インタビュー

PS VR発売に向けて! SIE WWSプレジデント吉田修平氏インタビュー

システムの完成度に自信。日本のインディーにも大きな期待を寄せる

6月14日~16日 開催

会場:Los Angeles Convention Center

ついに発売日が確定したPlayStation VR

 6月13日に開催された「E3 2016 PlayStation Press Conference」から一夜明け、6月14日よりE3 2016が開幕。それに合わせ、SIEワールドワイドスタジオのプレジデント、吉田修平氏にインタビューを行なうことができた。

 今回のE3ではVRがひとつの大きなキーワードになっている。プレイステーション4向けのVRシステムであるPlayStation VR(以下『PS VR』)の発売も10月13日と正式に発表され、日本国内での予約も6月18日にスタート予定と、ファンとしてはいよいよローンチを待つばかり。そこで今回のインタビューでは、そのPS VRについて多くの質問をぶつけてみた。

 全世界で普及台数4,000万台を突破し、ゲームラインナップもますます充実しているPS4。その好調さを背景に、吉田氏はPS VRの完成度にも大きな自信を持っているようだ。

PS VRは予想以上の需要。「ぜひ欲しいという方は早めに予約を」

SIEワールワイド・スタジオ プレジデント 吉田修平氏

──今年はPS4が出て3年目ということで、どういった収穫がありましたか?

吉田氏:そうですね。当初はPS4のローンチを意識した形での、わりと手堅い作りのものが多かったと思いますし、他社さんのものでいえばPS3とPS4の両方に展開するというものが多かったと思いますが、3年目となると、もう最初からPS4だけを意識して考えられたコンセプトのものが増えました。それでかなり冒険というか、これまでやってないものをやろうというアグレッシブなものが揃ってきたという感じがありますね。

──象徴的なところでは「God of War」も、PS4じゃないと表現できないような描写がされていましたね。

吉田氏:かなり変わりましたね。PS3の「God of War: Ascension」を1つの区切りとして、PS4の「God of War」は全く新しい世界を描くようになりました。実はゲームシステムもかなり変えていまして、カメラも操作系も全部変えて、より戦略的なコンバットを意識できる、深みのあるゲームになっています。また親と子のテーマということで、クレイトスという存在をまったく1から考えなおしてキャラクター性を作りなおしています。全く新しいチャプターの1作目、という意識が強い作品になっていますね。

──プレスカンファレンスで紹介された新IPの中でイチオシというのはありますか?

吉田氏:今回で言えば、やっぱり新しく発表したタイトルはみんなイチオシですね。個人的には「人喰いの大鷲トリコ」ですとか、「Horizon Zero Dawn」なども、早くプレイしたいなとすごく思っています。

PlayStation VR

── 今回のE3ではPS VRも大きな注目を集めていると思いますが、海外のタイトルの比重が大きい中で、日本向けのタイトル展開はいかがでしょうか。ファンとしては全部をプレイしたいと考えるものだと思います。

吉田氏:私もそうですね。全部プレイしたいですね。日本向けのリストに載っていないタイトルでもすごく良い物がありますので、海外のタイトルも含めて全部皆さんに遊んで欲しいです。しかし残念ながら日本向けに発表したものは、これまでワールドワイドで発表したものを全部はカバーできていません。

 日本向けのリストに載っていないタイトルについては、ローカライズの都合や、パブリッシャー関連の事情があります。特にVRはインディーのタイトルが多かったりしますので、準備が整い次第という感じになると思います。ですがVRのタイトルはローカライズがほとんどいらないものが多いので、まだまだ続報があるはずだと、私も期待しています。

── GDCの時点で、当初今年の6月までを予定していたPS VRの発売時期を10月に伸ばした理由として、潤沢なソフトの数を用意するため、ということを挙げていました。そのあたりについて、今の状況はいかがですか?

吉田氏:海外では予約をとっていまして、割といい感じで予約が入っています。日本でも6月18日に予約をスタートしますが、絶対買いたいという方は、そこで予約を入れていただけると嬉しいですね。ちょっと需要が読めない部分がありまして、これまでの感じで言うと、我々が予測するよりも需要が大きくなっているという印象もありますので、ぜひ欲しいという方は早めに予約をしていただきたいなと思います。

「VRの技術を使ってできることを増やしたい」

新発表のガン型VRコントローラーを使う「Farpoint」
「PS VR Aim Controller」

── 「Farpoint」ではPS Move モーションコントローラーに銃型のアタッチメントをつけたようなデバイスを使用していましたね。

吉田氏:「PS VR Aim Controller」ですね。トラッキングの技術は同じようなものを利用していますが、デバイス的にはPS Moveそのものを組み合わせたものではなく、独自のデザインになっています。「Farpoint」と同時に発売しますが、それに限らず、どのデベロッパーさんでも対応ゲームを作っていただけるようになっています。

── 銃型コントローラーにアナログスティックもついていて、VR内での移動をスムーズにできるようになっていますね。また、ライフル型という形状も独特です。

吉田氏:あれは、体験としてすごいですよ。FPSファンの方にはぜひやっていただきたいですね。こう構えると、盛り上がりますよね。ゲーム内で銃を構えている動きと一致しているということで、すごくテンションがあがるんです。

── 「バイオハザード7 レジデント イービル」のVRデモも含めて、VR内での移動もスティック操作でやるというのはかなりチャレンジングですね。ゲームの幅を広げる一方、VR酔いを引き起こしてしまうという難しいトレードオフがあると思います。

吉田氏:そこはクリエイターさんたちもかなりチャレンジしていると思います。「RIGS」もそうですけど、VRの技術を使ってできることを増やしたいんですよね。もちろん快適に、誰にでも楽しんでいただきたいという思いがあるなかで、それでもゲーマーの夢とか、クリエイターの思いを実現したいと。そこは日々努力している感じですね。

── Oculus等ですと、ストア上で各タイトルに快適度みたいな指標がついていますが、PS VRのストアでも同様の表示はされるんでしょうか?

吉田氏:いろいろ検討はしたのですが、これまでもレーティングについては業界全体に合わせてやってきたこともありまして、自社だけで基準を作るのは、主観的なものになってしまってとても難しいと。ですので、そこは業界での取り組みを期待するという感じになっています。

── 体験デモではPS Moveを使ったコンテンツが多く出ていますが、ワイヤレスコントローラー(DUALSHOCK 4)で遊べるものとの比率は実際にはどのようになっていますか?

吉田氏:DUALSHOCK 4はポジショントラッキングにも対応していますので、ほとんどのタイトルがDUALSHOCK 4でも遊べるようになっていると思います。そのほうが最大のユーザー数をカバーできますからね。ただ、PS Moveを使うとさらに楽しいとか、「Farpoint」みたいに専用のコントローラーを使いたい、といったものは今後も出てくると思います。ちなみに「Farpoint」はDUALSHOCK 4でも遊べます。VR感、センス・オブ・プレゼンスという意味ではやや落ちることにはなりますが、ゲームとしてはきちんと楽しめますね。

── PS Moveが必須のコンテンツもありますか?

当初はPS Move向けに作られていたものをPS VRに対応させたら大ハマリしたという「つみきBLOQ VR」

吉田氏:現時点ではPS Moveが必ず必要というコンテンツは把握していません。私達としては、コンテンツのクリエイターに対して「DUALSHOCK 4もトラッキングできるので、対応きるかどうかぜひ検討してください」という相談をしている感じですが、そこは最終的にはクリエイティブの判断だと私は思っています。ちなみにファーストタイトルについては、「The London Heist」や「Until Dawn: Rush of Blood」、今回発表した「つみきBLOQ VR」も、PS MoveとDUALSHOCK 4の両方で遊べます。ですが今後、HTC ViveやOculus Touch向けのタイトルがPS VRに来るときは、PS Moveが前提になるタイトルも増えていくと見ています。

── そういったPC用VRコンテンツのPS VR向け横展開、というのも今後増えていきそうですか?

吉田氏:そうですね。今年はやっぱり“VR元年”ということで、独立系の皆さんが作られるVRコンテンツが幅広いプラットフォームで販売されて、離陸をしていくというのがすごく大事だと思っています。ですので今後、PCからPS VRへの展開も増えていくと期待しています。個人的にはもう「Budget Cuts」をぜひ、PS VRで出して欲しいと(笑)。あれはホントに面白いですよね。まだデモ版なのに1番おもしろくて、誰にでも勧めやすいという(笑)。

PS VRは長年の成果。「自分たちが想像していたよりも良い物ができて嬉しい」

VRはまだまだアイディア勝負が可能で、インディーにとって大きなチャンスと語る吉田氏
PS VRでトリップできるリズムアクション「Thumper」。たったの2人で開発しているという

── 日本のインディーにもVRコンテンツを作ってもらいたい、という気持ちは強いですか?

吉田氏:それはすごくあります。今、普通のコンソールゲームを開発するのは規模的に非常に大変になっています。何百人で、何十億円もかけてと。普通のインディーも大変ですよね。タイトルがすごく増えてしまって、タイトルを目立たせるのが難しくなっています。PlayStation Networkでも毎週のようにいいタイトルが出てきちゃってますよね。

 そんな中でVRというのは、今後1~2年、アイディアひとつで大活躍できる大チャンスだと思うんですよ。さっきの「Budget Cuts」なんて2人で作ってますからね。PS VRの「Thumper」も2人で作っています。ですから今、少人数でも勝負できるぞということで、アジアのデベロッパーがすごくアツいですね。日本のみなさんにもぜひそれに気づいてほしいなと思います。最近はVR向けのファンドも多くありますしね。

── VRの研究は、2010年にPS Moveが発売されたころから始められたと聞いています。それから6年、本当に長いプロジェクトになって、それがいよいよPS VRの発売という形で結実します。これについてどういった感慨をお持ちですか。また、今後の課題を教えて下さい。

吉田氏:開発を始めた頃はほんとに、クラブ活動みたいな感じでした。好きだから時間外でやっているというものが、ここへきて商品として、システムとして自分たちが想像していたよりも良い物ができたという手応えがあり、大変嬉しいです。

 その中で同時多発的に、OculusさんとかHTCさんも素晴らしいVRシステムを出されたことは、我々にとってもすごくラッキーなことだったと思っています。これだけ期待感が上がっている中で、PS VRで初めてVRに触れるという方がすごく多くなると思うんです。そこで「これは素晴らしい」とか、「人に勧めたい」と思っていただけるような体験を、システムとコンテンツの両面でお届けしていかなくてはならないと。その責任はすごく重く感じていますね。

 ですので課題としては、どうやればいいVR体験を作れるかという研究を続けていくことと、そのノウハウをみんなでシェアしていくということだと考えています。そしてVRは体験しなければわかりませんので、体験機会をどんどん作り、ひとりでも多くの人に触れていただけるようにしたいと考えています。日本では予約開始と同時に、全国のソニーストアをはじめとして、できるだけ多くの場所でPS VRを体験いただけるように努力していきます。それが課題といいますか、我々がやらないといけないことですね。

── ありがとうございました。