スクエニ、「デウスエクス」開発者インタビュー&プレイデモ
3つのプレイスタイル「コンバット」、「ソーシャル」、「ステルス」で同じミッションに挑戦!


9月22日収録

スクウェア・エニックス本社


「TGS2010」のスクエニブースでは、ジャン・フランソワ・デュガ氏によるデモプレイのステージイベントが開催された

 株式会社スクウェア・エニックスは東京ゲームショウ終了直後の9月22日、本社会議室においてプレイステーション 3/Xbox 360用アクションシューティング「デウスエクス(英題:Deus Ex:Human Revolution)」の開発スタッフによるプレイデモを行なった。

 「デウスエクス」はスクウェア・エニックスの開発スタジオであるEidos Montrealの最新作。緻密に作りこまれたサイバーパンクな未来世界を舞台に、「オーグメンテーション」と呼ばれる特殊な身体強化を施した主人公アダム・ジェンセンが陰謀に立ち向かうアクションRPGだ。アクションと銘打っているが、やり方によってはほとんどの戦闘を回避して進めることができる自由度の高さが魅力だ。

 今年の東京ゲームショウのスクエニブースでは、同社の海外タイトルレーベル「エクストリームエッジ」のタイトル紹介に力が入っていた。ステージイベントには「デウスエクス」ディレクターのジャン フランソワ デュガ氏が、プレイデモを披露した。

 プレイデモを行なってくれたのは、プロデューサーのデイビッド・アンフォッシー氏、ゲームディレクターのジャン・フランソワ・デュガ氏、アートディレクターのジョナサン・ジャック・ベレテット氏の3名で、最新ビルドによるデモを見せながらゲームの特徴を解説してくれた。

 デモの後のインタビューでは、ゲームの重要なテーマでメインシステムでもある「オーグメンテーション」について、より具体的に聞くことができた。「デウスエクス」は欧米では2011年の春に発売される予定だ。日本での発売はまだ未定だが、期待して待ちたい。


緻密に作り込まれたサイバーパンクな世界観で描かれた近未来




■ 3種類のデモプレイで“マルチパス”なゲーム構造を体験

【ストーリー】

 2027年、偉大なる革新の年。そして、混沌と陰謀の幕が開けた年。

 遺伝子工学、ロボット工学、情報技術(IT)、そしてバイオテクノロジーの進歩は、その恩恵を受け取ることができる者に限り、健康な人体の一部をはるかに優れた『機械』と入れ替えることを可能にした。

 しかし、経済的な理由などから技術の進歩を享受できない者、倫理的に人体の拡張を受け入れられない者は取り残され、結果として、極度の緊張をともなう社会的な2極化も生まれていた。そんな世情を背景に政府より企業が権力を握り、権力と支配を巡る争いが始まろうとしていた。

 元警官であり現在はセキュリティエージェントとして、デトロイトを拠点とするバイオテクノロジー企業「サリフ・インダストリー」に務める主人公「アダム・ジェンセン」

 西暦2027年、混沌と陰謀が渦巻く抑圧された世界で、アダムは自らが所属する企業の極秘ミッションの最中、何者かの襲撃を受け瀕死の重傷を負う。しかし「オーグメンテーション」と呼ばれる人体拡張技術を施され一命をとりとめる。

 図らずも一命をとりとめたアダムは「サリフ・インダストリー」襲撃の理由と、その黒幕突き止めるため、この世界で孤独な戦いを始める。



 「デウスエクス」は近未来の都市を舞台にしたサスペンスストーリー。体を機械的に進化させた「オーグメンテーション」という能力を使って、与えられたミッションを遂行していく。ミッションをクリアする方法は戦って敵を倒すというだけではない。「デウスエクス」には複数の問題解決手段を用意する“マルチパス”というコンセプトがある。

 プレーヤーはミッションをクリアするために「コンバット」、「ソーシャル」、「ステルス」というまったく異なる方法から好きなやり方を選択することができる。「コンバット」は戦闘で相手を倒すことで道を切り開く。「ステルス」は光学迷彩やハッキングを使って、気取られないよう目的を達成する方法で、「ソーシャル」は他の2つよりは使える場所は限定されるが、NPCと話をすることでまったく戦闘することなく先へ進むやり方だ。

 これらは組み合わせて使うこともできるし、例えば「ソーシャル」で侵入した後、こっそりとハッキングをして情報を入手したり、「ステルス」で侵入したが、敵に見つかってしまい戦わざるを得なくなったりと、状況によって使い分けを迫られることもある。つまりこの3つはあくまでもそういう手段を選べるという可能性であり、行動の選択肢はプレーヤーに完全に委ねられている。

 今回のデモでは、この3つの要素を使って同じミッションを違った方法でクリアするところを見せてもらった。ミッションは、スタートから約1時間半ほどプレイした辺りの内容で、目標はデトロイト警察の内部に侵入して、遺体置き場にあるテロリストの遺体を調査することだ。アダムは上司に命じられ、遺体を確認すべく警察署に乗り込んでいく。以下の章からは、3つの方法を使ったプレイスタイルの違いを紹介していこう。




●「コンバット」……カバーアクションを駆使して敵を撃って撃って撃ちまくる

複数の銃を使い分けて攻撃する

 最初は最もスタンダードな「コンバット」のプレイスタイルでミッションクリアを目指す。デトロイト警察の入り口には警護の警官がいてドアはロックされている。「コンバット」での侵入方法は簡単明瞭な強行突破だ。入り口に近づくと「ここは立ち入り禁止だ」と静止されるが、そんなことは気にせず鍵のかかったドアは手榴弾で爆破して、邪魔する奴らをなぎ倒しながら進んでいく。

 ちなみに今回はデモプレイ用に、弾薬とエネルギーは無限大、キャラクターは無敵という超人状態なので1度も倒されることなくガンガン進んで行くことができたが、製品版ではこれほど簡単にはいかないようだ。

 戦闘は銃撃中はFPS(1人称)視点で、格闘アクションではTPS(3人称)視点になる。壁や机に隠れながら撃つカバーアクションは固定物だけではなく、例えばコピー機の背後に隠れて移動しつつ戦うことも可能。回避行動やジャンプで移動することもできる。

 見えない場所にいる敵を探すにはX線の「オーグメンテーション」が効果を発揮する。使用すると周囲が半透明になり、自分がいるフロアだけでなく、上下の階にいるNPCの姿も輝いた輪郭像のような姿で浮かび上がる。

 現状では武器はホイール状のメニューに複数セットされていて、その中から選んで使う。デモプレイで使ったのは、アップグレードして弾丸が爆弾のように爆発するリボルバーと、相手をスタンさせることのできる銃。この特殊な銃は本来このミッションの最中に入手するものだが、デモ用に最初から持っている。

 死体置き場は地下にある。こちらのドアもロックされているが、ドアに張り付けることのできる爆弾をセットして手榴弾で爆破させ突破した。中に入るとイベントシーンが始まり、ひとまず目的は達成したことになる。


銃撃戦の時には基本的にFPS視点で操作する
銃の中には敵をスタンさせるものもある遠距離からのスナイプはシューティングゲームの醍醐味




●「ソーシャル」…NPCと会話して問題を解決。立ち話から意外な情報も

 次は「ソーシャル」で戦闘を回避して進む方法で同じ場所を目指す。ゲーム内の全てのNPCは話しかけることができ、様々な情報を得ることができる。またNPC同士の会話に耳を傾けることでも、情報が得られる。「ソーシャル」はその中でもポイントとなるNPCとの会話で、状況を打破していく方法。可能なのは今回の警察のように、敵対関係にない場合などだ。

 今回は入り口にいる警官がターゲットとなる。ウェインというこの警官に話しかけると会話が始まり、アダムがSWAT時代の同僚で、アダムに対してあまり好意を抱いていないことがわかる。ウェインはSWAT時代に起こったある事件のことで、今でもアダムを恨んでいる。セリフはすべてフルボイスで、カットシーン風の演出で映画を見るのではなく、まさに映画の登場人物としてその場にいるような感覚が味わえる。

 会話は何度か出てくる3択の中から1つを選んで進めていく。無事説得に成功すると、ウェインはセキュリティーを解除してくれる。その後は、普通に署内をうろつくことができるようになる。立ち話をしている警官から強い武器の情報を仕入れることもできるし、こっそりパソコンをハッキングしてメールをのぞき見することもできる。ただしハッキングなどの禁止行為を見つかると、せっかくの説得が水の泡になってしまう。


警察署の受付にいるウェインを説得して、中にいれてもらう




●「ステルス」…科学の力と知恵を駆使して、誰にも気付かれずに隠密行動

「光学迷彩」や「サイレンス」を使って、NPCや警報装置を避けつつ進んでいく

 最後は「ステルス」による侵入だ。前2つは正面玄関から入ったが、今回は建物の横にある非常階段のドアからこっそり忍び込む。この非常階段にたどり着くためにはジャンプ力と筋力を増幅するオーグメンテーションが必要になる。ほかにもマンホールから入って下水道を伝っていく方法や、はしごを使って屋上から侵入する方法があり、オーグメンテーションがなくても進められるようになっている。

 非常ドアにはロックがかかっているので、「ハッキング」のオーグメンテーションを使って解除する。ハッキングはミニゲームになっていて、自分がいる場所から、いくつかのノードという通過地点を経て目的のシステムにたどり着く。ノードを通過する時に、サブルーチンがハッキングを監視するので、それを上手くかいくぐって目的地にたどり着く。システムにはハッキングに必要なレベルがあるので、レベルが足りない時にはオーグメントをアップグレードする必要がある。

 侵入後は光学迷彩で姿を隠しつつ、X線でNPCの位置を確認しながら見つからないように進んでいく。今回はエネルギーが無限大だったが、製品版では光学迷彩は一定時間しか使えない。

 通気口を伝って人目を避けたあと、セキュリティゲートを警備している警官を音の出る武器を使わずにノックダウンさせる。警官の体にはセキュリティーを解除するデバイスが埋め込まれているので、気絶した警官を引きずって一緒にこのゲートを通過すれば警備システムをごまかすことができる。警官からは、死体置き場のセキュリティコードが入ったPDAも入手できる。死体を確認した後は電子機器を無力化する特殊な手榴弾を使って、非常口のセキュリティーシステムを無力化して、下水道から脱出する。

 今回紹介した3つの方法は、どの方法でもこのミッションの最終的な結果は変わらない。チップを手に入れて、警察署を出た後発生するイベントシーンも共通だ。

 このように、様々な手法で同じ結果にたどり着く“マルチパス”は、このゲームの主要なコンセプトであり、それを実現するために街には隠し通路のようなギミックも潜んでいる。街中を探索して、自分なりの方法を見つけ出すのが本作の楽しみ方と言えるだろう。


コンピュータのハッキングはミニゲームになっている
コンピュータに侵入するにはハッキングのオーグメンテーションが必要ハッキングして警報装置を切ったりと、ステルスには欠かせない能力だ




■ 開発者インタビューでオーグメンテーションを更に詳しく紹介!

プロデューサーのデイビッド アンフォッシー氏(右)、ゲームディレクターのジャン フランソワ デュガ氏(左)、アートディレクターのジョナサン ジャック-ベレテット氏(中央)
戦闘はFPS視点が多いが、TPS視点のシーンも多く、どことなく日本のアクションゲームにも近い雰囲気を持っている

 デモプレイの後のショートインタビューでは、「オーグメンテーション」のシステムについて、具体的な話を聞いた。「オーグメンテーション」はストーリーにも深く関わりを持つ要素で、本作の根幹をなすキャラクター強化システムだ。

 「オーグメンテーション」には、覚えるだけで効果が発動する受動的なものと、ボタンを押して発動させる能動的なものがある。覚えるだけで効果が発動するものが多く用意されており、攻撃手段を増やすものというよりは、キャラクター育成のカスタマイズ要素といったものだ。例えば「ジャンプ」の「オーグメンテーション」を覚えていれば、より高く飛び上がれるようになるという感じだ。

 パッシブオーグメンテーションの中には、「ソーシャル」用のものもある。この辺りはまだ開発中で、現状ある構想として「話している相手の心情を見抜く『フェロモン分析』というものを考えています」(デュガ氏)。このオーグメンテーションを獲得していれば、複数の選択肢を選んで進んでいく「ソーシャル」の会話が今どの方向に向かっているのかのヒントを、画面上にグラフィックで表示してくれるようなものになるらしい。

 オーグメントはアップグレードすることで性能を強化していける。アップグレードは特定の場所で行なうことができる。そこへ行けば新しいオーグメントを手に入れることができます」(ディガ氏)。強化するためのポイントを得るには、ある程度の経験値とお金が必要だ。

 日本ではまだ発売日が発表されていないが、欧米では2011年に発売される。今回見せてもらったのは8月時点のバージョンなので、現在はさらに開発が進んでいると思われる。「安定したゲームができるようになったら、体験版も考えています」(ディガ氏)ということなので、日本のファンも実際に遊べるのはそう遠くない時期かもしれない。




世界観を創造するために、大量のイメージボードやデザイン画が作られた

 今回は、アートディレクターのジョナサン・ジャック・ベレテット氏も来日していたので、「デウスエクス」のアートワークについても聞いてみた。デモプレイの際、アートワークをまとめたプレゼンテーション資料を見せてもらった。街の設計だけではなく、家具や小物、衣装に到るまですべてイメージボードで細かい設定が作られている。

 本作には「サイバールネサンス」というテーマがあり、アートワークもそのテーマに添うよう考えられている。「例えば着ている服をデザインする時に、どのレベルまでコンセプトを表現すればいいのかという部分がかなり難しかったのです。これが一番ベストなんだと自分でわかるまで長い時間がかかりました」(ジョナサン・ジャック・ベレテット氏)。

 さらに、「このゲームでは、北米によくあるような通常のゲームとは一線を画するようなものを持ったアートを作り上げた」という。確かに、主人公アダムは、洋ゲー的なイメージのムキムキマッチョではない。ストーリー紹介の部分に掲載したイラストを見てもらえれば、むしろ「攻殻機動隊」のような日本のSFアニメを彷彿とさせる。

 「今北米では非常にフォトリアルな、現実そのものを作り上げようとするような方向に進んでいる部分があるのですが、我々としては独自のフレーバーを持ったアートを作りあげたかったのです。このゲームでは我々のスタイルを感じさせるような、いわばイラスト的な部分を作りあげようと努力してきました。「デウスエクス」ならではのスタイルを作り上げて、自分たちが何を作りたいのかを理解できるまでに2年はかかりました」(ジョナサン・ジャック・ベレテット氏)。

 大変な苦労だったが、これだけ大きな仕事を任されたのは初めての体験で、もう1度ゼロから作れと言われたらぜひやってみたいという。ゲームをプレイする際には、アートチーム渾身のアートワークもじっくりと楽しんで欲しい。

 最後に、今回取材に答えてくれた3名のスタッフからファンに向けてメッセージをもらった。洋ゲーにステレオタイプを持っている人もいるだろうが、本作はそんな人に意外な驚きと楽しさを提供してくれるはずだ。この記事のイラストやスクリーンショットを見て興味を持ったなら、続報を楽しみに待って欲しい。

【スタッフからのメッセージ】

アンフォッシー氏: 開発が終わるころには開始から4年が経つことになります。自分にとっては、愛してはぐくんできた子供のようなものです。我々がお見せしたいと思っているゲームプレイや世界観は非常にユニークなものだと思います。日本での発表を楽しみに待っていてください。

デュガ氏: 力強いストーリーやキャラクターが好きなゲーマーの方であれば、必ずこのゲームを楽しんでいただけると思います。非常に奥深い世界観を持ったゲームだと思います。我々としても、日本のゲーマーにこのゲームをどのように遊んでいただけるか、どのような感想を持っていただけるかをとても知りたいと思っています。ぜひ遊んでみてください。

ジャック-ベレテット氏: 私自身、日本のゲームの大ファンです。このゲームは日本的な部分と北米的な部分をドッキングして作られた北米のゲームだと思います。ぜひこのゲームをトライしてみてください。


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(2010年 10月 21日)

[Reported by 石井聡]