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BitSummit 4th、坂口氏、稲葉氏ら著名なクリエイターが講演
ゲームにかける思いや業界への要望、インディーの未来を熱く語る
2016年7月9日 22:37
今年で4回目を迎えるインディーゲームの祭典「BitSummit 4th」が京都のみやこめっせで7月9日と10日の2日間にわたって開催されている。
今年も、国内の個人やインディースタジオだけでなく、国内外のインディーゲームを紹介しているPLAYISMや、PAXを中心に活動している海外のインディーイベント、Indie MEGABOOTHの協力で参加した海外のデベロッパーなどが100を超えるタイトルを出展し、国際色豊かに盛り上がった。
会場奥に作られたステージでは、ミストウォーカーの坂口博信氏や、プラチナゲームズの稲稲葉敦志氏、「シーマン 禁断のペット」を開発した斎藤由多加氏、「パラッパラッパー」の生みの親、松浦雅也氏とSIEワールドワイトスタジオのプレジデント吉田修平氏ら著名なゲームクリエイターらのトークセッションや、SIEや任天堂のプラットフォーム向けに開発されているゲームのプレゼンが開催された。
ステージでは、クリエイターたちがそれぞれ日本のゲーム業界や、インディームーブメントに対する思いを語っており、非常に面白い話もあったので、このレポートでは、初日のステージイベントをまとめて紹介したい。
坂口氏、今年9月に生放送スタジオを備えた新会社を設立
最初に登壇したミストウォーカーの坂口氏は、スマホ用RPG「TERRA BATTLE(テラバトル)」が260万ダウンロードを達成したことと、ダウンロード数に応じて、様々なアーティストがゲームに関する作品を発表する“ダウンロードスターター”の紹介からスタートした。
このダウンロードスターターは、坂口氏がクラウドファンディングサービス「Kickstarter(キックスターター)」からヒントを得て始めたプロモーションキャンペーン。Kickstarterでは、達成すると投資した金額に応じて約束していた返礼がもらえるが、ダウンロードスターターは、ユーザーのダウンロード数に応じて、坂口氏が人脈を駆使した各業界のアーティストが「TERRA BATTLE」のためにコンテンツを提供してくれる。ただ、200万ダウンロード達成時の約束であるコンシューマ版については、「進めようと思っているが、道が険しい。でも頑張っている」と語っていた。
また、もう1つのお知らせとして、9月ごろにミストウォーカーと関連した新しい開発会社の立ち上げを予定していると語った。坂口氏はニコニコ生放送やYouTubeで「ミストのじっけんほうそう」と銘打った情報番組的な生放送を配信している。生主として、放送をしている中で、ユーザー自身も実況をしていたり、コメントという形で参加しているのが、これまでのゲーム作りの中にはなかった感覚であり、坂口氏がゲーム業界に入った時に似た感覚を覚えたという。
「この先どうしたいかはわからないが、ゲームの中に放送が入りこんでいくことがあるんじゃないか」という思いから、新会社には放送ができるスタジオを設けようと思っている。そこでは、自身の放送だけではなく、生主やユーチューバ―に集まってもらい、そこで話をすることで何かが生まれるのではないかと期待している。
最期に、今日が公開日のフル3D映画「KINGSGLAIVE FINAL FANTASY XV」について、「素晴らしい出来で、映画の作品として面白い」と絶賛した。「FFXV」については、プレーヤーキャラが男ばかりであることに文句を言った坂口氏だが、映画を見て「俄然ゲームもやりたくなった。ノクトの重い気持ちも少し理解できました」と語っていた。
稲葉氏は、ゲーム開発ノウハウなど「見えないIP」のオープン化を力説
プラチナゲームズの稲葉氏は、前回に続いて2度目のステージセッション。プラチナゲームズは今年で設立から10年経つ。稲葉氏は現在の夢を尋ねられて、「プラチナゲームズはデベロッパーなので、作ったタイトルのIPはセガやマイクロソフトなどの所有物であり、自分たちが所有しているIPがないので、今後はそれを育てていきたい。そのためにもSNSなどを活用して、今以上にユーザーとの距離を近づけていくことを、1つのステップとして考えたいと語った。
次に、今日はこのことを言うために来た、という強いメッセージが続いた。それは、稲葉氏が「形のないIP」と呼ぶ、ゲームデベロッパーが開発の中で習得し、それぞれの会社で保持しているノウハウを、もう1社で独占する時代ではないのではないかという問いかけだ。
例えばプラチナゲームズには、アクションゲームを作るための、膨大なアニメーションライブラリやVFXのシステム、ゲームデザインに関する知識がある。それを1社で独占して、自社の開発にだけ使うというのは、もう古い次元になっていて、知識を共有することでユーザーが最も得をすることになるのではないかと言う。そして、その中で重要な役割を果たすであろう存在がインディーデベロッパーだと言う。
8月25日に発売されることが決定した宇宙探索ゲーム「No Man's Sky(ノーマンズスカイ)」を稲葉氏は楽しみにしているが、面白いゲームに必要なのは人数でも規模でもないと考えるインディーデベロッパーだから、それぞれが補完できる関係の中で気付けることはたくさんある。そういう人たちと関係を築いていきたい、と稲葉氏は会場にいる開発者たちに熱い口調で訴えかけた。
さらに、ゲームを遊んだ人から得られるデータも、それが集まってビッグデータを超えたヒュージデータがコンテンツの中に深く生かせるような時代が来れば、大きな会社がIPを独占する時代が終わるのではないか。デベロッパーが力をつけていけば、ユーザーも幸福になってケチなIPの話はなくなるのではないかと、壮大にも思える野望を語った。
すでに1つのデベロッパーで作れる規模をはるかに超えるものが求められる時代になっている。それはAAAタイトルを作っているスタジオでも同じように思っているはずで、もしノウハウやIPが共有できるようになったとしても、どこも同じような作品を作るようにはならないだろう。そのうえで独自の味を出せるのがきちんとしたデベロッパーだろうし、そこで勝負していきたい、と語った。
最後に、「この5年かかるか10年かかるかわかりませんが、このつながりを大切にしていきたいと思っているので、賛同してくれるデベロッパーがいるなら、よろしくお願いします」と締めくくった。
「Mini Metro」に見る、小規模スタジオの必勝法
地下鉄の路線図をきれいに書くことで、スムーズな運航を目指す「Mini Metro」。Steamで有償版が公開されると日本でもインディーゲームのファンから絶賛の声が相次いだ。2人という小規模開発にもかかわらず、ダウンロードは25万を超えているという。
開発スタジオDinosaur Polo ClubのPeter Curry氏は、なぜ成功することができたかという分析を、小規模企画におけるリスク管理として聞いてほしいと前置きして語った。
Curry氏は成功の要因を、ゲーム企画を作るときのバランスを、3つの軸で説明した。この3は、コンセプト企画、伝わりやすさ、プレーヤー体験。コンセプト企画がすでに確立しているジャンルで、わかりやすく、これまでのプレーヤー体験と大きな違いがないというのは、大手メーカーが作る大作ゲームの特徴であり、ここでインディーが勝負するのは難しい、とCurry氏。
だからといって、革新的な企画、デザイン的に攻めまくっているがわかりにくいインターフェイス、誰も体験したことがないようなゲームを作ってしまうと、大半の人はついていけなくなってしまう。そこで小規模メーカーは、わかりやすく誰も遊んだことがないプレーヤー体験のゲームを目指すことが重要で、この2つがそろっていれば、企画はすでにあるジャンルであると、革新的なジャンルであろうとあまり大きな違いはないと言う。
「Mini Metro」は、これまでの電車シミュレーションにはなかったプレイ時間が短いスコアアタックモードや、抽象的な画面が新しいゲーム体験につながった。インディーの強みは唯一リスクを冒せる自由だけなので、これを最大限に生かさなくてはならないと語った。
「シーマン」、斎藤氏が考える「ゲームを面白くする要素」
「シーマン 〜禁断のペット〜」を開発した、ビバリウムの斎藤由多加氏は、ゲームを面白くする要素について語った。斎藤氏はポーカーを例に、単なるポーカーはつまらないのに、賭けポーカーが面白いのはなぜかと問題提起を行なった。賭けポーカーには、相手の性格を読んだり、戦略に性格が出ることが面白いと語った。そしてゲームを面白くする要素として、プレーヤー自身の成長要素、プレーヤーの性格が投影されること、そのノウハウが持続できることの3つをあげた。
また、プレイすることで何かを教えてもらえることも、ゲームを面白くする要素だと語った。斎藤氏は「テトリス」を名作だと思っているが、その理由は「以前は一発逆転の棒を待っていたが、テトリスをプレイすることで待たなくなった」と笑い話を交えて語った。そして「作り手が教えたいと思っている情報をゲームというやり取りの中で教えると面白くなると思う」と語った。
斎藤氏によれば、ゲームのリアリティはグラフィックスではなく、人間の脳にある。CGのリアルさを追求してもリアルにはならず、ゲームは劣化する。例として、自身が作った「The Tower」タイプの簡素なシミュレーションが、バラバラな動きをしながら歩いている人間を増やすことで、絵のクオリティは同じでもリアルに見えるようになる様子を紹介した。
また、面白くないゲームを面白くするために、どんどんものを足していくと、ユーザーが参加する余地がなくなって、ムービーになってしまうと語った。
いいアイデアがあるならVRに賭けてみて欲しい、と吉田氏
最後は、SIEワールドワイド・スタジオ、プレジデントの吉田修平氏と、「パラッパラッパー」の生みの親、松浦雅也氏のセッションを紹介しよう。吉田氏はこれが2回目、松浦氏は3回目の参加。インディーゲームが大好きな吉田氏は、今回のBitSummitの印象を「全体的にクオリティが上がっているし、VRも増えている。非常に楽しいです」と語った。大阪出身で京都の大学を卒業した松浦氏は、「インディーの発表と交流の場ということがすごく大事だと思います」とベテランらしい感想を述べた。
松浦氏は現在スマホ向けの音楽ゲーム「古杣」を配信している。このゲームは3人で開発している。当初は3カ月で完成の予定だったが、結果的に1年以上かかったそうだ。松浦氏は単に流れる音楽に対してボタンを押すようなリズムゲームではなく、音楽自体がインタラクティブになっているようなものを目指しているので「ハードルが高い」そうだ。そして今のVRには、プレーステーションが登場した時のような熱気を感じると語った。
PSが発売された時には、ディスクという新しいメディアが製造コストを下げた結果、多くの新しいクリエイターが参入してきた。これまでも、「げーむやろうぜ!」や「プレイステーション・キャンプ!」などクリエイター発掘のムーブメントのたびにインディーが盛り上がることがあったが、大手が大規模なゲームを作っていく中で、だんだんとジャンルが限られていき、昔あったジャンルも作られなくなっていく。インディーは、そうやって大手が捨ててしまったジャンルを拾い上げて、新しいゲームを作ることができる。出たばかりのVRは、インディーが世に出る絶好のチャンスになると吉田氏。「今なら少人数でもインパクトがあるものが作れます。日本では会社を辞めてというのはすごくリスクがあるのですが、本当にアイデアがあって熱意があるなら、チャレンジして欲しいと思います。こんなことはしょっちゅう起こることではないので、賭けてみて欲しい」と開発者を鼓舞した。
松浦氏は、今の作品にはストック性が欠けているという。20年後にも愛してもらえるような作品になるためには、作り手が大切にしているイメージやメッセージを作品に込めることができるかどうかが重要だと語った。