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「Unite Tokyo 2018」基調講演からUnityの未来を垣間見る

5月7日開催

会場:東京国際フォーラム

 ゲームや様々なアプリケーションの開発に使用される開発用ソフトウェア「Unity」の最新情報の発表や技術交換が行なわれるカンファレンス「Unite Tokyo 2018」が5月7日に東京国際フォーラムで開幕した。Unityユーザーに向けて、最新の機能解説やトピックスの紹介を行なう国内最大のカンファレンスとなる。

 講演にはアメリカ本社から来日した精鋭スタッフをはじめ、ゲームメーカーやVFXなど映像の専門家、大学関係者や医療、製造業など様々な業界の関係者が登壇する。また、関連メーカーやインディ開発者によるブース出展が行なわれる。今年はマウスコンピューターが機材協賛を行なっており、マウスコンピューターのゲーミングPCブランド「G-Tune」のPCが各ブースに並んでいた。

 今年の基調講演は、ユニティ・テクノロジーズ・ジャパンの日本担当ディレクター、大前弘樹氏をはじめ、アメリカ本社から来日した多数の開発者によって行なわれた。さらに講演の冒頭には、バーチャルYouTuberのキズナアイさんがスペシャルゲストとして登場した。いつもの放送と同じテンションの高いノリで「Unite Tokyo 2018」を盛り上げつつ、しっかりと自分の宣伝もしていた。今回は講演の中に電脳少女シロが登場するものもあり、ここでもバーチャルYouTuberの人気を伺うことができた。

【キズナアイさん】
【機材協賛のマウスコンピュータ】

エディタの日本語化評価版を配布

ユニティ・テクノロジーズ・ジャパンの日本担当ディレクター、大前弘樹氏

 今回も様々な発表が行なわれたが、日本人開発者として最も嬉しい、エディタの日本語対応がついに実現することが大前氏から発表された。

 大前氏は、Unityの信念である、「開発の民主化」、「難しい問題の解決」、「成功の支援」を紹介し、Unityを使ったモバイルゲームの開発者が過去2年間にアイスランドのGDPに匹敵する12.4億ドルの利益を生み出しており、Oculus Riftの69%、Gear VRの87%、HTC Viveの74%、Hololensの91%をUnityで開発されたコンテンツが占め、Magic Leapのような未来の端末も含めた25のプラットフォームで使用されていることを動画で紹介した。

 また、米国で最も成長している仕事の7番目にUnity開発者が位置していたことに驚いたと語った。Unityが日本に本格的に進出したのは2011年だが、それから使用者はどんどん増加している。2017年だけでも、プロ向けの有料プラン「Unity Pro」の使用者は1.5倍に増えたのだそうだ。

 そして、増加を続ける日本人開発者を支援するためには、ローカライズが重要で「様々なサービスが日本語で使えるように」これまでもチュートリアルや最新のドキュメントを日本語で使えるように対応している。だがエディタはこれまで英語版のみだった。2015年の「Unite Tokyo」の基調講演でエディタの日本語化の話がでたが、その後何の動きもないように見えていた。

【日本語版エディタ】

 しかし内部的には進行しており、5月2日にリリースされた「Unity 2018.1」から多言語化の対応が始まっており、このバージョンを日本語化する評価版のリソースが今日から配布される。このリソースを組み込むと、エディタが日本語で動作するようになる。

 Unity Connectにフィードバック用のグループが立ち上がるので、利用したうえでこのグループにフィードバックを送って欲しいということだ。

「ProBuilder」、「PolyBrush」などのツールがUnityに統合

エヴァンジェリストのマイク氏
エヴァンジェリストのカール氏

 次に、「Unity 2018.1」ベータ版から統合され、追加料金なしで使うことができるようになる「ProBuilder」について、 アンディ氏とカール氏の2人のエヴァンジェリストが解説した。

 「ProBuilder」は、モデリングツールとレベルデザインツールを組み合わせたハイブリッドツール。シンプルなジオメトリが作れるよう最適化されており、同時に細かい編集も可能で、UVのアンラッピングもできる。

 デモでは、ロボットファクトリーという未来の工場のようなマップを編集していく作業を紹介した。これはすでにポストエフェクトまで完成しているマップに、新しくポリゴンメッシュだけのマップを接続するというもの。新しいマップはすべてUnityの中で作られており、プロビルダーにビルトインされている様々なプラグインを使って編集していく。

 例えば、「Meshediting」ツールを使って、選択したフェイスやエッジを編集して、メッシュの形状を簡単に変えたり、キャラクターが落ちると困るところを、「Polyshape」を使って、ポイントをクリックするだけで、プロシージャルメッシュが生成される。また、既存のマップとの接続は、「Boolean」ツールで2つの異なるメッシュを使って簡単に穴を開けることができる。

 そうやって作ったプロトタイプをFBX Exporterを使って、Mayaに同じポジション、スケール、階層でエクスポートしてMaya上でビジュアルを作りこみ、それをまたUnityにインポートしてくることができる。さらに「PolyBrush」というツールを使うことで、画面上に色を塗るようにプレハブを設置することができる。「PolyBrush」は現在ベータ版で2018年中にUnityに統合される予定だ。

すでに完成しているマップ
ポリゴンメッシュの新マップを追加する
Mesheditingツールで坂を作る
Polyshapeツールでキャラクターが落ちないよう柵を作る
Unityで作ったポリゴンメッシュ
FBX Exporterを使ってMayaにエクスポート
Mayaでフィニッシュワークを作成
Unityにインポートしてメッシュと重なっている状態

スクリプタブルレンダーパイプラインとシェーダーグラフを使ったエフェクト

 Scriptable Render Pipeline(スクリプタブルレンダーパイプライン、SRP)は、Unityでのレンダリング設定や実行をC#スクリプトで制御できる仕組み。高画質のものと、軽量の2種類がある。デモでは、軽量なポストプロセッシングをオンオフすることで、画面の雰囲気が変わる様子が紹介された。

 また、先ほど穴をあけた扉にエフェクトを追加するため、「Shader Graph(シェーダーグラフ)」を使って、欲しいエフェクトを作り上げていく様子も披露された。シェーダーグラフはスクリプタブルレンダーパイプラインで動作する機能。

 シェーダーグラフの画面を開くと、テクスチャや効果、アニメーションが全てノードとして並んでおり、このノードをつなぐことで、右側にあるレビュー画面がリアルタイムに変化していく。欲しい効果がつくれたら「Convert to Property」でプロパティ化していけば、そのシェーダーが自動的にメッシュに追加される。

【Shader Graph】

わずか72KBのコアランタイムで動くUnityで遊べる広告を実現

リードエヴァンジェリストのマーク・スコエナゲル氏

 リードエヴァンジェリストのマーク・スコエナゲル氏は、スマートウォッチのようなウェアラブルデバイスや、エントリーモデルのスマートフォンのような環境をサポートするために、高速、軽量な新しいモジュラーコンポーネントを紹介した。

 この新しいUnityのコアランタイムはなんと72KBという小ささ。これは、Windowsマシンの平均的なアイコンの7分の1というサイズ。ランタイムが小さくなっただけではなく、アセットパイプラインも見直して、アセットも小さくなっており、短いロード時間で読み込むことができる。

 これを使って考えられるのがプレイアブルな広告だ。現在もPVを動画として流すようなゲームの広告はあるが、実際にプレイできる広告はいままではなかった。今回は、Space Apeの「FASTLINE」というレーシングゲームのアセットを使って広告用のレースゲームを作成。スマートフォンからサンフランシスコのサーバーにアクセスして実際にプレイして見せた。

【軽量な新しいモジュラーコンポーネント】

 ファイルサイズはUnityではないエンジンの場合2.6MBだが、Unityではこれが約800KMまで圧縮されている。ボタンを押してから実際に遊び始めることができるまでのコールド・ロードタイムはUnity以外では2.7秒だが、Unityでは1.3秒に短縮されている。

 実際の操作では、約2秒程度で音もちゃんと付いたゲームの体験版がすぐに遊べるようになった。遊ぶと、最後にGoogle Playへのリンクに誘導される。ゲームが気に入れば、そこから本体をダウンロードできる。

 同様に人気のあるメッセージングアプリの中でゲームができるようにすること。すでにいくつかのデベロッパーと組んで開発が進んでおり、年末には実際に遊べるようになる。

【広告として表示される「FASTLINE」】

自動車の開発などゲーム以外の業界でもUnityが活躍

 次に紹介されたのは、ゲームとは畑違いの自動車業界での使用例。もともとはゲームエンジンのUnityだが、最近ではリアルタイムの描画エンジンとして、建設や製造、航空、宇宙開発などの現場で使用されている。

 製造業では、クレイモデルの代わりにVRを使ったバーチャルな空間での設計に移行しつつある。講演では、アウディのデザイナーチームがユニティを使ってVR空間で車をデザインしている様子が紹介された。

Unityを使っているゲーム業界以外の企業
クレイモデルを作る従来の方法
VRを使った新しいデザインの風景
VRで実際に乗ってみることもできる
VRの車体
組み立てラインの練習にも活用
リンカーンの車体シミュレーション
フォードの顧客向けプロモーション
コンセプトカーのコンソール

 組み立てラインのトレーニングにもUnityが使われている。他にも顧客への説明や、コンセプトカーのダッシュボードディスプレイなどにも利用されている。

 だが、最も革命的なのは高解像度のナーブCADデータをポリゴン化する技術だ。Unityは、CADデータのエクスポートソフトの業界リーダーであるPiXYZとパートナーシップを確立した。

 講演では、PiXYZプラグインを入れたUnityで、ハイエンド3DCADであるCATIAで作られたレクサスの内部構造のデータを読み込む様子が紹介された。12コアのCPUをフル稼働させて、ハイエンドCADのデータを、5,000万を超えるポリゴンと、3,000以上のオブジェクトに変換する。CPUのコアが大きければ、それだけインポートの時間が短縮されるということで、かなりマシンパワーを使う作業になっている。

 データの取り込みが終われば、Unityの機能を使ってオブジェクトを利用することができる。マテリアルはCATIAだけではなく、SOLIDWORKSなどどんなCADからでも変換できる。VRを使えば、構造の内部にまで首を突っ込んでみることができる。高解像度のマテリアルセットも今後登場の予定で、リアルな質感表現が可能になる。

マルチスレッドでもかなり重い作業
5,000万を超えるポリゴンへ変換する
オブジェクトの数は3,000以上
レクサスのエンブレムもちゃんとついている
今後登場予定の高解像度なマテリアル
革などのリアルな質感を再現する
色のマテリアルも多数登場する
よりリアルな表現が可能になる

人間が我慢できる0.5秒で作業を終わらせるための新システム

テクニカルエヴァンジェリストのジェイ・サントス氏

 テクニカルエヴァンジェリストのジェイ・サントス氏はUnityの今後の進化について話をした。キーワードになるのは「500ms」という時間。今後Unityの中で何かを変更するとき、0.5秒以内で処理が終わるのを目指すという。Googleは検索結果が表示されるまで0.5秒以上待たせてはいけないという方針なのだそうで、0.5秒というあっという間の時間なら人は待っていてイライラすることがないという理由だ。

 例えばC#のファイルを変更して、その結果を確認するまでに0.5秒、あるいはSPXファイルをインポートしてターゲットデバイスで見えるようになるまで0.5秒というのが目標となる。

 これを実現するために、バージョン管理などがやりやすくなるパッケージマネージャーが導入される。他にも「Entity Component System」、「C# Job System」、「Burstコンパイラ」などが導入される。

 「Entity Component System」では例えばこのシステムを使うとデータの格納方法を変えることができる。至るところに散らばっていたメモリはパフォーマンスに悪影響を及ぼすので、「Entity Component System」はデータを自動的に綺麗に並べ替えることでパフォーマンスの大幅な改善を目指す。

 「C# Job System」を使えば、例えばCPUのマルチスレッド化への対応のためのコードを簡単に書くことができるようになる。

 「Burstコンパイラ」はマシンコードをオプティマイズして届けてくれる。パフォーマンスの改善が、ボタンを押すだけで期待できるようになる。マルチスレッドのCPUを使って、「C# Job System」と「Entity Component System」、「Burstコンパイラ」を有効化することで、シングルスレッドでの作業の100倍以上のパフォーマンス改善がみられる。

 オンラインマルチプレイのゲーム開発についても、ゲームジャンルに最適化したネットワークのアーキテクチャを選択できるようになる。さらにそれらを1つのゲームコードで書けるようにする。

 これらの機能を追加するかどうかは開発者の意向にかかっている。「これらのシステムはゲームの開発に大きな変革をもたらすものになるかもしれないが、これまでとは考え方を変える必要もあるかもしれない。とにかく試してみて欲しい」とサントス氏。これらの作業は30分以内で終わることができるよう作られており、使ってみれば快適さを実感してもらえるはずだという。

 「C# Job System」とパッケージマネージャーは2018.1バージョンに組み込まれており、「Entity Component System」はプレビュー版が配布されている。

 これらのシステムはUnityの進化旅路の始まりだとサントス氏。ぜひこれらのシステムを使って、旅路に参画してフィードバックを送って欲しいということだ。

データの格納方法を自動的に最適化
マルチスレッド対応でパフォーマンスを向上
オンラインマルチプレイ向けのネットワークアーキテクチャを提供
テックデモとして配布されているシーン

VRを使って手軽にゲーム作りを楽しめる「Carte Blanche」

シルヴィオ・ドローウィン氏
ティモニー・ウエスト氏

 最後にシルヴィオ・ドローウィン氏がUnity Labsがこれからの未来について予測した。Unity Labsはこれからの10年間で、ゲーム開発のしかた、ディープラーニング、グラフィックス、VR/AR、ストーリーテリングがどのように進化するかを探求し、ゲームがどのように創られ、遊ばれるのかを根本的に変化させることを観察している。

 具体的な予測として以下のようなものが発表された。それは「創ると遊ぶという概念はひとつになる」ということ。オーサリングは、クリエイターのイマジネーション、伝えたいストーリーによって発生する。「クリエイターは目の前に広がる鮮やかな世界やキャラクターとのインタラクションを見るために、機械と会話する」と語り、マシンとやり取りをしながら、ワールド、キャラクター、ストーリー、インタラクションなどを実現していくことになる。これらは様々なテクノロジーを組み合わせて、主にはディープラーニング型のコンテンツオーサリングを使って会話するようになる。「誰もが創り、学び、遊べるようになる」と語り、クリエイターはプロだけではなくなると予測した。

VRで開発する様子をデモンストレーションするティモニー・ウエスト氏
【Unity Labsで研究中のプロダクト】

 Unity Labsでは、「より簡単に、より良くするか?」、「より多くのストーリーテラー/開発者/クリエイターに力を与えるか?」、「Unityとコミュニティの未来にいい影響を与えるか」という3つの原則に沿って研究領域を定めて、いくつかのプロジェクトに注力していく。またXR技術などを使った将来の開発環境なども、研究中の一部が発表された。

 さらにXRリサーチの担当者ティモニー・ウエスト氏が登壇し、VR環境でゲームを作る新しいツールを紹介した。「Carte Blanche」というプロジェクトでは、VR環境にあるエディティングテーブルでゲームを作っていく。

 目の前にあるカードパックをあけると、色々な形の島のカードが入っている、それを
テーブルの上に置くと島のスマートアセットに変化する。これらのアセットは近づけるとお互いが橋で繋がれたりと動的に変化する。

 島に乗せる木のオブジェクトは時間のプロパティを持っており、スケールを大きくすると成長していく。他にもお菓子の柵や宝箱、集めるクリスタル、敵などを配置していく。敵の動きもカードをオブジェに重ねることで簡単に設定できる。

 配置が終了すると、TPSかFPSの視点を選んですぐにゲーム世界に入ることができる。今回はFPS視点でゲーム世界に入り、敵を倒して宝箱を開けることでクリアするゲームを、非常に短時間で簡単に創ることができた。この「Carte Blanche」は2018年10月に実験的なビルドが配布されるので、自分のアセットで遊ぶことができるようになる。

【Carte Blanche】

ゲーム作りを遊びとして楽しむ時代へ

 今回の基調講演では、72KBという非常に軽いランタイムコアで駆動する新たなUnityと、将来に向けたVR/ARを使った開発環境や、ゲーム以外の業界への発展が印象的だった。

 これまで、軽めの環境でも動くことが大きなメリットだったUnityだが、今後はマルチスレッド環境でのパフォーマンスの向上やVRを使った「Carte Blanche」など、今以上のマシンパワーは要求されるが、それだけの魅力がある開発環境へとシフトしていく未来を垣間見ることができた。

 Unity Labsの未来予測にも出ていたが、ゲーム作りそのものが遊びと融合し、楽しみながらゲーム作りができる未来が近づいているのかと思うと、筆者もゲームが作りたくなってきた。