【特別企画】

「スト6」オフ大会「Fighters Crossover 全国大会#00」大会レポート。1先のチーム戦ならではの緊張感とオフラインならではの臨場感

【Fighters Crossover 決勝】

3月10日12時〜 開催

会場:高田馬場 ASH WINDER Esports ARENA

(〒169-0075 東京都新宿区高田馬場2丁目18−11 稲門ビル 5F)

 格闘ゲーム「STREET FIGHTER 6(ストリートファイター6)」(以下、スト6)を使用したオフライン大会「Fighters Crossover 全国大会#00」の決勝大会が3月10日に開催された。

 「Fighters Crossover」は、かげっちこと影澤潤一氏が主催する、格闘ゲームのオフライン対戦会イベント。全国24カ所で対戦会が定期的に開催されており、友達やまだ見ぬプレーヤーたちとのオフライン対戦が楽しめる。

 今回開催された「Fighters Crossover 全国大会#00」は、その全国大会版。1月より全国24カ所にて順次予選会が行なわれており、各地で勝ち残った30チームに加え、3月9日に「ASH WINDER Esports ARENA 高田馬場店」で行なわれた最終予選で勝ち残った2チームが3月10日の決勝大会で戦った。

秋葉原の「Fighters Crossover 秋葉原」の対戦会の様子
今回の全国大会は高田馬場にある「ASH WINDER Esports ARENA 高田馬場店」にて行なわれた

 本大会の最大のポイントは予選から決勝まで全ての対戦がオフラインで行なわれたことだ。オフライン大会も珍しくはないが、近年はコロナ禍の影響などもあり、オンラインで行なわれる大会が主流になっていた。オフラインでの対戦は相手が目の前におり、声や音、その姿などが目に見えるため、オンラインの対戦とは異なる緊張感や臨場感がある。こうした異なる環境でいつも通りのプレイを続けるのはかなりのメンタルが要求される。

 本大会のルールでもう1点ユニークなポイントは、3on3の1試合先取の勝ち抜き方式という点だ(昨今の大会では2本先取の通称2先が主流)。1本先取の場合、どういう戦略で攻めてくるかわからない相手と戦うとなると、百戦錬磨のプロ格闘ゲーマーであっても想定外の事態が発生して負けてしまうなんてことも起こり得る。

 実際に3月9日に行なわれた最終予選の準決勝では、正にこれを象徴するような事が起こった。若手プロ格闘ゲーマーの立川選手、カワノ選手、Shuto選手の3人によるチーム「たかし」が「ぽんぽこ発動前ステ小足」のまるみ選手のキャミィに3連敗して敗退したのだ。

 プロ格闘ゲーマーは普段の練習は元より、オフラインの大会もオンラインの大会も数をこなしており、経験値もかなり高いはずだが、それでもこのような想定外の事態が発生してしまうのが1本先取、1先の恐ろしいところだ。

 「Fighters Crossover 全国大会#00」でもオフライン1先のルールから一体どのようなドラマが生まれるのか。今回は現地で取材した様子を簡単にレポートしていく。

前日の最終予選の配信より。3人のプロ選手たちがまるみ選手のキャミィに3タテ!
まさかの敗北にも拍手で応えるチーム「たかし」の面々と勝利を讃え合う「ぽんぽこ発動前ステ小足」のメンバーたち

物販や対戦台も魅力の大会観戦!

 会場に到着すると入場待ちの列が長く伸びていた。会場最奥部は決勝大会を行なうステージがあり、会場中央には「スト6」の対戦台が数多く設置されている。大会に参加予定の選手だけでなく、一般入場の観客も対戦を楽しむことができた。

 また、本大会の協賛企業のうち、コントローラーなど周辺機器を取り扱うホリ、アイ・オー・データ機器のゲーミングモニターブランド「GigaCrysta」、eスポーツ関連製品などを取り扱うGRAPHTブランドなども出展、自社製品のアピールや物販などが行なわれていた。こうした会場限定の物販なども、会場に観戦に来る楽しみの1つと言える。

ホリは自社の各峠ゲーム向けゲームパッド「ファイティングコマンダーOCTA」を使った牛ラリー遊びを実施していた
アイ・オー・データ機器のゲーミングモニターブランド「GigaCrysta」はゲーミングモニタ2製品の物販を実施。会場限定のQRコードを読み取ることで、現地ならではの特価で製品が購入できる仕組みとなっていた
GRAPHTはストリートファイター6のステッカーやコントローラーのボタンキャップなどを販売していた

 大会が開始する前も開始した後も対戦台の熱気は凄まじく常に満席となっており、2先で負けた相手が抜けて入れ替わる勝ち残りなどで対戦が行なわれていた。他にもトレーニングモードを行なうための台や、誰でも手軽に遊べるカジュアル台なども用意されており、気軽にオフラインの対人対戦が楽しめる仕組みとなっていた。

 オフライン対戦の魅力の1つがコミュニケーションであることは間違いない。ランクマッチなどオンラインで対戦しているときと違い、オフラインであれば対戦後や対戦待ちの間に他のプレーヤーと交流できる。会場内を見ていると、対戦待ちのプレーヤー同士で会話が盛り上がっている様子が各所で確認できた。

 今回は「Fighters Crossover 全国大会#00」の観戦がメインで来ていた方も多いので、対戦はせずにステージ前面で、試合開始を待つファンも多く見られたが、こうしたファン同士の交流もオフライン大会の魅力の1つと言えるだろう。実際に筆者知人にも、観戦目的で毎回会場に顔を出す人がいるが、別の会場で顔見知りになった人と仲良くなったといった話を聞かせてくれた。

会場最奥部には試合を行なうメインステージが設営
気軽に対戦できるカジュアル台も多く用意
LP無制限台も数多く用意。ただし対戦台の前ではプロもアマチュアも関係ない。この写真の中だけでも著名なプロ格闘ゲーマーのKEI.B選手の対戦を眺めているネモ選手やオニキ選手の姿が確認できる。他にも大谷選手やかずのこ選手らが写っており、選手同士が交流している様子が伺える

プロたちのチームが次々と負けていく大波乱!

 決勝大会はA~Dの4ブロックに分けられたトーナメントから開始された。その後はAブロックとBブロックの勝利チーム同士で準決勝が行なわれ、CブロックとDブロックでも同様に激突して決勝戦となる。準決勝も決勝もルールは共通の1先勝ち抜けだ。

 ブロックごとの対戦はAから順次行なわれていったが、いきなり大波乱のスタートだ。Aブロック第1試合は優勝候補の一角と言われていたチーム「FUKUSHIMA IBUSHIGIN」が登場。FUKUSHIMA IBUSHIGIN所属のプロ選手であるヤナイ選手と翔選手、スタッフのおこめ選手というかなりの強豪チームだが、なんと対するチーム「ハリーポッターと屈中パンチ」が勝利したのだ。

 筆者は不勉強のため、チーム「ハリーポッターと屈中パンチ」のめがねまん選手やぼんじゅ選手、すえまる選手については詳しくないが、逆に「スト6」の大会などで名前をよく見るヤナイ選手や翔選手たちが1先で倒れていくのは驚きだった。

 同様にAブロック第2試合も関西のCAG Osaka所属選手たちによるチーム「CAG」がチーム「トにし」に敗れるなど、プロチームの名を冠したチームがいきなり脱落という1先の洗礼が待っていた。なお「CAG」についてはGO1選手が体調不良で欠席だったため、その辺りの事情もあるだろう。

 その後の試合でも、ナウマン選手となるお選手、かずのこ選手らプロ格闘ゲーマーたちによるチーム「青春」や、「ストリートファイターリーグ」にも出場していたじゃじい選手と、あくあ選手、稲葉選手によるチーム「広島 TEAM iXA」なども1回戦で敗退しており、1先ならではの波乱がてんこ盛りの1回戦となった。

進行は会場に貼られたトーナメント表で行なわれた。勝利チームのラインにはスタッフ手動で赤色のマーカーが塗られていく
ステージ上には2台のPCが設置され、2試合ずつ行なわれていった。配信スペースには実況解説陣が座って試合を解説。なお、現地の実況解説にはハマシカ氏、ヨシヲ氏、ふり~だ氏、もらお氏、総合MCはコーリー氏、ガヤは主催のかげっち氏
ぼんじゅ選手のルークが翔選手のリュウを撃破! 「FUKUSHIMA IBUSHIGIN」チームがまさかの1回戦敗退
かずのこ選手やナウマン選手、なるお選手のチーム「青春」もチーム「ハマ勢」に完敗の結果となった

ついに出そろった4強による大激闘、1先オフラインの栄光をつかみ取ったのは?

 ブロック毎の代表が決まり、Aブロックはヤマグチ選手、うんす選手、ひぐち選手の3人による若手プロたちのチーム「うんす軍」、BブロックはITK選手、ゆかりさん選手、Reiketsu選手によるチーム「BCD」、Cブロックはなおーん選手、ナリ君選手、KEI.B選手によるチーム「おんぶにだっこ」、DブロックはEVANGELION Official Pro Gaming Team所属のシュウジ選手、ひかる選手、わびいち選手ら3人によるチーム「エヴァ:e」だ。準決勝以降は会場の対戦台も撤収され、全てが観客席となり、ステージ上でも1試合ずつが行なわれる展開となった。

 準決勝第1試合「うんす軍」と「BCD」の試合は、両チームとも“今日”を勝ち進んできた事もあり、かなりの激戦が展開。「BCD」のReiketsu選手のキャミィが初戦でうんす選手のエドを倒すも、続くヤマグチ選手のディージェイが勝利して五分に戻す。続くゆかりさん選手のブランカも撃退して連勝を決めて試合はいきなりクライマックスに!

 ところがこの追い込まれた状況でもITK選手のダルシムが冷静に対処してここを勝利し、勝負は大将戦へともつれ込む。最後の砦、ひぐち選手のガイルとITK選手のダルシム、この1先を制したチームが決勝に進めるという緊張感の中、ひぐち選手のガイルが決めて勝利! 「うんす軍」が決勝にコマを進めた。

 準決勝第2試合「おんぶにだっこ」と「エヴァ:e」の試合も大白熱だった。ここまでどちらも好調だったなおーん選手のルークとわびいち選手のルークによるルークミラーマッチとなったが、ここはなおーん選手が勝利。続くひかる選手のA.K.I.はさらに好調でなおーん選手のルークを撃破して五分に戻す。さらに続くナリ君のキンバリーも撃退して勝利にリーチをかける。ここでKEI.B選手のJPがひかる選手のA.K.I.を倒して、こちらも大将同士の対決までもつれ込む大激闘だ。

 KEI.B選手のJPにシュウジ選手のガイルが挑むも、試合全体はKEI.B選手有利で展開。ところがフルカウントフルセットの状態でシュウジ選手のガイルが劣勢な状態ながらも粘りを見せ、最後は体力ギリギリの攻防を逆転勝利して、チーム「エヴァ:e」が決勝進出となった。

ヤマグチ選手(忍ism Gaming)、うんす選手、ひぐち選手(Saishunkan SOL 熊本)によるチーム「うんす軍」
チーム「BCD」はITK選手、ゆかりさん選手、Reiketsu選手の3人
準決勝第1試合、両チームの激闘はひぐち選手のガイルが決めて「うんす軍」が決勝にコマを進めた
なおーん選手、ナリ君選手(Rox3Gaming)、KEI.B選手のチーム「おんぶにだっこ」
チーム「エヴァ:e」はシュウジ選手、ひかる選手、わびいち選手
準決勝第2試合「おんぶにだっこ」と「エヴァ:e」の対戦もギリギリの接戦だったが、シュウジ選手のガイルがギリギリで勝利!

 こうして迎えた決勝戦、「うんす軍」と「エヴァ:e」の対決はさらに大激闘となった。初戦はわびいち選手のルークがうんす選手のエドを撃退して先制。続いてひぐち選手のガイルとの対戦はひぐち選手が勝利するも、シュウジ選手のガイルとのミラーマッチはシュウジ選手が勝利。優勝へのリーチは「エヴァ:e」が先行だ。

 後がない「うんす軍」、最後の砦のヤマグチはDeeJayでシュウジのガイルを粉砕して最終戦に持ち込む。「エヴァ:e」最後の砦となったひかる選手のA.K.I.とヤマグチ選手のDeeJayとの一戦もフルラウンドフルセットまでもつれ込む接戦となったが、最後はヤマグチ選手のDeeJayがギリギリの接戦の中、多少のコンボミスを見せつつも、キッチリ決めて勝利!

 優勝はヤマグチ選手、うんす選手、ひぐち選手のチーム「うんす軍」となった。

決勝戦は「うんす軍」と「エヴァ:e」の対決!ここも3人目同士のギリギリの接戦となったが、最後はヤマグチ選手のDeeJayがリーサルとなるSA3を決めて勝利!
優勝の瞬間!
みごとに優勝を決めたチーム「うんす軍」のヤマグチ選手、うんす選手、ひぐち選手

 今回「うんす軍」の3人に、オフラインの1先というプロシーンではあまり見られない形式の大会であったため事前準備などは行なったか聞いてみたが、ひぐち選手は「今回のために特別な準備などはしていません。いつものように練習を重ねた成果です」とした。うんす選手は「今回、新キャラ(エド)を使うことにしたので、経験値を増やすために、いつも以上にランクマ(ランクマッチ)をプレイしていました」としており、新キャラを選択した苦労を語った。

 ヤマグチ選手は「対策と言っても事前にできることはあまりなかったですが、1先という状況を考えて、いつもよりも読みを強めにしました」と今回のオフライン1先における心構えについて語ってくれた。

優勝賞品の1つは、協賛社のPUNK WORKSHOP特製、優勝者限定レバーレスコントローラー。世界に5台しかない逸品だ
配信終了後にちょっとコメントを聞いた時の陽気な3人の様子
配信終了後は抽選会やジャンケン大会で別の盛り上がりを見せた

ゲームにおけるオフラインコミュニティの重要性

 試合終了後は実況解説のメンバーたちやガヤ(主催)のかげっち氏たちの挨拶で配信を一旦終了。配信終了後、会場では事前に告知されていたプレゼント抽選会や、急遽追加で商品が用意され、かげっち氏とのジャンケン大会などが開催され、大いに盛り上がりを見せていた。

 会場でかげっち氏に開催の経緯などについて聞いてみると、「2023年6月に『スト6』がリリースされるということで、何か盛り上げる力になれないかと、2020年まで『ストリートファイターV』で行なっていたオフラインコミュニティであるFighters Crossoverを復活させることにした。どこかのプロリーグに所属しているといった肩書抜きで緩めに盛り上がれる場を作りたかった」とし、2016年から2020年まで秋葉原で行なわれていたFighters Crossoverが去年から復活した経緯について語った。

 続けて「こうしたオープンなコミュニティは思ってた以上にニーズがあり、アマチュアの人でも楽しめる全国大会をオフラインでやってみたいよね、とやりたい事をやってみた。今後も「スト6」をオフラインのコミュニティからの仕掛けでフォローしていきたい」としており、メーカーや企業主導ではなく、個人(かげっち氏)主催の公式イベントとして、全国各地にコミュニティを広げていき、全国大会の開催までこぎ着けた形だ。

 確かに今回の「Fighters Crossover 全国大会#00」だが、協賛として各メーカーからの協力はあり、商品提供などは行なわれているが、主催はあくまでもかげっち氏本人による“趣味の公式大会”であり、自身のやりたい事をやれる仲間たちと一緒にとりあえずやってみたという形のように感じられた。ただし、企業主導の大会などを否定するのではなく、あくまでも「相互に助け合えるような関係性がベスト」とも語っていた。

 今後については、配信でも触れていたが「今回の大会は#00であり、今回の反省などを活かして、次回に繋げていきたい」とした。なお、配信では次回開催を決定した事についても発表していたが、あくまでも公式のスケジュールに合わせる形にしたいため、公式の正式なスケジュールなどが出てから具体的な発表が行なわれるようだ。

 今回、会場で開場から撤収まで取材したが、出場選手や会場に遊びに来たファンたち、スタッフ含めて誰もが笑顔で楽しんでいた印象だ。また、筆者も過去に対戦会や大会の取材などには何度か足を運んでいるが、選手たちとの距離が非常に近く、先方の迷惑にならない範囲のちょっとした会話なら、かなり気楽に行なえるのもこうしたオフライン会場の魅力の1つと言える。

 ゲームとそれを取り巻くコミュニティ、とりわけ対戦格闘ゲームの場合、対戦相手がいないとゲームの真の魅力が楽しめないことから、他のゲーム以上に仲間同士のコミュニケーションが非常に重要な役割の1つなのは間違いない。

 アーケードゲーム全盛の時代にはゲームセンターなどのアミューズメント施設がその役割を担っていたが、現在、ゲームセンター含めたアミューズメント施設はプレーヤー側のオンライン環境の成熟やコロナ禍の影響などもあり、あまり芳しくない印象を受ける。そんな状況下でこうしたオフラインのコミュニティを形成し、別方面から格闘ゲームを盛り上げていこうという同様の試みが各地で起これば、ゲームセンターを知らずに育った若者たちの新たなコミュニケーションの場として成熟していくかもしれない。

「Fighters Crossover」主催のかげっち氏。なお実況席でかげっち氏の横に置かれた写真は2023年7月に惜しくも他界したなない氏のもので、同氏もFighters Crossover出身の実況解説者だ
撤収前には全スタッフが並んで記念写真を撮るなど気の合う仲間たちで運営されているのが伝わる1枚だ