【特別企画】

ミニ復刻PC「PasocomMini PC-8801mkⅡSR」詳報

サウンドボードII相当の音源で何ができる? 専用キーボードやモニターにも注目

【PasocomMini PC-8801mkⅡSR】

2025年春発売

価格:33,000円(税込)

 2024年8月8日、電波新聞社からPC-8801mkⅡSRを1/4サイズで再現した「PasocomMini PC-8801mkⅡSR」が発表された。

 PasocomMini PC-8801mkⅡSRは、2024年5月18日に開催されたイベント「ALL ABOUT マイコンBASICマガジンIII」の中で、サプライズの一つとして明らかにされた製品であり、詳細は8月8日(PC-8801の日)に発表されることが予告されていた。

 元々、PasocomMiniシリーズは、ハル研究所によるレトロPCをミニチュアサイズで復刻・販売するプロジェクトであり、そのコンセプトは「愛でて、作って、実行して、遊べる」というものだ。これまでにPasocomMiniシリーズとして、シャープの「MZ-80C」を再現した「PasocomMini MZ-80C」とNECの「PC-8001」を再現した「PasocomMini PC-8001」の2製品が発売されている。PasocomMini PC-8801mkⅡSRは、その第3弾となる製品であり、発売元がハル研究所から電波新聞社に変更された。本稿では、今回の詳細発表で判明した情報について詳しく解説していきたい。

【「ALL ABOUT マイコンBASICマガジンIII」でサプライズ発表されたPasocomMini PC-8801mkⅡSR】
左にいる元ハル研究所の三津原敏氏が手にしている「PasocomMini PC-8801mkⅡSR」

青島文化教材社製の緻密なモデルが魅力

 まず、PasocomMini PC-8801mkⅡSRの外観を見ていこう。PasocomMini PC-8801mkⅡSRは、NECから1985年1月に発表されたPC-8801mkⅡSRを1/4サイズで再現したものだ。サイズは、幅99.5×奥行85.7×高さ31.0mmで、まさに手のひらサイズだ。

 PasocomMini PC-8801mkⅡSRのボディは、緻密なミニチュアモデルで定評のある青島文化教材社によるもので、細かな部分までしっかり再現されている。本体とキーボードが別々の分離型となっており、キーボードと本体を繋ぐカールケーブルには軟質素材が採用されており、本体とキーボードの配置の自由度も高い。スタンドを差し替えることで、本体を縦置きすることもできる。

 PC-8801mkⅡSRはFDDの搭載数で、model 10/model 20/model 30の3モデルが用意されていたが、PasocomMini PC-8801mkⅡSRは、5インチFDDを2基搭載した最上位のmodel 30を元にしており、ミニチュアフロッピーディスクを実機同様に挿入や取り出しができるようになっている。

 インターフェースは、映像出力用のHDMI、キーボードを繋ぐUSB 3.0 Type-AとUSB 2.0 Type-A、ヘッドホン端子、microSDカードスロット、電源端子として利用するUSB Type-Cが用意されている。また、ステレオスピーカーを内蔵していることも高く評価できる。PasocomMini PC-8001ではスピーカーは搭載しておらず、サウンド(ビープ音)はHDMIから出力されるようになっていたが、PasocomMini PC-8801mkⅡSRなら単体でサウンドを再生することが可能であり、ベーマガに掲載されたゲームミュージック再生プログラムなどを実行すれば、モニターを接続せずにゲームミュージックを楽しむこともできるだろう。

【PasocomMini PC-8801mkⅡSRの外観】
手のひらに載るサイズながら、細かいディテールまで再現されている

「88(ハチハチ)でゲーム!」の人気を決定づけた名機「PC-8801mkⅡSR」とは

 PasocomMini PC-8801mkⅡSRは、その名の通り、1985年に登場したNECの8ビットPC「PC-8801mkⅡSR」をミニチュアモデルとして復刻した製品だ。50歳前後の方なら、実機を知っているとか使っていたという人も多いだろうが、40歳未満なら知らない人のほうが多いだろう。そこで、PC-8801mkⅡSRとはどんな製品か、簡単に紹介する。

 PC-8801mkⅡSRは、1981年9月に発表された初代PC-8801から数えて3代目になるモデルであり、それまでのPC-8800シリーズに比べて、グラフィックスとサウンドが大きく強化され、ゲームPCとしてのPC-8800シリーズの人気を決定づけた名機だ。PC-8801やPC-8801mkⅡでは、640×200ドットで決まった8色の表示しかできなかったが、PC-8801mkⅡSRでは、解像度は同じ640×200ドットながら512色中8色表示のアナログRGB表示に対応し、表現力が大きく向上した。さらに、サウンド機能も、PC-8801/PC-8801mkⅡでは単音のビープ音しか再生できなかったが、PC-8801mkⅡSRでは、ヤマハの音源チップ「YM2203」(OPN)が標準搭載され、FM音源3音+SSG3音の同時6音再生が可能になり、さまざまな音色を駆使したリッチなサウンドが楽しめるようになった。

 PC-8801mkⅡSRの登場後、PC-8801mkⅡSRで強化されたグラフィックスやサウンドを活用するPC-8801mkⅡSR専用ゲームが次々とリリースされ、話題を集めた。特に、1985年4月に発売されたゲームアーツの「テグザー」は、美しいBGMと高速な8方向スクロール、滑らかな自機の変形で当時のPCゲーマーに大きな衝撃を与えた。筆者は当時高校生だったが、初めて「テグザー」のデモを見たときの感動は、今も覚えている。

サウンドボードⅡも搭載! サウンド機能はPC-8801FA/MAとほぼ同じ

 今回発表されたPasocomMini PC-8801mkⅡSRは、PC-8801シリーズの名機であるPC-8801mkⅡSRをエミュレーターによって再現した製品である。エミュレーターというのは、実機とハードウェアは全く異なるが、実機のソフトウェアが実機と同じように動くように作られたシステムのことだ。ファミコンやメガドライブなどのゲーム機を小型化した「○○ミニ」も、それぞれのエミュレーターを利用しているものだと思えばよい。エミュレーターは、あくまで実機を「真似」たものであり、エミュレーターの完成度が低いと、実機とは異なる挙動を示すこともあるが、過去に登場したPasocomMiniシリーズのエミュレーターの完成度は高く、実機のソフトウェアがほぼ完璧に動作していた。PasocomMini PC-8801mkⅡSRのエミュレーターの完成度も期待してよいだろう。

 今回の発表は、情報公開第1弾という位置付けであり、まだ明らかにされていない点も多いが、公開されたエミュレーター周りの仕様について見ていこう。

 まず、CPUはμPD780C-1をエミュレートしており、動作クロックは約4MHzである。μPD780C-1はNEC製のZ80互換CPUであり、実機のPC-8801mkⅡSRにも搭載されていたものだ。動作クロックも実機のPC-8801mkⅡSRと同じだ。ROMには、N88-BASIC Ver.2.0などが格納されており、当時のベーマガなどに掲載されていたプログラムがそのまま動作する。RAMは、メインが64KB(MでもGでもない)、グラフィック用VRAMが48KB、テキスト用VRAMが4KBで、これも実機と同じだ。テキスト表示は80文字×25行、80文字×20行、40文字×25行、40文字×20行のいずれかで、グラフィック表示は640×200ドットカラー512色8色1ページ、640×200ドットモノクロ3ページ、640×400ドットモノクロ1ページである。漢字ROMとして、JIS第一水準漢字ROMを搭載する。このあたりの仕様については、実機のPC-8801mkⅡSRと同じだ。

【PasocomMini PC-8801mkⅡSRに搭載されるBASIC】
N88-BASIC Ver.2.0を搭載。ベーマガなどに掲載されたPC-8801mkⅡSR用ゲームソフトを打ち込んで遊べる

 注目したいのはサウンド機能だ。前述したように、PC-8801mkⅡSRではヤマハの音源チップ「YM2203」(OPN)を搭載し、FM音源3音(モノラル)とSSG音源3音(モノラル)の合計6音の再生が可能であった。もちろん、PasocomMini PC-8801mkⅡSRも、PC-8801mkⅡSRと同じYM2203のエミュレートを行っているのだが、今回の発表で、サウンドボードⅡ相当の「YM2608」(OPNA)もエミュレートしていることが明らかになった。

 YM2608は、YM2203の上位となるチップであり、FM音源6音(ステレオ)、SSG音源3音(モノラル)、リズム音源6音(ステレオ)、ADPCM音源の再生が可能と、サウンドの表現力が大きく向上している。実機では、1987年10月に発売されたPC-8801FA/MAからOPNに変わってOPNAが搭載された。そこで、OPNAを搭載していないPC-8801mkⅡSRなどのサウンド機能をPC-8801FA/MAと同等に強化するための拡張ボードである「サウンドボードⅡ」も発売された。OPNAの搭載により、さらにリッチなサウンドが楽しめるようになり、ゲーム機としてのPC-8800シリーズの魅力がより高まったのだ。

 PasocomMini PC-8801mkⅡSRは、このサウンドボードⅡもエミュレートしているため、サウンド機能についてはPC-8801FA/MAとほぼ同じといってよい(PC-8801FA/MAは、CPUの動作クロックが8MHz/4MHzで切り替え可能になっているため、PCとしての性能が同じというわけではない)。これは非常に嬉しい強化点といえるだろう。

専用キーボードと専用モニターも同時発売予定!

 今回の発表には、サウンドボードⅡ搭載以外にもう一つサプライズ情報が隠されていた。スペック表の一番下の注意事項に「同時発売予定の専用キーボード」と「同時発売予定の専用モニター」という記述があるのだ。もちろん、PasocomMini PC-8801mkⅡSRは、専用キーボードや専用モニターを用意しなくても、一般的なUSBキーボードとHDMI対応モニターを接続して利用できるのだが、専用キーボードや専用モニターは、PC-8801mkⅡSR実機のキーボードや当時発売されていたNEC製純正モニターを模したものになることが予想され、当時の雰囲気に浸りたいという人は、専用キーボードと専用モニターも揃えて購入することをおすすめする。

 専用キーボードや専用モニターの仕様や価格、デザインなどは現時点では未発表だが、いずれ追加発表があるものと思われる。

PasocomMini PC-8801mkⅡSRで結局何が遊べるのか?

 読者の多くが気になっているのが、PasocomMini PC-8801mkⅡSRで何が遊べるのかということであろう。PasocomMini PC-8001では、「平安京エイリアン」や「オリオン80」、「走れ!スカイライン」など合計20本以上(ダウンロードによる追加分も含む)のゲームソフトが同梱されており、製品を入手したらすぐに遊ぶことができた。当然、PasocomMini PC-8801mkⅡSRでも、同梱ゲームソフトに期待したいところだ。

 今回の発表では残念ながら、「懐かしのマイコンソフトを10本以上収録予定。メニューから選んですぐに遊ぶことができる」ということしか明らかにされておらず、具体的なタイトルは公開されていない。発売が2025年春ということで少し先になるため、専用キーボードや専用モニターの詳細や同梱ゲームソフトについてはいずれ追加で発表があるものと思われる。当時PC-8801mkⅡSRで遊んでいたユーザーなら、「○○が欲しい」「××は外せない」などいろいろな想いがあるだろう。発表を楽しみに待ちたい。

 また、PasocomMini PC-8801mkⅡSRは、PC-8801mkⅡSR+サウンドボードⅡ相当を再現したエミュレーターであり、当時のベーマガなどに掲載されていたPC-8801mkⅡSR用プログラムを打ち込んで実行させることができる。テキストファイルのインポートにも対応しているため、雑誌をスキャンしてOCRでテキスト化するといったことも可能であろう。PasocomMini PC-8801mkⅡSRには、BASICコマンドのリファレンスをオーバーレイ表示で参照しながらプログラミングできる機能が搭載されているので(当然実機にそんな機能はない)、新たにPasocomMini PC-8801mkⅡSR用にゲームソフトを作るのも楽しそうだ。

【書籍や雑誌に掲載されているPC-8801mkⅡSR用プログラムを実行できる】
こうした書籍や雑誌に掲載されているPC-8801mkⅡSR用プログラムを打ち込んで遊べる。ちなみに右側の書籍には、私が高校時代に作成して投稿したPC-8001mkⅡ(PC-8801mkⅡ用ではない)用ゲームソフトが掲載されている