ブラウザMMORPG「みんなの冒険大陸 カナン」運営元インタビュー
9月16日アップデートで「ペット融合システム」導入
台湾Xpecが開発し、NHN Japanが8月21日に正式サービスを開始した「みんなの冒険大陸 カナン(以下、『カナン』)」は、ブラウザベースのMMORPGだ。可愛らしい絵柄とシンプルな操作、都合の良い時間を縫って少しずつプレイを進められる仕様ゆえに、ライトユーザーを中心として人気を集めつつある。
「カナン」は、基本的にゲームにログインしてリアルタイムにマイキャラクター操作する普通のMMORPGとなっている。ブラウザゲームが持つ短時間にちょっとだけ遊ぶというプレイスタイルからは少々外れるものの、ゲーム内の“遊び”そのものはコンパクトにまとめられているため、素材集めやレベリングをプレーヤーの操作なしに進められる点を含めて、隙間時間を活用できる、忙しい人にもプレイしやすい作品なのは確かだ。
今回はそんな「カナン」の現状と、9月16日に予定されている大規模アップデートの概要について、運営元であるNHN Japanにインタビューを行なった。ブラウザゲームで遊べるMMORPGという特異な存在だけに、どのようなプレーヤーが集まっているのだろうか。すでにカナンをプレーしている人、あるいは興味を持っている人は、直近のアップデート情報も含めてぜひご注目いただきたい。
■ カジュアルゲームと本格MMORPGの間に位置するブラウザMMORPG
「ハンゲーム」のラインナップのなかで、カナンを「かんたんゲーム」と「じっくりゲーム」を結ぶ存在と説明する中村氏 |
「カナン」のユーザープロファイルについて説明する鴨志田氏 |
「カナン」のイメージイラスト |
編集部: 本日はよろしくお願いします。「ハンゲーム」というゲームポータルは、オンラインのテーブルゲームやカジュアルゲームからFPSやMMORPGまで、幅広いサービスを提供しています。そのなかでブラウザゲームである「みんなの冒険大陸 カナン」の位置づけはどのようなものですか?
ゲームエンタープライズ事業本部 オンラインエンターテイメント事業部 プロデュース3チーム プロデューサー 中村大祐氏: 「ハンゲーム」の提供タイトルを大きく見ると、トランプなどカジュアル系の「かんたんゲーム」と、MMORPG、FPSなどを中心とした本格タイトルである「じっくりゲーム」という2つの柱があります。そのなかで「カナン」は、新規のお客様も相当数いらっしゃいますが、比率として「かんたんゲーム」のお客様に楽しんでいただけています。
従来「かんたんゲーム」と「じっくりゲーム」のお客様を大きく見ると、重なっている部分がありつつも、分かれている傾向にありました。その意味で「カナン」は、「かんたんゲーム」のお客様に「じっくりゲーム」も楽しんでもらうための橋渡しとして導入され、実際にその役割を果たしていることになります。
編: たとえば「チョコットランド」と、似た位置づけになるのでしょうか?
中村氏: 「チョコットランド」はインストール型であり、少人数で楽しむMOタイプのオンラインゲームです。その意味で「カナン」とはゲーム性が異なるものの、「チョコットランド」のお客様のなかで「カナン」を始める方もいらっしゃいます。
そのほかには、意外なところで「麻雀」などのテーブルゲームを楽しんでいらっしゃるお客様もいらっしゃいますね。「かんたんゲーム」から「カナン」、さらにその先の本格MMORPGへと、興味の対象を広げていっていただければ理想的だと考えています。また、ふだん「じっくりゲーム」を中心にプレイされているお客様が、これを機に「かんたんゲーム」をプレイするという逆の流れも想定しています。つまり、「チョコットランド」などに代表される「かんたんゲーム」と本格的なMMORPGとの間に入るのが「カナン」なのです。
サービス運営室 サービスリレーションズチーム サービスディレクター 鴨志田賢一氏: 中村も私も「じっくりゲーム」の担当で、つまり社内的に「カナン」は「じっくりゲーム」のひとつという位置付けです。そして、「じっくりゲーム」で必然的に出てくるクライアントプログラムのダウンロードとインストールという過程は、広いお客様を想定したとき、やはりわかりづらいものなのです。
低年齢層のお客様だと、ソフトのインストールに必要なWindowsのAdministrator権限がよくわからないなどです。そこでつまづいて、ゲームプレイを諦めてしまうお客様もいらっしゃいます。インストール作業なしで済ませられるブラウザゲームについては、「カナン」のお話がまとまるかなり以前から、俎上にのぼっていた課題でした。昨年から今年にかけて、さまざまな会社さんからブラウザゲームが市場投入されているのもひとつには、やはり同じような課題を認識していた結果だと思います。
編: 「カナン」は台湾製のブラウザゲームですが、現在のところ日本以外でのサービス状況はどうなっていますか?
中村氏: 台湾でのサービスは8月末に始まったばかりで、先に中国大陸で2008年12月からサービスが開始され、回線事情にプレイが制約されないことなどから好評を博しているそうです。開発元であるXpecさんでは、5年ほど前にブラウザゲームの制作に取り組み始めたと聞いています。また、韓国NHNと共同で進めた話ではありません。日本でのサービス状況を伝えたところ、「韓国でも検討したい」という答えでした。
編: 5年前の2004年は、ヨーロッパでブラウザゲームがブレイクした、まさにその瞬間ということになりますね。
中村氏: そうですね。なんでも「いずれ市場の流れはブラウザゲームに来る」という、Xpec会長の一声で始まったそうです。
編: なるほど、ヨーロッパ産ゲームがブレイクして、それがアジアでもヒットし、アジア製ゲームが多数登場したのが2008年というタイミングになりますが、Xpecさんの取り組みはそれよりずっと早く始まっていたわけですね。ところで、日本でのプレーヤー数の伸びはいかがですか? 同時接続者数が、2サーバーで1,800人ずつくらいというのはログイン時に確認できますが。
中村氏: ピーク時間帯、つまり21時を回った頃の平均的な同時接続者数はそのくらいですね。夏休み期間中でイベント開催中などを見た場合、瞬間最大で言うともう少し多くなります。
編: プレーヤーの男女比率と年齢分布を教えてください。
鴨志田氏: 全プレーヤーの平均プレイ時間は3時間ほどです。年齢でいうと10代後半から30代前半の層が厚く、15歳~19歳、20歳~24歳がそれぞれ15%ずつくらい、25歳~29歳ではもう少し増えて、ここが最もプレーヤーの多い年齢層です。男女比については、ほぼきれいに半々ですね。
次に女性に絞ってプレーヤーの特徴を見てみると、登録情報として「主婦」と書いている人が、「高校生」男女の合計を若干上回っています。お客様からの声を個別に見ていても「結婚したタイミングでオンラインゲームをやめたけれど、気軽にプレイできそうだから戻ってきた」、または「手持ちのPCのスペックでもプレイできそうだから」という方が多いようです。
編: 低年齢層にきちんと評価されているあたりは、注目すべきですね。女性の比率については、狙い通りという感じでしょうか? 絵柄の可愛らしさや、プレイしやすさが評価されているであろう点を含めて。
中村氏: そうですね。たくさんの女性に楽しんでいただきたいというのは、サービス計画の当初から念頭にありまして、例えば「3分で始まる大冒険! あっというまRPG」というキャッチフレーズにしても、社内外の多くの女性の意見を聞いて決めています。
公式サイトなどで使われている、職業ごとのキャラクターイメージイラスト。ファイター、クレリック、メイジ、レンジャーという4種類の職業が選べ、いずれに関してもゲーム内のグラフィックスは、やわらかく、可愛らしいタッチにまとめられている |
■ ブラウザゲームらしい時間利用の知恵。表示解像度の狭さは「解決の難しい課題」
「訓練」によるレベリングが、ブラウザゲームらしい時間利用方法として活用されていると語る、中村氏 |
強い敵を中心に、カナンのプレイバランスは、あくまで手動戦闘を基準にしているという |
編: プレーヤーの年齢層分布に関しては、比較的ライト系MMORPGらしいデータが出ていますが、ブラウザゲーム特有の部分が少ないように思えます。これは、全体として「コマンドを済ませたらログアウトして待つ」というサイクルで進めるゲームでないためでしょうか?
中村氏: ええ。ただし「システム」のボタンから実行でき、ゲーム内通貨を払うことで操作なしにキャラクターのレベル上げを行なえる「オンライン訓練」と、有料サービスである「オフライン訓練」も用意されていますから、自動でプレイを進める要素も兼ね備えています。ペットを成長させる目的で利用する方が多いですね。
編: 実際にプレイする限り、クエストを追っていくことで主人公は必要十分に育つので、決して、訓練が必須というバランスではないように見えます。ブラウザゲームらしい“放置”の要素を、主としてプレイの幅を広げる方向に生かしている感じでしょうか?
中村氏: キャラクターのレベルで入れるマップが変わってきますので、どんどん先に進みたいという場合にも、レベルアップには意味があります。いずれにしても、操作できない時間帯を有効利用できることで、まとまった時間を確保しづらい人にもプレイしやすいよう工夫されていることが「カナン」の強みのひとつと認識しています。
編: ゲーム内で誰かが所定のレベルに達したり、ボスモンスターを倒したり、レアアイテムを手に入れたりするとメッセージが流れます。ほかの人の状況がわかって面白いのですが、あれはアクセス時間帯が分散しがちなブラウザゲームで、意図的にライブ感を演出するのが狙いでしょうか?
中村氏: 賛否両論ある仕様なので今後調整していかねばなりませんが、基本的な狙いはそのとおりです。フレンドリストやギルドによる、既存のコミュニティ形成手段とはまた別のところで、一緒にプレイしている感覚を持っていただけたら……という仕組みですね。
編: ドロップアイテムがものすごく多いのも「カナン」の特徴ですよね。足りないよりは良いと思うのですが、インベントリの容量と比べたとき、ちょっとアンバランスな感じもします。
中村氏: プレイの成果をいちばん分かりやすい形で演出するのが、ドロップアイテムを多くしていることの狙いです。既存のMMORPGと比べると確かに過剰気味なのですが、初めてオンラインゲームをプレイする方に、アイテムを獲得していく基本的な楽しさの部分を経験してもらいたい、と考えています。
編: 自動戦闘も、「カナン」の特徴的なシステムのひとつだと思います。自動戦闘と手動戦闘、それぞれの位置付けはどんな風に捉えるべきなのでしょうか。
中村氏: 自動戦闘がプレイのハードルを下げてくれているのは事実ですが、実はそれほど「使える」仕組みになっているわけではありません。当然ながら手動のほうが最適な攻撃方法を工夫できますし、手動でないと倒せない敵もいる……くらいが、現在想定しているプレイバランスです。キャラクターのレベルが上がっていくにつれて、スキルひとつひとつのクールダウンタイムに差が出てきますので、それを生かすためには段階的に手動戦闘に慣れていっていただく必要がありますね。
編: 有料アイテムの売れ筋と、顧客単価の傾向について教えてください。現状の有料アイテムは、一方でアバターアイテムがあり、他方でVIPアカウントによる付加サービスありと、MMORPGらしい要素とブラウザゲームらしい要素が並存している印象です。
中村氏: よく売れているのがVIP会員証であるせいか、どちらかといえば薄く広い顧客単価の分布になっていますね。数%のプレーヤーが飛び抜けて多くのアイテムを買っているという状況ではありません。有料アイテムの単価は低めに抑えているつもりですので、それがある程度想定どおりに働いているのかな、と感じています。
実はもともとの仕様だと、クリアするのに有料アイテムの購入が必須のクエストがいくつか含まれていたのですが、これは日本でのサービスに当たってなしにしています。より快適かそうでないかはあっても、機会は全プレーヤーに開かれているべき、というのが、有料アイテムをめぐる基本的な考え方です。
編: 基本仕様として気になっているのが表示解像度です。せっかく横長の画面サイズを採用しているのに、縦方向が600ドットに収まらないので、昨今のネットブックでははみ出してしまいます。また今後、普通の携帯電話やインテリジェントフォン、PDAなどといった、より狭い画面に対応する計画はありますか?
中村氏: そうですね……。対応解像度については、開発元であるXpecさんとも協議を重ねたのですが、残念ながら現状では改修が難しいようです。モバイル展開については、もちろんできれば理想的なのですが、現在のところ日程に上がっていません。
■ 9月16日のアップデートで新マップとペットの融合システムが追加
9月16日のアップデートでは、職業ごとに1種類ずつ上位装備が追加される |
編: 続いて、9月に予定されているアップデートの内容について教えてください。
鴨志田氏: 9月のアップデートは9月16日、大型連休前に実施されます。レベルキャップが60から80に引き上げられるのに伴って、各職業の装備品が1段階ずつ追加されます。新しいマップが1点追加されるとともに、既存のマップにチャレンジダンジョンが2カ所追加されます。それに伴って、新しいモンスターも追加します。また、現状ペットのバリエーションに関する要望が多いこともあって、このタイミングでペットの「融合」システムを導入します。
中村氏: 新しいチャレンジダンジョンには、レベル74といった高位のモンスターが登場しますので、そのぶん取得できるアイテムもおいしい、ということになります。また、ペットの融合に関してはランク5以上を1匹メインに据えて、別途ランク4以上のペットを3匹用意する必要があります。
編:融合させる4匹には、同種のペットが含まれても大丈夫なのでしょうか? また、各種ステータスや属性はどんな風に決まりますか?
中村氏: 同種のペットでも大丈夫です。また、ステータスの上がり幅については、別途計算式をアナウンスする予定で、所持スキルと属性は変化しません。メインに据えた1匹のものが引き継がれます。例えば現状で、メイジならば防御力に優れたペット、それ以外なら回復能力を持ったペットが重視されていますが、そうした特徴を基準にメインに据えるペットを決めて、能力をより特化させていく感じになると思います。
編: 「カナン」のシステムだと、フィールドにいるモンスターをかなり自在にペットにできますから、プレイスタイルの幅は広がりそうですね。ただ「カナン」ではそもそも、どのペットも成長させればそれなりに強くなりますが、新しいペットを手に入れ、育てていくことの実質的なメリットは、どのあたりにあるのでしょうか?
中村氏: そうですね。どのモンスターを捕まえて融合させるかという選択肢がすごく広いですから、一種のやり込み要素になると思います。新しいペットを育てていくメリットは、能力値の上限が高いペットを連れて冒険できることです。ペットの能力値はランクで上限が決まっていますから、やはりもともと強いモンスターを捕らえて育てていったほうが、融合の成果も含めて最終的に頼りになるのです。
9月16日のアップデートで導入される新マップ「カラール半島」と、半島内の関所、鉱山、森といった各地形 |
新マップのダンジョン、「亡霊の谷」 |
9月16日アップデートの目玉ともいうべき、ペット融合システム |
編: 今後の計画について教えてください。
中村氏: まず、毎月のアップデートでマップ、クエスト、モンスターを追加していきます。それ以外、つまりプレイの要素を追加したり性格を変えたりするアップデート要素として予定されているのは、ギルド戦の導入と、個人単位で闘えるPvPエリアの導入です。また、コミュニティ要素としての「結婚」システムも予定されています。
編: 現状でも「挑戦」という一種のPvPシステムが用意されていますが、あれとは別に今後PvP要素を充実させていくわけですか。
中村氏: はい。「挑戦」は勝敗によってメリットもデメリットも生じない仕組みですが、そうではない、また競技性のあるPvP要素を導入していきます。
編: 開発元が台湾であることを考えると、ギルド戦に関する認識には大きな差がありそうですね。台湾でサービスされているライト系MMORPGでは概して、ギルド戦が人気コンテンツになっていますが、日本では必ずしもそうなっていません。さらに中国大陸で先行サービスとなると、ギルド戦やPvPの勝者が割と大きなメリットを手にすることに、抵抗感がないところから出発する可能性が高いように思われます。ここはいわば、日本パブリッシャとしての判断が重要そうな局面ですね。
中村氏: お客様の意見を見ても、日本では年齢層によってかなり意見が分かれる印象があります。そして全体として見ると、必ずしも引き合いが多いわけではありません。具体的な方向性のお話はまだまだ先のことになりますが、「争い」というよりは「競技」として楽しめる形を考えたいと思っています。
導入が予定されている「レッドレーク闘技場」 |
編: 話題は「カナン」から少し離れてしまいますが、NHN Japanさんが次にブラウザゲームをリリースするとしたら、それはRPGでしょうかそれ以外でしょうか?
中村氏: ええと、それはいま申し上げられないところなのですが、「カナン」の後に、次なるブラウザゲームを投入することは、あり得ないことではありません。ただし、それが同じMMORPGだとすれば、「カナン」との間で競合を引き起こしてしまいます。そういったことを含めて、いろいろ社内で検討が進んでいます。
編: 最後に、「カナン」のプレーヤーさんおよび興味を持ってくれている方に対して、おふたりからメッセージをいただければと思います。
鴨志田氏: お客様からの意見にはすべて目を通し、開発の参考とさせていただいています。今後ともお客様の声を大切にしていきますので、思うところをぜひお聞かせいただけたらな、と思います。
中村氏: ブラウザゲームならではの展開を、今後いろいろ考えていきたいと思います。例えばブラウザゲームはWebページの機能も兼ねるわけですから、ゲーム内アイテムと連動したタイアップも比較的容易で、9月16日からご協力頂いた企業様ごとの商品である「化粧品」、「栄養食品」、「カップ麺」を、期間を決めて専用のアイテムとクエストとして導入するといったタイアップイベントも実施します。そうした形で、オンラインゲームをプレイしたことのない人にも魅力をアピールしていきたいと思います。
編: 本日はありがとうございました。
(2009年 9月 15日)