インタビュー
SCEKプレジデント川内史郎氏ロングインタビュー
PS4と共に成長を遂げる韓国コンソールゲーム市場。韓国オリジナルタイトルに期待
(2014/11/24 00:00)
G-STARレポートの締めくくりとして、SCEグループの韓国法人SCEKのプレジデント川内史郎氏のインタビューをお届けしたい。
既報のように、韓国のプレイステーション 4のローンチは、日本より2カ月早い2013年12月17日で、G-STARで約1年を迎える。昨年は韓国ローンチがどうなるか不透明だったことから出展を見合わせていたため、今年満を持しての出展となった。
そのSCEKの舵取りを行なっているのが、プレジデントの川内史郎氏である。川内氏は、SCE Asiaプレジデント安田哲彦氏の右腕として、アジアビジネスの立ち上げに尽力してきた人物。4年前よりSCEKプレジデントとして韓国全体のビジネスを統括している。今回は川内氏に韓国コンソールビジネスについて話を伺った。
韓国コンソールゲーム市場の現況について
――まずG-STAR出展の感想からお願いします。
川内氏: G-STARは久しぶりですが、やはり会場が大きいですよね。オンラインゲームのメーカーさんはより大規模に金をかけていて。SCEKブースは100コマで最大規模なのに、韓国大手さんは子会社さんを使って200コマくらい出されている。G-STARにかける意気込みをすごく感じました。オンラインゲームやモバイルゲームのユーザーさんが多い中で、プレステーションで遊んでくださっている方も多くいらっしゃって、久しぶりに出展できてよかったです。
――今回の出展の経緯は?
川内氏: 実は去年も考えてはいたのです。ただ、出展を決める最終のギリギリまではPS4の12月発売は決まっていなかったのです。逆にPS4のローンチ時期が見えない中でやるのはなかなか難しいなと思って辞めました。今年はPS4が出てからなので、ぜひ出したかったし、PCゲームやオンラインモバイルゲームは韓国ではものすごく勢いがあって6,000億円以上の市場がPCゲームだけであったりします。いわゆるオンラインゲーマーの皆さんにプレイステーションの方に向いてもらいたいということがありますし、PCオンラインのデベロッパーさんに、私たちのプラットフォームからゲーム配信してくださいということも伝えたいので、それと連動した動きで今回G-STARに来ました。
――事前に調べてみたのですが、4年前に出たときにも5年ぶりの出展で、G-STARの10年の歴史で実は3回しか出ていない。台湾などは毎年きちっと出ているのに対して、SCEKさんはたまにしか出ない。かなりレアキャラですよね(笑)。
川内氏: やはり話題がないとね(笑)。G-STARに参加するにあたっては、やはりある程度話題があるものでなければならないというのがありますから。基本はPCオンラインゲームのイベントなので。コンソールゲームのイベントなら小規模でも毎年出るのでしょうけど、G-STARはPCオンライン系とモバイル系がメインなので。
――今回、川内さんに、ぜひ聞いておきかったのが、PS4ローンチイベントでの男泣き会見です。あれはどういう経緯で、ああなったのですか?
川内氏: あれはいろいろあります(笑)。12月17日、寒い時です。PS4の発売イベントをする会場に最初の人が1週間前から並んでくれたのです。ソウルとしては暖かかったのですが、それでもマイナス10度くらい。1週間ずっとです。最初の人が1週間前。その人たちは夫婦でお見えになっていて、交代でと最初言われてたのですが、結局は旦那さんがずっと待ってました。ショッピングセンターの前なので、勝手にテントなんかを建ててはダメなので、そのままでヤバいことになると困るのでテントの設営の許可をもらって、そこにストーブを入れて暖かいものを差し入れしたりしました。
そのうちにほかの方もどんどん集まってきたのです。1番はもうないのですね。1週間前に並ばれてしまっているわけですから。でもその後またその翌日やその翌々日にどんどん人が来て並ばれるのです。当日を迎えた時には、一応500人限定だったのですが、それどころじゃない人が来てしまって、お断りするのが大変で。その発表会ではハードやソフトをそんなに持っていってなかったので。いちおう530台、30台~40台は余分に持っていっていたので、そこまでは受付させていただいたんです。
――数に限りがあるから並ばれても売れないわけですね。
川内氏: そうなんです。そういうのがあったのが1つと、あとは私はよくお店を回ったり地方にいったりして、色々なユーザーさんの話を聞いたりしているのですが、お店では私が来るのを待っていてくれて、例えば予定がずれてしまっても1時間2時間待ってくれて、そこで地方のユーザーさんといろんなリクエストとかお願いを話し合ったのです。
発表会ではそういう人たちの顔が浮かんできてしまって(笑)。一応、私用のスクリプトはあったんですが、でも途中から勝手にスクリプトに書かれていない内容の話をし始めちゃって、通訳やってくれている女の子も困ってしまって(笑)。日本語が堪能なので、いつもそれに対応してくれているのですが、どんどん違う話になって、その人たちみんなの待ってくれている人、目の前の500数十人が、入れないのにまた見てくれている人もいてと思うとグッときちゃって。という綺麗な話にしています(笑)。
――映像を見てびっくりしました。滂沱の涙でしたから(笑)。
川内氏: 私実はちょっと怖くてその映像を全部は見ていないのです。
――G-STARで流された映像は、ちょっと涙を浮かべているくらいのに留めていましたね。
川内氏: あれくらいしか私としては認識していないのですが、ボロボロになっていたのはちょっと恥ずかしいですね(笑)。東京で2014年の新年会をやったときに、アンドリュー・ハウス(SCEI代表取締役社長兼CEO)に「泣き虫!」と言われて、「あ、見られてしまった」と(笑)。それは社内なので話題になったのかなと思ったのです。みんながそれを見ているとは思ってなかったので。
――しかし今回のG-STARで実感しましたが、川内さんは、韓国のゲームファンに愛されていますね。
川内氏: それは単純に、ウチがあまりお金を出してタレントさんとかを使っていなくて、マーケティングチームが私を使うからです(笑)。
――今回の「DRIVECLUB」のイベントでは、川内さんのラップタイムを抜くという内容になっていましたものね(笑)。
川内氏: 実はそれまで「DRIVECLUB」はやっていなかったのです。それで1日だけ練習して、1日といっても3時間だけですが。それで自分の記録を作ってやっているのですが、あそこにあるのは私のベストタイムではないのです。あれよりも1秒くらい早い。あれは映像を撮っている時に出した物なので、自分でやった時には1秒くらい早いのです。で、昨日3,000人にやっていただいて、私のタイムを越えたのは1人しかいなかったのです。
――へー。それは、川内さんがよほど上手いのか、それとも韓国のユーザーさんが不得手なのか、そのどちらなんですか?
川内氏: それなりに私も上手いと思いますけど、滅茶苦茶上手いわけではありません。一応、車もコースも言ってあるので、当然みんなゲーマーなので練習してくれば抜けると思います。私はレースゲームをもうしばらくずっとやっていなかったし、やるときにもステアリングを使ってやらないので久しぶりにやったのですが、楽しくて。没頭してもうずっとやってたのです。好きなので続けて何回もやるので良いタイムが出たのでしょうね。
――「DRIVECLUB」以外にゲームのプロモーションに自ら出演したことはあるのですか?
川内氏: ああいう形のはないですけど、例えば今ソンミョン大学というところと組んでプレイステーションクラスというのを持っているのです。これは半年間、下期の15回でちゃんと単位が3単位出るのです。ここで例えばゲームの歴史だとか、開発にまつわる話だとか、音楽の話だとか、色々な話を取り混ぜて15回の講義を終えて、一応試験をしてそこから通ったら3単位をちゃんと出しますということで大学と結んだのです。そのときにも私を全面に使っていました。
――川内さんはSCEKに係わってからは何年ですか?
川内氏: こちらの責任者を東京と兼務してからは4年くらいです。その前から一応韓国の担当になっていたので、係わってからは10年くらい。4年前くらいからは兼務で、2年前くらいからはこちら専任で駐在しています。
――10年間ってSCEKは大きく変わりましたね。
川内氏: 話せないこともたくさんありますが、昔はRHQ(Regional Headquarters)だったので、大所帯でした。アメリカがあって、ヨーロッパがあって、日本、韓国でした。
――SCE Asiaが設立される前からSCEKは存在していましたよね。
川内氏: そうなのです。1つはRHQだったので、QAの部隊があったり、カスタマーサービスがあったり、いっぱいあったのです。セールスのチームもでハードウェアごとにセールスチームが10人くらいいたり、規模からするとありえない規模でした。
――売上規模から見ると、少しデカすぎる組織になっていたわけですね。
川内氏: デカすぎました。私が担当になってそこから粛々と変えて、SCE Asiaの中に入れて、サイズを適正にしました。大きく変わったのはそこですね。RHQだったのがSCE Asiaの一部門に入って、適正な規模になった。今はセールスカンパニーとしての規模は17、18人くらいしかいないのですが、SCEK全体で見ると85人くらいはいますね。
――まだそんなにいるのですか?
川内氏: それはなぜかというと、例えばQAのテスターさんとか、アジアで出るソフトはすべてこちらで最終のQAをやっているからです。ハングル版だけではなくて全部。アジアから出るところは全部です。
――アジアのQAを韓国でやる理由は何ですか?
川内氏: それはまずインフラがあったのですね。インフラがあったので、アジアと一緒になったときに一緒に使ってよと、中国語ができる人も2、3人常駐しています。QAといってもデバッグというよりは基本的には動作チェックなのですね。このチームが20人~30人くらいいるのかな。あとはカスタマーサービスのサポートセンターとかCIC、インフォメーションセンターもありますので、アジアのものは全部ここでやっています。
――台湾には大規模なローカライズセンターがありますが、QAは韓国、ローカライズは台湾という切り分けですか?
川内氏: いやハングル版はこちらでやっています。社内では一応翻訳関係に携わっている人が4人か5人います。ただ、韓国のローカライズチームはそこまで大きくないです。もともとアジアのローカライズは、最初はのSCEワールドワイドスタジオから始めて、そのときには1タイトルごとに社内のプロデューサーと話をして、「ローカライズしてよ」とお願いして回っていました。
それが現在の体制になってからは、基本的には全部最初からローカライズ前提で作ってくれているので、SCEのスタジオのタイトルって95%くらいはローカライズされているのです。中国語、韓国語の2カ国語になりますが。逆に、ローカライズがいらないものとか、翻訳しても仕方がないものについてはしない。
ローカライズは最初は日本でやっていたのですが、規模が大きくなってきたので、日本でやるよりは同じ日本で、私の時で日本に5、6人は連れてきたのですが、日本でやるよりは台湾の方が人件費もですが、コストが安く済むだろうということで、台湾の方のセットアップをして大きくなっていきました。
――韓国語ローカライズも増えているのに、4~5人ですべて回すのは大変ではないですか?
川内氏: 彼らが全部やるわけではないです。彼らも翻訳をやりますけれど、主にそれをマネージする役割で、タイトルに対して責任持って、外注に出しています。だから今はこの体制を大きくしようかどうしようか検討しているところです。社内でやるかどうかについては、まだ結論は出ていないですけれども、今後はタイトルも増えるし、その分ハングルローカライズも増えるしで、この体制を変えようかなとという話をちょうど先週も東京から担当者が来てやったりしていたところです。
――私はずっとアジアを見てきて思うのですが、ローカライズって単にやればいいというものではないですよね。数が出なければそもそも赤字になってしまうので、特に市場規模の小さいアジア市場ではしっかり数が出るタイトルを選ぶ必要がありましたよね。
川内氏: その通りです。
――しかし、現在は基本的にすべてローカライズするようになりました。これは何が変わったのでしょうか?
川内氏: やはり実績がついてきたということですね。まあニワトリが先か卵が先かみたいなものですね。「ローカライズしないと売れませんよ」、「どれだけ売れるのですか?」、「これだけです」、「それではできませんよ」みたいな堂々巡りが長く続きました。
とはいえ社内からまずは始めないとアジアのマーケットが伸びていかないから、とにかくやりましょうということでいちおう社内の大作から始めたのですが、少しずつ結果が付いてきたり、アジアでイベントとかをやると、みんなものすごく食いつきが良いのですよ。香港、台湾、韓国、シンガポールもそうですが。そういう意味で現場を見てくれたプロデューサーだとか、責任者の人たちからは、これはすごいねと言うことでどんどん積極的になってやってくれて、それを見て結果を見てサードパーティさんもアジアでもすごく売れているらしいけどローカライズしなきゃダメよねということで、結構それで乗っかってみようというサードパーティさんも増えています。
――SCEのみで95%のローカライズ率ということですが、サードパーティーを含めるとどれぐらいになりますか?
川内氏: サードパーティーさんを入れると5割弱というところですかね。
――今回「SLEEPING DOGS」の韓国語版を発表しましたが、このケースのようにまずは英語版もしくは日本語版で出しておいて、ヒットしたタイトルはローカライズするとという、こういう2段階方式は現在でも行なっているのですか?
川内氏: ありますよ。ローカライズは決まっているのだけれども、まずは日本語、英語で出してというのは今でもありますし、内製でやっているのは全部同発です。その流れも、だいぶこちらでもサードパーティさんの方もやっていただいています。
――その場合、現地のゲームファンの方は、日本語版とローカライズ版の2種類があって、その両方を買っているのですか? それとも最初からハングルを待つのですか?
川内氏: 今はほとんどの人はハングル版を待ちますね。よっぽどの人は両方買います。中には同じものを2枚3枚買う人もいます。色々な人に会いますけど、すごいですよ。同じ物を沢山買っていくのです。
――それは漫画とかでもありますが、プレイ用、観賞用、そして保存用みたいな世界ですか?
川内氏: どうなんでしょうね(笑)。遊んだものは売るのかもしれないですが、こちらは中古の市場もそれなりにあって、もうそれは止めていないのですよ。中古市場が形成されていてそれを生業としている方がいて、それをなくしてしまうとゲームショップ自体が成り立たない可能性もあるので。トレードインで、古い自分がやったタイトルを持ってきて、新しいタイトルをお金を足して買っていってもらえるので、それはそれでいいのかなと思います。
――その辺りの方針は、織田さんの前任者であるSCE Asiaプレジデントの安田哲彦さんとはだいぶ変わりましたよね。安田さんは一貫して中古市場は不倶戴天の敵として絶対に根絶やしにしなければならないという考え方でした。それが織田さんの時代では変わってきたのでしょうか?
川内氏: そうでしたね(笑)。ただ、安田さんがいたときから私はそうしていました。中古がないと、店が成り立っていかないので、これはもうやっていいよという話をしていました。だから今では香港や台湾でも中古はOKにしているはずです。
――釜山には元気のあるゲームショップがあまりないなと感じたのですが、韓国はゲームショップが少ないのでしょうか?
川内氏: 他の国に比べると少ないと思います。全国で160から170ぐらいしかないのです。
――韓国のメッカは龍山ですか?
川内氏: ではないですね。あそこは今はもうゴーストタウンのようになって、ゲームショップは国際電子センターに移っています。オープニングイベントをやったのも、そこのビルです。あそこが今ゲーマーさんが多いですね。
釜山では元気があるショップが少ないのではなくて、すごく元気はあるのですよ。今回もG-STARに合わせて視察に行ったんですが、行ったら私と何か話をしようと思って10人くらい待ってくれていて、ちょうど買いに来るお客さんもいて元気でしたよ。
――それは川内さん登場イベントみたいなものだったのですか?
川内氏: たぶん、お得意さん、常連さんには電話しているのでしょうね。やはり熱いですよ。店自体に活気がないわけではなくて、ソウルみたいな広い店舗でやっているわけではなくて、しかも地下街みたいなところで、台湾みたいなあんなデカイ地下街ではなくて、本当に通路の狭いところに。なので決して沸いていないわけではない。
ただ、やはりゲームのビジネスってすごく難しかったりします。韓国ではeコマースがものすごく発達していて、店にいかなくてネットで注文というのが、日本の比にならないくらい多いので、逆にオフラインの店舗の充実と同時に、それよりももっとオンライン店舗というもの需要を増やしています。我々の代理店さんもそうですし、小売店さんもそうですけれど、自分たちのところでいいサイトを作ってそこに常時お客さんがいて、何かプロモーションがあると見られる形になっているので、そこで買う人が多いですね。