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「シンジとの掛け合いを一緒に収録できたのがうれしかった」、総勢14人の声優たちが熱い想いを語る「シン・エヴァンゲリオン新劇場版」舞台挨拶レポート
2021年3月29日 12:17
- 3月28日開催
- 会場:新宿バルト9
3月28日に新宿バルト9にて、「シン・エヴァンゲリオン新劇場版」に出演した14名の声優が集まる「大ヒット御礼舞台挨拶」が行なわれた。本稿ではその様子をレポートしたい。
今回の登壇者は碇ゲンドウ役の立木文彦さん、アヤナミレイ(仮称)役の林原めぐみさん、碇シンジ役の緒方恵美さん、式波・アスカ・ラングレー役の宮村優子さん、相田ケンスケ役の岩永哲哉さん、鈴原ヒカリ役の岩男潤子さん、後列は、北上ミドリ役の伊瀬茉莉也さん、日向マコト役の優希比呂さん、伊吹マヤ役の長沢美樹さん、赤木リツコ役の山口由里子さん、葛城ミサト役の三石琴乃さん、加持リョウジ役の山寺宏一さん、渚カヲル役の石田彰さん、多摩ヒデキ役の勝杏里さんとなる。非常に豪華な舞台挨拶となった。
なお、舞台挨拶には多少ネタバレが含まれている。「ネタバレはいやだ」、という人は注意してほしい。
「エヴァンゲリオン新劇場版」最新作「シン・エヴァンゲリオン劇場版」は、3月8日から公開された。2007年より新たに上映を開始した「新劇場版」4部作の4作目であり、完結編という位置付けだが、個人的には旧劇場版のラストに不満のある人や、トラウマになってしまった人にこそ、是非見てほしい作品だ。
今回の「シン・エヴァンゲリオン劇場版」のキャッチコピーは「さらば、全てのエヴァンゲリオン。」となっており、1997年に放送開始したテレビシリーズから続いてきた全てのエヴァンゲリオンに対する1つの回答となっていると感じた。
もちろん理想は新劇場版3作を全て見た上で見に行ってほしいが、時間がない人は、それらを見ずに今回の「シン・エヴァンゲリオン劇場版」のみを見に行っても問題ない作りになっている。未見の人は是非見に行ってほしい。
品の衝撃や、別撮りで行なわれたアフレコの苦労などを語る14人
今回の舞台挨拶では本作に出演する14人の声優たちが一堂に会した。まずは参加者全員が今回の「シン・エヴァンゲリオン劇場版」についての想いを1人ずつ語った。
冒頭で碇シンジ役の緒方恵美さんは「このような形での舞台挨拶は1997年の旧劇場版でやってから、新劇場版のシリーズでは1度もやっていなかったので24年ぶり。これだけのメンバーが集まる事は2度とないと思います。お客さんも楽しみにしてくださったと思いますが、私たちも楽しみにしてここに来ました」と挨拶した。
また、作品に対する想いを問われると「エヴァンゲリオンのアフレコは個別に行なう事が多く、本作はこれまで以上に声優のみなさんがバラバラに収録していたので、みんながどんな演技をしているのかがわからないまま、完成した映像を見て初めて、あ、こうなっていたのかと、お客さんたちと同じような気持ちで楽しみました」と収録の印象を語った。
ユイや綾波レイ、アヤナミレイ(仮称)などを演じた林原めぐみさんは「2時間35分の長い長い上映時間を終え、そして長い長いエンドテロップを見ながら、これだけ大勢の人たちが集結した作品だったんだなぁと改めて感慨深く思いました。おそらく30代以降の人にとってはこれが1つの終わりであり、10代の人にとってはもしかしたらこれが入口になるのかもしれない。そんな無限ループの中を漂う人も1度抜けて戻ってくる人もいて、エヴァンゲリオンという世界がここに1つ存在していたんだなぁと噛みしめる思いです」とした。
試写と地元の映画館とで計2回見たという、式波・アスカ・ラングレー役の宮村優子さんは「旧劇場版の頃はまだインターネットもあまり普及していなかったんですが、当時も謎本のような物を読んで、人の考察を楽しんでいた。新劇場版では自分で考察したり、人の考察を見て、こうだったのか、と新たな事実を知ってまた劇場に確認しに来るといった楽しみ方をしていて、これが正しいエヴァンゲリオンの楽しみ方なんだなぁと感じた。今回の完結編でも何度もおいしい思いをして、みなさんにもいっぱい楽しんでほしい」と考察の魅力を語った。
試写を1度見たという葛城ミサト役の三石琴乃さんは「人間ドラマはグッと迫るものがあったんですが、重たい設定や地球がどうなったか、などはわからないままなんですが、葛城ミサトとしては、大切な役割を担って、一生懸命頑張ってきました。今日はみんなと一緒にいられて本当に幸せです」と率直な感想を語った。
赤木リツコ役の山口由里子さんは「初日の5時の上映をバルト9でこっそり他のお客様と一緒に見ました。本日は女性も大勢いらっしゃいますが、その時はほぼ男性でした。台本を読んだだけで30分くらい泣いてしまいましたが、実際の映像を見た時はさらに感動してしまい、正にアニメを越えた芸術作品だと感じました。そしてエンドロールが終わったところでシーンとなった後、盛大な拍手が沸き起こり、これを味わえたのは幸せでした」と初日の臨場感を熱く語った。
渚カヲル役の石田彰さんは「見終わったあとは見事に翻弄された。異様とも言えるような映像をどう解釈すればいいのか、設定的なところをどう捉えればいいのかと迷ったが、物語としてはシンジとゲンドウの会話をキッチリちゃんと聞き逃さないように追えばわかるようになっているのかなという気がしていて、僕もそれで解釈した気になった」と独自の解釈を説明した。
また石田さんが続けて「そんな僕は、ゲンドウがシンジに、大人になったな、というセリフがあったんですが、それを聞いて、お前が言うな!と思いました。これはそういう作品です!」と声を荒げる一幕も。周りの人たちも賛同する中、食い気味に碇ゲンドウ役の立木文彦さんが「あー、そうきますか。まぁ無限ループですね」と毎回非難の対象になりがちな碇ゲンドウのキャラクターとして、諦めた口調で語った。
そして「エヴァンゲリオンという作品はアニメではないなと。ザ・映画、という作品だった。自分の中では言いたいことはいっぱいあるが、庵野監督と同世代でここまで一緒にやれて、ひとつの区切りがつけられたのがよかった」と率直なコメントを残した。
相田ケンスケ役の岩永哲哉さんは「映画館の試写で拝見したんですが、とんでもない映画ができてしまった、というのが素直な感想です」と率直な感想を述べた。また「相田ケンスケとしては『:破』以来12年ぶりの登場で、干支が1周回ってしまったんですけど、最後に間に合って、役割もあり、いい仕事ができた」と述べた。
元委員長こと鈴原(旧性:洞木)ヒカリ役の岩男潤子さんは「3度試写会に招待されたのですが、見るのが怖くなってお断りしてしまい、先日劇場で1人でみてきましたが、席に座った途端に涙が止まらなくなりました。庵野監督の温かい気持ちの込められたメッセージを受け、見終わって優しい気持ちになり、感謝の気持ちが溢れました」と感慨深く語った。
伊吹マヤ役の長沢美樹さんは「美しいだけの物は魅力を感じない。どこか欠けた存在の方が魅力を感じるという庵野監督の発言を見て、伊吹マヤはエヴァンゲリオンという特殊な世界の中では整った存在だと思っていた。ところが話が進むうちに旧劇では捕食のシーンでゲロゲロしちゃったり、リツコ先輩が好きすぎて旧劇で溶ける時には絶頂を迎えるようなセリフを要求されたりしてましたが、『:Q』ではあまりにも急激な性格の変化で、『どうしちゃったの? マヤちん? 』となるなど、整っている物を無理矢理壊されるような瞬間がマヤ自身にはたくさんあったと感じた」とマヤのキャラクターを分析した。
他にも「このシリーズでは人生で大切な活用できるセリフを頂けて、テレビシリーズの時の『不潔』というセリフはたくさん使わせてもらいましたし、これからの人生では新劇場版の『これだから若い男は! 』というセリフを今後も活用していきたい」と笑いながら語り、最後に「エヴァはアニメではなく神話だった」と締めくくった。
日向マコト役の優希比呂さんは「今回ほとんど抜き撮りだった。本作は非常に複雑な人間関係が散りばめられており、セリフも難解な物がとても多い。にも関わらず、抜き撮りでここまでできるとはなんとすごい声優さんたちだ! 相手がいなくてここまでの芝居ができるとは、と感動してました」と別撮りの大変さについて解説してくれた。
『:Q』からの登場となる北上ミドリ役の伊瀬茉莉也さんは「初めてエヴァンゲリオンに触れたのは『:序』で、その後『:Q』でオーディションを受けてから、テレビシリーズなどの過去作品を見ましたが、このような作品に関われて光栄です。今回の『シン・エヴァンゲリオン劇場版』は庵野監督の作品への愛やキャラクター同士の愛がが感じられる作品だったため、見た時に涙が止まりませんでした」と率直な思いを語った。
同様に『:Q』から登場した多摩ヒデキ役の勝杏里さんも「金縛りのように動けない状態になった。10代の頃にテレビシリーズで触れていた作品であり、まさか1ファンとして見ていたこの作品に携われるとは思っていなかったし、実際に携わって最後を迎えられた事が自分の中では非常に大きく、それが金縛りのような状態を起こした」と衝撃の大きさを語った。
加持リョウジ役の山寺宏一さんは「実際に見て、出ていてよかったなぁと思いました。セリフがそんなにたくさんあるわけではないため、庵野さんがカットしましょう、と言ったらそこまででしたので。エヴァンゲリオンは世の中にエンターテインメントが多くある中でそのどれとも違う唯一無二の存在。そして、我々声優という職業は作品との出会いが全て。そんな中で本作に出会えた事は本当にうれしい。代表作品はエヴァンゲリオンの加持リョウジとアンパンマンのチーズという、このような2つの作品に出会えた事に本当に感謝している」と笑いを交えて締めくくった。
林原さんからのまさかの歌のサプライズ!? 山寺さんからのギリギリトークも爆笑
その後は、劇中のシーンで絡みのある声優同士でのトークセッションが展開した。
第3村に登場するメンバーたちに感想を求められた中で、林原さんは「黒いプラグスーツと田んぼ、これには驚きましたが、エヴァンゲリオンという作品でこのような自然とのふれあいのようなシーンが出るとは思いませんでした」と語ると、それに合わせて岩村さんが「ほのぼのした雰囲気がよかったですよね!」と共感。そこに宮村さんが「旧劇場版はそんな雰囲気は一切なかったから!」と合いの手を入れる。
同じく第3村での話題では、岩永さんが「ケンスケにケンケンという素敵なあだ名がついたのがうれしかった。別の場所でケンケンと呼ばれたり」と語ると「私も今日お会いした時にケンケンと呼びそうになってしまいました」と岩男さんが照れくさそうに語る。このようなトークの中、本編に触れる話をしながら「中学生だった私たちが大人になってしまいましたね……あ、今のはネタバレになっちゃいますね。すいません!」とネタバレに対してやたらと自分に厳しい岩男さんの気遣いも印象的だった。
また、ヴンダーの乗組員たち同士のトークでは、ネルフ時代からずっと一緒だったにも関わらず、山口さんが優希さんに対して、マコトと呼ぶシーンがなかった点を挙げ、名前を呼んでみたかったですね、と語る。また、三石さんと山口さんは劇中以外でも、別の現場で会うと旧友同士が再会したような気分になる、と互いの作品を超えた関係性を語った。
劇中での出番が少ない山寺さんは代わりに加持から葛城にかける言葉がある、とのことで急遽役に入って、加持として声をかける。「葛城、本当によく頑張ったな。そして何より俺の(ピー)を(ピー)してくれて本当にありがとう」と自主規制の音を自ら入れる事で、ネタバレ防止とも単なる下ネタとも取れるセリフを投げかけた。これには三石さんも「一瞬泣きそうになった私がバカでした」と笑った。
石田さんはこうしたやり取りの中で「『エヴァンゲリオン新劇場版:破』などでは林原さんが歌う『翼をください』や『今日の日はさようなら』などの挿入歌が入るシーンが印象的だった。映像と歌詞がリンクするいいシーンでとても気に入っているので、もし渚カヲルにもこうした挿入歌を入れるようなシーンがあるなら、中島みゆきさんの『時代』を歌ってもらえたらいいなぁ」と思いを語ると、それに応えるように林原さんの口から「まわる、ま~わるよ、時代はまわる」とワンフレーズが流れだし、石田さんを喜ばせるサプライズとなった。
そして、シンジとゲンドウのやり取りについてのトークとして、思い入れのあるシーンをと聞かれた緒方さんは「とくに思い入れはないですね」とそっけなく返す。そこに立木さんが「寂しいなぁ!」と言いつつ、「今回はシンジとの掛け合いを一緒に収録できたのがうれしかった」と印象を語った。
最後に総監督の庵野氏へのメッセージを聞かれた緒方さんは、先ほどのトークの話の続きから話を展開、「先ほど思い入れがないという話をしましたが、今回のシンジは狂言回しのような役回りで、むしろみんなの声を聞いて相槌を打ち、送り出すのが仕事でしたので、あまり思い入れを入れるべきではなかった、という意味でした」とそっけなく返した理由を語った。そして「テレビシリーズの最後では、シンジが輪の中心でみんなに『おめでとう』と言ってもらえたが、今回はみんなに『おめでとう』と声を掛けて送り出して、最後に自分だけが残ったような感覚でした。庵野さんに対しても『お疲れさまでした』という想いです」。
本作については、見た人の感想の幅がかなり広い。特に絶賛している人が多い本作だが、絶賛している人によってその理由がかなり異なるという点が非常に興味深い。今回の舞台挨拶でも語られていたが、初めて触れた時期やタイミングで、本作に対する印象はかなり異なるし、26年前のテレビシリーズの初回放送から現在までの時間をどう生きてきたかによっても本作から受ける印象は大きく異なるのかもしれない。
本作には庵野監督の好きな物のオマージュとSF作品の魅力の1つ「センス・オブ・ワンダー」が数多く散りばめられている。そのため、観劇後は、ネタバレOKで語り合える仲間たちとの議論が非常に面白い。本編で語られなかった内容や劇中のシーンをどう解釈したかという話を、各人それぞれの切り口で語り合うと、新たな発見があるなど、相互に補完しあえる。これこそ、庵野監督の望む本作のもう1つの魅力であり、楽しみ方ではないだろうか。是非劇場でその衝撃を体感してみてほしい。
(C)カラー