インタビュー

「FFXIV」プロデューサー吉田直樹氏 G-STAR特別インタビュー

グローバル版と韓国語版との違いとは!? 海外展開の今後の展望から3.0まで色々聞いてみた

11月23日 収録(現地時間)

 G-STARで待望の韓国デビューを果たした「ファイナルファンタジーXIV: 新生エオルゼア」。既報のようにプロデューサー兼ディレクターの吉田直樹氏は、G-STAR会期中に、現地パブリッシャーのActoz Softブースにおいて韓国版プロデューサーレターLIVEを実施し、ローカライズに対するこだわりや、現地ローカルルールへの対応表明などを矢継ぎ早に語り、韓国のオンラインゲームファンの心をグッと掴んだ。

 今回は、ChinaJoy 2014でのインタビューに続いて、「新生FFXIV」の韓国サービスに特化したインタビューを実施した。日英独仏中に続く6カ国語目となる韓国展開では、どのようなポリシーでサービスが行なわれるのか、吉田氏に質問をぶつけてみた。また、インタビューの最後に、パッチ2.45以降の話も少しだけ伺ったのでそちらも注目して欲しい。

G-STARの感想と、韓国版レターLIVEの手応え。“ランダムボックス”、“ゴールドオークション”とは?

「FFXIV」プロデューサー兼ディレクターの吉田直樹氏

――まずはG-STARの感想から聞かせて下さい。

吉田氏: 今回初めて今回G-STARに来ることができました。当然今までも、特にGAME Watchさんをはじめとしたメディアさんのレポートで追ってはいたのですが、ここ2、3年、特にソーシャル、ネイティブアプリの台頭が韓国市場では多くて、正直自分がこれからやる仕事とカテゴリー的に合わなくなってきているのかなと思っていました。昨日の韓国版レターLIVEでもちょっとお話が出ましたが、韓国では今、ランダムボックスの課金が酷くて、ちょっとプレーヤーも疲弊しているし、政府からの圧力もゲーム業界に対して強いということで、特に去年あたりまではG-STARへの出展を迷っています、という企業さんも多かったようです。

 それが今年に入って、僕たちも韓国市場に挑戦したいということと、韓国の会社さんの中でも、そろそろソーシャルゲームで育ったゲーマーたちが、本格的なゲームをプレイする時期にきているのではないかということで、1度ペンディングになっていた大型の開発が新たに再開しているという雰囲気を聞いていたので、まさにその通りのイベントになっていると感じました。

 ただ、各社さんも、やはりいったんソーシャルに舵を切っていたものを、またコアなというか、ちゃんとゲーム体験の強いPCベースのものを作っていこうというところに舵を切り直してまだ1年経っていないと思います。その影響もあってプレーヤーも、プレイアブルなものが少ない、という印象はありました。

――G-STARで吉田さんのお気に入りのゲームはありましたか?

吉田氏: 「LOST ARK(ロストアーク)」が見せ方も含め注目させていただいていました。

【LOST ARK G-star trailer】
吉田氏が気になったという韓国SmileGateの新作MMORPG「LOST ARK」

――映像は「FF」っぽく、ゲームは「Diablo」っぽい感じですよね。

吉田氏: 韓国の方は演出がまずお上手なので。

――ゲーム性の近い「リネージュエターナル」と比べたくなるのですが、「ロストアーク」は、すごくクリエイターのセンスが感じられるゲームだと思いました。

吉田氏: ゲームに落とした時にどうなるかというのがこれからの注目ポイントですね。

――その通りですね。完成が近づいてからもう1度見てみたいというゲームでした。

吉田氏: 韓国のゲームメーカーさんは、ゲームを発表する際のPVのスタートアップがお上手です。実機をベースにしながら、一部CG加工を入れつつも、ゲーム的な演出がとても練られているといつも感じます。ただ、最終的に発売しないものも多く、ゲームになってきたら「あれ? PVとずいぶん違うな」という傾向もありますので、もうちょっと動く物まで待ちたいと……。単なるゲーマー視点ですみません(笑)。

Actoz Softブースで実施された韓国版プロデューサーレターLIVE
韓国独自のガチャ形態のひとつ「確定ガチャ」

――昨日Actoz Softブースで実施された韓国版プロデューサーレターLIVE、私も拝見させていただきましたが、実際韓国でやってみてどのような手応えを感じましたか?

吉田氏: 韓国のメーカーさんから伺ったのですが、やはり運営がプレーヤーの前で生放送で出演して、運営の方針だったり、自分の方針を話すと言うことは滅多にないとのことでした。いまInvenという韓国の大手ゲームメディアさんのユーザーアンケートでも期待のオンラインゲームランキング1位を頂いたので、その評判もあってか、放送中にすごい勢いで沢山の人が集まってくれました。注目度とか、はっきり運営の方針を前に出て話すところは新鮮に映ったのかなという手応えはあります。

 しかし、まだ韓国版はローンチ前です。確かにグローバル版に繋いでくださっているプレーヤーの方もたくさんいらっしゃいますけど、今の段階であまりディープな返答をすると、「なんだこのゲームもうそんなに濃いのか」と思われてしまうのも辛い……。ということで、できるだけ韓国版を待って下さっている新規のプレーヤー向け、ということで基本的なご質問への回答を多くしたつもりです。今回は特別編ということでそうしましたが、次からはもう少し絵素材も織り交ぜた放送が韓国でできればなと思っています。

――ちなみにランダムボックスの課金が酷いというのは、日本のコンプガチャと同じような状況が韓国で生まれているということですか?

吉田氏: 日本はコンプガチャやガチャの確率に対して一定の規制が入りました。コンプガチャは辞めたり、ガチャを回したら一応の保証をしなさいという雰囲気ができましたが、韓国はその辺りがまだグレーゾーンを突っ走っている状態に近いようです。グレーゾーンというのは市場の先駆者が突っ走っていく道のようなものですが、類似が後を追い、総じてプレーヤーの皆さんが、その確率と高額さに疲れてしまっているという雰囲気です。

――現在、韓国では「確定ガチャ」というものが主流になっていますが、あれはガチャで出るアイテムが12種類あるとすると、12回引けば必ず全部もらえる。ただし、ガチャの値段が倍々で高くなっていくというものです。日本より優しいじゃんと思わせつつ、そうではない。「いや、これは酷いな」と思いましたね(笑)。

吉田氏: ええ、その形ですよね。やはり韓国では、世界市場の研究が凄まじくて、良い物、儲かる物はどんどん取り入れて、ゲームデザイン的にもいいものはすぐに入れるので、すごく移り変わりが早いという話を聞きます。その結果、2カ月運営したらすぐやめて次のタイトルを出した方が儲かるという雰囲気になってきていて、お客様も敏感なので、そういう意味でもちょっと疲れちゃっているのかなと。

――もうひとつ、レターLIVE内で吉田さんが対応を表明していたゴールドオークション。これはどういうものなのですか?

吉田氏: あれは韓国のMMORPG文化の中で、おそらく「リネージュ」の頃からあるローカルロットルールのことです。たとえば、「ファイナルファンタジーXI」でも経験があると思うのですが、パーティを募集する際、せっかくパーティを組んでレベリングに行くのだから、稼ぎ始めから3時間は付き合って下さいね、と似た文化です。

 「FFXIV」で言うと、クリスタルタワーを何周できるかわからないけれど、繰り返しを含めて4時間行ける限りいきます、アイテムは後で分配。そのときに出たアイテムを全部アイテムボックスにプールしておいて、ボックスを管理している管理者が「ではこのアイテムからスタートします」とチャットを使って「24万ギル!」とか、1人1回入札して、ゴールドの入札が1番高かった人にそのアイテムを渡す。その入札された金額はレイドに参加した全員で分配する、というのが韓国のゴールドオークションです。

――おー、それは面白いですね。

吉田氏: レイドに参加したけれど、欲しいアイテムが出なかった。でもゴールドオークションのおかげで、一定額のゲーム内通貨という見返りが必ずある。4時間分レイドに協力したことによって、良いアイテムが出れば、自分のクラスやジョブに関係なくても、ギルという見返りがあるというそういうシステムです。

 これはユーザー同士の取り決めたローカルルールなのですが、韓国内で凄く浸透していて、「WoW」でもそういったゴールドオークションが、「WoW」のロットのシステムとチャットを使って行なわれています。ローカルルールではありますが、韓国ではスタンダード。誰かがルールを説明しなくても、「ゴールドオークション制」と言えば、韓国のオンラインゲーマーの皆さん知ってる。フルサポートじゃなくても、システムを使って、それがプレーヤー間で可能になるかどうか、という点では大きいと思っています。

――つまり、「新生FFXIV」韓国サービスでゴールドオークションに対応するつもりですか?

吉田氏: 基本的にはチャットを使った遊びですので、システムでのフルサポートは考えていませんが、アイテムを管理者にプールしておいて分配する、という部分は可能にしようかと検討を進めています。

――グローバル版の仕様だと、一定時間でドロップが流れてしまいますが、その時間制限を撤廃するような形の対応ですか?

吉田氏: そうですね。「FFXIV」の場合は「WoW」と異なり、レイドIDのようなもので報酬やプレーヤーを管理しておらず、管理はコンテンツ単位になります。ですので、コンテンツ内にいる間は、ドロップしたアイテムをキープできるような形にしておいて、コンテツの終了時にみんなに分配できるような形がいいのではないかという話を今しています。これと現在のNEED/GREED/PASS方式を選択式にして選べるようにというのが現在の想定です。

――グローバル版だと、クリタワに行っても一発で得られる人と、何度行っても何も得られない人の運不運の差が出てきてしまいますが、ゴールドオークションだと少なくともギルは手に入りますから、平等でいいですね。

吉田氏: 少なくともアイテムを手に入れた人はアイテムが手には入って嬉しいし、参加した人も入札が高ければ高い程、分配量が増えるから積極的にレイドに参加しようと思うし、またそこで貯めていったお金が、次のレイドに行った時に自分が欲しいアイテムが出たら入札に使える。だからギルを稼ぐ事も頑張るという。

――MMO大国、韓国ならではの発想と言えるローカルルールですね。

吉田氏: そうですね。でも若干怖いのは、これによってゲーム内通貨の価値が上がることでしょうか。RMTとの戦いが激しくなる恐れがあることですね。

「FFXIV」史上最新のバージョンでローンチする韓国サービス。ただし、2.3にするか、2.4にするかでまだ揺れているという

――レターLIVEでの回答の中に、「韓国の正式版のバランスを僕自身が取っているので期待してお待ちください」という発言がありましたが、韓国サービスはグローバル版とゲームバランスが変わるのですか?

吉田氏: グローバル版は2.0からスタートし、韓国版はおそらく2.3か2.4からのスタートになります。スタート時のコンテンツの並べ方や、コンテンツ参加条件のアイテムレベル下限、アラガントームストーンの排出量、交換品の内容、同盟記章の交換品リスト内容などを調整する必要があります。韓国の場合だと今完全にゼロスタートなので、いきなりパッチ2.4を入れてしまうと、コンテンツが多すぎるということになってしまいます。

 韓国の方だけでなくどこの国の方もそうなのですが、プレーヤーのトップ層、コア層のコンテンツを駆け抜ける速度は尋常ではありません。時間をかければ、特にアラガントームストーンの週制限のかかっていない方に関しては全身一瞬でアイテムレベルを高くすることが可能です。グローバル版にたとえると、詩学は週制限があるので限界はありますが、強化戦記まではあっというまにいってしまうと思います。その一方で、カジュアルな方は1日でプレイできる時間も限られていますし、コンテンツの難易度の部分で躓く方もいると思います。コミュニティが形成されるまで、この差をある程度抑えないと、コアゲーマーとカジュアルゲーマーの断絶や乖離が激しくなってしまいます。

 昨日もメディアの方にお答えしましたが、MMORPGというマラソンの一時的ゴールまでの距離が、スタート地点からあまりにも遠いと、ウォーキングがてら参加している方は途中で歩くことすら止めてしまいます。これではコミュニティが形成できなくなってしまうので、パッチ2.4をベースに韓国版の正式サービスバージョンを作るとしても、例えばフロントラインは正式サービスの2週間後に開けるようにして、最初からは開いていないとか、大迷宮バハムート:侵攻編は閉じていて、邂逅編も超える力を外してあって、邂逅編をクリアしたプレーヤーが全プレーヤーの何%に到達したら侵攻編を開けるとか、そういったバランスをとらないと同じ遊べるコンテンツ帯に人が集中しなくなってしまうと考えています。

 後はアラガントームストーンも詩学まで入れてしまうと、恐ろしい勢いでアイテムレベルが上がってしまって、途中にせっかくあるコンテンツをショートカットする形になってしまうので、そこはきちんと気をつけて数字調整をしなくてはならない。ですので難易度について個々のバランスをイジるというよりも、全体のゲームデザインをちゃんとスタートする状態に合わせた物にする必要があるという考え方です。

――なるほど。バージョンとしてはパッチ2.4でスタートするかもしれないけど、コアの突出や、ビギナーの躓きを避けるために、一部コンテンツをマスクする方向性で今吉田さんが検討しているという話ですか。

吉田氏: そうですね、今パッチ2.3にするか2.4にするかという話を、今ちょうどActoz Softさんと詰めているところです。

――スタート時のバージョンがまだ揺れているのは、単純にローカライズの問題なのですか? それとも今お話があったコンテンツボリュームの話ですか?

吉田氏: そこについてはどちらかというと日本の開発都合です。僕らは今ものすごい数のライン数を管理しています。当然、来年の春から夏にかけて韓国でβを開始していく頃には、もうグローバル版は3.0に突入しており、現在、PC、PS3、PS4版、そして今開発内にはMac版もあり、グローバル版だけでも最低4ラインある状況です。かつ現在公開されているバージョンとその先を作っているバージョン……と数えていくと滅茶苦茶な数の「FFXIV」があります。これに加えて中国版もある。これに加えて韓国版がちょっと違う状態で入ってきたりすると、バージョンを管理するのが大変です。ですので管理することを考えると、できるだけグローバル版に近い方がありがたいのです。しかし、パッチ2.4だと詩学もあり、コンテンツの量が多すぎてどうしようかというところですね。

(中村聖司)