インタビュー

言語を使わずに騙し合いをする人狼系ゲーム「CRIMESIGHT」開発陣インタビュー

イシイジロウ氏が描くシャーロックとモリアーティのAI推理バトルの世界

【CRIMESIGHT】

4月15日 発売

価格:
通常版:2,200円(税込)
本体+オリジナルサウンドトラック:3,300円(税込)
オリジナルサウンドトラック:1,100円(税込)
CEROレーティング:B(12歳以上対象)

 KONAMIは、PC(Steam)用対戦ミステリーシミュレータ「CRIMESIGHT(クライムサイト)」を4月15日に発売した。価格は2,200円(税込)。

 本作は、AI技術の発達により凶悪犯罪の予測が可能となった2075年のロンドンが舞台のオンライン対戦ミステリーゲームだ。プレーヤーはこれから起こる“世界を破滅に導く殺人事件”を、犯罪捜査AI「Sherlock(シャーロック)」と共に阻止する、もしくは犯罪計画AI「Moriarty(モリアーティ)」と共に成就させるかを目指して頭脳戦を繰り広げることとなる。

 本作の世界観監修には「428 ~封鎖された渋谷で~」、「新サクラ大戦」などを手掛けるゲームクリエイターのイシイジロウ氏、「Sherlock(シャーロック)」関連のテキスト監修には作家の北原尚彦氏が参加している。

 今回発売を前に、本作のプロデューサーでゲームデザインを担当している長田毅志氏と本作の世界観監修として携わるイシイジロウ氏に話を聞くことができた。本作制作の経緯やイシイ氏とタッグを組むきっかけ、ゲームプレイに関するところなどを伺ったので紹介したい。

ゲームデザインを担当したプロデューサー・長田毅志氏
世界観監修を担当したイシイジロウ氏
【4月15日発売! CRIMESIGHT トレーラー02】

最後までみんなでできる正体秘匿系ゲームを、という思い

――まずこの「CRIMESIGHT」というゲームをそもそも作られようと思ったきっかけを教えてください。

長田氏:制作開始と言いますか、発端は2020年の6月なんですが、その時に部署内で若手も込みの新規の企画募集がありました。そこにこういったゲームデザイン、”招待秘匿系“の騙し合いができる推理での対戦ゲームというものを考えついたので出してみようかなと思いました。それで、応募したら通った。一応それまでにも正体秘匿系のゲーム自体は結構好きで気にはしていました。ただ、私自身が別プロジェクトに関わってた時期があって、時期的になかなか自分で新規の企画に携わることができませんでした。

 正体秘匿系ゲームも世間的な認知がすごくニッチな状態だったところに「Project Winter」や「Among Us」が世間的にどんどん評価されていったと思っています。もちろんその前からテレビでも人狼ゲーム等をやっていましたが、ゲームにもそっちの流れが来たなと思っていたところに、たまたま私もプロジェクトが一区切りついた状態になったので、今のご時世でこういった正体秘匿系の対戦ゲームというのはおもしろいのではないかと思って出してみました。

有名な正体秘匿系ゲーム「Among Us」(Innersloth LLC)
「Project Winter」(Other Ocean Group)

――「CRIMESIGHT」は人狼ゲームに似ていますが、ゲーム中に退場するプレーヤーがいません。それはどうしてでしょうか。

長田氏:動機としては非常にシンプルで。ゲームで遊んでるわけだから、決着までゲームから除外されないようにしよう、と。でも「殺害される」、「疑われる」という要素がある中でそれを実現するにはどうしたらいいかと考えた時に、「プレーヤーと操作キャラクターが1対1でなければよい」としました。

「CRIMESIGHT」ではプレーヤーがいろいろなキャラクター「Pawn」を操作して遊ぶ

長田氏:いわゆるアクションゲームであったりロールプレイングゲームなどのゲームは、プレーヤーは操作キャラクターとなることで、一体感・没入感をもってゲームを進めていきます。「CRIMESIGHT」はどちらかというとシミュレーションゲームなどに近い感じで、「登場人物の意思決定をする何らかの存在」という神の視点ですね。そういったプレーヤーとキャラクターを切り離し、犯行現場を俯瞰的に見ながら、殺人を起こすか止めるかという仕組みにするのであれば、ゲームから除外されることがないなと思いました。仮にそのキャラクターが死のうが、ゲーム的に役に立たないところに追放されようが、じゃあこいつはではなく別のキャラクターを動かそうという形にできるというところですね。

――確かに疑われやすい人は本当に一瞬で除外されますね。

イシイ氏:確かに、脱落というシステムはゲームデザイン的にはあまり好ましくないといった言われ方を実際にされています。それをカバーするために「Among Us」の幽霊プレイがあったり、いろんなゲームデザインが考えられていますね。でもそれは基本的には脱落することが前提のそのバックアップです。

 今回、長田さんが最初に出した企画の時点から、1人のキャラクターが複数の駒を操るという企画でした。それについて、僕は当初、変に影響を与えるかもしれないので言わなかったのですが、他のアナログボードゲームにも、「全員を動かす」というゲームのシステムのものがあります。それを知っていたのでこの企画も成立するだろうなと思って、企画を最初に聞いた時からすごく可能性を感じてました。

 さらにゲームマスターの視点をコンピューター化にすることによって、ボードゲームより遊びやすくなるのは分かっていたので、企画に疑問を呈することはありませんでした。最初はたしかそういう感じで一緒に組み上げていった記憶があります。

――なるほど。ちなみに今回イシイ氏とタッグを組むことになったきっかけを伺ってもよろしいですか。

長田氏:私はどちらかと言うとゲームシステムから作ります。ゲームコンセプトを立てて、それを達成するゲームシステムを考えるのが得意といいますか、そういうことばかりずっとやっていました。まずシステムは自分自身で作ることができました。自分の中で出来上がったシステムを、家の中にあるいくつかのボードゲームの中から、そのトークンとボードをかき集めて、こういうシステムでこうやったらこれいけるのではと考え自分で作っていました。

 それでこういうゲームシステムはおもしろいと思いますよっていうのを提案して、それ自体は通りました。でも、これだけだとシステムだけなので、やはり魅力面がない。これをどうやって商品的に魅力を出していくかとなった時に、これはイシイジロウさんと愛称が良いのではと車内フィードバックをもらいまして、確かにそれは是非お願いしたいですね、という流れでイシイさんにお声掛けしました。

イシイ氏:長田さんの「CRIMESIGHT」以外にも、先ほどの若手といいますか新規プロジェクトで幾つか企画があって、それについても見てほしいということで最初お話が来ていました。その中で「CRIMESIGHT」の企画自体も出来上がっていました。「CRIMESIGHT」は突出して実現度が高かったと思います。ただ実現出来るにしても、商品として足らないところがたくさんある。そこを一緒に考えてほしい、と相談をうけました。その時、僕自身が「文豪とアルケミスト」などDMMさんとの座組で若手のチームといいますか新規のチームと組んで、企画の卵みたいなものを商品まで持っていくということに幾つか挑戦していました。それで、そういう取り組みをみて、今回はKONAMIさんのプロジェクトに合うんじゃないかということで相談いただいたという感じです。

――イシイ氏が今回の世界観を監修されたということですが、電脳とクラシックがうまく融合されていました。今回のSherlock(シャーロック)に至った経緯を教えてください。

イシイ氏:今回は「Pawn」って言ってますけど、キャラクターが駒になっています。キャラクターが駒であるということで、最初は各キャラクターに個性をつけるか、といった議論がありました。しかし、こいつが犯人であるといった動機付けをキャラクターに付けたり、個性を出すことによってパラメーターが違うという事になると、ゲームとしてフラットなバランスが崩れてくる。キャラクターたちに個性をつけてしまうことと、ゲームデザインも世界観も成り立たなってしまいました。だから「Pawn」、駒のキャラクターたちには個性を付けられないというところで世界観はどうしようと、一度行き詰まりました。それなら「これは一体誰がプレイしてるんだ」というところに世界観のアイデアを持っていくことができるのではないか、というところに行きつきました。

プレーヤーが操作する「Pawn」と呼ばれるキャラクターたち

イシイ氏:次の課題が雪山の山荘の中で何度も何度も殺人事件が起きて、犯人当てということをやり続ける。これについても理由をつけたいよねということです。そこで出てきたのが探偵側と殺人者側の2つの勢力が何度も何度も繰り返して争っているという設定です。最初はオリジナルの設定もありましたが、「シャーロック・ホームズ」と「ジェームズ・モリアーティ」はどうだろうかと提案しました。というのも、「CRIMESIGHT」は最初からワールドワイド向けのタイトルということでしたので、ワールドワイドで通用する探偵と言ったらやっぱり「シャーロック・ホームズ」と「ジェームズ・モリアーティ」。これはもう誰でもわかるでしょうと思いました。シャーロック・ホームズとジェームズ・モリアーティという2つの勢力が、何度も何度も戦い合ってるというのは感情移入もしやすいし、世界中どこでも伝わりやすいよねとなりました。

 では、その中で何度も繰り返すということについてはどうしようとなりました。それに対しては電脳の中のシミュレーションという形ならば納得できる設定になるのではと議論が進み、その時にAIシャーロックとAIモリアーティというアイデアが出てきました。また、シャーロック・ホームズとジェームズ・モリアーティというのは、原作の世界観ではすごくシックでしっかりしてるし、ビクトリア王朝のあの時代の、あの世界観というのはすごく魅力がある。その世界観を、電脳の中でデジタルな感じで、かつ当時の19世紀末の雰囲気のミックスが面白いのではないかという方向性の仲で、現在に繋がるビジュアルがどんどん出来ていきました。

ロビーも電脳とクラシックがうまく融合している

長田氏:“ハイテクノロジーでローテクノロジーを再現するというのをデザインコンセプトに含めました。例で言うと、スマホなどで電子書籍をスワイプする時にページがこうペラっとアニメーションするものがありますね。あれなどは本来、本を読むという目的だけで考えると、必要ないものなのですが、それをあえてテクノロジーによって「紙」を表現しているわけですね。これを受けて、殺人事件すらも予測できるようなAIがいるという世界の中で、「ベイカーストリート221B」やミステリーの王道である「吹雪の洋館」というアンティークな感じをハイテクノロジーによって再表現すると考えたら、ここの組み合わせは結構綺麗にいくのではないかと思いました。

イシイ氏:シャーロック・ホームズには原典のファンの方も多く「シャーロッキアン」と呼ばれています。そういう方々を裏切りたくないという気持ちも強くありました。実は僕自身も日本シャーロック・ホームズ・クラブに入会しています。その日本シャーロック・ホームズ・クラブ会員で、シャーロック・ホームズを題材とするいろいろな作品の監修をされて、最近では宝塚歌劇団の「シャーロック・ホームズ―The Game Is Afoot!―」についても監修されていた、作家の北原尚彦さんに今回監修で入っていただいています。ゲーム上で「ベイカーストリート221B」をモチーフとした「V221B」という空間が出てくるのですが、デジタルにするけど、こういうポイントは絶対Sherlock(シャーロック)的には必要だよね、というところをしっかり監修いただいています。

本作におけるAI「シャーロック」(左)とAI「モリアーティ」(左)

長田氏:これは余談ですが、「CRIMESIGHT」のタイトル画面のスタート時、カメラが降りていく先はロンドンの221Bとなっています。

イシイ氏:ベイカー・ストリートですね。ここはこだわって作って貰いましたね。シャーロック・ホームズは原典を参照すると実際に存在するロケーションも多い。そういう部分はごまかさずにいこうというところで、デジタルアレンジでありながら原典をリスペクトした仕様になっていると思います。

ゲームのタイトル画面はベイカー・ストリート221Bへと続く道だ

ゲームシステムは企画当初から変わらないバランスで考えられていた

――本作はシャーロック側が1ターン中に1体多く「Pawn」を操作でき、モリアーティ側が他のプレーヤーと指示が被った「Pawn」への影響力が高い仕様となっています。このゲームバランスになったきっかけを教えてください。

長田氏:これは家で1人で作っていた最初の段階から考えていたシステムです。殺人を達成させる側と阻止する側という時点で、ゲームのルールとしては非対称であることが確定してしまいます。非対称であるなら、それはお互いがお互いの目的達成に対して有効な手、強みというものを非対称で持ってないといけない。

 そうした時に、まず殺人を達成するためには意図通り動いてくれないと困るだろうから、これは殺人者側の意図が「必ず」優先されるようにする。では、防ぐ側の立場ではどうしたらいいかと言った時に、「優先度」が影響しない駒がいれば良い。そこから阻止する側の強みは「数」であり、優先度の影響を受けなかった駒をうまく使うことが阻止する側のゲームのカギとなる。という形で、お互いの長所を出そうとなりました。それは何の迷いもなかったといいますか、もうそれ以外ないなと思いました。

イシイ氏:そこは当初から仕様変更がなかった部分ですね。

長田氏:指示する駒が被った際に必ず優先されるのであれば、殺人者側が触ったということが探偵側にわかるようにしました。その上で、殺人者側が「唯一」触れない駒を作ればいいという考えに至り、その唯一性が殺人者側の目的(被害者の「ターゲット」)であるという形にしました。優先された駒はすなわち殺人者側の勝利条件「ではない」とわかっていく形式にすることで、徐々に可能性が絞られていく構造を作りました。

イシイ氏:招待秘匿系ゲームでは高度なプレーヤーになってくると、秘匿側が問題を出す側で物語を作る側、探偵側が解く側となってきます。そうなると、ゲーム自体を盛り上げていくのは今回の物語、ミステリーを出題する側次第だったりします。そう考えるとプレーヤーが非対称であるっていうこと自体がすごく機能する。ゲームだと将棋でもチェスでもお互いが同じ立場です。ミステリー小説で例えば、問題側と解く側というのは、ゲームなんだけど解かれたら読者の勝ち。でも解けない問題はフェアじゃないみたいな、そういった作家とその読者の関係みたいなものでしょうか。そんな関係性をゲームデザインに落とし込んだところもあると思います。

モリアーティ側の駒が優先される度にその駒はターゲットから外れていく

――本作の操作は非常に簡単ですが、その意図を教えてください。

長田氏:「CRIMESIGHT」の1マッチのなかには可能性がいくつもあって、それらは推理で構成されているわけです。そこに集中してほしいから、まずアクションゲームではなくシミュレーション型、特に時間を確保できるターン制でいこうと考えました。かつ、推理以外のことを覚える手間を減らさないと、推理どころではなくなってしまう。そこでどの駒をどこへ、というだけにしようと決めました。

――なるほど。その中で起こる停電やガス漏れなどの「アクシデント」がいいスパイスになってくるんですね。

長田氏:そうですね。目的としてはモリアーティ側のためということです。モリアーティというのは、シャーロックに一切の情報を与えてないのでゲーム開始時が最強です。ですが、ターンが進むごとにシャーロック側に情報が渡り、自分の有利が崩れていくわけです。そうした時に、序盤の有利とは異なる形で終盤戦える要素がなければならない。そこで推理を崩す、推理にちょっと影響を与える「アクシデント」を起こす必要があった。

 キラーとターゲットは何となくわかったが、ここの通路を経由しにくい、ここに留まりたくないなど要素でエリアを制限する。それによって、こっちに寄らなければ、こっちに行かねばということが起こることがあり、わかってるんだけどモリアーティ側に捕まってしまうといった起こりえる。逆転性という意味でも、これは必要だなと考えました。なので、アクシデントは後半にしか出てこないです。1ターン目から起こることはまずない。1ターン目から起こるとシャーロックは推理どころではなくなってしまう。展開に変化を持たせるという意味と逆転性、両方あります。

ランダム性のある「アクシデント」が後半のモリアーティ側の助けになることもある

――今回は1対1から4人まで遊ぶことができます。この人数設定になったのはどうしてでしょうか。

長田氏:騙し合いができるゲームを作りたいというのは元々ありました。その時に少人数でも遊べないといけないなと思いました。その最低人数はやっぱり2人だなと思いました。2人で騙し合いができなければならない、と。

イシイ氏:最初に作っている時は1対1でプレイするのが楽しかったですね。1対1ではないとどうしてもノイズが多くなる。しかし、ノイズがうまく整理されてきてからは1対多もおもしろくなってきたと感じました。最初はゲームの中にそもそもコミュニケーションの為のリソースがなかった。だから1対1でゲームの情報全てを頭の中に入れないとゲームが見通せなかった時期もありました。その時は1対1が正解なゲームだと思っていました。それがどんどんバージョンアップして、ノイズが整理されるようになった。

 1対1の方が確かにシビアなんですが、1対多、4人プレイ時にワイワイやっても成立するというか、いい意味でノイズが乗ってくる感じのゲームデザイン、ゲームバランスになったなと思いました。僕も最初は1対1の方が楽しいと言ってました。4人プレイになるとコミュニケーションが大変で、訳がわからなくなってしまう、運ゲーっぽくなって嫌だと言っていましたね。でも現在は4人プレイも凄く楽しいです。

長田氏:僕自身も本来は1対1派ではあります。

1対1はよりシビアな戦いに

――そうなんですね。4人プレイもとても楽しかったですが……。

イシイ氏:遊びが、本当に遊びというか、歯車における“遊び”みたいなものが4人プレイをやったら急に大きくなる。そうなるとシビアなぎりぎりの一手をしても、同陣営の誰かによって意図と違うことが起こってしまうということがあります。特に「Irene(アイリーン)」が入ってくることによって、その“遊び”がうまく機能するようになってきたなとは思ってます。Ireneの仕業なら仕方がないかなと思ってしまう。「そっか、上手く騙されたよ」みたいな感じですね。そのゆるい感じが出てきたのがすごい良いなと思います。

長田氏:シャーロックからすると非常に厄介ですけどね、Irene。

イシイ氏:非常に厄介だけど、仕方がないよねみたいな感じになる。Ireneに騙されたら、ゲームシステム的にも、キャラクター的にも仕方ないかみたいな空気になります。

長田氏:厄介だけれども理不尽ではない。

イシイ氏:そうかもしれないですね。逆に、Ireneがミスしてくれたらシャーロック側はむちゃくちゃラッキーですけどね。

長田氏:1対1の方が対戦ゲームとしての納得感は高いです。ただ一方で、心理的なストレスも大きいと考えています。負けた側に言い訳の余地が少ないということですから。対戦ゲームは、勝った時の気持ちよさはもちろんですが、それ以上に負けた側が「もう一回!」と言いたくならなければならない。そうした時に、「推理」というある意味正解が1つに絞られる要素を主軸に”遊び”を増やしつつ、勝敗以外の、「こんなことが起きた」という出来事自体を楽しめる幅の限界が4人までかな、と考えました。

モリアーティ側の肩を持つ“狂人的”ポジションAI「Irene(アイリーン)」

「CRIMESIGHT」はCBTの結果でリリースが決定した作品

――ちなみに今回、クローズドβテスト(CBT)後まで制作陣の名前を伏せられていました。この経緯を教えていただいてもいいですか。

長田氏:この「CRIMESIGHT」というタイトルは、本当にKONAMIでは珍しい試みです。

 新規の募集があって、それを商品化していこうという流れになった時に、ゲームのおもしろさはわからなくもないが、これは商品として受け入れてくれる人がどれぐらいいるのか、というのがありました。そこが新規IPであり、新興ジャンルでもあるため、明確な答えというか、しっくりしたビジョンがなかった。

 そこで、これはもうユーザー様に直接受け入れられるかどうか問いかけようという形でCBTが行なわれました。ですので、言ってしまえば、CBTの時点では本当に商品になるかどうかをチェックするような段階でした。プロジェクトとしてはまだ正式には開始していないみたいな状態で、本当に異例でした。それもあり、伏せてたというよりは単に出しづらかったということですね。

イシイ氏:例えば、何かの続編や、どこどこチームの次の作品だからという感じで、開発が約束されたプロジェクトでなかったことは確かです。新規IPであるが故に、すごくテスト的な作り方だったのではないでしょうか? この企画がお客様に本当に求められているのかどうかというところを直接リサーチさせていただき、そこでお客様の評価が低かったら止まっていたプロジェクトだったと思います。その結果、今作はすごく評価が高かった。新規チームが、会社の中で決して順風満帆ではない状態で、お客様にテストをしてその評価を以て正式プロジェクトにたどり着いた。そういう企画の進め方だったので、正直言ってスタッフとか僕が協力しているというものをオープンにする段階ではないという判断だったのでしょう。正直あの時点では商品になるかどうかもわからない状況でしたよね。

【CRIMESIGHT クローズドβテスト ゲームプレイ配信】

――なるほど。本当にプロジェクト自体のβテストだったということですね。

イシイ氏:そうです。だけど僕はそれは凄く正しいことだと思います。プロジェクトをお客様に対して見せる前に閉じてしまったら作り手としては悲しいですけど、今回はお客様に問うことができた。その評価を得て、今回実際にリリースまで持ち込めたということ、このような純粋な作り方が、KONAMIさんという大手の企業さんの中に存在しているということは素晴らしいことだと思います。

長田氏:それは本当に懐の深さを感じました。こういうことをやらせてくれるんだと。

イシイ氏:企画の段階で最初に見た時も、KONAMIさんにしてはインディーズゲーム的なアプローチの企画だなと思っていて、すごく冒険的なことをされるんだなと思っていました。途中でプロジェクトが中段の危機に陥った時に「あ、まあそうだよね」、「そう簡単にはいかないよね」という現実の中で、今回テストをして正式のプロジェクトまで持ち込めたということは、まさにユーザー様の応援があって実現できた作品になっていると思います。

長田氏:本当にそうですね。

イシイ氏:企画自体が本当に新しいと思います。ターン制でありそれでいて「Project Winter」や「Among Us」と同じようなおもしろさを持っている。それでいて全然違うアプローチである。ただ、これが本当にお客様が求めているものかどうかというのは、悩みもありました。作っている側はおもしろいなと思っていても、僕らだけが楽しいむちゃくちゃマイナーな趣味のゲームかもしれないという怖さもありました。新しいが故にそこに担保する情報が全くないプロジェクトだったとは本当に思います。

長田氏:このプロジェクトは、本当にCBTでユーザーの皆様からの評価がなかったら頓挫しているプロジェクトでした。あの時参加してくれてこのゲームを受け入れてくれた方々には、本当にありがとうございますという思いでいっぱいです。お礼を申し上げたいと思います。

イシイ氏:継続するのかどうか迷っているプロジェクトが、継続するに値するだけの評価をいただけたということに本当に感謝しています。

定石はできにくいが、悪手は必ずある! アイリーンが入るとより複雑に

――体験プレイでは4人でワイワイプレイするのが楽しかったですが、本作は話さなくてもプレイできるのでしょうか。

長田氏:そもそもこの「CRIMESIGHT」のゲームコンセプトとしては、言語を使わなくても騙し合い、腹の探り合いをできるようにしたいというのがありました。実際CBTの時はギリシャの方もいました。一切会話してないですが、そのプレーヤーとも普通に楽しく遊べました。

 お互いの達成したいゴールとそれに必要な条件が共通情報としてあった上で、「自分は何をする」、「自分はどうしたい」という意思表示をするだけで、それはコミュニケーションとして成り立つと思いました。それが「PING」や「スタンプ」です。意思を示すのが「PING」、感情を表現しているのがスタンプとしています。

 ですので、必ずしも喋らなければいけないという話ではありません。喋らないとゲームが成り立たないということはないです。なので、ゲーム自体にもテキストチャットやボイスチャットを敢えて実装していません。そこをDiscordなどの外部のツールを使って上乗せしてプレイすることで、当然その上乗せした分、おもしろくなるようにはしてあるという感じです。

言葉は交わさずとも「PING」や「スタンプ」でコミュニケーション可能だ

イシイ氏:Discordなどの外部のツールを使えばそこは補完できるはずだと。それは最初から変わらないコンセプトです。逆に今の時代は全てをゲームの中に入れるのではなく、外部の要素と組み合わせてセレクトできる方が現代的ではないかと思います。ゲームが非言語コミュニケーションとして担保されているからこその冒険ですね。

――ちなみに、本作でおすすめの戦略などがあれば教えてください。

長田氏:今のところ強い戦略というよりは、明確な悪手はあると思っています。どちらの時婦負であっても、「何もしない」というのは不利になっていきますね。

イシイ氏:難しいですけどね。失敗することもあるんですが、モリアーティ側はどれだけミスリードを、「こっちなんじゃないか」という容疑者を幾つ作れるかですね。そうしてもうまくいかない事もありますが、何もしないと結局(容疑者を)絞られてしまう。それが難しい盤面だと思ったら、やっぱり先手でできるだけ早く勝負をかけるしかないと思います。その2種類かな。逆にシャーロック側はどれだけ時間をかけるかです。シャーロック側は時間が経てば経つほど有利になります。モリアーティ側は3日目とかに入られると、本当にめちゃくちゃキツくなると思います。

長田氏:難しいですね。3日目のモリアーティ側は相当難しいです。

3日目のモリアーティ側はいろいろな情報が相手に渡ってしまい、かなり苦しい状態になる

イシイ氏:ほかにも、4人でワイワイプレイしている時のアイリーンのプレイもおもしろい気がしますね。とにかくみんなを疲れさせるとか、何をしているのというぐらい「Pawn」全員を走らせて、「Pawn」がどんどん動けなくなってきて他のプレーヤーが困る。みんながIreneに翻弄される。かと思えば、1ターンでキル達成が起きたりすることもある。

長田氏:それは本当に運ですね。たまたま行った小部屋にたまたま探索物があって、たまたまそれが凶器で、たまたまそこに向かったのがキラーとターゲットだったという、いろんな偶然が重ならないと起きないものです。

――でも起きない偶然ではないということですね。

長田氏:そうですね。逆にそれは敢えて残しています。一時期議論もあったんです。その1ターンキルはやめた方がいいんじゃないかという議論もあった。でも、それは違う。「CRIMESIGHT」は、確かに対戦ゲームであり、勝敗は重要な要素ではあるものの、それと同じくらい「出来事」を楽しんでほしいと考えました。

イシイ氏:例えば実況とかでもそうですが、そういう「えっ?」って笑えるプレイとか、想定外のプレイがないと盛り上がらないので、そこはやっぱり残すべきだと思いました。

動かさないという選択も大事な指示になる

――今回、3つのマップを用意されていますが、今後マップが増える予定はありますか。

長田氏:そうですね。なるべく増やしていきたいとは思っています。ただ、マップは実作業のコストはそこまでではないですが、バランスをとるのがめちゃくちゃ難しいですね。

――なるほど。でも3つのマップでもプレーヤーによってプレイが異なるので無限に遊べそうです。

長田氏:そうですね。同じ人とプレイしてもまったく同じ展開になったことはほぼないです。1マッチごとにアイテムの配置そのものがランダムになっています。間取りは固定なんですが、アイテムの配置がランダムなので、毎回ここに行くべきという形がない。

――定石ができないってことですね。

長田氏:マップの構造上、ここは行くと戻ってくるのが大変で、リスクがあるよという場所はあったりしますが。

――最後に、本日発売となりますが、楽しみにしていたプレーヤーにコメントをお願いいたします。

イシイ氏:デジタル的なボードゲ―ムという風に見えるかもしれませんが、ミステリーゲームだという見方もできると思っています。僕自身が今まで関わってきたサウンドノベルシリーズやトリック×ロジックなどのミステリーゲームが好きだったユーザーの皆さんが、このゲームをプレイしても「あーなるほど、新しいミステリーゲームとして成立してるな」と感じていただけるのではないかなと思っています。

 ノベルゲームを作っていた時は、犯人が変わるミステリーゲームは実現不可能なんだと思っていました。なぜかと言うと、全ての伏線や全員のアリバイが並列になってしまい、どれを取っても犯人が決まる。それは「全てに意味があるということは全てに意味がない」ということになってしまう。それに対してこういうボードゲーム型で、犯人側が仕掛けることを探偵側が読み解くみたいなミステリーゲーム、殺人事件のゲームだと何度も何度もその殺人事件を楽しめる。そんなミステリーゲームが実現できたのではと、僕は思っています。是非ミステリーゲームファン、ミステリー小説ファンの方もプレイしていただきたいなと思います。

長田氏:ゲームシステムとしては論理で犯人を追い詰めつつ、そんな中にブラフによって相手を出し抜く要素、騙し切る要素というものが含まれていて、論理による追い詰め方と、ブラフがちゃんと両立したゲームになったかなと私自身は思っています。1戦1戦がストーリーになるというか、そういう一期一会の体験になるかと思います。気の合う友人とやるのであれば、マッチ後の感想戦も非常に楽しいのでオススメですね。そういったところも本当に楽しんでもらえたら嬉しいなと思います。

――ありがとうございました。