コーエー、「大航海時代 Online ~Crus del Sur~」開発/運営プロデューサーインタビュー
PS3版の開発意図から、その魅力や今後の展望について聞いてみた
PS3版「大航海時代 Online」のタイトル画面 |
大航海時代のヨーロッパに実在した港町に降り立ち、航海者として交易や冒険、海戦を楽しむことができるコーエーのオンライン海洋冒険ロールプレイングゲーム「大航海時代 Online ~Crus del Sur~」(以下、「大航海時代 Online」)の、新たなプラットフォームとしてプレイステーション 3版(以下、PS3版)が発売された。コーエーの発表によれば、PS3版は予想以上に好調だという。実数については公表していないが、最大同時接続者数が発売前比で4割増加し、パッケージも品薄状態が続いているという。
弊誌では発売に先立ち、運営プロデューサー渥美貴史氏と、開発ディレクター竹田智一氏にインタビューを行なった。「信長の野望 Online」に続くコンシューマーゲーム向けのオンラインゲームとしてなぜ「大航海時代 Online」が選ばれたのか。PS3版のサービスはどのようなものになるのか。「Cruz del Sur」の最終章「EXTRA CHAPTER」とは何なのか、そして「大航海時代 Online」は今度どのような進化を遂げるのか。気になる話をひととおり聞いてきたのでさっそくご紹介しよう。
【PS3版「大航海時代 Online」】 | |
---|---|
PS3の描画性能を生かして美しくなった海と空のグラフィックス(左)、Windows版に近づけるために、光源を調整した街中のグラフィックス(右) |
■ 渥美氏「新たな事に挑戦する時には『大航海時代 Online』でという空気がある」
コーエーの「大航海時代 Online」運営プロデューサー渥美貴史氏 |
「大航海時代 Online」開発ディレクター竹田智一氏 |
――コーエーにはオンラインゲームのタイトルがいくつかありますが、今回なぜ「大航海時代 Online」をPS3版に展開しようと考えたのですか?
渥美貴史氏:今までオンラインゲームの中で何かチャレンジングなことを試してみようという時には「大航海時代 Online」で、という社内的な位置づけができているのかも知れませんね。例えば以前に行なったサントリー様の商品でのインゲーム広告もそうですし、「@モバイル」サービスもそうですね。「信長の野望 Online」ですと会員数の母体が「大航海時代 Online」より一回り大きいものになりますし、1番古くからサービスしているタイトルですので、そこでやるよりはもう少しフットワークが軽い「大航海時代 Online」からということでしょうか。
――動き易さから選ばれたということですか?
渥美氏:それもありますが、でもやはり1番は、より多くのお客様に「大航海時代 Online」を楽しんでもらいたいという思いにつきますね。「信長の野望Online」は、最初にプレイステーション 2で発売されて、その後Windowsへとプラットフォームが広がり、より多くのお客様に楽しんでいただけるようになりました。それを目の当たりにしているので、我々もいつかはマルチプラットフォームにチャレンジしてみたいと思っていまして。そして次世代機が出揃った中でプレイステーション 3というプラットフォームでやるのがいいのではないかと開発チームで決断したのです。
――展開プラットフォームにプレイステーション 3を選ばれたのはなぜですか?
竹田智一氏:プレイステーション 3にするかXbox 360を使うかという事を決める1番大きな判断基準になったのは日本市場じゃないでしょうか。我々は日本の企業ですから、やはり日本のお客様により多くプレイしていただきたい。そう考えると日本でのハードの普及率はどうしても考えざるを得ないわけです。
――PS3版の開発期間はどのくらいですか?
竹田氏:ちょうど1年くらいです。
――PS3版の開発で、もっとも苦労した部分はどのあたりですか?
竹田氏:PS3の描画性能をどれだけ生かせるかということですね。Windows版の「大航海時代 Online」はロースペックでも動かせることが大きな売りの1つなのですが、それをそのままPS3に持っていくと、絶対に「PS3じゃなくてもいいじゃないか」と言われてしまいますから。PS3の性能をどれだけ生かせるかというのは、特にプログラマーが苦心していて、新しいエフェクトを取り入れたりと、力を入れていました。
――確かに街中の画面を見ると、Windows版を忠実に移植しているという印象ですね。
竹田氏:当初はせっかくPS3に展開するのだから、写真のようにリアルなものを作ろうという案もあったのです。でも最終的には「大航海時代 Online」独特のデフォルメ感を活かそうということになりました。
――つまり、PS3版の開発は、新しいものを作るというよりは、Windows版に近づけることに主眼が置かれたのですか?
竹田氏:まずは世界観の維持が最優先でした。最初はWindows版のものをそのまま表示すれば同じように見えるだろうと思い、PS3に出してみたのですが、テイストが違って見えたのです。パソコンとPS3ではそもそもハード性能が違うので、見え方も全く違っていました。これはこれでシックでよいのではないかという意見もあったのですが、CGディレクターが「これは自分たちが作った大航海時代の世界ではない」と。そこで極力Windows版と同じように見えるようライティングを1から作り直したのです。例えばセビリアの街へ行って、Windows版のお客様が「明るくていいね」と言っているのに、PS3版では「え? 暗いよ?」となると、同じ感覚を共有できないじゃないですか。両方のお客様が同じ感覚を共有できるように、細かいところまで微調整しました。
――ユーザーの中には、美麗なグラフィックを期待していた人もいると思うのですが?
竹田氏:「大航海時代 Online」のメインテーマである“海を駆けるロマン”という部分をいかにPS3で演出するかということですね。波や空の表現などのグラフィックスを強化することでよりテーマが強く出るようなものに関しては、どんどんチャレンジしています。PS3だからもっとリアルにとハード性能を極限まで追求するだけで満足していては、我々が目指すものとは違う方向性になってしまうかもしれないと思うのです。
■ ランキングが出る戦闘でWindows版との差がつかないようにバランス調整に苦心
何度も作り直した、とUI開発の苦労を語る竹田氏 |
PS3版で採用されたリング状のメニュー |
――PS3版ではゲームパッドでの操作になりますが、Windows用のユーザーインターフェイス(UI)を移植するのは大変だったのでは?
竹田氏:試行錯誤はありました。このままじゃだめだから考え直そうということで何度か作り直しもありました。インターフェイスはお客様が触る1番大切な部分なので、そこをしっかり作りこんで楽しく遊べるようにしないといけませんから。
――UIの開発はどのように進んだのですか?
竹田氏:Windows版はマウスを使って、片手で簡単に操作ができますよという所がスタートだったので、まずはそれを生かして作ろうとしました。じゃあこのボタンにこの機能を割り当ててみようと、仮に作って実際に触ってみて、これはしっくりこないから変えようというふうに、基本的にはそれを繰り返して、だんだん良くしていくという感じでした。パッドで操作しやすいように画面はこうしようと、パッド中心に考えていました。
――リング状のメニューもそういった過程の中から生まれたのですか?
竹田氏:最初はプレイステーション 3のクロスメディアバーのようなものにしようとか、単にWindows版と同じような形でも十分いけるのではないかという話も出ました。いろいろな形を試して、結局ビジュアル的にも良くて操作もしやすいリング型になりました。
渥美氏:私も製品版に近いバージョンをプレイしてみて、1から考え直すという視点でやったんだなと感じました。洋上での情報の出し方を整理したり、高波のようにビジュアル的に見えたほうがいい部分は、直観的にわかりやすいくしたり、後は街中での拡大マップ機能もそうですね。操作性の敷居を下げるような工夫がなされていて、運営に納品されてくるバージョンが進むごとにどんどん改善されていく様が見てとれて、いろいろなところに手を入れているなと感じました。
竹田氏:開発陣も運営陣も、当然Windows版に慣れているので、最初にテスト的にPS3版を作った時には「Windows版の方が操作しやすいよ」と言われたのです。極端な話、Windows版とPS3版が戦うと、全部Windows版が勝ってしまうような状態でした。それではまずいのでPS3版でも対等にプレイできるように作りこんでいきました。
渥美氏:我々運営側が気にしていたのは戦闘部分です。お客様のダイレクトな成績に影響する部分なので、片方のプラットフォームだけがものすごく強いなどということになると、満足はしていただけないと思いますから、すごく気を使いました。開発陣もその部分は非常に念入りにテストをしてくれました。ものすごくやりこんでいるお客様が出て来た時にどうなるか、まだわからない部分はあるのですが、今の段階ではひとまずベストといえる状態に仕上がっていると思います。
――社内ではどのようなテストが行なわれているのですか?
竹田氏:「大航海時代 Online」では最大10対10の対人戦ができるのです。テストでは、こちら側は全員PS3版、向こう側はみんなWindows版というふうに分かれて人を変えながら戦いました。戦いながらPS3ならもっとこうしたほうが便利なのではないかという意見を出し合って、たとえばスティックを倒した時の移動感覚や、もっと早くかじを切れたほうがいいのではないかとか、そういった所を調整しています。
――もしWindows版のユーザーの間で、PS3版のUIで遊びたいという要望が増えてきたら、なんらかの対応を行なう予定はありますか?
渥美氏:これは正直できる部分とできない部分があります。拡大街地図のようなものはWindows版にも入れようということになったのですが、PS3での操作をそのままとなると、Windows版のインターフェイスとバッティングしてしまう所が出てきますから、全て同じようにとはいかないと思います。
――また、ゲームパッドそのものへの対応についてはどのように考えていますか?
竹田氏:パソコンでもゲームパッドで遊べた方がいいという声はあります。当然検討すべき個所ではあるのですが、いますぐ対応するという話ではありませんが、将来的に実現性を検討したうえで、お客様に喜んでいただけるのであれば当然提供していかなくてはいけないと考えています。
――Windows版とPS3版で2つのアカウントを操作しようと思ったら、操作方法を2つ覚える必要があるわけですね。
渥美氏:そうなってしまいますね。これは私見なのですが、現在Windows版をプレイされている方が、新たにPS3版をプレイする場合にはそれほど問題がないのではないかと思っています。その逆の場合ですけど、今後長くサービスしていけばそういったお客様も出てくるでしょうから、ここは開発側の宿題ってところですかね。
竹田氏:頭を悩ませて、実現性を考えたいと思います。
戦闘中に多用するカスタムスロットにもPS3版ならではの工夫がみられる(左)、最大10対10の対人戦ができる海戦。成績優秀者は公式ホームページのランキングに名前が載る(右) |
■ PS3版の情報が出るに従って、Windows版の新規ユーザー数も増加
なぜかPS3版の情報でWindows版のユーザーが増えるんですと首をかしげる2人 |
PS3版発売時には4つのサーバーが稼働しているが、追加するかは未定 |
――今回、PS3版の発売にあたって、PS3用の新サーバーを増設しなかったのはなぜですか?
渥美氏:PS3版のお客様とWindows版のお客様のどちらかを特別に扱うということは考えていないのです。等しく同じサービスを受けていたくのが基本と考えていますので、それなら同じサーバーで遊んでもらうのが自然だろうということになったわけです。オンラインゲームの場合、接続人数が多い方が、他のプレーヤーとのコミュニケーションを楽しめますので、その意味でもまずは今のサーバー構成で様子を見ようと思っています。当然、どのサーバーもいっぱいということになれば、それはすぐに新サーバーを考えなければいけないと思っています。
――それはすぐに対応できるのですか?
渥美氏:当社の場合、サービスしているオンラインゲームの数が多く、サーバー機材などにも予備があるため、やりくりは可能と考えています。
――PS3版が始まることに対して、Windows版のユーザーから反応はありますか?
渥美氏:PS3版の情報の露出を、年を越してからだんだんと厚くしてきたわけなのですが、Windows版のお客様も含めてすごく盛り上がっているのが、ゲームの内外から伝わってきます。PS3版をネタにしてお客様がコミュニケーションを取っている様子が、ゲーム外部の掲示板などでも目に見えて分かる感じです。それに我々も不思議なのですが、年が明けてからWindows版で新規に始めるお客様が増えているのです。4月28日まで待ち切れないからなのか、我々も掴み切れていないのですが、PS3版の情報を出せば出すほど、Windows版も好調になってきているという循環があるのは確かですね。
■ 気になる第3弾拡張パックの詳細。年内には確実に発表
おそらくいい頃合いに出るのではと、拡張パックの発売時期について語る渥美氏 |
拡張パック第2弾「Cruz del Sur」でユーザーは世界一周が可能になった。南米は波が高く航海の難易度も高い |
――現在、拡張パック第2弾「Cruz del Sur」のチャプター5まで実装済みで、公式サイトでは既に次回の拡張パックについても言及されていますが、今後の実装予定はどうなるのでしょうか?
渥美氏:拡張パック第3弾に関しては、おそらくそれほど遠くない将来にお話しできるタイミングが来ると思います。今は我々としてはいかに盛り上げていくかという部分に注力している状況です。そのロードマップ上には「Cruz del Sur」の最終章の話ですとか、その後の話も当然出していくつもりです。
――「Cruz del Sur」の最終章が、他のチャプターのような数字ではなく「EXTRA CHAPTER」と銘打たれているのは、PS3のユーザーを意識されてのことですか?
渥美氏:「Cruz del Sur」を全5章にするのは、私と竹田の中で最初から決まっていたことだったのですが、「え、これで終わり?」というお客様のために何かもう1つやりたいなという思いがあって、やるとすれば「EXTRA CHAPTER」という形かなと。「大航海時代 Online」はチャプターという区切りで大型アップデートを行なっていますから、「EXTRA CHAPTER」に関してもチャプターという名前が付く以上、規模感においては妥協していないつもりです。
「Cruz del Sur」はもともと世界一周をしようというコンセプトから始まったわけです。チャプター2、チャプター3と回ってきて、チャプター4で1番の目玉である南米のインカを持ってきました。世界一周なら次に盛り上げるのはヨーロッパだろうということでオスマンを持って来たのですね。それで綺麗に一周したことになりますから。だからさらにどこかにはみ出すというのもなんですし、だから「EXTRA CHAPTER」は最初の設計図の中から若干外れたことをやりたいというところがスタートなのです。
――その後の拡張パック第3弾ですが、内容や時期はまだ発表できませんか?
渥美氏:これはもう、ぽろっとでも言うと竹田に怒られてしまいますから(笑)。
竹田氏:いや、こればかりは現段階ではお話しすることはできませんね。申し訳ありません。
――発表は年内ですか?
渥美氏:今年というところでは間違いないですね。公式サイトの長期計画のページは、ページを見た上でキャラクター育成の指針を立てていただきたいという意味もあって発表しているので、出せる段階になったら速やかに出したいです。こんな大きな弾なのだから、ぎりぎりまで発表しないようにしようといった出し惜しみはしません。
――年内と言うことは、発表の時期によっては、PS3版のパッケージを購入したユーザーが、またすぐに新しいパッケージを買うことになりませんか?
渥美氏:そこは確かにあるかもしれませんが、ちょっとお答えしにくい部分ですね。遅いとWindows版のお客様から「そんなに遅いの?」と思われるし、早いと仰るとおりですし。我々からすると、その間を取ったちょうどいい頃合いにリリースすることになるのではないかなと思ってはいます。「大航海時代 Online」の開発チームに関しては、スケジュールを守るということに関して非常にしっかりしているので、スケジュール面でも特に心配していないですね。
■ 目標会員数は2倍。日本国内向けのサービスとして注力
コーエー本社前で記念撮影 |
――PS3版で目標となる会員数はどのくらいですか?
渥美氏:Windows版と同じ数を目標として考えています。プラットフォームが1つ増えるわけですから、会員数は2倍にしたいですね。
――オンラインゲームではかなり高い目標ですね。
渥美氏:目標は常に高く持ちたいですから(笑)。
――今後についてですが、例えばXbox 360など他のプラットフォームに移植される可能性はあるのでしょうか?
竹田氏:PS3版の状況を見てから、そこから考えましょうということになると思います。まだいまはわからないですね。
――海外展開の可能性はどうですか?
渥美氏:PS3版に関しては、今のところ日本国内のみとなっています。
――Windows版ではダウンロード販売が可能ですが、PS3版のパッケージが将来ダウンロード販売される可能性はありますか?
渥美氏:当社だけで解決できる問題ではないのですが、まずは現在の方式(編注:パッケージ版のみの販売)でお客様の反応を見たいと思っています。その結果、非常に不便だからダウンロードにして欲しいという声が大きければ、ダウンロード販売を推進する後押しになっていくと思います。
――今後PS3版でこのあたりをいじっていきたいという部分はありますか?
竹田氏:現段階ではまだ考えていないですね。開発サイドでこれでOKという段階まで触ってリリースしていますので。これからお客様にやりこんでいただいて、そこで頂いた意見をしっかり反映していくようにしていきたいです。
――最後にユーザーへのメッセージをいただけますか?
渥美氏:これまで「大航海時代 Online」は新たな地域を追加してどんどん世界が広がってきたわけですが、今度は新たなプラットフォームという形で別の広がりを持ったと思うのです。このPS3版に合わせて始めてみるのは、PS3版のお客様だけではなくてWindows版のお客様にとってもいいタイミングだと思います。例えば帆船が好きだとか、世界遺産が好きだとか「大航海時代 Online」に引っかかる何かに興味を持っているお客様なら、絶対に楽しんでいただけると思っています。たくさんのお客様に楽しんでいただきたいです。
竹田氏:PS3版に関しては、開発に苦労したこともありますが、その苦労に見合うものは提供できていると思っています。ぜひこの機会に多くのお客様に楽しんでいただきたいです。運営や開発も、お客様と一緒に「大航海時代 Online」を盛り上げていきたいと思っていますので、よろしくお願いします。
――ありがとうございました。
(c) 2005-2009 KOEI Co.,Ltd.All rights reserved.
□コーエーのホームページ
http://www.gamecity.ne.jp/
□「大航海時代 Online」のホームページ
http://www.gamecity.ne.jp/dol/
(2009年 5月 8日)