【特別企画】

これぞ新時代のガンダム! 「機動戦士ガンダム 水星の魔女」

学園、起業、強烈なキャラクター。第2クールに先駆け、改めて作品の魅力を振り返る

 「機動戦士ガンダム 水星の魔女」の第1期最終話(12話)が1月8日に放映され、その展開に大いに話題になっている「機動戦士ガンダム 水星の魔女(以下、水星の魔女)」は「ガンダム」の新たなファンを増やした作品であり、毎話が話題を集めた。だからこそ最終話の衝撃は大きかったと言えるだろう。「第2期はどうなってしまうんだ?」ファンはみなそう思っている。

 筆者も「水星の魔女」を気に入っている。……正直に白状しよう、実は筆者は1話で「水星の魔女」を"切った"人間である。「これでガンダムかよ」と怒りと共に拒絶し、その後6話まで見ることがなかった。しかし爆発的な人気と様々なファンの声を聞き作品を見なおし、手のひらをくるりと返したのだ。頑迷固陋な自分の価値観を自覚し、反省しつつ、全話を見なおし、今では第2期開始を心待ちにしている。

 筆者を改心させた「水星の魔女」の魅力は何か? キャラクターの魅力、雰囲気、世界観、そしてやはりMS。本稿ではこういった魅力を紹介していこうと思う。物語というのはその魅力を語る為にはどうしても内容に触れなければならない。このため本稿には多分にネタバレ要素がある。「絶対に前知識は拒絶したい」という人は、ぜひ見終わってから読んでいただきたい。物語を楽しんだからこそ語れる魅力がある。「水星の魔女」第2期が本当に楽しみだ。

【『機動戦士ガンダム 水星の魔女』予告PV第二弾】

中心となるのはスレッタとミオリネ、声優達の熱演で厚みを増すキャラクター

 「水星の魔女」は様々な要素を含むドラマである。物語の主人公スレッタ・マーキュリーが、水星からモビルスーツ産業最大手「ベネリットグループ」が運営する「アスティカシア高等専門学園」に編入するところから始まる。

 アスティカシア高等専門学園は小惑星を基部とした巨大なスペースコロニーであり1つの閉鎖世界だ。この学園ではMS(モビルスーツ)による「決闘」が認められており、この決闘に勝利した者は敗者に自身の要求を突きつけることができる。スレッタは偶然に知り合った少女ミオリネ・レンブランの苦境に、学園に君臨するグエル・ジェタークと決闘することになってしまう。

 見事決闘に勝利したスレッタはミオリネの"花婿"となる。ミオリネは学園理事長でもあるベネリットグループの総裁、デリング・レンブランの一人娘であり、この学園のトロフィーでもあった。スレッタは意図せず学園での権力争いの頂点に立ってしまったのだ。スレッタの波乱に満ちた学園生活はこうしてスタートする……。

本作の主人公スレッタ・マーキュリー。田舎から出てきた引っ込み思案だがすごい能力を持った少女が、様々なことを学び成長する。……誰もが好感を持つ設定だが、様々な秘密や伏線が盛り込まれているところが本作のポイント。彼女は「水星の魔女」最大の謎でもある

 もう1つの物語の核となるのがスレッタの愛機エアリアルの"謎"である。エアリアルはスレッタの手によって並み居るライバル達を圧倒する高い戦闘力を持っているが、その力が「エアリアルはガンダムではないか」という疑惑を生む。

 この世界におけるガンダムとは、水星で発見された元素間で情報を共有できる鉱物「パーメット」を人体に活用し、義肢などを動かすことができるGUND(ガンド)技術を応用した「GUNDフォーマット」によるMSを指す。GUNDフォーマットを使った「ガンダム」は、人体に対して危険な影響を及ぼすため開発そのものが禁止されているのだ。デリングはまさにこのガンダムへの対処でその権力を手にした。「ガンダム」にまつわる謎は、物語の中心の要素なのだ。

 キャラクター表現の魅力も「水星の魔女」の特徴だろう。主人公スレッタは明るく、元気だが、人口の少ない水星で育ったため極端な人見知りだ。学校という環境では緊張のあまりガチガチでコミカルな表情を見せる。それでも一生懸命で、頑張り屋さんだ。そんなスレッタがエアリアルに乗ると目の覚めるような大活躍をする。

もう1人の主人公ミオリネ。設定だけを見れば彼女の立ち位置は悲劇のヒロインだが、彼女の強さはその逆境に負けない。彼女とスレッタの絆は本作の大きなテーマとなる

 ミオリネは自身の理不尽な運命に懸命に抗う。一見はかなげな少女だが、その態度は父親譲りの不遜で攻撃的で、毒舌だ。本質は愛情に飢えている少女であるが、強さも持っている。彼女がスレッタを支え成長していくところは第1期の大きな見所だろう。

 声優の熱演がキャラクターに厚みを与えている。スレッタを演じる市ノ瀬加那さんのちょっと過剰さも感じさせるコミカルな演技、ミオリネ役のLynnさんのきつめな台詞回しはもちろんだが、謎めいたキャラクターであるエラン・ケレス役の花江夏樹さんの演技に注目したい。

 花江さんは「鬼滅の刃」の主人公・竈門炭治郎役で澄んだまっすぐな、そして迫力のある声での印象が強いが、エランが戦いの時に発する"叫び"は炭治郎と同じ声質と響きながら、全く意味合いが違ってくる。花江さんならではの叫びを武器に、全く異なるキャラクターを表現するその演技はとても興味深かった。エランは"幅"のあるキャラクターであり、その演じ方も面白い。

複雑なバックボーンを持つエラン。彼をどう花江さんが演じているかも注目

 そしてやはりスレッタの母親プロスぺラ・マーキュリー役の能登麻美子さんだろう。柔らかく、ささやくような優しい声を持つ能登さんは、はかなげでかわいらしい美少女キャラクターを多く演じているが、プロスペラはその能登さんの声を持ちながら、"怖い"のである。本質は優しく愛情のある女性であるはずなのに、今の彼女は何か違う。本当に本心から変わってしまったのか、それとも自分さえも欺くための仮面なのか、彼女が言葉を発するほどに視聴者にはその真意がわからなくなる、実に印象深い演技をしている。「水星の魔女」はまずキャラクターに大いに注目して欲しい。

物語の鍵を握るプロスペラ。スレッタの優しい母親だが、その心の内の本当の想いはまだ明かされていない。彼女が纏う不穏な空気は物語に暗い影を投げかけている

キーワードを巧みに使い、フックを多く用意した親しみやすい「ガンダム」

 世界観やキャラクターの魅力はやはり脚本によるところが大きい。「水星の魔女」は"キーワード"を巧みに使い、複雑な物語をとてもうまく視聴者に印象づけることに成功している。

 実は筆者が最初に拒否反応を起こしたのはこの部分だった。プロローグで「故郷の村を焼かれる」、第1話で「奇妙なルールのある学園に主人公が転校してくる」という、あまりにお約束の、「こういうのを見せておこう」という要素が押し寄せてきて、胸焼けを起こした。「ガンダムならもっと丁寧に、1つ1つ要素を積み重ねた、自分たちの語り方をして欲しい。あまりにも類型的すぎるだろう」と思ってしまった。

【『機動戦士ガンダム 水星の魔女』第1クール最終回直前PV】
11話までのスレッタとミリオネの絆を再確認するPV。12話で大きな変化を迎えることとなる

 しかし、当たり前ではあるが、こういった語り方は作り手の意図的なものだ。スレッタとミオリネの関係、地球寮のチュチュのキャラクター造型、暗殺まで意図する企業間の陰謀、強化人間を思わせる存在、グエルの凋落ぶり、「これはガンダムではない」というセリフ……様々な要素で他作品との関係性や、物語の類型を感じさせ、そこにファンのフックとして話題を集める。

 「この展開はきっとこう!」、「このキャラクターの境遇はまさにこれ」といったファンアートや考察がネットに多く寄せられ、放送時にはTwitterのトレンドを埋める。これらはすべて「ファンが入りやすくするための呼び水」であり、制作陣が意識していたことだ。「水星の魔女」は随所にこの工夫が見られる。「現在のファンのためのガンダム」が強く志向されていると感じた。この認識が筆者の手のひらをくるりと返させた理由だ。筆者はあまりに浅はかだった。

公開と同時にネットで大いに話題を集めたチュチュの設定。思わず突っ込まずにはいられない髪の毛や釘バットの設定など、注目を集める工夫が盛り込まれている

 こういったキーワードの中で最も注目なのが「株式会社ガンダム」だろう。学生の起業ものというのはファンを得るのに難しい題材かもしれないが、響きも含めてとても面白いし、ロボット達が激しく戦う展開がウリの「ロボットアニメ」であえてこのドラマを入れられるのは「ガンダム」だからこそだろう。今後の展開でも鍵になって欲しい要素である。

【株式会社ガンダム プロモーションビデオ】
演出の小ネタが満載のPV。「ガンダム」で仕事をしようというのはとても面白いアイディアで、2期でもしっかり問いかけて欲しいテーマである

 こういった"お約束"を積み上げたものが大きく揺らがされるのが、12話である。本作の各話の脚本をまとめるシリーズ構成を務めるのは大河内一楼氏。大河内氏は「コードギアス 反逆のルルーシュ」において、戦争と日常、主人公ルルーシュがテロリストとして事態を進めつつ、普通の学生として暮らす二重生活、そしてそれらが崩壊していく課程を描いた人物だ。ラブコメのような学園ものと陰謀渦巻く戦争、相反するドラマを描き戦争がすべてを覆っていく様と、学園ドラマを取り入れた意味をドラマに大いに活用する手腕で「コードギアス 反逆のルルーシュ」は幅広いファンを獲得した。

 「水星の魔女」は12話で丹念に学園ドラマを描いたが、まずプロローグでその伏線を提示し、様々な場所で不穏な空気を紛れさせた。第2期からは戦争が大きな要素となっていくことはあきらかだ。だからこそ第2期ではどんなドラマが描かれるのか、まずどう始まるのか、大いに期待したい。

力を込めて描かれるMS達の姿

 そして「ガンダム」と言えばMS、そしてMSの戦いである。特に「水星の魔女」で主人公機エアリアルの描写は一際目を惹く。エアリアルは「ガンビット」という特殊装備を持っている。ガンビットはそれぞれがスラスターとビーム砲を持つ幾つものパーツで、それぞれのパーツが自由に浮遊でき、エアリアルの機能を強化したり、結合してシールドになったり、バラバラに浮遊してオールレンジ攻撃を行う。

こちらはフィギュアである「ROBOT魂 ガンダム・エアリアル ver. A.N.I.M.E.」。ガンビットを台座パーツで表現

 オールレンジ攻撃とはその名の通り「全方向からの攻撃」。「機動戦士ガンダム」から始まる宇宙世紀では「ビット」や「ファンネル」と呼ばれニュータイプが扱える強力な武器として描写された。その後も様々なガンダム作品で印象的な武器として登場していたが、「水星の魔女」では主人公機がこの武器を使うのである。

 ガンビットはエアリアルを代表する武器であり、商品化での目玉ギミックとされている。ガンプラはもちろん、完成品フィギュア「ROBOT魂 ガンダムエアリアル」ではクリアの支柱パーツを使ってガンビットを描写している。

 他のMSも魅力的だ。重モビルスーツとしてのシルエットが楽しい「ディランザ (グエル専用機)」は、決闘用モビルスーツとしてケレン味のある羽根飾りを付けているし、練習用や作業用にも使われる「デミトレーナー」は野暮ったい。チュチュ専用機はこのデミトレーナーを狙撃用にカスタムしている。

ガンプラ「HG 1/144 ディランザ (グエル専用機)」。重装甲らしいシルエットだ
ガンプラ「HG 1/144 デミトレーナー」、野暮ったさを感じさせるデザインが良い

 エランが駆る「ガンダムファラクト」はその名の通り、禁止されているはずのガンダムだ。ファラクトは機動性と強力な火力に加え、ガンビットを搭載している。なぜエランがガンダムに乗っているかも物語の大きな要素だ。アニメでのMS達は実に生き生きと動く。MS戦は「水星の魔女」の大きな要素であり、それぞれのMSの特徴を活かした戦闘描写は短い尺で非常に効果的に演出されている。

 この優れた描写がMSのキャラクターとしての魅力を視聴者に印象づける。「水星の魔女」のガンプラはどれも人気が集中して、入手困難になっている。キャラクターとしての魅力と、それをきちんと再現しているからこそ売り切れてしまうほどに商品の人気が高いのだ。

 2期に登場するMSは「戦争兵器」としての描写が強調されるだろう。1期は決闘用や作業用としてのMS描写が多かったが、いくつかのシーンで治安維持用や、戦闘用のMSも描かれた。ディランザやダリルバルデといった重装甲を前面に出すジェターク社、推進力を重視したファラクトやザウォートを扱うベイル社、対ガンダム装備と連携を重視したベギルペンデやミカエリスを持つグラスレー社と、各社の特性を活かしたMSの登場も期待したい。

ガンプラ「HG 1/144 デミトレーナー (チュチュ専用機)」、デミトレーナーのスナイパーカスタムだ
ガンプラ「HG 1/144 ガンダムファラクト」、機動性が高そうなデザイン。ガンビットも装備している

 「水星の魔女」のMSにおいて大きな謎であり物語の中心であり続けるのが「ガンダム」である。「GUNDフォーマット」は人体に特殊鉱物パーメットを注入することでMSと人間を繋ぐ技術で、その指標は「パーメットスコア」としてスコアが上がるほどにMSの戦闘力は大きく増す代償に、人体への負担が大きくなり、パイロットにはパーメットによる光る痣が浮かび上がる。その負担は命の危険をもたらすものだ。

 しかしスレッタにはその負荷がないように見える。彼女のパーメットスコアは他のパイロットとは段違いで、ガンビットの操作だけでなく、MSの機動そのものも他のMSとは大きく異なる別次元とも言えるものとなっている。エアリアルとスレッタにはどんな秘密があるのか、これは2期の鍵となる要素である。

【YOASOBI「祝福」Official Music Video (『機動戦士ガンダム 水星の魔女』オープニングテーマ)】
YOASOBIを起用したオープニングも「新時代のガンダム」を強く印象づける
第1期でしっかりと関係性を描いたからこそファンにとって一番の関心は「スレッタとミオリネがどうなってしまうか」だろう。4月からの2期が待ち遠しい

 「水星の魔女」の2期がどうなるか、現時点では全く予測ができないし、製作者はその期待を必ず上回ってくれるものと期待している。ただ1つ、筆者のわがままだが、「ガンダム」である以上、描かれるテーマの先には「人間の未来への希望」であって欲しい。

 MSなどの現実を越えた先進技術、ニュータイプといった宇宙に生活圏を移した人間が得ようとする新しい能力。現在の我々からは遠い未来に到達した人間さえもお互いで争う戦争から卒業できない、それは「ガンダム」におけるMSの存在理由であり、大きな悲劇であるが、人間はその悲劇を乗り越えることができるかもしれない。

 この根本的な問いかけこそが、「ガンダム」を現在まで継続させ、問い続けさせる原動力だと筆者は思っている。人はなぜ争うのか、どうすれば戦いのない未来を人間は獲得できるのか、ここにちゃんと"希望"を込めた物語にして欲しい。それこそが「ガンダム」であり、SFであると、筆者は思っている。