や苦労を明かす


4月22日 開催

会場:立命館大学 衣笠キャンパス



京都府北区にある立命館大学衣笠キャンパス

 立命館大学は4月22日、衣笠キャンパス内以学館第2ホールにて、株式会社カプコンのプロデューサー・小林裕幸氏の特別講演を行なった。

 今回の特別講演は、立命館大学映像学部が同大学の学生を対象に行なう授業の一環で、毎回コンテンツ産業の第一線で活躍する人々を招いて開催されている。ゲーム業界からは過去に、ソニー・コンピュータエンタテインメントCTOの茶谷公之氏、同社プロデューサー藤澤孝史氏、エンターブレイン代表取締役の浜村弘一氏、「ゼビウス」、「ドルアーガの塔」の生みの親である株式会社モバイル&ゲームスタジオ代表取締役会長の遠藤雅伸氏、バンダイナムコゲームズ「機動戦士ガンダム戦場の絆」プロデューサー小山順一郎氏、株式会社式会社グラスホッパー・マニファクチュアの須田剛一氏が招かれている。

 小林氏による講演の第1部では、「コンテンツプロデュース最前線 - ゲーム、アニメをヒットに導く能力とは」と題して、小林氏がプロデュースした「デビル メイ クライ 4(以下、DMC4)」と「戦国BASARA」シリーズがどのように生まれたのかを、クリエーターを目指す学生およそ200人に向けて講義した。




■ 「次世代機感」をテーマに、新たなユーザへの訴求を狙った「DMC4」

新主人公「ネロ」ができるまでの紆余曲折が語られた
「DMC4」に登場した「ネロ」

 まず小林氏は、2008年1月に販売され、世界累計240万本が出荷された「DMC4」の企画・制作の過程について、企画書やティザームービー等の映像を交えながら解説した。「DMC4」が過去3作と大きく違うのは、プレイステーション 3へのプラットホーム変更と、新主人公「ネロ」の登場だった。PS3のローンチタイトルを目指して作成されたカプコン初のPS3ソフトであり、また「シリーズ1,000万本以上の大ヒットを達成しているシリーズだけに失敗は許されない」との思いもあり、プレッシャーの伴う開発になった。

 人気シリーズにおいて、主人公の変更は非常に難しい。しかし「DMC4」では主人公の変更は必然であった。開発が進んでいた「デビル メイ クライ3 Special Edition (以下、DMC3SE)」で、「できることはやりつくした」感が蔓延しており、スタッフからも「もうダンテで新しいアクションは無理」との声が挙がっていた。

 モチベーションを高めるため、シナリオブレーンとして菅正太郎氏、前作からの参加となる映画監督の下村勇二氏、CG会社のリンクスデジワークスなどに協力を依頼し、作品に新たなエキスを注入すると共に、総勢10名ほどが6カ月以上かけて、世界観や作品全体の方向性を決めるブレーンストーミングを行なった。

 初期のアイデア出しには、広くネタを募集した。会議室に集まり、時に合宿も行なって、「燃える要素」や「格好いいキャッチフレーズ」を出していく。アイデア出しでは、互いが知っているアニメやマンガ、映画のタイトルも出しながらスタッフ間のイメージを統一した。「DMC4」では、マンガ「ベルセルク」などさまざまなタイトルが登場し、共通認識の作成にひと役買った。

 ゲーム制作には社内外あわせて100名以上のチームで当たった。チームの隅々にまで意思統一を行なうためにはコンセプトが不可欠。「DMC4」のコンセプトは「次世代機感」。「PS3のアクションゲームとして初期定番になること」を目指した。次世代機の能力を最大限に発揮した作品を作るのはもとより、発売前から「圧倒的な次世代機感」を感じてもらうことに力を注いだ。最終的にはハードのローンチタイトルにはならず、マルチプラットホームになったが、登場キャラクターの多い冒頭のオペラシーンや、新たに追加された斬新なアクションなど、プラットホームにかかわらず圧倒的な次世代機感を表現した。

 「新ハードを購入してもらう」こと、「シリーズを知らない人にも訴求する」ことも命題とされた。「4作目からは遊びにくいのではないか」、「『DMC3SE』にプラスアルファする形では、ユーザーがついて来られない」などの声から、新主人公ネロの投入を決めた。ネロを盛り上げ、シリーズファンにも訴求するために、最初のトレーラーではあえてダンテを敵として扱い注目を集め、「W主人公」、「ダンテも操作できる」と、情報をさみだれ式に投下して気持ちをひきつける戦略を使った。

 各トレーラーにもストーリー性を持たせ、「新作の人間関係」、「ネロのアクション」、「悪魔の力に対して悩み葛藤するネロの姿」、「ヒロイン・キリエとの愛」を描き出し、第3弾トレーラーでは、巨大な敵やダンテの新しい武器を盛り込み、作品世界を浸透させている。

 「新たな挑戦には具体的なエッセンスが必要。ライバルは自分たち(旧作)、それを超えることを目指す」という小林氏。ただ続編を作るだけではなく、新要素を積極的に取り込むことで、過去作品のファンをつかむと共に、新たな層の獲得を考えている。




■ 個性的で魅力のあるキャラクターと、誰でも楽しめるゲーム性を目指した「戦国BASARA」

簡単に遊べて、個性的なキャラクターが登場するというコンセプトの「戦国BASARA」
シリーズ最新作のPSP用「戦国BASARA バトルヒーローズ」は、2対2のチームバトルになっている

 2005年7月の第1作発売以来、女性をも巻き込んだブームとなっているスタイリッシュ英雄(HERO)アクションゲーム「戦国BASARA」シリーズ。「DMC」シリーズが本格的なアクションファンを対象にしているのに対し、「戦国BASARA」はゲーム初心者も含めた誰でも遊べる爽快感が特徴。実在の人物とオリジナルキャラクターの混合や、現実離れした多彩な武器、独自の歴史解釈など「つっこみどころ満載」ではあるものの、戦国時代や史実は大事にしており、歴史を知れば知るほど楽しめるように作られている。

 「アクションのカプコン」という、アクションゲームに対しての高い評価は確立しているものの、「カプコンのゲームは難しい」との声が多いのも事実。「難しい」イメージを払拭し、誰でも簡単に楽しめるゲームを作りたいと思った結果生まれたのが「戦国BASARA」だった。1つのボタンを連打しているだけでもクリアできる難易度、派手なエフェクトやレスポンスにもこだわり、「楽しいアクションゲーム」を実現したことが、初心者や女性ユーザーの増加に繋がった。

 新シリーズに求めた「難易度は低く。しかし簡単なだけでは面白くないので、ゆるやかな坂道のように自然に難易度が上昇する」という考え方は、当初、スタッフになかなか受け入れられなかった。「ボタンを2つ使用しなければクリアできない難易度」のステージを作ってしまうなど、つい難易度を上げてしまいがちな現場の調整には苦労したという。その結果、何度も会議やチェックを重ねて、「難しいカプコン」のイメージを変えられるゲームができあがった。

 「戦国BASARA」のヒットを踏まえ、勢いを失くす前に早く「戦国BASARA2」を発売したいと考えた小林氏。新作に向けて選んだニューキャラクターは前田慶次。「漫画の『花の慶次』を越えなければならない」と考えて避けていたキャラクターだったが、「戦国BASARA2」発売に当たって慶次に託すことにした。伊達政宗の青、真田幸村の赤に対応し、慶次には黄色のデザインを採用し、「大人になりきれない学生っぽさ」、「恋だの喧嘩だのに生きる男」というイメージで進められた。

 実は慶次には「戦国BASARA2」の巨悪として君臨する豊臣秀吉との関係において、重い過去を背負っている。あえてその事実を伏せてプロモーションを展開したため、「バカっぽい」と人気は高まらなかったが、ゲームの発売後は慶次の内面や設定の深さが次第に受け入れられて、伊達、真田に続く人気キャラクターにまで成長した。

 「プロモーションではすべてを見せるばかりが大切ではないと思っている。ゲームには、遊んで楽しむ部分がなくてはならず、情報を規制することも必要になる。プロモーションの際にどこまで見せるとプラスに働くのかを見極めるのもプロデューサーの役割になる」という。

 「戦国BASARA」シリーズは、わかりやすい「正義と悪」を描いている。「どこまでもわかりやすく、派手に、楽しく」を実現するために個性的なキャラクター作りに力が入れられた。「デザイン、アクション、性格、演出」などをトータルに考えてキャラクターを作成。「戦国BASARA2」から実装したストーリーモードも、キャラクターをより深く掘り下げることに繋がり、キャラクター人気をより高めている。

 キャラクター作りは、まずカラーやシルエットの設定から始められる。敵がたくさん出てくる「戦国BASARA」では必然的に画面がごちゃごちゃしてしまうが、その中で目立つためにも、色や形をわかりやすくしている。伊達の青、真田の赤、前田慶次の黄色のほかにも、毛利元就の緑や長宗我部元親の紫など、カラーやデザインをわかりやすくしている。アクションとして必要な要素もデザインに盛り込み、動きと見た目のマッチングを図っている。

 たとえば浅井長政は、「行き過ぎた正義」をモチーフにして「赤信号を渡る奴は殺す!」というような、ずれた正義感を持っている。某特撮ヒーローをイメージした、赤と銀の甲冑を身に付け、構えだけで浅井とわかるキャラクターが作り上げられた。1人1人苦労を重ね、現在31キャラクターが作られている。キャラクターデザインには、過去に見たキャラクターなどを取り込むなど、意図的にどこかで見たようなもの、元ネタを想像させるようなものが採用されている。

 その後、セリフやボイスなどを作り込み、夫婦、主従など人間関係を決定。目指すは「格好よく、コミカルに、セクシーに」。デザインや人物設定などの細部が固まれば、自ずとストーリーもできあがる。

 ゲームを作るときには、まず「自分たちが面白いもの」を目指すという。しかし独りよがりではだめで、「ユーザーが面白いもの」という観点が必ず必要になる。そのためにも「タイトルごとに勉強する」こと、「客観的に物事を考える」ことが重要になる。常に向上心を持って学ぶと共に、クォリティに妥協せず、時間の限りベストを尽くすことで、ユーザーに喜ばれるゲームができるのだという。

 「戦国BASARA」シリーズは1年に1本新作を発表している。制作サイドにとっては非常に短い期間だが、ファンにとっては1年は長い。ゲームの出ない期間を埋めるためにも、メディアミックスを試みている。マンガ、小説のほか、設定本、ファンブック、台本などの印刷物の展開。イベントやグッズも多数発売し、ドラマCDやサントラCD、この春からはTVアニメもスタートしており、7月にはDVDも発売される。

 「戦国BASARA」シリーズでは主題歌や挿入歌にも挑戦し、CGムービーやアニメも制作した。歌を導入したのは、「人間の声の力は偉大だ、と感じたから」だという。各キャラクターの声優と共に、主題歌・挿入歌もゲームの盛り上げにひと役買っている。

 メディアミックスやグッズ展開にはユーザー目線で挑んでおり、自分が欲しいと思ったものをアイテムにしている。「自分たちならセリフを読みたいだろう」と思ったから台本集、「もっとキャラクターのドラマが知りたい」と考えたから、ドラマCDを作っているという。

 小林氏は最後に「現在は戦国ブームと言われていますが」との話題を自ら切り出し、ブームについては「ファンが色々な所へ出掛けて行ったおかげ」と述べた。「ゲーム自体や自分自身の露出が増え『戦国BASARA』の認知が高くなっているのは、ファンの力による部分も多いと思います」と語り、「ゲームのことを知っている方、遊んだことのある方も多く、アウェーではなくホームっぽい雰囲気でよかったです」と締めくくった。




■ 色々なものを見て、経験して、自分の糧にしてほしい

学生に向けて、今何をすべきかを語りかけた小林氏

 講演後行なわれた質疑応答では、学生からゲームの内容やメディア展開、業界の内幕などについて多数の質問が飛び交った。小林氏は映像やゲーム業界を目指すには「学生時代からさまざまな作品を見て、自分にない感性や発想を身につけることが必要」と話した。「たくさんの作品をじっくり深く知ることで、他作品中の表現や発想を上手に取り入れられる。メディア作品を利用するとチームメンバーとのイメージの共有もしやすい」と言う。

 また、本物を見ることも同じくらい大切だ。「火を知るときにはCGや映像だけではなく、キャンプファイヤーでもライターでも、実際に燃えている本物の火を見てほしい」と語った。畑、外国の風景、建築物など、すべて本物を知ることが大切で「DMC4」開発の際にも、チームで海外取材旅行に出かけたという。「エンタメを見つつ、本物も見る」ことが、後の物づくりに大いに役立ってくる。

 最後は「ビジョン達成のために、今しておくべきことは何か」という質問。小林氏は「ビジョンを作ることが1番ですよ」と笑いながら、「毎日映像を見ること」と答えた。毎日見ていると自分の興味や志向がわかってくる。嫌いなジャンルも満遍なく見て、いい部分や作り方を考えることや、共通したネタをいかにひねって新しく見せるかも大切なのだ。同時に「おおいに遊んで欲しい」との一言も。何でも体感・体験し、未経験分野にチャレンジすること、旅行などにも積極的に出かけ、本物を見る中で吸収した物が役立つこともある。

 人気ゲームのプロデューサーがゲストということで学生の関心も高く、終了後も小林氏を囲んでゲームに関する質疑が繰り広げられていた。「戦国BASARA」の実売は男女の割合が6対4だとの話も出ていたが、イベントに足を運ぶと女性の姿ばかりが目に付く。小林氏曰く「積極的な女性が多いから。男性ももっとがんばれ」とのことだが、前の席が女子学生で埋め尽くされ、質疑応答や講座後の積極的な様子を見ていると、その言葉も的を射ているように感じた。


(2009年 4月 24日)

[Reported by 山科明之進]