インタビュー

「レッツバトル!」に込められたメッセージとは!? Wargaming.netブランドディレクターAl King氏インタビュー

5月28日収録

 Wargaming.netエグゼクティブインタビュー2人目は、Global Brand DirectorのAl King氏。Wargaming.netは、「World of Tanks」をはじめ、各タイトルにテーマとなるフレーズを設定してそれをグローバルで使っているという珍しい企業で、それを推進しているのがKing氏だ。今回初めてインタビューすることができたので、その業務内容から、ブランディングに対する基本的な考え方、そして今後のブランディング戦略まで、通常のゲームクリエイターインタビューでは、あまり出てこないような話をたくさん聞くことができた。

Wargaming.netにおけるブランディングの基本戦略とは!?

Wargaming.net Global Brand DirectorのAl King氏
King氏はミュージシャンのようなファンキーな性格で、「戦友」の文字をタトゥーで刻印している

Al King氏:ようこそモスクワに、Grand Finalsにお越し頂きありがとう。今年は会場がワルシャワからモスクワに変わり、ポーランドの方にはたくさん謝罪をしなければならないが、我々としてはGrand Finalsはオリンピックのようなイベントとして考えている。1カ所に留まらず世界の様々なところで開催したいと考えているので、今年はモスクワを選ばせていただいた。

――まずブランドディレクターとはどのような仕事なのか教えて欲しい。

King氏:私の担当はマーケティングを真剣に考えていること。マーケティングとは、知ること、知らせること、維持すること、新しいものを創造すること、カスタマーに利益を提供することだ。最初のステップは知ることで、私の業務ではそれは非常に重要だと感じている。自ら学んで、お客がどこからきて、何に興味を持っているのか。ユーザー像を知るために、セグメントを作成してカテゴライズしている。ミリタリア、ヒストリアン、ヤングガンナーなど、様々なカテゴリを設定して、そこから分析して、ゲームを興味をもってもらい、どのような施策なら興味を持って貰えるか分析している。

 その上でそれらの各セグメントのユーザーに対して適切なメッセージを送るのかと考える。たとえばミドルエイジミリタリアは、兵器を興味を持っているので、兵器の情報を提供する。ヒストリアンに対しては、バックグラウンドの歴史に興味を持っているので、そういった情報を提供する。ヤングガンナーはGrand Finalsのようなエンタメ性の高い、エキサイトメントを提供している。

 ブランディングの最終段階がキーフレーズで、Wargamingでは全タイトル共通のキーフレーズとして「Let's Battle」というフレーズを使っている。このキーフレーズには深い意図が込められていて、「Battle」というのは、我々が提供しているゲームは競技性があり、戦闘が非常に重要だが、そこに「Let's」を付けることで、チームベースで他の人と協力しながら戦うゲームであるというメッセージを込めている。

 そしてWargaming共通のキーフレーズとして「Let's Battle」を決めた上で、各タイトル毎に適切なフレーズを設定している。たとえば「WoT」は「Rollout」、「WoWS」は「Action Stations」、「World of Airplanes」では「Get Airborne」に決めた。これらは我々だけで考えたわけではなく、パイロットや戦車長に話を聞いて、実際にどのような言葉を使ってコミュニケーションを採っているのかを確認した上で決めている。

――そのフレーズは、セグメント別に考えているのか、それともひとまとめで考えているのか?

King氏:ブランディングメッセージは、「Roll Out」のように共通のフレーズを1つ設定した上で、各セグメントに対して伝わりやすいメッセージを決めてお伝えするということもある。

――Grand Finals 2017のキーフレーズ「Watch Play Win」にはどういう意味が込められているのか?

King氏:それは自分が考えたものでない(笑)。だから特にコメントできないが、皆さんが気に入ってくれたらそれでいいと思う。

【Let's Battle!】
「Let's Battle!」はいつから使っているのか調べて見たら、2013年の日本の正式サービス開始の時点ですでに使用している

2016年11月の劇場版公開に合わせてスタートした「ガルパン」コラボ。King氏としてはイレギュラーという判断のようだが、爆発的な成功を収めた

――セグメントにおいて、日本市場では「アニメ好き」みたいな特殊なセグメントもあるのか?

King氏:日本はWargamingにとってとても複雑で難しいマーケットだ。もちろんそういうセグメントはある。日本では、「自分の好きなことだけをやる人」というセグメントが存在する。あまり外に出かけず、多くのことに興味は示さず、アニメ、漫画など個人の趣味だけに没頭する人。Wargamingではトップダウンですべての物事が決められるが、それだけではなく、日本ではそういう方をターゲットにするための施策を別に考えている。「ガルパン」コラボやドラゴンのキーアートを採用しているのがそうだ。

――「WoT」はPC、コンソール、モバイルと3つのタイトルが存在するが、ブランディングにおいてどのように差別化しているのか?

King氏:基本的にフォーマットは変わらない 。Free to Play、チームベース、オンラインタンクバトルというところはどれも変わらないので。ただ、ブランディングにおいてはPCとコンソールは同じだが、「WoT Blitz」だけはまったく違う動きをしている。15対15ではなく、7対7にするなどモバイルのために新設計された「WoT」なので、試合時間やバランスも違う。まったく違うゲームスタイル、なので、専用のブランディングを考えている。

――ブランディングの面で、もっとも大きな課題、チャレンジは何か?

King氏:ブランディングで重要なのは同じ状況で皆さんに覚えて貰うこと。使用するメッセージや色などを、毎回同じにしてすり込ませるようにして覚えて貰うことが重要。ただ、我々はグローバル企業なので、地域によって展開のさせ方が変わること。私としてはキチンとした基準があり、それに合わせてもらいたいが、たまに止めるのが惜しくなる良いものもできている。それにどのように対処して統一性を持たせるかが1番の課題と言える。

――Grand Finalsでは、プロの強さ、格好良さをアピールすることでゲームの魅力をアピールする、これもまたブランディングだと思うが、この面において今後どのような施策を考えているか?

King氏:ブランディングはまずプロダクトがあって始まるものなので、「World of Tanks」のブランディングを強めるためにはどうしたらいいかということでGrand Finalsを立ち上げたりしてきた経緯があるが、現在は「WoT」のほかにも、「WoWS」、WGアライアンス、WGラボなどのプロダクトが増えてきていて、今後も「Total War Arena」などサードパーティー製のタイトルも増えていくので、そういったプロダクトに対するブランディングも進めていきたい。まずはプロダクトが安定してから、次にブランディングをしていきたいと考えている。

【Grand Finals】
Grand Finalsのオープニングセレモニーの様子

――Wargamingは、クビンカやボービントンなど世界を代表する戦車博物館に対して小さくないサポートを行なっているが、これはブランディングにどのように寄与していると考えているのか?

King氏:マウスを見られたのは羨ましいよ(笑)。私たちは、博物館は静かな場所であり、勉強しにきている人が多く、ある意味教会と近いものだと考えている。こういうスポーツスタジアムにあるようなポスターを置くのは不適切であり、 そういう雰囲気を壊したくないので、そこでブランディングすることにはこだわっていない。ただ、英国のボービントンは若い層も多いので、そういったところでは試遊台を置いたり、戦車のパネルの横にQRコードを置いたりすることはやっているが、基本的には博物館はゲームが好きな若い子が一杯来るわけではないので、博物館は歴史的なものを扱っているので、雰囲気は壊さずに、注意を払いながら大事に活動をさせてもらっている。

【クビンカ戦車博物館】
後ほどレポートをお届けする予定だが、今回モスクワ郊外にあるクビンカ戦車博物館に行く機会に恵まれた。WGとしては今後も協力していくが、露骨な展開は避ける方針のようだ

――eスポーツのイメージについて、日本では冷ややかな態度を示す人もいるし、仕掛ける側もありえない数字を持ち出して盛り上がっているように見せかけるような山師のような人もいる。Grand Finalsにおけるポーランドやモスクワのような状況にはほど遠いが、これを変えていくためにはどのようにしたらいいと思うか?

King氏:色んなアプローチがあり、今ここで具体的な施策を出すのは難しいが、大事なのは第1に嘘をつかないこと、ありえない数字を出したり、実際の問題を無視するのは誠実ではないこと。第2に問題をちゃんと理解して解決するように動くこと。問題が理解できていないと解決策も導き出せないし、問題を抱えている人、疑問視している人と、お互いを話をして理解していくこと。第3に環境の違い、文化の違いを理解した上で、ポジティブな方法で結果を示すこと。コンテンツとしてeスポーツは、ボクシングや野球に近いものがある。

 チームワークや、日々の練習が大事で、こういった活躍の場が必要となるが、日本ではそのすべてが整っておらず、まだイメージがわかないという人も多いのではないか。我々としては、そういった環境を整えながら、eスポーツは世界に認められているスポーツであり、プロゲーマーも敬意を受ける存在であるといった価値観を提示し、少しずつ皆さんに理解して貰うのが大事だと思う。

【地元優勝に喜ぶロシアのファン】
初のロシア開催でロシアのチームTornado Energyの優勝に大喜びするロシアのゲームファン

――時代の変化と共に、ゲーマーのモチベーションが変化してきている。現在はコレクションを集めるということに大きな価値を置くゲーマーが増えている。一方で、eスポーツ的な競争要素は、若い層には人気があるが、揮発性が高いということがわかってきている。Wargamingのタイトルは、コレクション要素が充実しているが、それをあまり表に出していないが、この面においてブランディングの戦略が変わっていくことはあるか?

King氏:とてもいい質問。もちろん、ブランディングはユーザーの傾向に合わせて変えていくべきだと思っている。以前私の友人は「『WoT』はゲームではなく趣味だ」といっていた。それは試合に出ている時間よりもガレージで過ごす時間の方が圧倒的に長いからで、技術ツリーを見て次にどのように開発していくか考えるし、次の試合で車輌をどうするかを考えたりなど、アクションゲームとは大きく異なる。これまではアクション要素や、気軽に遊べるということについてアピールしてきたが、今後はコレクティブな要素もふんだんに加えていければと考えている。