インタビュー
「ファイナルファンタジーXIV」プロデューサー吉田直樹氏インタビュー
2016年6月24日 18:30
パッチ3.3の手応えについて。マハの難易度は正常
――パッチ3.3で追加されたレイドファインダーの利用状況について教えて下さい。タンク待ちが多い印象ですが。
吉田氏:そうですね、2タンク必要で、かつMTとSTをきっちり、ということになるとそれなりに大変だと思います。パッチ3.3はコンテンツがかなり多いため、今はまだレイドというよりは、色んなコンテンツをプレイされていると思いますが、それでもよく使っていただいていると思っています。マッチングした際に、ワールドローカルルールのぶつかり合いで、「どっちの戦法でやるの?」などの状況も出ているようで、ワールドを超えて新しいマッチングが始まりつつあるかな、と感じています。
――PLLで、1番ざわついていたのが土地の転売は止めて下さいという部分でしたが、サーバー移動時の身内への売却も禁止ですか?
吉田氏:土地を購入する際、購入の動機が転売目的の場合はNGです、ということです。他のプレーヤーのプレイを阻害する行為に当たります。通報があれば、ログデータからそれを追いかけ、確認をした上で“黒”と判断した場合は土地を解放します。もちろん、ロールプレイとして土地を購入していたが、ワールドを移転する際に、FCメンバーやフレンドなどに土地を譲る場合には問題ありません。それは転売によるギル稼ぎが目的ではないからです。
――転売発覚によって土地が還元された場合の新しい価格はどうなりますか?
吉田氏:初期値に戻ります。
――ハウジングについてですが、新しい土地を追加しても即完売で、そして転売の問題があるわけですが、吉田さんが考えるハウジングの理想像とはどのようなものですか?
吉田氏:理想ですか……難しいですね。全体の80%くらい土地が売れ、需要が満たされており、新規のプレーヤーでも購入する余裕が少しある、というくらいでしょうか。今回の土地追加でほとんどのワールドはこの状態に近づけたのですが、過密ワールドのいくつかのみ、即完売しています。過密ワールドにだけ土地を追加する、というのは管理上の問題を発生させてしまいます。
まずはパッチ3.4のアパルタメント(マンション)の実装で、ハウジングに対しての個人需要を完全にカバーしたいと思います。その上で過密ワールドのFCハウジングの需要をどこまでカバーできるか、次の大きなアップデートも存在するので慎重に検討したいと思います。
ただ、キャラクター個人で土地付きの家を持ちたいということと、FCで家を持ちたいということは、人数の違いはあれ、プレイスタイルの両極です。FCの場合はギルを複数人数で集められますが、個人の場合は1人でそれを集めることになります。これらを踏まえて、FCと個人欲求には、あまり差を付けるべきではない、と思っていますが、これはとても悩ましいです。
――即完売、転売需要が高いというのは、単純に人口が多いからですか? それともそこだけブローカーが多くてハウジングがアクティブになっているだけですか?
吉田氏:人口が多ければ、土地需要が高くなり、需要が高くなれば、それを使ってギルを儲けたいという人が増える、ということだと思います。
――ではごく一部のワールドで、そういった即完売や転売問題があるものの、全体感としてはすでにハウジングは理想的な状態にあると考えてよいわけですか?
吉田氏:うーん、過密ワールドで土地不足があり、転売問題があるので理想的とは言い切れないですが、過密ワールド以外の土地消化状態は、8割ぐらいで丁度良い状態だと思っています。新規プレーヤーもレベルが上がってギルが貯まり、価格が下がってくれば買えると思います。
――転売をシステム的に規制する考えはないのですか?
吉田氏:一度買った土地は、システムに対しても「捨てられない」、「売却できない」、「一定期間アクセスがなければ運営側で自動撤去」という、非常にシステマチックにすれば転売はできなくなります。しかし、MMORPGとしてそれでは「遊び」がなさ過ぎます。プレーヤーが自分の意思で「土地を手放すことができる」以上、その仕組みを使うことが必要に駆られてのことなのか、転売のような悪意を持った行動なのかは、その行為自体からは読み取ることができません。それとトレードの仕組みを併用されてしまうと、どうしても「転売」ができてしまいます。仮にこれを「性悪説」に則って、全部塞いでしまうことは可能です。むしろ僕らとしてはその方が手間は少なくなります。ですが、これを規制してしまうと、「自分はしばらく休止するから、この土地を自由に使ってね」とか、ワールド移転するから、ぜひこの土地を使ってね」というコミュニティ内の善意を最初から潰してしまうことになります。
他方で、1アカウントにつき家1軒までにして欲しいという声もありますが、1アカウントで複数キャラクターを持っていて、それぞれでロールプレイしている方がいた場合、やはり同じような問題になってしまいます。「FFXIV」の場合、家を買うためにはいずれかのジョブをレベル50にしなければならないし、さらにギルを貯める必要もあるので、土地購入のハードルは結構高いのです。サブキャラクターと言えど、その条件を満たすまでプレイしている方やキャラクターは、尊重すべきではないのかなと。
これらすべてを制限していくと、ものすごく窮屈なハウジングシステムになってしまいます。僕としては性悪説に立って締め付けの厳しい状態でリリースするよりも、性善説に立ってできるだけ自由度の高い状態でリリースしたいと考えます。また、「FFXIV」をプレイして下さっている大部分の方は、「これはNGです」とお話しすれば、それに沿って規定を守ってくれると思っています。ですので、まずは今回それをお話しさせていただいた、ということになります。通例の倫理観に従って行動していただければ、何も問題ないと思います。
――経済的な話ですが、パッチ3.3で、宝物庫、アクアポリス、攻略手帳等のコンテンツでギルが稼ぎやすくなったと思いますが、インフレの恐れはないのですか?
吉田氏:そもそも3.2までの経済状況を見た時に、ギルを持っている人と持たざる人の格差が激しすぎると判断しました。現代に生きるプレーヤーの皆さんは、実生活にとても忙しいので、プレイ時間の多くをバトルコンテンツに費やす方も多いです。しかし、バトルコンテンツだけやっている方のギルの貯蓄量が悪く、マテリアの穴が全装備に空いたこともあって、修理代も含めて「システムに払うギル」がキツいという状況も見られ始めました。アレキサンダー零式:律動編などのレイドに行こうとすると、食事も薬品も必要になります。これらをマーケットで入手するにもギルが掛かります。ゲーム自体は、かなり長く遊んでいるにもかかわらず、それ以外に金策をしないと「システムにすらギルが支払えない」というのは、バランスが崩れてきていると感じたため、今回はアクロポリスだけでなく、日々の規定活動で得られるギルを増やした、ということになります。
事前に計算とシミュレーションはしておいたので、マーケットがこれまでより少しインフレーションするのは想定の範囲内です。パッチ3.3行こう、毎日システムから払い出されているギル量をアイテムチームが監視していますが、おおむね想定の範囲内なので、大丈夫だと思います。
パッチ3.3公開後、開発チーム内のゲーム内経済に関わっていないスタッフから「こんなにギル出して大丈夫なの?」と質問があったようです(笑)。それぐらいギルは大きく排出されているので、ぜひ楽しんで下さい。特にバトルコンテンツ主力の方はアクアポリスにぜひ(笑)。
――今後インベントリーを増やすということですが、デイリーやウィークリー用のアイテムをイベントアイテムに移したり、スタック出来ないアイテムをスタック出来るようにするつもりはありませんか?
吉田氏:うーん、今この瞬間は良く思えるかもしれませんが、「FFXIV」はまだまだ続いていくので、これら通貨をデータ化してしまうと、今後データ形式の通貨が増えすぎると思うのです。蛮神デイリーやウィークリーの通貨は、3.xシリーズが終わると一区切りとは思うのですが、過去の通貨も「何かに使うかもしれない」と取っておく人が多いですね……。
ちなみに、データ化して「通貨タブ」に加えたとしても、それは開発側からみれば「セーブワーク」のひとつになるため、実際には所持品のデータを1枠増やさないといけないことになります。つまり、所持品枠が通貨専用として1枠増えているのと変わらないです。ですので、どうしてもアーマリーチェスト枠と所持品枠の拡大までは、今のままとなってしまいます、申し訳ありません。
――イシュガルド編で一番好きなシーンとキャラクターは何ですか?
吉田氏:キャラクターから先にお話しするとアルフィノです。アルフィノとアリゼーは、「FFXIV」が新生するにあたって、「旧FFXIV」のシナリオと新生を繋ぐ役割として立てられたキャラクターでした。実は彼が一番人間くさい、夢見がちな子供なんです。家柄も良く、頭も良い。でも、その頭の良さは勉強ができるという意味においてです。野心も情熱もある、だけど自分の手で何かを成し遂げたことがない。理想だけで突っ走った結果、初めての敗北、挫折を味わう。心が折れかねないほどの出来事を招いてしまった後でも、仲間に支えられ、一歩ずつ自分の手足で理想を再び積み上げ、また進んでいく……。彼の成長にはこだわりがあるので、この先もしっかりキャラクターを育っていきたいと思っています。
後はエスティニアンでしょうか……。彼は「旧FFXIV」の竜騎士のジョブクエストから登場しているキャラクターです。「FFXIV」が新生して、拡張パックをリリースする時、必ずその冒険の先はイシュガルドにする。彼の本番はそこから……とだけ決めて歩み始めたキャラクターです。ニーズヘッグが妹のラタトスクを人間の裏切りによって殺されて、すべての人間を憎むようになったのに対し、エスティニアンは逆に弟と両親を目の前で殺されて竜を憎んでいる。ニーズヘッグとエスティニアンは、竜詩戦争を代表する対になっているキャラクターなのです。ニーズヘッグは最後の最後まで孤独でした。ある意味、わかりあえる相手はエスティニアンぐらいだったのかもしれません。エスティニアンも孤独でしたが、光の戦士やアルフィノ、イゼルと旅を共にしたことで仲間ができ、それによって彼は踏みとどまった。この辺りが描き切れて満足しています。
シーンについては、作り手である僕がいうのもおかしな話ですが、教皇庁をクリアした後に起きる一連の出来事の中で、光の戦士がオルシュファンの手を握るシーンは、凄い回数のリテイクを出したので、とても想い出に残っています。あそこのシーンはリテイクが上がってくるたびに、深夜にブースで泣きながらチェックしていました。歳を取ったせいか、涙腺がゆるくて(笑)。あとは今回、竜の目をなんとかしようとするアルフィノのシーンもかなりこだわったところです。その2カ所は3.xシリーズで忘れられないパートですね。
――ニーズヘッグ征竜戦や禁忌都市マハの難易度について様々な意見が出ていますが、開発側の想定としてはいかがですか?
吉田氏:E3でのPLLでも少しお話ししましたが、もともと難易度は今まで以上に難しく、とは考えていませんでした。とにかくヴォイドアークを簡単にし過ぎたのが本当にマズかったと思っています。クリスタルタワーシリーズの24人レイドは、リリースされる度に最初の2週間ぐらいは、「カオス」と言われていたぐらい全滅しまくる、クリアできないことも多い、チャットで作戦や指示が飛び交うことが当たり前でした。それが徐々に安定して会話も減ってきて、パターン化していく。初見の新規さんがいると、パーティー内でコツだけ教えてあげるという文化でここまで上手く回ってきました。
しかしヴォイドアークは、ギミックわかっていなくても死なない、仮に死んでも立て直しがすぐにできる。これによって、難易度のイメージが変わってしまったことと、チャットする文化が消えかかってしまっていたのが、今回の「マハ」がより難しく感じられてしまう原因だと思っています。アレキサンダー零式:律動編の難易度が高かったので、それによる反動で、ヴォイドアークの難易度を下げすぎてしまったと思います。
今回マハをリリースしてショックだったのは、初日に皆さんのレイドの結果ログを見ていると、ボスで全滅しているのにチャットがなかったことです。ワイプしても黙々と突っ込んで、またワイプしてを繰り返していて……。ヴォイドアークの環境が長く続いたことで生じた結果だったので、非常に反省しています。
マハも今は安定してきて、チャットが少なくなってきていますが、慣れることによってチャットが減るのは想定内です。クリスタルタワーシリーズの難易度に戻したつもりですので、これで落ち着いてくれればありがたいと思っています。ただ、ボスの一体である「オズマ」の使う“デブリバースト”という技だけ、リリースする時にも悩んだのですが、一段難しいものになっています。今のところ、調整などの予定はないですが、今後レイドを作る際には、注意していきたいと考えています。
また、ボスが硬い、というご意見もありますが、バランスはアイテムレベル215にマテリア非装着で取っています。さらにリリース直前で、各ボスのHPを10%削ったぐらいですので、慣れの要素が大きいのだと思います。現時点では、バトル中に、戦闘不能状態の人が多く、その人はDPSが0になってしまうので、戦闘不能になる人が減れば、いつもくらいの硬さに感じられると思います。
ニーズヘッグ制竜戦の方も、難易度の落としどころは少し悩みました。“蒼天編”のラスボスにあたるので、動きはシンプルですが、攻撃をやや強めにしてあります。ドラゴンズエアリーでニーズヘッグと戦った時は、「竜の眼」で力を封じられているとは言え「弱いな!」と言われたので、今回はボスらしい威厳を保てるように、と。シナリオボスですので、ぜひ、蒼天編の集大成として挑んでいただけると幸いです。
――3.35が7月中旬公開予定ということですが、実装日は決まっていますか?
吉田氏:開発内では決まっています。僕がE3に来ている間に大問題が起きて遅れる可能性もあったので、今回は日付を言わなかったのですが、きっと大丈夫だとは思っています。