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クルマ好きとゲーム好きが集結した「GT SPORT」大会「ROOTS JAPAN CUP 2018 FINAL」開催
“ドリキン”土屋圭市氏「スリップが強く効く。これがゲームのおもしろさだよね」
2018年12月9日 00:00
eスポーツが流行語大賞のトップテン入りを果たした2018年の師走。日本各地で様々なeスポーツイベントが開催されている。12月8日も、7日より実施しているLANパーティーイベント「C4 LAN」や、「PLAYERUNKNOWN'S BATTLEGROUNDS」のアジアパシフィック大会「Predetor League」の日本代表を決める「Predator League 2019 Japan Round」などなど、様々なタイトルによるeスポーツイベントが開催されている。本稿では、モータースポーツをモチーフにしたeスポーツ大会「ROOTS」の模様とお届けしたい。
「ROOTS」は、自動車販売、自動車パーツ販売などの自動車関連メーカーが力を合わせて実施されている、実車好きとゲーム好きをターゲットにしたユニークなeスポーツ大会。“ROOTS”には、カーカルチャーとしての原点回帰という想いが込められており、eスポーツをカーカルチャーの復興に役立てようというアプローチがおもしろい。
主催のDKアソシエイションは、経営コンサルティングを本業とするビジネスマネジメントコンサルティングが起こしたイベント会社で、取締役に“ドリキン”の愛称で知られる元レーシングドライバー土屋圭市氏を迎え、この「ROOTS」の実施が主な事業となっている。
「ROOTS」は、6月に秋葉原で実施されたプレ大会を含めてまだ今回で3回目で、まだ始まってから半年足らずのeスポーツ大会となっている。今回筆者もレースゲームファンの1人としてようやく参加することができたが、非常にユニークかつ魅力的なeスポーツイベントだと感じた。
まず、eスポーツイベントとしては、まだまだ発展途上だ。たとえば、ソニー・インタラクティブエンタテインメント主催の大会や、他のタイトルの公式大会と比較すると、随所に手作り感が残り、大会進行や仕切りも戸惑いが目立ち、ある意味、日本のカーカルチャー界、カーレース界のスターである土屋圭市氏の喋りで乗り切っているイベントという側面が強い。かといって参加者や観戦者たちは、そこに大きな不満を漏らすわけでもなく、クルマを共通の趣味とする仲間達と雑談を楽しみながら試合を観戦する姿が見られた。
レースゲームファンの1人として実際に参加して感じたのは、通常のeスポーツ大会と比較して年齢層が高めで、ゲームファン、レースゲームファンというよりは、クルマファン、レースファンのほうが多いような印象で、クルマコミュニティとゲームコミュニティが渾然一体となって、産声をあげたばかりのeスポーツ大会を一緒に育てていこうというあたたかい雰囲気を感じた。レースゲームは、ゲームジャンルとしてマニアックで、ゲームの種類も少なければ、eスポーツ大会も少ないため、大事に育てていきたいという共通認識があるのだろう。
競技用の機材は、本体はプレイステーション 4、モニターは湾曲ゲーミングモニター「EX3200R」(BenQ)、ハンドルコントローラーは「G29」(ロジクール)、レーシングシートは「F-GT Racing Simulator Cockpit」(Next Level Racing)という豪華な環境を用意。
大会の方は、まず約2時間かけて47名による予選を行ない、スコア上位8名による決勝大会が行なわれた。
予選は、筑波サーキットによるタイムアタック。カテゴリーはGr.3で、コースコンディションは晴天・朝。6ラップを走り、後半3ラップの中のベストタイムがスコアとなる。上位8名に進出したのは、8名中5名が常連組となった。
決勝戦は、グリッドポジションを決めるためのグリッドレースと、決勝レースの2段階で行なわれ、コースは日本を代表するサーキットである筑波サーキット。実況解説に土屋圭市氏、eスポーツキャスターの北川義隆氏、「ストリートファイターV」のプロゲーマーであり、レースゲームファンだというチョコブランカ選手の3人を迎え、土屋氏の軽快なトークによる和やかな雰囲気で進行した。
土屋氏は、「ROOTS」以外にも多くのレースゲームイベントに参加しており、「やまどぅ(前大会優勝)を誰が倒すのかが楽しみ」、「ふじおは塚越広大(スーパーGTやスーパーフォーミュラに参戦するレーシングドライバー)にそっくりなんだよ」と、次々に顔見知りの選手に声を掛け、トークをリード。
ゲリラ的にスタートしたチョコブランカ選手とのエキシビションマッチでは、まさかのスタート直後にするという、ビートたけし級のボケを見せ、7秒近くの差を付けてチョコブランカ選手余裕の勝利というところで、土屋氏がチョコブランカ選手のハンドルを握り、無理矢理コースアウトさせるという反則技に出た。ハンドルを離したおかげで自身もコースアウトしかけたもののなんとか最後まで走りきり、土屋氏の逆転勝利に終わった。「これがプロの腕だよ」と凄む土屋氏。会場は「これを見に来た」という楽しい雰囲気で盛り上がった。
決勝レースは、11ラップという長丁場で行なわれた。基本ルールは予選と同様だが、タイヤの摩耗は10倍、燃料消費は4倍、スリップストリームは「強め」となり、最初から最後まで、現実のレースと同様のレースマネジメントと、ピットストップが必要不可欠となる。現実のレースでは、監督とエンジニアがいて、ドライバーはその指示に従えばいいが、ゲームではすべて自分1人で考えなければならない。「ゲーマー、スゲえなと思った。バカなレースドライバーは多いが、ゲーマーは頭がいい」と土屋氏。
土屋氏によれば、現実世界のレースとの一番大きな違いは、スリップストリームの効果が大きく、かつ直線以外でも適用されるところだという。レースで選択できるクルマは、現実世界のレース同様、BoP(Balance of Performance、クルマの性能調整)の適用を受けるため、基本的にどのクルマを選んでも同じ性能となる。そのため最初から最後まで1位で走りきるということは難しい。
最初は誰かの後ろについてタイヤの摩耗と燃料消費を抑えながら、適切なタイミングでピットストップを行ない、ライバルカーのウィークポイントで最後の最後に一気に抜き去る。決勝レースでは、まさに土屋氏の解説そのままの最初から最後までまったく気の抜けないコンマ一秒の駆け引きが繰り返された。
土屋氏は、「GT SPORT」のウリのひとつである優れた観戦モードで、決勝レースを見ながら「実車レースを見ているみたい」と繰り返し発言。出場選手達の縁石のショートカットや、ヘアピンのブレーキングのうまさを褒めた。
その上で、スリップストリームの効き方の違いについて繰り返し言及。「どこでもスリップが効く。これがゲームだよね。抜けるチャンスがいっぱいあって見ていておもしろい。実車もこれぐらい効けばいいのに」と現実世界に注文を付けていた。
決勝レースを制したのは、前大会優勝で土屋氏イチオシのやまどぅ選手。まさに土屋氏の予言通りの展開となり、最後の最後に抜け出し、0.004秒差で逆転優勝を果たした。優勝したやまどぅ選手には、賞品スポンサーのアンビシャスよりスカイライン R34(中古車)と、次回ROOTS出場権が贈られた。
レースゲーム大会の賞品が、リアルなレーシングカーというのがROOTSのユニークなところだが、表彰式の後に行なわれた2019年の展開発表では、さらに驚きの発表が行なわれた。リアルカーレース大会「ROOTS JDL」構想が発表されたのだ。「ALL JAPAN AE86 DRIFT FESTIVAL(全日本 AE86 ドリフトフェスティバル)」と、「ALL JAPAN SILVIA DRIFT FESTIVAL(全日本 SILVIA ドリフトフェスティバル)」の2つが同時発表され、前者は、土屋氏の愛車としても知られる“ハチロク”を使ったドリフト大会、後者はNISSAN SILVIA 180SXを使ったドリフト大会となる。
肝心の土屋氏が参加するかどうかなど、詳細については発表されなかったが、ROOTSのテーマである“原点回帰”の一環として、リアルなドリフト大会、カーフェスを実施することで、パーツメーカーへの貢献をしていきたいという。会場ではレースゲームをプレイできるエリアも用意する予定で、「実車好きとゲーム好きの垣根をなくしたeスポーツイベント」という位置づけは今後も継続していくという。
最後に総評を行なった土屋氏は「今年1年eスポーツをやってみて、“最速決定戦”というものがだんだんできあがってきたんではないかなと思います。僕やチョコちゃん(チョコブランカ選手)は色んな所に行って、どうやればもっとおもしろくなるかを考えている。実車に近づけるとシュールになるし、見応えのあるバトルも年に何回かしかないし、それギュッとまとめたものがゲームでできるんじゃないかということでeスポーツ大会『ROOTS』を立ち上げました。今回のようにスリップがバンバン効けばバトルはそこら中で起きるし、そういう盛り上がりを確立させていって来年に繋げていこうと考えています。参加していただいてる皆さんと一緒に、どうやったらもっとおもしろくなるのか、世界中の視聴者をどうやったら熱くさせることができるのか考えていきたいと思っていますので、来年もどうぞよろしくお願いいたします」と挨拶。“eスポーツプロデューサー”として2019年も引き続き活動していくことを約束した。
土屋氏とROOTSの今後の活動に引き続き注目していきたいところだ。