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【特別企画】MSIのゲーミングノートPC「Gシリーズ」を支える冷却システムの秘密

MSIのノートPCはなぜ同スペックなのにライバルより速いのか?

1月取材

MSI台湾本社

 日本でも支持者が多いMSIのゲーミングノートブランド「Gシリーズ」。ハイエンドのGT、薄型ハイスペックのGS、スペック重視のGE、コストパフォーマンス重視のGPと、様々なブランドが存在し、ゲーミングノートPCの分野ではグローバルでトップシェアを誇る。

 「Gシリーズ」の特徴は、ゲーミングノートPCとして見た目が洗練されているだけでなく、同スペックの他社製品よりパフォーマンスが高いことだ。PCは、コモディティ化(中身の同質化)が究極まで突き詰められた結果、「中身は同じだからどれを買っても同じ」と揶揄されがちだが、MSIのゲーミングノートPCは、CPUやGPU、メモリーといった汎用のパーツ以外、その多くの自社で設計しており、そこで徹底して差別化を図っている。

 もちろん、その分価格に反映されている側面もあるため、価格の面では他社に一歩譲るところもあるが、実は価格分以上のパーツやソフトウェアを導入しているため、決して高くはなく、「むしろ割安だ」とMSIは主張する。今回は、Taipei Game Show 2017に合わせてMSI本社を訪れ、Gシリーズの冷却システムについて取材することができたのでお届けしていきたい。

【MSI本社】
珍しく晴れた台北の朝にMSI本社に向かった
レゴ製の巨大ラッキーくんとMSIが受賞したトロフィーがお出迎え
会議室に繋がる通路には、MSIの歴史やスポンサードしているプロチームが写真付きで紹介されている

前モデル比で最大35%のパフォーマンスアップを実現したGシリーズ

 MSIは、既報のように2017年1月にGシリーズのラインナップを刷新し、全モデルが第7世代のCPU“Kaby Lake”とGeForce GTX 10シリーズ搭載モデルに置き換わった。これに合わせてKaby LakeとGeForce GTX 10シリーズ、そしてMSIが三位一体となって新たな高みに到達したことをイメージした新ブランドロゴも公開した。

 肝心のパフォーマンスはというと、前モデル比で最大35%アップを実現している。これはMSIのGシリーズ史上最大級の向上幅ということで、2016年にリリースされたGeForce GTX 10シリーズがGPUとして優れていただけでなく、2017年1月にリリースされたKaby Lakeもパフォーマンスアップに大きく寄与しており、さらにMSI自慢の「ターボモード」によるオーバークロック動作で他社を引き離す結果となっている。

【MSI「Gシリーズ」最新モデル】
Gシリーズのラインナップと、今年の新たなスローガン
第7世代のCPU“Kaby Lake”は、VRのパフォーマンスにも大きく寄与するとしている
Kaby LakeとGeForce GTX 10シリーズとMSIの三位一体により、前モデル比で最大35%のパフォーマンスアップを実現している

 このターボモードを実現しているが、MSI独自の冷却システムだ。Gシリーズの冷却システムは、“Whirlwind Blade”と呼ばれる大型のファンと、銅製のヒートパイプで構成された空冷システムになっており、各モデルのサイズ、搭載パーツによって個別にデザインされており、Gシリーズのもっともこだわっているポイントとなる。

 この冷却システムは効率性のみならずデザイン性も高いため、台湾や米国ではむき出しの状態をライトアップして店頭展示するなど、その存在をアピールしている。ただ、コンペティターにその構造が真似されることも多いため、新モデル向けの新たな冷却システムの設計を行なう開発室は外部の立ち入りを禁じている。かつては比較的自由に社内見学ができていたが、今年は撮影はおろか、視察することも叶わなかった。

【各モデルの冷却システム】
GT83VR TITAN SLI
GT73VR TITAN SLI
GT73VR TITAN
GT62VR Dominator
GT72VR Dominator
GE62MVR Apache Pro
GE72VR Apache
冷却システムのために作ったマーケティングキットと、実際の展示の様子

 Gシリーズの冷却システムの基本デザインは、左右奥に1つずつファンが設置され、そこからCPUやGPU、ストレージまで複数本のヒートパイプが延びている。ヒートパイプの本数はモデルによって異なり、ハイエンドモデルGT83VR TITAN SLIで、実に15本ものヒートパイプが本体内を駆け巡っている。また、GT83VRでは、まるで東京の首都高のように立体的にヒートパイプが張り巡らせてあったり、薄型ハイスペックのGS73VRでは、ファンが3つもあったりなど、毎年、各モデル毎にデザインを変えているほどこだわりぬいているポイントであることがわかる。

 こうした冷却システムを最大限に使用する、つまり「Cooler Boost」機能をオンにすることで、8度から9度ほどの冷却効果があり、安定的なクロックアップ動作が可能となっている。デメリットとしては大型ファンによる騒音の増大が挙げられるが、6dBAほど(47dBA→53dBA)に抑えている。

 また、この冷却システムは、CPUやGPUを効率的に冷却するだけでなく、直接手に触れるキーボード部分の高熱化を防ぐ効果もある。手前のパームレスト部分は未起動時と変わらない23度、打鍵する中央部分で26度から37度、最も奥のファンクションキー部分で30度から41度、全体のアベレージで29.5度という結果となる。

 これに対して同スペックの他社製品だと、パームレスト部分で30度から33度、中央部分で38度から42度、ファンクションキー部分で38度から43度となり、全体のアベレージは37度となる。このようにフルパワー駆動時のキーボードの温度の低さもGシリーズの大きな売りとなっている。

【Cooler Boost 4】
「Cooler Boost 4」の基本デザイン
「Cooler Boost」のCPUとGPUに対する冷却効果
「Cooler Boost」のオンオフによるキーボードの温度の違い。左がオフで、右がオン

 そしてゲーマーにとってもっとも重要な指標となるパフォーマンスについては、同スペックのPCで他社製品と比較して14%から23%速いとしている。それだけでなく騒音レベルやキーボードの熱も低く、ゲーミングPCとして完全に上回っているとしている。

【MSI GT62VR Dominator VS ASUS GL5X2】
MSIのライバルASUSとの比較
冷却システムの違い
パフォーマンスの違い
キーボード温度の違い

【MSI GS73VR Stealth Pro VS ASUS GL7X2/5X2】
こちらは日本で人気の薄型ノート対決
冷却システムの違い
パフォーマンスの違い
キーボード温度の違い。これまで全勝してきたGシリーズだが、平均温度は36度対34.2度でGL7X2が上回る。MSIによれば、GS73VRはGL7X2/5X2と同じ薄型モデルだが、10ミリ薄いため、どうしても温度が高くなってしまうという

 もっとも、厳しいお財布事情でゲームを楽しんでいるPCゲーマーとしては、「でも高いんだよね?」とツッコミを入れたくなるところだが、この点についてもMSIは明快な回答を持っている。

 今回紹介した冷却システム「Cooler Boost」をはじめ、Gシリーズが搭載する固有の機能すべてに価格を明示し、他社より高い理由、実は“他社より圧倒的に安いこと”をアピールしているのだ。

 最新モデルGT83VRを例にすると、3つの大型ファン、15本のヒートパイプを搭載した「Cooler Boost TITAN」は250ドル(約29,000円)、Cherry MXのキースイッチを採用したSteelSeries製のキーボードが250ドル(約29,000円)、オーディオシステムDynaudioが120ドル(約14,000円)といった感じで、トータルで2,740ドル(約314,000円)の価値があるとしている。CPUやGPU、モニターなどのPCパーツの値段は一切含まれておらず、「これだけの付加価値が付いていて、他社より少し高い程度の値段設定はむしろお得じゃないですか?」というわけだ。

 もちろん他社製品にも同等の機能が付いていることもあるし、そもそもの価格設定が高い印象もあるが、価格部分で迷いに迷っている人にとっては大きな後押しになってくれるかもしれない。用意されている全モデルのスライドを紹介するので購入を検討している方はぜひ検討してみてほしい。

 いずれにしても安い買い物ではないので、これから春の新生活に向けて新たなゲーミングPCの購入を考えているPCゲームファンは十分検討した上でベストな1台を購入したいところだ。

【Gシリーズ各モデルのユニーク機能のマーケットバリュー】
GT83VR
GT73VR
GT72VR
GT62VR
GS73/63VR
GS43VR
GE62VR
GE6272
GP62VR
GP62
GL62M
GL62