【特別企画】

進むほど、恐怖が頭を支配する。「The Callisto Protocol」インプレッション

「Dead Space」に通ずる、ホラーTPSのこだわりを強く感じる作品

【The Callisto Protocol】

12月2日 発売予定(日本は発売なし)

 30年以上ゲーム業界でキャリアを重ね、サバイバルホラーTPS「Dead Space」をはじめとする30以上のゲーム開発に携わってきたグレン・スコフィールド氏。現在はStriking Distance StudiosのCEOとして「The Callisto Protocol」のディレクションを担当している。

 「The Callisto Protocol」はStriking Distance Studiosが開発中のサバイバルホラーTPS。2320年の木星の衛星「カリスト」にあるブラックアイアン刑務所に服役する「ジェイコブ・リー」の物語だ。謎の感染病が発生し混沌に陥ったカリストで、刑務官も囚人も「バイオファージ」と呼ばれる怪物に変異していくなか、ジェイコブはブラックアイアンの恐怖に自身の生存を賭けて戦い、事件の裏に潜む黒い秘密を暴いていくことになる。

 今回、世界での発売日となる12月2日に先駆けて、本作を約70分程度プレイできたので、そのインプレッションをお伝えしたい。

 なお本作は日本でも予約が開始されていたが、今回の原稿執筆後、残念ながら日本での発売中止が決定した。理由はCEROのレーティングを取得できなかったというもの。発表によれば、日本ではSteamを含む全プラットフォームで発売されないが、海外で発売される製品版には日本語が収録されているという。この決定を踏まえた上で、本稿をお読みいただければ幸いだ。

【The Callisto Protocol ブラックアイアンの真実トレーラー (日本語吹き替え)】

手から汗が止まらない!ジリジリと恐怖が思考を占める

 今回プレイできたのは、ゲーム中盤部分だ。ブラックアイアン刑務所の施設内を探索するパートで、水道施設があるエリアや、酸素を生成するための施設などがプレイできた。また下水路に主人公が流され、障害物を避けながら生存を目指すスリルあふれるパートもプレイできた。

 基本的なゲームシステムはオーソドックスなTPSを踏襲している。遠隔武器のハンドガンと近接武器の「スタン・バトン」、そして重力を操る特殊武器「GRP」という3つの武器を組み合わせて、出現する「バイオファージ」などの怪物と戦ったり、時には逃げながらエリアを探索していく。

木星の衛星のカリストにある「ブラックアイアン刑務所」という施設内を探索していく

 主人公と敵対する「バイオファージ」たちは本当に手強くてタフだ。数発程度の銃弾では倒せないし、上手くヘッドショットを決めても1撃ではダウンすることはない。弾薬は消耗品で、有り余るほど手に入る訳ではない。そのため近接武器も織り交ぜて戦っていくのが基本になる。

 そのため一体一体を順番に対処していくのはそれほど困難ではないが、複数体のバイオファージが絡んでくると一気に難易度は高くなる。1体を遠距離から攻撃していても、別の方向から襲われたりするし、近接攻撃でも複数体を相手するのは非常に困難だ。決してパニックに陥らず、一体ずつ確実に倒すのがクリアへの近道になる。

複数体のバイオファージを同時に相手するのは難しい。一体ずつ倒していこう

 とはいっても曲がり角の死角からいきなりバイオファージが現れたり、霧で見えないところから遠隔攻撃をしてくるバイオファージも出現する。筆者は最初は深く考えずに突っ込んでいたが、コンティニューを繰り返すうちに慎重にビクビクと進めるようになっていた。そうすると、「この角を曲がったら敵が出てくるかもしれない」という恐怖が思考を占めていく。気がついたらコントローラーを握る手からは汗が吹き出していた。そういったジリジリとしたホラー体験ができるのが本作の魅力だと感じた。

死角から突然現れることがある。ビクビクしながら進んでいると、徐々に恐怖で思考が一杯になる

目を背けたくなるほどグロテスク。こだわりを感じるゴア表現の数々

 そしてもう1つお伝えしたいのが、こだわりを感じるゴア表現の数々だ。

 まずステージ中の様々なところにはこの施設で起きた凄惨な出来事を物語るように血飛沫や肉片が飛び散っており、想像もしたくないような凄惨な事件が起きたがわかる。また肉の芽がある部分などもあり、この施設が異形の生物に侵食されている現状が伝わってくる。

 特にこだわりを感じたのが、主人公が死ぬときの演出の数々だ。主人公は探索の中でバイオファージという怪物と対峙するのだが、怪物に殺されてしまう時のゲームオーバーの演出が複数用意されていた。そのどれもが惨たらしく、思わず目を背けたくなるような演出だった。

 例えば顔面の肉を削り取られて死ぬというものや、敵の触手に頭を襲われるもの、眼球を親指で潰されるようなものもあり、思わず「うっ……」という言葉が口をついてでてきた。

 また下水道のようなところで激流に飲み込まれて流されるシーンでは、障害物として棘がついた柱や、回転する巨大なプロペラがある。これらは左右に移動して回避する必要があるのだが、回避に失敗すると一撃死で、柱の棘に串刺しになったり、プロペラで真っ二つにされたり、酷な死を迎えることになる。

 直視できないほどグロテスクな死に方だからこそ、死にたくないという気持ちが強くなり、一層生にかける思いが強くなるような作りになっていると感じた。

主人公が殺されるパターンはかなり豊富に用意されている。美しいグラフィックスで描かれる残酷な死に方の数々からは思わず目を背けたくなった

 もちろん主人公が死ぬときの描写だけでなく、バイオファージと戦うときの演出も遠慮なくグロテスクな表現で描かれる。殴ると重々しい打撃音とともに血は飛び散るし、銃でヘッドショットをすると血しぶきと共に頭の部分は吹き飛ぶ。またとどめを刺すために足で踏みつけるアクションまであり、怪物に対する表現についても一切遠慮がないなという印象だ。

 主人公側が死ぬ表現も、敵側が死ぬ表現も重々しく残酷に描いているからこそ、ゲームオーバーになりたくなかったり、恐ろしい敵を倒す爽快感が感じられるようになっていた。

バイオファージと戦うときの演出も一切遠慮がない。血しぶきや部位欠損などの表現が多くあった

スピートは遅く、UIはない。圧倒的なこだわりを感じる演出

 上記のようなゴア表現以外でも、ホラーゲームとしての演出かなりこだわりが本作にはある。

 まずTPSとしての視点の動きはかなり遅く、敵が真後ろにいるのがわかっても、振り向くのに少し時間がかかるようになっていた。咄嗟には動けないことで、恐怖感をより増すための仕掛けだと感じた。

 また本作ではミニマップや目的地まで誘導するGPSなどは表示されないし、銃の残弾数や体力なども表示されない。自分の残り体力は首の後ろにあるLEDのような帯で表示され、銃の残弾数は銃を構えなければ表示されない。ゲーム的なUIが排除された画面により、没入感が非常に増している。これはグレン・スコフィールド氏が携わっていた「Dead Space」も似たような仕様で、そのエッセンスが強く入っていると感じた。

画面に表示される情報は最低限で、よりこの世界に没入できるような工夫がされていた

 全体を通してプレーヤーに恐怖の感情を持たせることに非常にこだわりを持って作られた作品であることを感じた。あえてスピードが遅い戦闘システムや、目を背けたくなるような過激な表現、そして死角から急に敵が出てくるようなプレーヤーを驚かせる要素など、複数の角度からアプローチすることで、ホラーゲームの恐怖度と奥深さを追求していることがわかった。

 日本で発売されないことは非常に残念だが、海外で購入できる製品版には日本語が収録されているとのこと。もしチャンスがあればぜひプレイしていただきたい。