インタビュー

マーベラス次期代表取締役副社長 泉水敬氏インタビュー

実はFPSは3D酔いで無理だった!? マーベラスでは海外事業を強力に推進

6月14日~16日開催

会場:Las Angeles Convention Center

 先月、マーベラスが役員人事を発表したが、その中で代表取締役副社長に就任する人物がひときわ注目を集めた。その人物とは2015年までMicrosoftに在籍し、約9年に渡って日本のXbox事業責任者を務めた泉水敬氏だった。

 泉水氏は、すでに発表されている通り、6月21日の定時株主総会および取締役会において正式に決議され、マーベラスの代表取締役副社長に就任する予定となっている。

 今回のE3は、マーベラス顧問という立場で参加し、マーベラス/XSeedブースで対応に当たっていた。泉水氏はまだ顧問という立場だから何も言えないと言いつつも取材に応じてくれた。泉水氏には、Microsoftを離れた理由と、マーベラスでのビジネスについて話を伺ってきた。

Microsoftを退社した理由と、現在のXboxについて

マーベラス/XSeedブース
2006年2月にXbox事業本部長に就任した際の泉水敬氏
2014年9月に実施されたXbox Oneローンチを記念した24時間イベントの際の泉水氏

――Microsoftを退社されたのはいつですか?

泉水氏:2015年の7月15日です。

――退社後すぐにマーベラスから話があったのですか?

泉水氏:いえいえ、お話をいただいたのは2016年に入ってからでした。2月から顧問で入らせていただいて、社内の状況を見させていただいております。それで来週の株主総会で代表取締役副社長ということになります。ただ、Microsoftを辞めてマーベラスといっても、その間に1年経過しています。基本的にはぶらぶらしていたのですが(笑)。

――マーベラスでの担当は海外ですか?

泉水氏:国内外のマーベラス全体のオペレーションと、その中で海外の事業の推進というのがフォーカスエリアになっています。国内は担当役員がおりますのでこれまで通りやっていただくのですが、国内についても会社を大きくしていく上で変えていった方がいい部分については変えていきたいと思っています。

――しかし、どうしても伺っておきたいのですが、なぜMicrosoftを辞められたんですか?

泉水氏:ハハハハ。いや、長かったですから。マイクロソフトに入社してXboxの担当になって事業責任者としてもう9年やりましたから。

――それではXbox Oneの日本展開の影響によって辞めたということではないのですか?

泉水氏:そうではないですね。

――今のXboxの取り組みを外部からご覧になってどのような感想をお持ちですか?

泉水氏:とても良くなっていると思いますね。ソニーさんや任天堂さんと比べても見劣りしないと思います。

――今回、Xbox One SとProject Scorpioという新型Xboxが発表されましたが、これらについてはどのようにご覧になりましたか?

泉水氏:そうなんですか? 私はXboxの発表会に行ってないので知りませんでした。そうなんですね、素晴らしいですね。

――在籍中に新型の話はあったんですか?

泉水氏:それについてはコメントできませんが、その話を聞いてびっくりしたというところです。

――XboxはWindows 10と融合し、また新しい展開を見せていますが、日本マイクロソフトのXboxチームに対するアドバイスは何かありますか?

泉水氏:Windowsプラットフォームと融合していくことによって色んな意味での広がりが出てくると思うので、引き続き日本でも頑張って欲しいなと思いますね。

マーベラスでのビジネスについて

日本のコンテンツを好む欧米ゲームファンが増えてきているという

――今後泉水さんはマーベラスの事業展開に尽力していくわけですが、まずは何から手を付けていきたいですか?

泉水氏:まずは海外ですね。日本で作ったコンテンツを海外で展開していくというのが最初の仕事になると思います。ここ北米はXSeedという子会社がありますから比較的キチンとできていますが、ヨーロッパでもう少しキチンとやっていきたいですね。

――ヨーロッパの拠点はどこですか?

泉水氏:ロンドンだと思いますね。

――まだそういうレベルなんですね(笑)

泉水氏:そうそう(笑)。まだ顧問ですから、来週就任してからが本番です。

――マーベラスさんは、女の子が活躍するゲームが多いですが、海外展開は難易度が高いと感じられていますか?

泉水氏:女の子と「牧場」ようなゲームと両方ありますよね。上手く使い分けながらやっていきたいですよね。

――Xboxのファーストパーティータイトルは「Gears of War」や「Halo」などコアゲーマー向けのコンテンツが多いので、マーベラスのコンテンツとの違いにカルチャーショックは受けませんでしたか?

泉水氏:そういう風に見えますか? そんなに私の日本語下手ですか?(笑)。

――いえいえ、それだけ英語がネイティブだということが言いたいのですが(笑)。Electronic ArtsやUbisoftならしっくり来る印象がありますね。

泉水氏:外資のイメージが強いかもしれませんね。ただ、Xboxをやっていたときもそうですが、日本のコンテンツをもっと海外に出していきたいという思いは強かったので、そういう意味では、マーベラスが持っているコンテンツを、ゲームに限らず、ご存じのようにマーベラスや舞台やアニメもやっていますので、そういったコンテンツを含めてやっていきたいですね。

――現在マーベラスが抱えている課題とは何だと思いますか?

泉水氏:ひとつは海外展開です。海外戦略を少し整理した方がいいというのはあるんですけど、国内を見ても、それぞれの事業が成長してきているんです。コンシューマー、オンライン、スマホと、舞台もアニメもアーケードもそうです。それぞれ成長してきているんですが、お互いのシナジーが発揮できるように、各事業部を横串で差すことができると次の展開が見えてくるのではないかと考えています。せっかくそれだけのコンテンツの提供方法を持っているので最大限に活かしていきたいです。

――北米ではすでXSeedがあってすべて展開できているということですが、ローカライズはどのような状況なのですか?

泉水氏:キチンと出来ていますよ。ただ、XSeedのローカライズ部隊と、開発チームの連携には改善の余地があると思いますね。今回も「牧場物語」は、日本語で見ていただいているんですけど、しっかりコーディネートすることにより英語にできるのではないかと思います。日本語でも雰囲気は見ていただけますし、伝わらないということはないですが、やはり伝わりにくいですよね。

――現在XSeedは何人ぐらいの組織なんですか?

泉水氏:北米だけで16名ぐらいです。ヨーロッパにも何人かいます。

――XSeedは北米向けのオリジナルコンテンツの企画開発は行なっているのですか?

泉水氏:いえ、ありません。基本的にはマーベラスのコンテンツと、日本の他社さんのコンテンツをいくつか扱っています。日本のコンテンツを海外に展開していくのがXSeedの役割です。

――マーベラスさんというと、「剣と魔法のログレス」や「ブラウザ三国志」など、Aimingさんのコンテンツが人気ですが、こういったモバイルゲームやブラウザーゲームの海外展開はどのような状況ですか?

泉水氏:すでに「ログレス」は台湾でも提供していますし、今後中国を含めたアジア圏でも展開を考えていますけども、その次は北米・ヨーロッパだと思うんですね。現在はご存じのように、まだキチンと展開できてないので、そこも今後見ていくところですね。

――ということは現在XSeedさんが北米で展開しているのはコンソールゲームだけなんですね。

泉水氏:そうですね。ただ、オンラインのゲームを展開するとなると、コンテンツの供給スタイルが変わりますから、恒久的に運営をしていかなければなりませんから、ちょっと準備に時間が掛かります。ただ、私はコンシューマーゲームも、まだ国内は十分やっていけると思っていますし、そうしていきたいですね。

――来週の就任後は、新しいマーベラスの顔として、発表会をはじめ様々なところでお見かけすることになりそうですね。

泉水氏:いえ、私は出ません、もういいでしょう(笑)。キチンと各タイトルごとにプロデューサーも、ゲーム担当の役員もおりますので、私は裏方です。

――マーベラスさんは、「閃乱カグラ」をはじめ、お色気といいますか、比較的露出の多いゲームが多いですが、これらの海外展開はいかがですか?

泉水氏:北米では「閃乱カグラ」が人気を博しています。ヨーロッパでも徐々に拡大してきています。お色気といっても、「カグラ」シリーズは色気だけではないですし、露出がそれほど高いわけではありませんので、こういった日本らしいキャラクター、女性像を好まれるユーザーさんも欧米にはいらっしゃいます。

――Microsoftからマーベラスというと会社のカルチャーが大きく違うのではないですか?

泉水氏:まったく違いますね。日本の上場企業ですし、私にとってもチャレンジですよね。日本の企業で働くのは20数年ぶりですし、その前はリクルートですが、リクルートが本当に日本の企業と言えるかどうかについてはともかくとして、それ以来ですから。

――もっとも違いを感じたのはどの辺ですか?

泉水氏:もっとも驚いたのはMicrosoftに比べて会社の規模も社員数も少ないですが、とてもしっかりしている会社だったことです。

――もっとアバウトな会社だと?

泉水氏:かなとも思ったんですけど(笑)、キチンと管理・経営しているなというのが驚きでしたね。

――今後、ゲームパブリッシャーとしてのマイクロソフトとマーベラスの距離が近くなったりすることはあるのでしょうか?

泉水氏:どうでしょう。それはマイクロソフトだから近くなるということはなくて、ソニーさん、任天堂さんとは同じ距離で近づいていきたいと考えています。特に私にとってソニーさん、任天堂さんは、新たなお付き合いになりますので(笑)。正式に就任した後、速やかに挨拶にお伺いしたいと思っています。

ゲーム業界にカムバックした泉水氏は、実は3D酔いするタイプ

マーベラスキャラクターと共にカメラに収まってくれた泉水氏。今後のマーベラスでの活躍を期待したい

――先ほど、1年間ぶらぶらしていたというお話でしたが、本当は何をされていたのですか?

泉水氏:色んな業界を見てまして、ゲーム業界に残るというか戻る気は当初無くて、新しい業界にトライしようかとみていたんですが、やっぱりこの業界が好きみたいです。また戻って着ちゃいました(笑)。

――ゲームはやりますか?

泉水氏:やりますよ。

――最近おもしろいと思ったゲームは何ですか?

泉水氏:そこまで色々やっているわけではないので、わからないですけど、マーベラスに入ることになって、マーベラスのゲームは一通りやりましたよ。あとはXboxの昔のゲームを引っ張り出して遊んだりしていますよ。

――どんなゲームですか?

泉水氏:クルマ、飛行機系が多いかなあ、あまりシューター系はダメなんです。

――昔のクルマのゲームというと「Project Gotham」とかですか?

泉水氏:それは古いですね(笑)。よくそんなことまで覚えていますね。実はですね、私、FPSをプレイすると酔っちゃうんですよ。だから「Halo」や「Gears of War」がダメなんです。今までは絶対に言えなかったんですけど、まさかXbox担当していて「『Halo』、『Gears』ダメです」なんて口が裂けても言えなかったけど、実はFPS苦手なんです(笑)。昔コミュニティイベントでユーザーの皆さんと一緒に「Halo」をプレイしていたんですけど、かなりギリギリでした。

――それはまさに今だから語れるエピソードですね(笑)。それでは日本の泉水ファンに向けてメッセージをお願いします。

泉水氏:そんなファンいないって(笑)。

――いますよ。そうでなければ一昨年のXbox Oneの日本のローンチイベントはあんなに盛り上がらなかったと思います。

泉水氏:そうでしたね。ファンに喜んでいただいて嬉しかったです。私は作り手ではないので、これからゲームを作っていくということはできないんですが、以前からやってきたことですが、日本の良いコンテンツを、良い状態で、ユーザーの皆さんが遊びやすい形で、これからはマーベラスと少し立ち位置が変わりますけど、引き続きやっていきますので、あまり表に出ることはありませんが、これからもどうぞよろしくお願いいたします。

――ありがとうございました。頑張って下さい応援しております。