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「シーマン」斎藤由多加氏と「Ingress」ジョン・ハンケ氏の対談が実現!

ゲームとリアルの間で感じる「面白さ」とは?

4月29日、30日 開催

場所:幕張メッセ

入場料:
1,500円(税込、前売1日券)
2,500円(税込、前売2日通し券)
2,000円(税込、当日1日券)

 開催初日にあたる4月29日の「ニコニコ超会議2016」では、超トークステージの1コーナーとして、「生身の群衆、ゲームの群衆 地球そのもので遊ぶための傾向と対策」と題された対談が実施された。

 この対談には、1999年に発売されたドリームキャスト用ゲーム「シーマン」の開発者として有名な斎藤由多加氏と、日本でもおなじみの位置情報ゲーム「Ingress」を開発したNiantic CEOのジョン・ハンケ氏が登場。お互いになぜ独創的なゲームを開発するに至ったのか、そしてARやVRなど技術の進化によって、今後どんな未来が待っているのかなどについてを議論していった。

斎藤由多加氏
ジョン・ハンケ氏

「シーマン」は新しくも世間の逆を狙った作品

斎藤氏の代表作
世間に衝撃を与えた「シーマン」

 本トークイベントは実に変わったタイトルだが、なぜ「群衆」という単語が使われていたのだろうか? 斎藤氏によると、自身がこれまでに開発したゲームは、群衆、人の群れを作ることがテーマだったからだという。そこで、かつて同氏が手がけたPC用ゲーム「The Tower」と、また、ニンテンドーゲームキューブ用アクションゲームの「大玉」の動画を例に挙げて、「『The Tower』はビルを建てると人が群れるというのがテーマで、『大玉』は大きな玉で敵軍を破壊するゲームで、いかに群れを動かして破壊するかというのをやりたくて作ったものなんです」と、群衆が重要なポイントになっていたことを説明した。

 だが、斎藤氏の代表作である「シーマン」は群れがテーマではない。では、こちらは何をテーマにしていたかというと、「『シーマン』では人間の人格を作りたいなと思っていたんです。今のAIの先駆けみたいなものですね。それまでのゲームは、ユーザーがモニターの中をのぞき込むものであって、ゲームのキャラクターは自分がバーチャルな世界生きていることを知らずにいるんですね。そこで私がやりたかったのは、キャラクターがテレビの中からあたかもお茶の間を覗き込んで、こちらが見えているような状態でしゃべるようにすることだったんですよ」とのこと。一種のAR、あるいはVR的な表現を、当時から意識してゲーム開発をしていたことには改めて驚かされた。

 またハンケ氏からは、「シーマン」のような不思議なゲームをなぜ作ったのかと質問されると、「今までのゲームとは逆のこと、つまり可愛いとは反対のことをやりたかったからです。それともうひとつは、テレビの中のキャラクターがユーザーにコマンドを出すようにすることですね。いろいろなことの逆をやった結果が『シーマン』なんです」と、文字どおり発想の転換から生まれたことを力説した。

 さらに「シーマン」ネタで盛り上がると、話題は開発当時の資金繰りにまで及んだ。

 「当時、開発資金が足りなくなって銀行にお金を借りに行ったら融資を断られたんです。もう発売が決まっているんだからと説明しても、過去の例を調べてもヒットをする理由がひとつも見当たらないからダメと言われてしまいました。そこから私は、世間の普通の人が見たらつまらないと思ったものは、ヒットするヒントだと思うようになりました。なぜかと言いますと、それは今まで世の中になかったものだからなんです。特に銀行員の方は(笑)」(斎藤氏)という驚愕の逸話も披露。

 「妻に最初に『シーマン』のスケッチを見せたら、『気持ち悪くてゾクゾクするから出したほうがいいよ』と言われたのが力になりました。マニアよりも一般の方に、それから女性にも直感で受けたほうがいんですよね。実際、『シーマン』はセガの歴史上で最も女性比率の高いゲームになりました」とも述べていた。

 ちなみに、ハンケ氏からの「シーマン」はなぜ弱いのかという質問に対しては、「微生物のシーモンキーのキットがヒントになったから」だと答えた。また、会社で昼食を食べていたときに「水槽の中から、ザ・ドリフターズにいた荒井注みたいに『なんだバカヤロー』って言われたら面白いだろう。ならば、名前はシーモンキーじゃなくてシーマンだなと思った」という微笑ましいエピソードも明かした。

ゲームからリアルへ。斎藤氏最新作「Earth Book」とは?

こちらが「Earth Book」。領土の広がりが時間軸によって視覚的にわかるのだという

 「ここ数年の間はゲームから離れていたが、またゲーム制作に戻る準備をしているところです」と語っていた斎藤氏だが、最近開発したのはスマホ用の「Earth Book」という世界地図を使ったアプリだった。「Ingress」と併せて、本トークイベントのテーマである「地球そのもので遊ぶための傾向と対策」というキーワードは、まさにここにつながっていたのだ。

 ステージのスクリーンに「Earth Book」の画面が映し出されると、なんとタイムレバーを操作するとその時間軸によって、戦時中の日本やイギリスの領土がどれだけ広かったのかが、地図上が色分けされてひと目でわかるようになっていた。「ゲームで培った、いろいろな物をいじるノウハウを使いました。ただ地図を見るだけでなく、どう変化させるかをデジタル上で再現しました」(斎藤氏)とのことで、ゲーム開発の経験が他の分野でも活用できていることを説明した。

 一方、かつては「Google マップ」、「Google Earth」の開発を手掛けたことでも有名なハンケ氏。ゲーム開発を経て地図を作った斎藤氏とは逆に、地図からゲーム開発に至った経緯について尋ねられると、「実は、私もゲーム開発のほうが先で、最初に作ったのは1993年に『Meridian 59』というMMOの先駆けみたいなPC用ゲームだっんですよ。その後、いろいろあって『Google マップ』や『Google Earth』を作ることになったのですが、その間もずっともしこれがゲームになったら面白いだろうなと考えていました」とした。

 また、「私のように90年代からゲームを作っている人間から見ると、『Ingress』はゲームっぽくないと言いますか、かなり変わったゲームですが、いったいどうやって思いついたのですか?」(斎藤氏)という質問には、「新しい技術によって実現することが可能になったということがありますね。ゲームを電源から抜いて外に持ち出すというモバイルの技術ができて、さらに携帯電話にGPSがつくようになって、これを使ってどんな面白いものができるだろうかと考えたところから『Ingress』は生まれたのです」と、まずは技術の発達が重要なポイントであったと話していた。

「Google マップ」と「Google Earth」

 「『Ingress』の大きな狙いは、ユーザーを従来のゲームと違って、いかにユーザーを外に連れ出すかが大きな狙いとした作品です」とも語っていたハンケ氏。その発想はどこから得たのかという質問には、「我が家には3人の息子がいるのですが、いつもiPadなどでずっとゲームを遊んでいたので、彼らを違う方法で外に連れ出して、新たな驚きや発見を与えるにはどうしたらいいのかを考えたのが原点だったように思います。うちの息子は、今も『Minecraft』にかなりハマってるんですね(笑)」と答えていた。

 地球そのものを遊び場へと転換して大成功収めたハンケ氏が、斎藤氏が開発した「Eaeth Book」について尋ねられると、「私が子どもの頃に遊んだ『バランス・オブ・パワー』というゲームで国際関係や経済の発展を学んだように、『Earth Book』もいろいろなことが学べるものになるでしょうね。たいへん素晴らしいツールになると思いますよ。私の『Ingress』も、歴史的な建物などをポータルにすることで、そこに実際に行くことで歴史が学べますしね」と、シリアスゲームとしての有用性についても述べていた。

 なお斎藤氏は、イベントの終了間際に「Earth Book」で北朝鮮から発射されたミサイルがどのくらいの距離を飛んだらどこまで届くのかを示した画面を公開したり、今回は残念ながらバグのためうまく動作しなかったが、地球儀を透明にすることで、地下のどこに資源が埋蔵されているかを見えるようにしたものを新たに作ったことも紹介していた。「Earth Book」のサービス時期などは未定だが、今後の展開が実に楽しみだ。

良いゲームは心の鏡に、悪いゲームはただのムービーに

川上量生会長も対談に途中参加!

 斎藤氏はゲームというメディアの特性について、「コンピュータゲームは、視点を変えさせることができるものです。紙のメディアだとこれができないんです」という。

 その理由は、「昔にMac版のモノクロ画面で『シムシティ』を遊んだときに、ゲームのほうから何かを言ってくるのではなくて、ユーザーの中に何かを思わせる、相手に何かを言わせる力がこのゲームにはあると思ったからです。能動的に言わせる、視点を変えて物を見させる、体験させることができるもの。日本語で言えば、高い視点から見るという意味で神の視点を作ること、それが我々の仕事だと思っています」とした。

 ハンケ氏もこれに同調し、「初めてゲームをしたときに何だこれはと、気持ちがザワザワするものは面白いんです。もし『シーマン』もそうだとすれば、本作は何を教えてくれるものなのでしょうか?」と斎藤氏に質問した。すると斎藤氏は、まったく同じ質問を才能がある某クリエイターから以前に聞かれたことがあったそうで、そのときは「良いゲームは、ユーザーに必ず何かを教えてくれるものである。『シーマン』も占いだとか、恋人とどうつ付き合うべきかのアドバイスをしてくれますが、斎藤さんが一番大好きな『テトリス』は何も教えてくれませんよね?」と言われたそうだ。

 すると斎藤氏は、「『テトリス』ほど教えてくれるものはないよ。最近俺は、昔みたいに長いテトリス棒をずっと待つような人生はやめたことを教えてくれたんだよ」と答えを返したという。

 続けて、「以前にエリック・クラプトンが、子どもを亡くして活動を休止している間はずっと『テトリス』をやっていたとインタビューで答えていましたが、それは多分『テトリス』が心の鏡だからなんです。良いゲームはユーザーの心の鏡になり、悪いゲームはムービーになっちゃうんですよ。ユーザーが男とだろうと女だろうと、悪いものはただ一辺倒で良いゲームというのはダイナミックに変わるんです。『Ingress』はまさにその究極で、何もシナリオがないところから発想できたがスゴイところです。デバイスの変化や発明があったのも大きかったのかもしれませんね」と述べた

 さらに話題が現在のトレンドであるARとVRにおよぶと、斎藤氏はかつてハンケ氏が過去のインタビューを読んだ際に、ARは肯定的で、VRは多少否定的な印象を受けたことを延べ、その違いについて教えてほしいと尋ねた。これにはハンケ氏が、「アンリアルな空間に没入するものがVRなのに対して、ARはむしろリアルの中での経験をよりよくするためにあるものだと考えています。どちらにも使い道はありますが、私が興味があるのはリアルをどうするかというARのほうなんですね」とした。

 と、ここでドワンゴの川上量生会長が斎藤氏に促されて急きょ登壇! 実は本トークイベントは、「Ingress」のマニアを自称する川上氏が、斎藤氏にSNSを通じて直接依頼したことで実現したのだという。「ハンケさんの考えをもっと掘り下げたかったんですよ。でも、私は英語がまったくできないので、それならば得意な人にやっていただいたほうが、もっとも掘り下げられるだろうと思ったのがきっかけでした」(川上氏)とのことだった。

 川上氏を交えた話は「ニコニコ超会議」の意義にまでつながり、川上氏自身は「ゲームや遊びは人生の練習であって、エンターテインメントはいかに現実にフィードバックさせるかを考えなくてはいけないと思うんです。『ニコニコ超会議』というイベントもそうで、ネットがあるからすべてネットでやればいいじゃないかと反対するユーザーも多かったのですが、現実とネットが融合したほうがやっぱり面白い、つながったときの面白さがあるからということで始めたものなんです」と熱く語っていた。

 先日、AIのGoogle AlphaGoが囲碁のプロ棋士に勝ったニュースにも触れた斎藤氏は、「人間として生きていく以上、AIが人間に勝ったからといって将棋や囲碁を全部AIに任せてはダメでしょう。機械に任せると面白いところをみんな取られてしまうので、そうなるともはや人間はウンコをすることしか残らない(笑)」と至言を残した。

 ハンケ氏もこれには大ウケだった様子で、「どんなに機械化が進んでも、例えば農業が全部機械化されてもガーデニングや野菜を作るのが好きな人はきっと残るのではないかと思います。人間が何でもやりたいことを選択できる社会になれば、みんなが何かをやろうと思うようになるでしょう。ただウンコをするだけではなくて(笑)、やれることとやらなくていいことを選べるのがいい社会なのだと思います」とコメントを返していた。

 また、斎藤氏は「コンピュータゲームとはひと言でいうと何ですかという質問をされたら、それは言語であると私は答えるようにしています。例えばポーカーは、お互いの言葉が通じなくても相手の汚さやあざとさなど、人格が駆け引きの中でわかってくるのが面白さだと思っています」との自説も披露した。

 加えて、「人間が生きているうえで面白いと感じる瞬間は何かといったら、他人の心を見抜いたり共鳴したりするところにあるように思えてならないんですね。特にギャンブルをやっていると、自分の手札よりも相手の性格が影響するようになって、本当はブタなのに賭け金で揺さぶったりして相手を脅したりとか、いろいろと人間の心の弱さを突いたりするようになるんです。つまり、人間性が関わることで面白くなるんですね」と語った。

 ゲーム実況やコスプレ、踊ってみたなど、来場者が楽しく遊ぶためのブースが並んだ「ニコニコ超会議」。そんな場にあって、クリエイティブな活動をするにあたってはどんな考え方やモノ作りをすべきなのかという、やや抽象的だが面白いトークが聞けるとは実に意外であった。

 CEDECなどのような開発関係者の勉強・研究発表会の場にそのまま持ち込んでもよさそうな、極めて濃密な1時間であった。

(安田俊亮)