インタビュー

「Vampire:The Masquerade Bloodlines 2」シナリオ担当インタビュー

めくるめく吸血鬼の世界は、どのように作られたのか

 「Vampire:The Masquerade Bloodlines 2(以下、「Bloodlines 2」)」は非常に特徴的で、印象的な世界観と、魅力的なキャラクター達が織りなす“ドラマ”こそが最大の魅力だ。吸血鬼が人知れず支配する街・シカゴ。新大陸であったアメリカで生まれた街は永遠とも言える寿命を持つ吸血鬼からすれば“若い街”であるといえる。

 吸血鬼達は自分たちの存在を隠しつつ、生者の血を吸うことでその寿命を繋いでいる。このため自らの存在を脅かすような同族の動向にも非常に敏感だ。この街の吸血鬼は5つの氏族(クラン)、複数の勢力(ファクション)に所属し、危ういバランスで街を支配している。非常に濃い内容のゲームだが、DMMから本作のPS4向け日本語版が発売されることは決定しており、今後日本での注目も強くなるだろう。

 前作はTRPGである「Vampire:The Masquerade World of Darkness」の世界やルールを基本としてうまれた。今作「Bloodlines 2」は前作のメインライターであるBrian Mitsoda氏をシナリオ担当として起用し、世界観や物語のトーンを統一。さらにシニアナラティブデザイナーとしてCara Ellison氏と2人で物語を作ることで、新しい世界を構築しているという。

 今回両氏に複数のメディアが参加した形でのインタビューを行ない、物語りに込めた想いやこだわりを聞くことができた。ゲームを早くプレイしたくなるインタビューとなった。

【Vampire: The Masquerade - Bloodlines 2 - Extended Gameplay Trailer】

2人で織りなす「Bloodlines 2」の世界

 最初に聞くことができたのが、「Bloodlines 2」におけるEllison氏の役割。彼女はストーリーとストーリーライン全てを手がけ、ゲーム内のキャラクター、ファクション、クランの設定、ミッション、クエストを書き上げ、街の各地の設定や、街が物語へ及ぼす影響、さらには各キャラクターの台詞やファッションまで手がけている。本作ならではの物語、世界を担当しているという。前作のメインライターであるMitsoda氏は、本作の基本的なストーリーを担当している。分担として物語の50%をEllison氏が担当しているとのことだ。

前作のメインライターであるBrian Mitsoda氏
シニアナラティブデザイナーのCara Ellison氏

 前作のメインライターであったMitsoda氏は、今作ではリードライターを務める。「Bloodlines 2」は“シアトル”という街があったからこそ生まれた物語だとMitsoda氏は語った。Mitsoda氏はシアトルという街を“キャラクター”として表現したい、という情熱が「Bloodlines 2」の原動力だと語った。街の観光的な側面だけではなく、街が持つ政治的な意味を物語として表現したかったという。

 物語はTRPGの基本設定を守りながら、ユーザーにとって、そして自分自身が面白いと感じる物語を紡ぐことに力を入れているとMitsoda氏は語った。シアトルの歴史、転機となった事象などを吸血鬼というフィクションを加えることで面白くなるように物語を構成しているという。

 物語りに関しては、Ellison氏が作る物語や台詞を、前作との破綻はないかMitsoda氏がきちんとチェックしているという。その上でMitsoda氏はEllison氏が作った物語を気に入ってくれている。Ellison氏は特に女性キャラクターに対してこだわりが強いのだが、Mitsoda氏は女性キャラクターの描写がとても巧みで勉強になったとのこと。「Bloodlines 2」はストーリー関連のスタッフとして後2人のアシスタントがいるが全て女性で、Mitsoda氏は女性に囲まれながら作業を進めたとのことだ。

 Ellison氏は、「Bloodlines 2」のシアトルは吸血鬼達の勢力、氏族の影響下にあると語った。彼らは時には争い、時には力を合わせ、様々な歴史を描いていた。本作ではこういった吸血鬼達の危ういバランスを通じてもシアトルという街を表現していくという。

地下に古い都市の残骸があるシアトル

 シアトルは制作チームのオフィスのある場所だ。ゲーム冒頭の発端となった「パイオニアスクウェア」はシアトルの中心にあり、観光地であり、歴史もある場所だという。他もシアトルの特徴を非常に良く捉えたマップ構成になっており、シアトルを訪れたことがある人なら「ここは現地そのままだ」と感じる場所ばかりになっているとのことだ。

 先日発売時期の延期が発表され、2020年第1四半期から2020年内になった「Bloodlines 2」だが、Ellison氏達シナリオ部分ではメインストーリーはすでに書き終え、NPCの会話などを調整しているとのことだ。ゲーム全体の磨き込みをさらに時間をかけている。ゲーム全体のクオリティをより高めるための調整している。実は前作は発売直後は不具合が多く、修正などが行なわれた。だからこそ「Bloodlines 2」では細心の注意を払っているとのことだ。

 Ellison氏のストーリーでのこだわりは「ノスフェラトウ」という氏族の1つ。彼らはシアトルの地下に拠点を持ち、深い歴史を持っている。ゲームのオープニングにも登場した禿頭の男・サミュエルはノスフェラトウの1人であり、冒頭でプレーヤーに吸血鬼という存在を印象づける。Ellison氏は「彼はとてもチャーミングで、面白い人物」だと語った。

 そもそも吸血鬼はこの街でどのような存在なのか? という質問にMitsoda氏は吸血鬼は“捕食者(プレデター)”として街に存在するが、表だって動いてしまえば人間にその存在を認識され、正面からの戦いになるか、人間が逃げてしまう。吸血鬼達は人間を操りその存在を隠し、そして安定して血を吸える状況を保持しなければならない。

 こういった人間達を利用して活きる吸血鬼だが、彼ら自身はとてもチャーミングな存在だとEllison氏は語った。彼らはその魅力で人間達を魅了しているし、彼らが好むのは「リスクが少なく、報酬の多い方法」だ。こういった彼らの正確は、彼らとの会話の選択肢で如実に現われるという。彼らは自分のリスクを低減し、そして得るものが多いように会話を誘導してくる。特にファクションの抗争時にはそういった彼らの性格が如実に表れるとのことだ。

 非常にユニークなゲームだった前作。「Bloodlines 2」は様々なポイントで前作から変化していると思うが、逆に濃厚に引き継いでいる部分はどこだろう? Mitsoda氏は、「ストーリーと雰囲気だ」と答えた。キャラクター、物語の流れ、世界の描写……こういった要素は濃密に前作から引き継がれている。キャラクター達との会話、そして駆け引きを行う会話の選択肢、そういったゲームの雰囲気は、前作と同じ、シリーズが持つダークで背徳的な雰囲気を保つように心がけている。そしてその選択の後のキャラクターの反応、吸血鬼や、人間はこう考え好反応する、といった考え方を重視しているとのことだ。

様々なユニークな吸血鬼キャラクターが登場するようだ

 Mitsoda氏は「Bloodlines 2」の物語を数年かけて練り上げた。たくさんのキャラクターがきちんと喋る、だからこそ時間がかかったという。何より大変だったのは物語の分岐要素、物語は選択肢によって変化し、それは次の選択肢でも変わっていき、物語は“拡散”していく。あのときこう選択したが、こちらではこう選択している。こういったプレーヤーの選択をきちんと考え物語を作っていくのは苦労したという。

 Ellison氏は「前作は2つしかファクションがなかったのが、今作では多くのファクションが存在します。それだけ物語は複雑になっている。全体として非常に膨大になりました」と語った。「とても時間がかかったよね」とMitsoda氏は言葉を重ねた。

 ここで1つの物語が大きく発展したというのをEllison氏は明らかにした。「モカヴィアン」というクランは、他の氏族達とは異なる独立したストーリーラインを持っていて、物語の進行が大きく異なるとのこと。このためにキャラクター達の会話も全て書き直すこととなり、結果として大きく変わるストーリーラインとなった。ちなみにモカヴィアンは前作にも登場したクランとのことだ。

不死の存在・吸血鬼達ならではの視点、独特の価値観をどう描くか?

 Mitsoda氏がストーリーで重視しているのは「面白さ」。そして挑戦しているのは、100年以上生きているヴァンパイアが世界を見ているのか、その視点や価値観を描くことだという。彼らが何を考えているのか、彼らのキャラクター性を言葉で表現するのに力を込めたという。

 Ellison氏は吸血鬼達の独特の価値観として「街や現状を維持するための力」を上げた。ヴァンパイアはその気になれば人間を易々と圧倒できる。プレーヤーが吸血鬼の力を誇示し、街中で堂々と吸血すればヴァンパイアという存在が明らかになり、大騒ぎを引き起こしてしまう。街中の警官では彼にはかなわない。しかしそのとき吸血鬼でも強力な存在達が、“狩り場”であるシアトルを守るため主人公を抹殺するすべく動くという。「ヴァンパイアのような存在はこの街にはいない」と人間達に思わせるために、目立つ存在には容赦はしないとMitsoda氏は語った。

 15年振りの新作となる「Bloodlines 2」。前作のファンであったコミュニティは非常にお菊、期待値も高い。その中で彼らに受け入れられるようにという気持ちも大きいが、それだけではなく、制作会社であるParadox Interactiveの判断が大きく、またビジネスレベルでのファン達の期待を裏切らないように努力をしているとMitsoda氏は語った。実際、Ellison氏は前作の大ファンであり、かつてはジャーナリストの立場から前作を取材した経歴の持ち主だ。そういったファン達に支えられ、「Bloodlines 2」は開発されているとのことだ。

物語への強いこだわりを感じた

 ここでユニークな質問として「実際のゲーム内の自分が入ったら、どのファクション、どのクラン、そしてどんなヴァンパイアの能力が持ちたいか」という質問が上がった。Ellison氏はやはり自分が担当した氏族やクランに思い入れがあるという。氏族はブラッドマジック(血の魔法)に長けたトレミア。能力はコウモリの力で飛翔する力が欲しいとのこと。

 Mitsoda氏は勢力として古くから存在し、伝統を重視するパイオニアを上げた。能力はブラッドマジックに引かれるという。ただ、氏族に関しては「Bloodlines 2」には収録されていないが、ギャングルがいいという。彼らは街の外に住み、自分の姿を動物に変える能力を持つとのことだ。

 Mitsoda氏は日本で本作が発売されることに関して、やはり前作がどのくらい遊ばれているか、どのくらいのファンがいるのかがわからないところがあるとのこと。「今回の日本語版の発売はファンを大きく増やすと思う」とこちらの期待を伝えると、「それはとても楽しみだ」とのこと。実はEllison氏は鹿児島に友達がいて、自分のゲームをプレイしてもらいたいとのこと。Mitsoda氏はかつて神奈川に住んでいたことがあるとのことだ。

 ファンへのメッセージとしてMitsoda氏は「日本のファンの反応を楽しみにしています。ぜひ東京ゲームショウにも行ってみたい。リリースしたらぜひ日本にも行ってみたいです」と語りかけた。