インタビュー
3DS「逆転裁判5」特別ロングインタビュー
“成歩堂復活!”そして「逆転裁判4」あっての「逆転裁判5」
(2013/7/27 00:00)
“成歩堂復活!”そして「逆転裁判4」あっての「逆転裁判5」
――なるほど。そういう意味でも制作初期のスタート地点は大事だったのだろうなと思います。さて、いよいよ「5」を作ることになって、最初から「成歩堂を復活させる」というプランがあったのですか?
江城氏:コンセプト段階から“成歩堂くんをもう1度メインに登場させる”というのは決めていました。「逆転裁判4」を引き継いだ世界にするということも決めていました。「逆転裁判4」は新章開廷として新主人公がいて、いろんなキャラクターも出てきて、とありましたが、その世界観をしっかりと踏まえて作りましょう、と。
――「逆転裁判4」をなかった事にはしない?
江城氏:しない。でも、成歩堂くんの立ち位置が「逆転裁判4」では法律家ではないものになっていたので、そこをどうするか。ただ、彼自身は「逆転裁判4」のラストで「もう1度、弁護士資格を取ろうかな」とセリフを残していましたから……。そうした物語を経た先の、後の成歩堂くんがどういう風に出てくるのか? それを僕は見てみたいと思ったんです。そのためにも「逆転裁判4」の後の話にしました。
あと、登場人物には「王泥喜くんも出していこう」と話しました。主人公は成歩堂くんでメインストーリーを立てるにしても、「逆転裁判4」の新主人公だった王泥喜くんもキーパーソンとしてちゃんと出してもらいたいと。登場のさせ方は僕からは特にオーダーは出さなかったんですけどね。その結果、出来上がった姿はちょっとダークな王泥喜くんになってました(笑)。
次に、そうした物語を成立させるためにはどうすればいいのか。そこで新パートナーが必要になってきます。「今作には新システムも欲しい」という話もあったので、その役割としてもですね。そこで、新キャラクターであり新パートナーであり、新ヒロインとして「希月心音」(きづきここね)というキャラクターが生まれてきました。こんな感じで少しずつ「逆転裁判4」の後の世界の「逆転裁判5」が見えてきた感じですね。
――先ほどの“先駆者が作ったモノを引き継ぐ”という意味でも、「逆転裁判4」という存在をどうするのかは大きかったと思いますが、そこに対しては何も捨てずに、真っ向勝負することにしたんですね?
江城氏:そうですそうです。ゲームってナンバリングを重ねていくと当然、人それぞれに作品が生まれてくると思います。いろんな趣味や嗜好、意見がある。みんながみんな、全ての作品に対して高評価してくれるというのは難しい。「逆転裁判4」から作品をプレイしたという人もいて、王泥喜くんが好き、という人や「4」の世界観を気に入ってくれた人もいます。カプコン的にも、「4」をなかった事にするつもりはないんです。「4」があったからこその「5」も必ずできるはず。それを念頭に作っていこうとチームに話しましたね。
山崎氏:僕個人としても「4」に参加していたこともあって、「『4』の後の話を作っていかないとダメですよ!」って話をいろんな人としていましたね。
江城氏:山崎が「4」のチームに入っていましたからね。良いも悪いも、内部から見たからこそわかるものがあると思うんです。山崎は「逆転裁判4」はプランナーで、その後に「逆転検事」でディレクターもやってきて、「自分なら『5』をこういう風にしてみたい」という想いを持っていたと思います。そこを活かすべき場として「5」に挑めるのは、モチベーションになっているのかなという気がしますね。
――全て引き継いでやっていこうという時に、「過去シリーズのこの要素って新しいシナリオを考える上では邪魔なんだけど……」ということはありませんでした?
山崎氏:そうですね、そういうものを“やりづらいから捨てよう”とかではなくて、むしろ「それをちゃんと取り込んだシナリオを作ろう」そういう考え方でやっています。「逆転検事」の頃は、シナリオを考える時は“面白いシナリオを書こう”だけでやっていたのですが、今回は6年ぶりのナンバリング作品を出すという時に“どういう見え方になるのか”というプロモーション的な視点ですとか、今あった“このキャラクターは出ないとダメ”といった条件的なものとか。それらを、しっかりクリアしてシナリオを作ろうと考えていましたね。「要求を全部満たしてやるぜ! コノヤロー!」という感じでしたね(笑)。
江城氏:やっぱり、避けていくとかね、そういうマイナスの方法論で作っていくと、規模がシュリンクされてしまう(小さくなる)と思うんですよね。「これやったら本当はめっちゃおもろいのに……」っていうものを「この縛りがあるから諦めよう」みたいな考え方をすると、そのめっちゃおもろい事は永遠に実現できない。それをどう活かして実現するか考えるという発想の方が、結果的にプラスに働いていくんです。この考え方はチーム全員がやっていると思います。“引き算をしないモノ作り”でプラスにもっていけるか、ですね。
――厄介だから切り捨てちゃおうをやると、その楽なやり方がクセになってしまう、という事ですね?
江城氏:そうそう。楽な方へ楽な方へ行っちゃうんです。高い山があって「この絶壁を登るか?」という時に、「いやここを行くのは止めようよ」とはせずに。「いや、あえてここを行こう。死ぬかもしれないけど」みたいな風に考えるんです、僕らは(笑)。
山崎氏:本当にチーム全体がそんな感じです。それによってハードルがどんどん高くなって、自分の首を自分で絞めているんですけど(苦笑)。それはあえて真っ向から戦おうという考え方ですね。
――なるほど。ここまでお話を伺うと、「逆転裁判5」チームは漢気を感じさせるチームだなと思いますね(笑)。
一同:(笑)。
江城氏:「逆転検事」の頃からそんなノリですけど、僕の担当するタイトルが、そういう空気があるのかもしれないです(笑)。
山崎氏:いつもガチンコですね(笑)。
ココネのネーミング案は201個! 江城氏が“初見のユーザー目線”で全てをジャッジ
――方針も決まり、制作が本格的にスタートするわけですが、「逆転裁判5」の公式ブログでは“相変わらずの江城と山﨑との殴り合い”というキーワードがありました。開発は戦いですか?
江城氏:毎回そうですね(笑)。“プロデュース的な立場から入れたいもの”と、“現場的な都合でやりづらいもの”というのは絶対にあるんですよね。現場の感性と、プロデューサーというかユーザー目線で見ている感性とのズレであったりとか。そこのぶつかり合いですね。
今回の「逆転裁判5」では、僕はがっちり現場に入ることはしなかったんです。現場が作ってきたものを全くの初見の印象でジャッジする。理屈なしで判断するようにしたんです。パッと見て“違うな”と感じたら「違う」と言う。もちろんスタッフからは「何でダメなんですか?」と言われるんですけど、「感覚的にこれは刺さってこないから」と答えたり。「逆転裁判」シリーズが好きなユーザーさんの立ち位置に立って、それがどう映るのか? そういう感覚を重視した感じです。
例えば、キャラクターの名前だと意見が1番ぶつかったのは「ココネ」の名前ですね。チームはすごく「ココネにしましょう」と押していたんですが、僕はすごく反対したんです。いろいろ考え直してもらって、でも……結局後に僕が「やっぱりココネがいい」って言い出したりとか。その出来事は現場的には「ホンマいい加減にせえよ」ってなったと思うんですけど(苦笑)。そんなこともあったりで、「逆転検事」シリーズの作り方とは全く変えていますね。
――「逆転検事」シリーズでは現場にびっちり張り付いて、という感じでしたか?
江城氏:そうですね。僕も1からプロデュースをするというのが初めてだったので。僕も直前まではディレクターでしたから、デザインにしても何にしても、あれこれ言いたい。山崎も初ディレクターで張り切っていて、それでぶつかって。その頃と「逆転裁判5」ではだいぶ距離感が変わっていますね。
――江城さんはディレクターでは「鬼武者2」ですとか、プロデューサーとしては最近では「Dmc Devil May Cry」を手がけていらっしゃったんですよね?
江城氏:そうですね。現場の経験はあるので、どういうところで問題が出てくるのかとか、どこで制作がハマりに陥るのかとか、最初に何をすべきなのか、などはわかります。そういうことを踏まえて「逆転検事」を手がけて、「逆転検事2」ではちょっと現場から距離を取ってみたんですね。そして「逆転裁判5」ではもっと距離を取って、クリエイティブ面では口を出さないようにして……。最初にコンセプトと題目だけ渡して任せた、という感じです。
――なるほど。殴り合いという意味では、アウトボクサーになった感じですね(笑)。
江城氏:そうですね(笑)。今まではインファイトでバチバチ殴り合う感じだったのが、今はちょっと違う視点からポーンと殴ってくるみたいな。現場的には「ファイトスタイル変えてきたなこいつ」みたいな(笑)。そういう印象だったんじゃないかなと思いますね。
なので、ダメだしされても「意味がわからない」とか、「何がいけないんですか?」とよく言われるようになりましたね。その時は、「なんでダメだと思ったのか」はさすがにちゃんと話すんですよ。感覚であれ何であれ理由はあるので。「こういう風に感じるから、ここがアカンと思うねん」って。その根っこにあるのは、ユーザーさんと同じ初見の目線です。遊ぶ側の立場で楽しめるかどうかですね。
――江城さんが最初に「逆転裁判5」に触れる「逆転裁判」好きユーザーという目線で見たわけですね?
江城氏:そうですそうです。そういうイメージを大事にしていましたね。
――そして、そのダメ出しを食らう立場が山崎さんをはじめ現場の方々というわけで……(笑)
山崎氏:そうですねぇ~(笑)。さっき少し出た「ココネの名前の話」なんかはひどかったですね(苦笑)。
江城氏:ひどかった……あれは俺もひどかったと思うわ(苦笑)。
――ココネという名前を考えたけれど、江城さんに突き返されただけでなく、結局そのままでOKが出てしまうという……(笑)。
山崎氏:そうです。実は別の名前を200個ぐらい考えていて。そうして、ようやく別の名前に決まりかけたんです。でも、その翌日に江城が海外出張先から電話をかけてきて、「やっぱりココネがいい」って言いだしたんですよ。僕らもさすがに「はぁ!?」ってなりましたね(笑)。
――ココネは1番最初に考えた名前なんですか?
山崎氏:そうです、1番最初。それがダメだって言われて、そこから201個考えたあとで、やっぱり1個目がいいって言いだしたんですよ(苦笑)。
一同:(笑)。
江城氏:いやぁ~あれはね、「今から考えると良くないジャッジをしたな」と思うんですけど。自分の中の感覚にある「語感の響きの良さ」とか、「良いベタさ加減」というのを、ちょっと意識し過ぎたんですね。「ダメだ」って言った後によくよく考えると、キャラクターの名前が「逆転裁判」らしいかどうかという点で判断し直した時に「ココネ」は「やっぱりありだな」って思えたんです。それを気に入るかどうかはもう僕の趣味の領域になっちゃっているな、と反省して。やっぱり「ココネにしようか」って言ったんです。それが1番デカいひっくり返しでしたね。
【没になったココネの没ネーム案の例】
・名字案
「新藤」(しんどう)
……声の振動から、感情を読み取るから。
ちょっと普通すぎると言う理由から、希月になりました。
・名前案
「奏重」(かなえ)
……最後まで心音と、競り合った名前です。
相手の心の音を聞いて、そこに自分の心を重ねて奏で、
相手の感情をコントロールする。ココロスコープのイメージから。
・その他案
「希月爽香」(きづき そうか)
……“そうか!”と“気づく”と言うところから。
爽やかな香りというのも彼女のイメージに合っていると思って名付けました。
山崎氏:そんな時もありましたけど、一方で、今回のライバル検事である「夕神」のデザインを作っていた時には、僕らが考えていたものを見せて「これはダメだから変えてくれ」という話になったのですが、そこは良い判断をしてもらえたなと思うんです。
僕らが最初に考えた夕神のデザインは、「囚人の検事」ということでものすごく囚人っぽかったんですね。それこそ囚人服を着ていたんです。ストレートに。でも、パッと見で検事には全く見えないデザインになっていたんですね。
僕らとしては、今までいろんな検事がいた中で、「新しいデザインを打ち出さなければいけない」という気持ちと、「囚人だ」という意識が強くなりすぎていたんだと思うんです。でも、「ユーザーさんがパッと見た時に『ライバル検事はこいつかな?』とも思ってもらえないとダメだ」と。視野が狭くなっていたことを江城に気づかされて考え直し、囚人と検事が溶け込んでいる今のデザインに変わりました。
江城氏:「逆転検事2」の時にもあったんですよ。一柳弓彦のデザインを全面リテイクでやり直してもらって。現場の言っているデザインのコンセプトも聞いて、現場からは細部を変えつつ3回ぐらい出してきたんですけど。僕は「全然ちゃう。全面的に考え直してくれ」って話して。その次に出てきたデザインはもう1発OKになりましたけど。
そのあたりは、自分のゲーム好きな感覚と、「逆転裁判」というIPをずっと見てきている中で「ユーザーさんがどういうものを好むか」を自分なりに考えてきた感覚とで判断しています。デザイン作りの振り幅のコントロールは結構やりますね。
山崎氏:開発は理詰めで、要素の組み合わせで作ってしまうんですよね。理屈のある細部の組み合わせで、「このデザインは良いはず」っていう結論にしてしまいがちなんです。
――プレゼンテーション向けな理屈を説明できる感じに陥りがちといった感じですか?
山崎氏:そうです。そこに対して、パッと見た時の全体感に立ち直るというのは必要で。開発でもそれはもちろん意識してやっている事ではあるんですけど、たまにそれができなくなってしまう。それを江城に引いた目線で見てもらっているという感じですね。
――インスピレーションでの判断は難しいというか、ゲーム作りの勝負どころですよね。まず“カプコンっぽい”があって、“「逆転裁判」っぽい”があると思うんです。どちらも独特で、言葉で表現できないものですよね?
江城氏:何がどうかっていうのを細かく言っても、結局は違ってきちゃうんですよね。良いものを見た時というのは、先入観なしに触れた時に「面白い」って思えるんです。そこはもうゲーム制作に長く携わってきた自分の中に生まれてきたものでやるしかないというか……。良いか悪いかの判断がパッと見た時の初見でできないと、プロデュースっていう仕事はダメなんだと思います。そのゲームの何が面白いか、何がダメなのかを的確に思い描いて、キチッと現場に伝えていく。そこはもう経験の量が必須だと思うんですが、僕は長くやらせてもらってきたから。そこはラッキーですよね。
――ゲーム制作って言っても会社であり、人付き合いの中だから、丁寧に理屈でちゃんと話し合おうかという形にしがちですけど、インスピレーションを起点に話せるかどうかがモノ作りにはある程度必要ですよね。そこを重視するというのはカプコンっぽいのかなと思います。
江城氏:「アカンもんはアカン」っていう会話ですね(笑)。
――「その作り方をしないと『逆転裁判』にはならないのかもしれない」っていう気もしますね。理論的な必要性だけが面白さではないというか。これはなくてもいいんだけど面白いとか……。そういうのが「逆転裁判」にはいっぱいあるんだなと。
江城氏:そうなんですよ。それらはみんな感覚的なものなので。僕が現場スタッフに判断を伝える時には、「なんでそういう感覚に至ったのか」を説明しているという感じがありますね。特にキャラクターデザインだったり、新システムの判断についてはそういう側面が強いです。
システムで言えば、「ココロスコープ」が入ることによって、法廷バトルがどんな風に面白くなるのか? 探偵パートが3Dグラフィックスになったことで遊びの幅がどれぐらい広がるのか? アニメーションムービーを入れることで何がプラスに働くのか? そういう事を考えてデザインしてもらうようにしています。