「ファンタシースターオンライン2」プロデューサー酒井智史氏インタビュー
何度でも基本に立ち返り、「PSO2」本来の楽しさを追い求める運営・開発体制
G-STARはここ数年、BtoB(企業向け出展)に力を入れており、専用のBtoBスペースが設けられており、各社が自社タイトルをアピールしている。ユーザー向けではないが各国の最新タイトルが出展される“もう1つのG-STAR”といえる場所だ。
セガはBtoBコーナーでオンラインゲーム、スマートデバイス向けコンテンツの出展を行なっていた。今回、セガブースで「ファンタシースターオンライン2」のプロデューサーを務めるセガ第三CS研究開発部プロデュースセクション酒井智史氏にインタビューをすることができた。
「ファンタシースターオンライン2(PSO2)」は10月10日に行なわれたアップデートでは、ユーザー間で大きな議論となった。アップデートではレベルキャップをレベル40から50に解放したのだが、必要経験値のバランスに関してユーザー間で「厳しすぎるのではないか」と声が上がり、10月12日にバランスの修正が入った。さらに酒井氏は10月31日に今後も様々なバランスを調整することを公式ページで発表した。
そして11月7日の「歴史を壊すもの」というアップデートでは、新フィールド「遺跡」や新エネミーに加え、レベルキャップに達した以降の経験値を使い様々なアイテムが入手できる「エクスキューブシステム」を実装した。これはレベルキャップに到達したプレーヤーに提示されるゲームを続ける楽しさをもたらす要素だ。今後、「PSO2」はレベルキャップを目指すだけでなく、遊びの幅が大きく広げられるという。
必要経験値の議論は、プレーヤーのコンテンツ消費と、開発側の提供スピードのバランスから生まれるもので、刻々変化する状況でベストを目指していく中での試行錯誤の1つだろう。そしてエクスキューブはレベルキャップの先にある楽しさを提示した。開発者は、ユーザーの要望に作り手はどう応え、“楽しさ”を提供していくのか? 酒井氏を始めとした開発者は、より楽しいゲーム空間実現のためどのようなことを考え、そして「PSO2」の未来へ展望を持っているのだろうか。今回は酒井氏と、本作のアシスタントディレクターを務めるセガ第三CS研究開発部企画セクションの小川卓哉氏に話を聞いた。
■ 理想を提示しつつ、ユーザーの要望に迅速に応えていく運営
「ファンタシースターオンライン2」のプロデューサーを務めるセガ第三CS研究開発部プロデュースセクション酒井智史氏 |
アシスタントディレクターを務めるセガ第三CS研究開発部企画セクションの小川卓哉氏 |
レベルカンスト後に楽しめる「エクスキューブシステム」 |
セガのBtoBブースではスマートフォン版、PS Vita版も東京ゲームショウバージョンが出展されていた |
――まず、今回韓国の企業向けに「ファンタシースターオンライン2」の試遊台を出展していますが、ブースを訪れるメーカーの反応はどうでしょう。
酒井氏: 結構動かしていると立ち止まってくださる方が多いので、「アクションをメインにしたオンラインゲーム」が比較的少ないこともあり、「PSO2」のキャラクターの音と動きを見るだけで驚きを与えているように感じます。日本での成功についても、結構伝わっているようです。
――今回は酒井さんと小川さんにお話ができると言うことで、現状とこれからの日本での「PSO2」の展開について聞いていきたいと思います。酒井さんは10月31日にユーザーに向けてコメントを出されましたが、こちらの経緯を聞かせて下さい。
酒井氏: 10月10日のアップデートでレベルキャップを解放しました。それまでオープンβテストからの経験値の設定では、私達が考えたより遙かに早くユーザーのレベルが上昇したため、アップデートで解放されるレベル40から50までの部分はレベルの上昇ペースを抑えるように設定をしました。しかしその後運営をしていく中で、「ただレベルキャップまでの道のりを引き延ばすのではなく、遊びを追加していこう」と考え、レベルがカンストした状態でも何かができるという方向にシフトしていったんです。
ただ、そこがチーム内でうまくコンセンサスが取れていなかったために、経験値だけが非常に時間のかかる設定のままになっていました。ユーザーの皆さんからも大きな反響をいただいたので、急遽、修正を10月12日に行ないました。
しかしこれまでの「PSO2」はライト層を意識したバランスを取っていた部分もあり、経験値やドロップ率の厳しさ、9~10月に下方修正が重なった事もあり、ライトな方々から「まだ厳しい」という意見を多くいただきました。こうした状況があり、ユーザーの皆さんの求める「PSO2」と私たちのプランが乖離してきている部分も感じたため、もう1度基本に立ち返り、より多くの方に楽しんでもらえる「PSO2」とは、ということを考えもう1度経験値を含めた全体のバランス調整を行う事にしたため、その経緯を発表させていただきました。調度このタイミングで経験値をポイントに代えアイテムを入手できる「エクスキューブ」というシステムを導入できました。このタイミングならユーザーさんも納得してもらえるんじゃないかなと。
昨日(11月7日)アップデートを行なったのですが、今回に関しては比較的好意的なご意見をいただいてますね。10月のアップデートに関しては、混乱させてしまい申し訳ないとしか言えませんが。
――ただ、開発者が想いを込めて作り上げたコンテンツが、ものすごい勢いで消費されていくときに、コンテンツを提供する側が不安を覚える、という部分は共感できるところもあります。ユーザーはどうしても効率を求めすぎる傾向があり、「僕らが作ったコンテンツを、本当に遊んでもらえてるのだろうか」と考えてしまうところはあると思います。
酒井氏: 私達は、できるだけ、色んなところに行ってもらって、色んな遊びをしてもらいたいと思っています。色んな友達と、色んな冒険をしていく中で、いつの間にかレベルが上がっている、というのが作り手の理想なんです。もちろんレアを掘ると言うのは「PSO2」の1つの目標ではありますが、他のユーザーさんとのコミュニケーションの中でレベルをあげる過程というのももっと楽しんでいただきたいと思っています。しかし、レベルを上げたいというユーザーさんは効率が良いところにこもって、何周もする。一刻も早くレベルを上げてカンストさせねばならない、と考えている方が予想よりもずっと多いという印象も持っています。
――私は個人的にゲーム内で風景を見たり、細かいところ、例えばある場所でしか咲いてない花を見るためだけに、友達とその場所に行ったりもします。そういうプレーヤー視点からみると、「PSO2」のフィールドはデザイナーのこだわりを強く感じます。しかし、効率、報酬を求めるためにコンテンツに挑むユーザーが多いとするならば、フィールドの作り込みや、敵との駆け引きの部分のバランスを考えなくてはいけない、ということもあるのでしょうか。
酒井氏: 結局ユーザーさんが1つの場所で効率を追い求めるというのは、まだまだ我々のコンテンツの作り方の問題があるんだと思うんです。特定の場所が美味しいのではなく、色んな場所でそれぞれが美味しいという形にすることで、色々な場所を観てもらえると思うんです。新しい地域が入ったらそこに行きたいのは当然なので、目的があるからその場所に行くわけで、目的をそれぞれ設定していかなくてはいけないね、という話はスタッフとしています。
――レベル制のゲームの場合、どんどん高レベルのコンテンツが追加されていって、低レベルコンテンツはプレーヤーが少なくなります。低レベルのコンテンツを高レベルユーザーにも遊んでもらうアイディアといったものもあるでしょうか。
酒井氏: もともとレベル制をなくして、クラスレベルのみになっているのはその辺りのためではあったのですが、もっと考えなければいけないと思っています。しかし今後アップデートしていく上で低レベルのユーザーに向けてどう導いていくか、ということも必要だと思っています。そういう意味では、韓国のMMOってすごく導線がはっきりしている。我々も考えていますが、まだ導線が不十分だよねという話はスタッフ間で結構しています。
――しかし、特に台湾のコンテンツは、効率を重視過ぎて他の道がないようなところまで導線が強くなりすぎていると感じるタイトルもあります。
酒井氏: 確かに、矢印に沿ってボタンを押すようなところまで行ってしまうと行き過ぎだと思いますが、いかにより広いユーザーを対象にするかというところでも変わってきます。ソーシャルゲームなどは導線がとてもしっかりしていて、5分で操作が分からなくてはダメとも言われています。翻ってみて日本のゲームは「この文法がわかっていなくてはだめ」というところもある。こういった点を考えれば、もっと導線はしっかりすべき、という考えは持っています。
「PSO」シリーズはずっと続いているだけに、用語や操作も「PSO」シリーズなりの文法があって、「ユーザーのどこが分からないかが分からない」となりかねない。「ここでつまずくのか」など、ユーザーのデーターを見て導線を考えています。
――日本のゲームならではの駆け引き、というのが色濃く出るのが「ボス戦」です。特に「PSO」シリーズはこのボスとの駆け引きに注力しているタイトルという印象があるのですが。
酒井氏: ボス戦はアクションを重視したゲームであるからこそ、プレイヤースキルが反映される“壁”となるように作っていますね。ただこの壁の作り方がまた難しい。私達はパーティプレイ前提でバランスを取ってるんですが、「ソロでプレイする上であまりにも厳しい」、という声が多いんです。基本的にはオンラインゲームなので、仲間と共に力を合わせて困難を乗り越えていく、というところに楽しさを持ってもらいたいと思うんですよ。ただソロ指向というのは全世界的なユーザーの傾向ですね。「World of warcraft」も、「ドラゴンクエスト X」もそうじゃないですか。
「PSO2」もソロプレイがかなり多いですね。濃いコミュニケーションを求めるよりは、ゆるい繋がり、というのがトレンドですね。ユーザーさんの希望は本当に千差万別で、真逆な要望も多い。そこをどう取捨選択していくかは本当に難しいですね。ただ、コミュニケーションについては、ゲーム的な部分でも、操作的な部分でももっと工夫していかなければ、と言うことも感じています。
――要望に応えるというのも難しい課題ですよね。韓国の開発者は「何でも要望を言って下さい」とコメントする人が多いのですが、クリエーターとしてのポリシーがないわけではなくて、話を聞いてみると、否定されるのは好まないし、きちんと自分なりの考えを持っていますね。
酒井氏: それはわかりますね。僕らも何でも要望を聞いてくれるしガンガン直してる、ポリシーなんかないんじゃないかと言われる事もあります。ただ、「ここは守ろう」というのはしっかり持っていて、その上で「より多くの人達に遊んでもらうにはどう変えていくか」ということを考えています。ユーザーの皆さんからは開発者の考えていることをブログなどで公開することには賛否両論ありますが、そこを公開することで、できるだけ距離を縮めて理解していただけるようにしていきたいと思っています。
コストの部分も考えつつ、なるべく早く、より要望に近い形の実現、ということを心がけています。これまでやれる状況でない、ということもありましたが、今はまさに勉強しながら変えられるところを変えて行っているところですね。
――コンテンツの追加と、ユーザーへの対応というところを見ると、スタッフのリソース的に開発のチーム編成も考えていかなくてはいけないですね。
酒井氏: コンシューマーとはチームの意識そのものが違います。ずっと同じチームで開発を続けるというのは、パッケージゲームの開発では考えられない部分でした。この体制が運営が続く限りずっと続くわけです。
――スタッフの分担というところではどうでしょうか。他社ではコンテンツ開発と、ユーザー要望の実現をわけているところもあります。しかしそれだと、ユーザーへの対応チームは、へとへとに疲れる一方、自分の思うコンテンツを作れないという想いも持ってしまうのではないでしょうか。
小川氏: 実際に対応している現場から言わせてもらえば、「別のモチベーションをきちんと見つけられる」というのは強調したい部分です。コンシューマーを作っていた人もユーザー対応を受け持っていますが、モチベーションを高くもって仕事をしています。そこは、「ユーザーからの反応がすぐ返ってくる」というところです。ユーザーの要望に応えた仕事をすると、即座に良い反応が返ってくる。これは新しいモチベーションになります。
酒井氏: ユーザーから得られるプラスの反応もとても大きい。ただ、ネット上では声を大きくあげる方はマイナスの意見を言うことが多いので、プラスの声はそれほど大きくない。しかし、”ユーザーが遊んでくれている”というデータで確実にわかります。
【「歴史を壊すもの」公式紹介ムービー 】 |
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11月7日に実装されたアップデート「歴史を壊すもの」。新フィールド「遺跡」や、ボスエネミー「ゼッシュレイダ」などの、新エネミーが多数登場する |
■ 年末年始で、初期のコンセプトが実現。今後はPS Vita版やロビーなど遊びの幅をさらに広く
TGSフォーラムの「ゲームビジネスセッション」で提示された「PSO2」の今後の展開。ハードの枠を越えて広がっていく |
2001年の「ファンタシースターオンラインVer.2」で楽しめた“サッカー” |
出展バージョンをチェックする酒井氏。モーションなどを細かくチェックし、「ここは直すべきじゃない?」とついスタッフに言ってしまうところが、酒井氏らしいと感じた |
――その上で、今後実装されるコンテンツはどのようなものがあるでしょうか。
酒井氏: 年末年始に関しては新たな“遊び”が追加されます。「第1のクライマックス」を迎え、そして次の大きな流れに続いていきます。「PSO2」を立ち上げていた時に考えてたものが一通り入る形ですね。
――スマートフォン版、PS Vita版はユーザーデータをPC版と同じものにすると、先日の東京ゲームショウでおっしゃってましたが、テストに関してもプレーヤーデータはPC版のものを使うのでしょうか。それとも新しく作るのでしょうか。
酒井氏: どちらもまずユーザーテストを行なうつもりなのですが、現在様々な方法を検討しています。スマートフォン版のテストに関してはPC版データのコピーを作った上でテストしていきたいと思います。PS Vita版のテストは別途新しくサーバーを立ち上げた上で、PC版のユーザーと一緒に遊べる環境を作ってテストできれば良いかなと考えていますね。
――コンシューマ版の魅力は、ハードの性能でプレイが変化しない、ユーザーのハードウェアの知識がそれほど必要でない、というところだと思っています。PC版とは全く違うユーザーが確実に増えますよね。
酒井氏: そこにまさに期待を掛けてやっている部分はあります。コンシューマ版だとチャットの問題を懸念する人はあると思いますが、PS Vita版はタッチパネルで文字が打てるので、これは実際に試したのですが、やりやすいのでこれでいこうか、と考えています。通信はWi-fiを前提にします。PCとPS Vitaで問題なく一緒のパーティでゲームがプレイできる環境にしていきます。
――ここからは具体的な部分ではなく、今後の「PSO2」の今後のビジョンをお聞きしたいです。小川さんは今後ユーザーにどんな方向性を提示したいですか。
小川氏: もっと「チーム」を楽しんで欲しいですね。コミュニケーションに関しては、様々な仕掛や遊びを盛り込んでいます。まずチームで親しい繋がりを作り、そこから濃密なパーティプレイに繋がって欲しいなと思います。ソロが多い現状がありますが、パーティプレイ、さらにマルチパーティ推奨のコンテンツもありますので、パーティプレイを楽しめるコンテンツも多いので、是非楽しんで欲しいですね。
酒井氏: マルチパーティエリアは1人でもパーティを組んでも参加することができ、エネミーに複数で立ち向かえるエリアです。ソロでもマルチパーティエリアに入れば、他の人と一緒に戦えパーティ気分が味わえる。ここをさらに突き詰められるのではないかなということで企画も考えています。
また、ニコニコ動画での実況生中継の規約を緩くしている部分などは、「面白そうだやってみよう」とユーザーに思ってもらったり、しばらくやっていない方に「今はこんなになっているのか」と思ってもらいたいところがあるからです。
――先ほど酒井さんが言っていた、「パーティ前提のボスをソロで倒す」というのは、実況動画向きのコンテンツですよね。
酒井氏: 僕らも結構動画見てるんですよ。ユーザーの方のすごい攻略なんかは感心してみていますね。
小川氏: 他の人を見られるわけではないですが、ロビーには巨大もモニターがあって、時間を決めてミクのコラボレーション映像を見る、といった形で、みんなで何かを見れる要素は入れてあります。
酒井氏: あそこで実況が流せればなと思ってるんですが、システム的にまだまだですね。ロビーでももっと面白いことができると思うんです。「またロビーでサッカーやりたい」という声もあるんですよ。「椅子に座りたい」、「『PSOBB』でやれたフォトンチェアレースがやりたい」といった声もある。
――レースとかって面白いかもですね。
酒井氏: そうなるともう1つゲームを作らなくちゃいけない(笑)。そういうところも手を出したいところではありますが……。
――開発スタッフからは日々やりたいこと、作ってみたいことの要望が上がってくると思います。小川さんはそう言ったスタッフの声を聞きつつ、実装の時期や具体的なところに落とし込むところで苦労をなさっているんじゃないですか?
小川氏: 日々、戦いです。
酒井氏: 僕はむしろ、「もっと、もっと」というタイプですね。「この数じゃダメだよ」といいますし、ユーザーの要望を叶えるためにスタッフを動かします。そのためのスケジュールの組み替えはとても苦労させてしまっていますが。
小川氏: 私はどちらかというと円滑に動かすために抑える役割なのですが、時々突き抜けて実現させてもらう、容認してもらうこともあります。ユーザーデータが揃ってきたからこそ提案できるようになってきました。最近実現できたのは「エクスキューブ」ですね。
酒井氏: エクスキューブは運営が始まってから出たアイディアで、限られた時間で良くできたなと思います。こういうLive的な動きはオンラインゲームならではだと思っています。
――では最後に、ユーザーへのメッセージをお願いします。
小川氏: 皆様を飽きさせないように、コンテンツに関してもどんどん補充して行きますので、今後とも「PSO2」をよろしくお願いします。
酒井氏: 10月は本当に申し訳ありませんでした。11月以降に関してはまた「PSO2」のコンセプトに立ち返りつつ、年末年始に関して新しい面白さもだしていきたいと思ってます。スマートフォン版、PS Vita版もありまだまだ「PSO2」は面白くなっていきますので、ご期待いただければと思います。
(C)SEGA
(2012年 11月 11日)