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「キモイ、けど面白い」。「シーマン」を生み、斎藤氏の人生観を変えた言葉

斎藤由多加氏、GDC 2017で、「シーマン」を語る

3月14日~18日開催



会場:San Francisco Moscone Convention Center

 「Classic Game Postmortem: 'Seaman'」として、2000年に発売された「シーマン」の開発秘話を語ったのは、本作を制作した斎藤由多加氏。今回の講演では「シーマン」の開発秘話と共に、斉藤氏の「ヒット作を生み出す方法論」が語られた。

「シーマン」を制作した斎藤由多加氏
かなりキモイシーマンのスケッチ
ユニークなシーマンのコンセプト
英語版のナレーターはレナード・ニモイ氏

 斉藤氏は「タワー」のヒットで一躍世界中に知られるクリエイターとなった。タワーは1994年に生まれた建物のシミュレーションゲームであり、プレーヤーはビルを計画し高く高くフロアを積み重ねていく。マンションのようにも、ホテルのようにも作り上げていくことが可能で、エレベーターの置き方がポイントとなる。

 斉藤氏は「大玉」というユニークなゲームも2006年に生み出している。戦国時代の合戦にピンボールの要素を組み合わせたゲームであり、兵士達がぶつかっている戦場のど真ん中を大きな弾が転がり、敵も味方も蹂躙していくという、インパクトが大きい作品だ。

 斉藤氏の新作ゲーム制作の姿勢は、「これまでにないものを作る」である。以前かあらあるゲームのブラッシュアップや進化ではなく、ハリウッド俳優など有名人の力を借りたゲームではなく、「珍獣」とすらいえる、これまでにない、誰も見たことのない、野性的な作品こそが、斉藤氏の求めるものだ。

 「シーマン」はドリームキャストのタイトルとして大きなヒット作となった。女性ファンという、ゲームファンに少ない層のプレーヤー達からも大きくウケた。「シーマン」はまさにそのアイディアの元、1997年に生まれた。

 スタートは「ジョーク」だった。魚が成長し、手足を持ち全く別の生き物になっていく。ゲーム開発スタッフは斉藤氏のアイディアをおもしろがった。また、当時ウケていたTVのコメディーもヒントとなった。テレビのコメディアンが突然カメラを正面から見て、視聴者に向かい「何見てんだよ?」と問いかけてくる。カメラに写っていた劇と観客という境界線が大きく崩れ、突然役者が視聴者との関係を問いかけてくるという現象がユニークだ。「水槽の中にいる魚が、突然こっちを見て『何見てんだよ?』と話しかけてくる」このイメージのおもしろさをもたらすために、“人面”を持たせた。

 斉藤氏は水槽に浮かぶ熱帯魚のイメージを皮切りに、不思議なイメージを持つ小型の甲殻類を水槽で飼う「シーモンキー」の雰囲気も持つ、「不思議な生き物を水槽で飼う」というゲームを考えていった。

 そして斉藤氏は自分のイメージを実際の画に描き起こしいていった。それはグロテスクな、ユニークだけど気持ちの悪いイメージの強い生物だった。斉藤氏は自分の奥さんにその画を見せた。「うわ、何その気持ち悪いの、嫌いだわそれ」という反応が返ってきた。次の日妻は「あの生き物のアイディアはどうなったの?」と聞いてきた。

 斉藤氏は嫌いならばそういうことには関心がないんじゃないかと思ったが、妻は「嫌いだけど、興味がある」と答えた。斉藤氏はその感覚に衝撃を受けた。彼女は実は気に入っていたのだ。「嫌い」と「興味がある、面白く感じる」は違うのだと、気づかされたのだ。その感覚は斉藤氏の人生観そのものも大きく揺さぶった。そしてその衝撃こそが、「シーマン」の開発の基本となり、原動力となった。

 「シーマン」は“嫌われるキャラクター”を目指した。そして当時最もパワフルなハードであるドリームキャストでゲームを出すことを決めた。他の人もシーマンの気持ちの悪さに驚き、斉藤氏はシーマンへの自信を強めていった。斉藤氏は「人から嫌われるかわいくないキャラクター」。「しゃべる内容はファンタジーではなくきわめて現実的に」。人面の魚を飼うというはちゃめちゃなファンタジーでありながら、会話は現実味あふれるというのは大きな混乱をもたらすと斉藤氏は考えた。

 そしてゲームをプレイしている、ゲームを遊んでいるというよりも、まるで水槽と現実、お互いがTVをのぞき込んで異世界を見ているような、独特な関係をシーマンとプレーヤーの間で作ろう、そういった考えが開発のコアになったと斉藤氏は語った。

 「このゲームをヒットさせるにはシーマンに何をしゃべらせれば良いか?」、斉藤氏はプレーヤー自身の日常生活を会話の主題においた。プレーヤーは日々の時間を過ごしながら、ドリームキャストをセットアップし、コントローラーにマイクをつけてシーマンと向き合う。しかしその中で、シーマンはプレーヤーの日常に興味を持つのだ。ゲームはファンタジーをもたらさず、現実に興味を向かせる。その不条理感が味となった。

 ターゲットは「セガの他のゲーム」に興味を持たないユーザーとした。ゲーマーではないユーザーにプレイしてほしい。他のゲームはやらず、シーマンの会話だけを楽しむユーザーを獲得したい。この狙いはうまくいき、バケーションにドリームキャストを持ち込み、旅行先でシーマンと会話するような、「ペットを連れて行く感覚」でプレイしているファンを生んだという。

 そしてこのゲームをアピールするときに使った言葉は「育てる」。他のゲームのように戦う、競う、ではなく、ただ育てる。余計な言葉は使わず育てるというところだけアピールした。女性が古風なTVセットの中にいるシーマンと会話するゲームのイメージをストレートに、ユニークに伝える工夫をした。

 そして最大の問題は、「誰がシーマンの声優をやるか」であった。シーマンは独特のコンセプトで台詞は膨大になる。シチュエーションもユニークだ。悩んだ結果、斉藤氏自身が担当した。一方で解説役には貫禄のある有名な声優が必要だった。斉藤氏は海外版では、「スタートレック」のミスター・スポック役で知られるレナード・ニモイ氏を起用した。日本版ではベテラン俳優である細川俊之氏を起用している。

 シーマンはヒットし、日本でもTVに取り上げられるほど話題になった。斉藤氏は本作が新しいゲームジャンルを切り開いた。斉藤氏はヒット作を作るに当たり、最も重要なのは自分でやること。他のものを変換したり、アレンジするのではなく、自分の中のものに従い、自分のイメージを追求し、実現したことだと語った。

【Classic Game Postmortem: 'Seaman'】