【特集】
【夏休み特集】「Apple Vision Pro」自由研究! PCVRやリモートプレイなど1カ月使ってわかったゲーム要素
2024年8月14日 00:00
- 【Apple Vision Pro】
- 6月28日 発売
- 価格 256GB:599,800円
- 512GB:634,800円
- 1TB:669,800円
今年6月に日本でも発売となったAppleの空間コンピュータ「Apple Vision Pro」。Appleでは久しぶりとなる新ジャンルのハードウェアで、どんなハードに仕上がっているのか気になっている方も多いと思うが、その高額な価格設定ゆえに購入した方は一握りといったところだろう。
そしてGAME Watch読者の方は、“空間コンピュータと言っているけれど、VRヘッドセットと何が違うの?”と思っている方も多いはずだ。実際に購入した筆者も、到着するまでは「VRヘッドセットとそこまで変わらないだろう」と思っていたのだが、使ってみると「空間コンピュータってこういうことか」と納得のいく部分があった。
そこで本稿では1カ月使ってみてわかった「Apple Vision Pro」のゲーム用途での使い方を紹介。一体どんなハードウェアなのか、どんなゲームをプレイできるのか、ゲーム用途ではまだまだ謎が多い「Apple Vision Pro」を追求していこう。
そもそも「Apple Vision Pro」って?
まずは「Apple Vision Pro(以下、Vision Pro)」について簡単に紹介しておこう。Vision ProはApple初の“空間コンピュータ”で、2023年6月に開催された「WWDC23」にて発表。その後8カ月のブランクを経て、2024年2月にアメリカで先行発売されたあと、2024年6月に日本でも発売となった。
Appleとしては「Apple Watch」以来となる新ジャンルのハードウェアで、発表時には大きな話題となったが、256GBモデルで約60万円と非常に高額なためユーザーはまだ少ない。筆者は2月にアメリカまで出向いて購入しようと考えたこともあったが、円安真っ只中ということもあり断念。日本で予約が開始されてからも悩んだが、意を決して購入することにした。
Vision Proはユーザーに合わせてフィッティングされるので、購入時にFace ID搭載のiPhoneまたはiPadを用いて、顔をスキャンする必要がある。筆者は地方居住のため、Apple Storeでの試着や体験はせずにオンラインで購入した。
AppleはVision Proのことを“空間コンピュータ”と呼んでいるが、ハードウェアの構造はVRヘッドセットと同じだ。装着するとディスプレイ越しに現実世界が映し出され、アプリアイコンが浮かんでくる。いわゆる複合現実で現実世界とデジタル世界を融合させている形だ。完全に仮想世界に没入することも可能で、上面にあるデジタルクラウンを回すと、大自然を味わうことができる。
Vision Pro本体にはSoCやストレージ、各種センサーが内蔵されており、スタンドアロンで使用可能。多くのVRヘッドセットと異なるのは、両手用のコントローラーが付属せず、基本的な操作を視線と手、声で行なうことだ。視線がマウスカーソルのように機能し、手はクリックボタン、声で文字入力ができる。また外部機器としてBluetooth接続のキーボードとコントローラーに対応しており、今年の秋からマウスも使用可能になる。
そしてVision Proは、ゲームや動画鑑賞といったエンタメ用途のみならず、SlackやKeynoteといったアプリを複数並べて、作業環境を構築することで仕事も可能。マルチに活躍するPCやタブレットのようなハードウェアで、これがAppleがVRヘッドセットではなく、“空間コンピュータ”と呼ぶ理由だろう。
筆者は購入する前、Meta QuestのようにVRゲームをプレイできるのか、iOSでリリースされているスマホゲームはプレイできるのか、PCと接続してPCVRゲームができるのか、という3つの疑問を抱いていた。先に結果を言っておくと全て“できる”のだが、まだ未熟な点が多いというのが現状だった。ここからは「Vision Pro」でどのようなゲームがプレイできたのか、用途ごとに紹介していこう。
まずはVRゲームをプレイ! 高画質だが本体が重い
最初にVision ProでVRゲームをプレイしてみた。Vision Proが搭載する「visionOS」は、iOSと同様にApp Storeからアプリをダウンロード・購入できる。Meta Quest ストアで販売されているタイトルも一部移植されており、「Job Simulator」(Owlchemy Labs)や「Demeo」(Resolution Games)といったVRゲームをプレイ可能だ。
筆者は2016年の「Oculus Rift」から始まり、最新の「Meta Quest 3」まで様々なVRヘッドセットを被ってきた。その中でもVision Proは最も高価かつ高スペックなハードウェア。ディスプレイの解像感はこれまでで最も良好で、最初期に言われていた“スクリーンドア現象”も皆無だ。iPhoneやiPadに通ずる非常に滑らかな映像が広がっている。
実際に「Job Simulator」をプレイしたところ、視線を使用したフォビエートレンダリングも相まって映像は非常に美しい。コントローラーは無いためハンドトラッキングによる操作になるのだが、ゲーム内のオブジェクトを掴んだり離したり、入力感度も良好で快適にプレイ可能だ。
実は「Meta Quest」シリーズもハンドトラッキングに対応しているのだが、まだ対応ゲームが少ないというのが現状。「Job Simulator」は数少ないハンドトラッキングに対応したゲームで、Vision Proのハンドトラッキングの精度は非常に高い。一方のQuest 3はハンドトラッキングの精度は一歩及ばないが、必要に応じてコントローラーに切り替えられるので、不満を感じることはない。
映像については、今回使用したQuest 3と比較するとやはりVision Proの方が高画質なのだが、Quest 3も決して劣ってはおらず、7万円台という価格面を考慮すると「Quest 3」は十分に健闘している。Quest 3がWQHD解像度で必要十分なモニターだとすると、Vision Proは4K解像度で綺麗なモニターという感じだ。
スペック比較表(本体) | Apple Vision Pro | Meta Quest 3 |
---|---|---|
SoC | M2+R1 | Snapdragon XR2 Gen2 |
解像度 | 両目合計2,300万ピクセル(詳しい解像度は非公開) | 両目合計約911万ピクセル(片目あたりの解像度:2,064×2,208) |
リフレッシュレート | 最大100Hz | 120Hz(テスト機能使用時) |
RAM | 16GB | 8GB |
ストレージ | 256GB、512GB、1TB | 128GB、512GB |
重さ | 600~650g(+バッテリー:353g) | 515g |
トラッキング | 6DoFサポート | 6DoFサポート |
オーディオ | スピーカー(オーディオレイトレーシング対応)、6マイクアレイ | スピーカー、マイク内蔵(3.5mmイヤホンジャック対応) |
バッテリー | 2時間(一般的な使用) | 平均2.2時間(最大使用可能時間) |
アイトラッキング | 対応 | 非対応 |
IPD(瞳孔間距離) | 調整可(51mm~75mm) | 調整可(53~75mm) |
続いてはタイトルラインナップ。Meta Quest ストアは2019年の「Oculus Quest」から5年かけて、様々なVRゲームがリリースされ「Beat Saber」や「8番出口VR」といったタイトルが揃っている。だがVision ProのApp Storeはリリースから半年しか経っておらず、VRゲームの数はまだ少ない。またコントローラーが無いため、Meta Questで展開されているタイトルをそのまま移植できないというのも難点の一つだ。
そしてVision Pro本体のビルドクオリティは高いのだが、VRヘッドセットとして使用するには重い。本体のみで638g(ポケットに入れるバッテリー込みで約1kg)もあり、座って使うときは問題ないのだが、激しく動くとVision Proの重さを体感する。さらに外部バッテリーの紐が腕に絡まったりして、没入感が削がれてしまうときもあった。
高画質であることは認めるが、現時点でのタイトルラインナップと本体の重さがデメリット。Vision ProをVRヘッドセット目的で購入するのは、素直にオススメできないというのが筆者の正直な思いだ。タイトルラインナップは今後の展開を待ちつつ、本体の重さは後継製品での軽量化に期待したい。
まだ動作は不安定だけど……。Vision Proで「SteamVR」というロマン!
やはりVRゲームが一番展開されているプラットフォームと言えば、ゲーマーお馴染みの「Steam」だ。やはりVRといえば、ゲーミングPCにVRヘッドセットを接続して楽しむ方が多いだろう。
だがVision ProはApple製のハードウェアであり、ゲーミングPCと組み合わせることは想定されていない。だが、海外の有志たちが「Vision Pro」をSteamVRに対応させるためのソフトウェア開発してしまったのだ。
「ALVR」は本来Meta QuestとWindows PCを無線で繋ぐためのソフトウェアなのだが、これをvisionOSにも対応させたことで、Vision ProでSteamVRがプレイできるようになった。現在はベータ版という形で提供されており、Vision Pro側はApp Storeからアプリをダウンロード、PC側はソフトウェア開発プラットフォーム「GitHub」からソフトウェアを直接ダウンロードする必要がある。
操作には手を使ったジェスチャー操作と、Nintendo SwitchのJoy-Conを使った方法の2種類がある。ジェスチャー操作を選ぶとフリーハンドでプレイできるのだが、操作性にクセがあるため今回はJoy-Conを使用した。
ゲームプレイ中は映像にブロックノイズが入ったり、音声が途中でプツプツ途切れたりと、まだベータ版ということもあり動作は少し不安定。だが、全くゲームをプレイということはなく、いつものSteamVR感覚でプレイできた。
「ALVR」でVision ProをPC用VRヘッドセットとして使用すれば、Steamで配信されている「VRChat」(VRChat Inc)や「The Elder Scrolls V: Skyrim VR」(Bethesda)、「VRカノジョ」(ILLUSION)など無数のVRゲームをプレイできる。もちろん、これらはVision Proでなくともプレイできるのだが、“AppleのVRヘッドセットでSteamVRを動かす”というロマンを実現してくれた有志たちには頭が上がらない。
スマホゲームを大画面で楽しめる! iPad/iPhoneと互換性があるVision Pro
visionOSは、iOS/iPadOS用アプリとの互換性を備えているため、App Storeで展開されているスマホゲームを大画面で遊ぶことが可能だ。この点はモバイル端末からPCまで手掛けるAppleのエコシステムならではのポイントとなっている。
だが全てのアプリがVision Proで動く訳ではなく、今プレイしているゲームが「Vision Pro」に対応しているかどうかは、App Storeにて確認する必要がある。ストア画面の“互換性”に「Apple Vision」と表示されていればプレイ可能で、筆者が確認した範囲だと「幻塔」(Level Infinite)や「ドールズフロントライン」(SUNBORN)、「Fate/Grand Order」(アニプレックス)といったタイトルが対応していた。
一方で「パズドラ」(ガンホー)や「モンスターストライク」(MIXI)、「ブルーアーカイブ」(NEXON Games)などは対応しておらず、筆者が今ハマっている「ゼンレスゾーンゼロ」(HoYoverse)も非対応だった。同じHoYoverseタイトルでも「崩壊:スターレイル」と「崩壊3rd」は対応しており、「原神」は非対応など対応状況はまちまちとなっている。
プレイする時は、選択したいところに視線を合わせて手でクリックするか、仮想ディスプレイを直接タッチすることもできる。対応ゲームであればBluetoothコントローラーも使用可能だ。
Vision Proの仮想ディスプレイは、iPhoneやiPadとは比にならないほど大きく、まるで映画館でゲームをプレイしているような新鮮な気持ちで楽しめる。解像度や応答速度も全く問題なく快適なゲームが可能。VRヘッドセット用途とは違い、座って使用するため激しい動きが無く、Vision Proの重さを感じることもない。
一方でMacや一部のiPad/iPhoneで展開されている「DEATH STRANDING」(505 Games)や「バイオハザード」(カプコン)といった重量級ゲームは現時点でプレイできない。このあたりが対応すれば、どこでも大画面でAAAタイトルをプレイできるようになるので、ぜひとも対応していただきたいところ。しばらくの間、Vision Proでゲームをする場合はスマホゲームが主流になりそうだ。
大画面テレビでも物足りなくなる! PS5やXbox SX、Steam Linkでリモートプレイ
続いては「Vision Pro」を使ったリモートプレイだ。今回はApp Storeで配信されているアプリ「MirrorPlay」(Florian Grill)を使って、PS5のゲームをリモートでプレイしてみた。PS5のリモートプレイにはSIE純正のアプリ「PS Remote Play」があるが、こちらはvisionOSに非対応のため、今回はサードパーティによるアプリを使用している。
設定方法は「PS Remote Play」とほぼ変わらず、いつも使用しているPSアカウントでログインしたあと、いつも使っているPS5とペアリングするだけ。プレイ体験は「PS Remote Play」と変わらず、操作は表示されるゲームパッドでもできるのだが、あまり現実的ではないため、DualSenseといったBluetoothコントローラーの使用をオススメしたい。
注目したいのはテレビより大画面でプレイできるところ。筆者宅のテレビは55インチなのだが、Vision Proは4~5m先に100インチ相当のディスプレイがある感覚だ。もちろん、リモートプレイは遅延を考慮する必要があるため、動きの激しいFPSといったジャンルには向かないが、RPGやシミュレーションゲームをプレイする際は超大画面で快適に楽しめる。
またiPadアプリの互換で「Xbox」や「Steam Link」がvisionOSに対応済みのため、これらを利用すればXbox Series X|SやPCゲームをリモートでプレイできる。後述するのだが、筆者が使ってきた中でリモートプレイが一番プレイ時間が長かった。
なお「GeForce Now」や「Xbox Cloud Gaming」といったクラウドゲーミングは、visionOSでアプリが配信されておらず、標準ブラウザのvisionOS版「Safari」がクラウドゲーミング(正確にはPWA)に対応していない。別途「Nexus」というブラウザをインストールするか、「Safari」が正式対応するのを待つ必要がある。
コンソール機のリモートプレイが大活躍! 実際に1カ月使ってどうだった?
筆者は7月上旬に到着してから約1カ月間、毎日2~6時間ほど装着してきて生活の一部にVision Proがだいぶ馴染んできた。主な使い方はブラウジングのほか、映画鑑賞やYouTube視聴、コンソール機のリモートプレイがメインだ。
特に活躍したのがコンソール機のリモートプレイ。到着して少し経った頃にパリオリンピックが始まったことで、家族がテレビに夢中になってしまい、ゲーム目的でのテレビ使用が憚られていた。従来であればiPadでリモートプレイをしていたのだが、ディスプレイが11インチと小さいので、サクッとゲームする分には問題ないのだが、長時間のゲームにはあまり向かない。
だがVision Proによって、テレビ並みの大画面でリモートプレイが可能になり、家族がオリンピックに夢中になっているのを横目にゲームへ没頭できるようになった。また空間上にリモートプレイの画面を表示しつつ、横にYouTubeを置いたり、テレビのオリンピック中継を見たりできる。空間に複数のディスプレイを並べつつ現実世界を見られるので、ながら作業が非常に捗るのだ。
ゲーマーとして気になるのは「Meta Quest 3」とどちらを購入するべきかという点。先に結論を述べておくと、VRゲームやPCVRでの使用がメインであれば迷うことなく「Quest 3」をオススメする。Meta QuestストアのタイトルラインナップやSteamVRへの正式対応、性能と価格のバランスの良さなど、Vision Proを使ったことで改めて「Quest 3」のコスパの高さを思い知った。
一方でPCやiPadを置き換えるモノとして、Vision Proは非常に興味深いハードウェアだ。筆者は今年5月に「iPad Pro(M4)11インチ」を購入したが、Vision Proを導入してからはiPadの出番がめっきり減った。ブラウジングや動画視聴、リモートプレイなど、iPadで行なっていたほぼ全ての作業を空間上の大画面で行なえるため、一枚のディスプレイに縛られるというストレスがない。
一カ月使ってきた中で、空間コンピュータでゲームをする時代はすぐそこまで来ていると感じた。ディスプレイの解像度や応答速度は申し分ないレベルに達していて、動画を見ながらゲームといった“ながら作業”ができる一方で、現実世界を「環境」で隠すことでゲームに集中できる状況を作り出すことができる。ゲーマーにとっての理想の環境を兼ね備えているのだ。
だが“非常に興味深い”としたのは、Vision Pro自体がまだゲーム向けとは言いにくいハードウェアだから。本体&バッテリーは合計で約1kgと重く、バッテリーは最大でも2時間半しか持たない。visionOSも若干不安定で時々再起動したり、コンテンツも足りていない印象だ。それでいて価格は最低でも約60万円と、ゲーミングPCであれば最高スペックのものを購入できる。Vision Proでの体験は大きな未来を感じるが、ハードウェアがまだ完全には追い付いていないと筆者は思う。
筆者が今後の「Apple Vision」に期待したいところは、やはり重量と価格だ。重量はせめて500g台を切りながらバッテリーを内蔵してほしいところ。価格は一般的なゲーミングPCと同じくらいの20万円台、廉価モデルが登場するならば10万円台を期待したいところだ。UIなどは今年秋に配信予定の「visionOS 2」で変更が加えられるので、まずは今後のアップデートを待ちたい。
正直、現時点でゲーマーの方々に「Vision Pro」をオススメするのは少し難しい。VRヘッドセットとしては未熟で、App Storeのゲームタイトルもまだ少なく、ゲームを遊ぶためのハードウェアとは言えない。だが、スマートフォンやタブレットのように空間コンピューティングが今後発展すれば、「Apple Vision」を用いた新しいゲームの遊び方が構築されるはずだ。
それでも筆者が「Vision Pro」を使っている理由は、先述のように一つのディスプレイに縛られないという快適さがあるから。アプリやウィンドウを切り替える必要が無く、アプリのある方向に向くだけという空間を活かしたマルチタスクが可能だ。
これまでの当たり前を覆すハードウェアとして「Apple Vision」は無限の可能性を秘めている。空間コンピューティングが気になる方は、お近くのApple Storeでデモを予約可能。購入しなくても「Vision Pro」による少し先の未来を体験できるので、ぜひ店頭に訪れてみてほしい。
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