【特集】
クラファンで資金を募り、念願の初BlizzCon上陸を果たした「オーバーウォッチ」日本代表
出場選手と代表のみずイロ氏が大会と「オーバーウォッチ2」発表を振り返る
2019年11月12日 11:29
Blizzard Entertainmentの巨大ファンイベントBlizzCon 2019で開催された「オーバーウォッチ ワールドカップ 2019」。世界中から28のチームがそれぞれの国を背負って出場する大会で、イベント開催中の3日間を使って、予選、グループステージ、プレイオフが行なわれた。既報の通り、今年は大番狂わせが発生し、優勝常連国だった韓国が米国に準決勝で敗退。米国はそのままの勢いで決勝戦で中国を破り、初の栄冠を勝ち取った。
予選がオープンディビジョンとなった「オーバーウォッチ ワールドカップ 2019」
今年で4年目を迎える「オーバーウォッチ ワールドカップ」は、毎年BlizzConの会場でファイナルが争われる世界大会。2017年と2018年の大会では、予選はリージョンごとに行なわれ、その勝利国がアナハイムに招待されてたいが、今年の大会から、より多くの国がBlizzConに参加できるよう、オープンディビジョン方式の予選に変更された。
オープンディビジョン方式では、イベント期間中にすべての予選が行なわれるため、エントリーすればBlizzCon会場に行くことができる。日本は2016年の第1回大会ではオンライン予選敗退、第2回と第3回ではオーストラリアと韓国で開催された予選で敗退しており、いまだアナハイムで開催される本選にコマを進めたことがない。
そこで日本チームとして、初のBlizzCon参加を目指すため、日本の競技委員会は2019年9月からクラウドファンディングサイトCampfireで支援を募った。目標金額は200万円。多くの人が宣伝や支援に協力した結果、281万9,000円の支援が集まった。
最後の最後まで粘った日本チームは惜しくもイタリアに敗退
予選は現地時間の10月31日に開催された。日本チームは、予選でコロンビア、フィリピン、イタリア、スウェーデン、インドと共にブラケットCに振り分けられた。予選はシングルエリミネーションの勝ち抜き方式。初戦はフィリピンとコロンビアが対戦し、コロンビアが3-1で勝利した。コロンビアはスウェーデンと戦い、今度はスウェーデンが3-0で勝利。日本は、インドvsイタリアの勝者と戦い、もしそこで勝った場合はスウェーデンと戦うことになっていた。
オープンディビジョンとなった今大会では、これまでリージョンが違うために戦ってこなかったチームとの対戦や、エントリーして会場にいけばどこの国でも参加できるという仕組みゆえに、データのない対戦相手と戦わなければならないシチュエーションが予選で多く発生した。日本が初戦で戦うこととなったイタリアもそんな相手だ。限界まで力を出し切ったが、一歩及ばなかったイタリア戦がどのような戦いだったかを簡単に振り返ってみよう。
第一戦のコントロールでは、日本が先にエリアを制圧し1本目を先取。好調な滑り出しを見せた。もともとイタリアよりもランキング上位であるだけに、この時にはこのままいけるかと思われたが、インド戦で圧倒的な強さを見せたイタリアは予想以上の難敵だった。
コントロール2本目はイタリアに取り返され1対1になった3本目、イタリアチームのHearthBeat選手が使うメイのアイスウォールで分断され、各個撃破された日本はイタリアに先制を許してしまう。その後も果敢に攻め込み拠点を奪うが、チームキルで再び奪い返される。オーバータイムに突入した後、日本チームはタンクを落とされてしまい瓦解、そのままイタリアがコントロールを制した。
第2戦ハイブリッドは、日本が攻めでのスタート。早々にペイロードを動かすことには成功するが、その後はイタリアの厚い防御に阻まれる。それでもHaku選手やSamuraiD選手がアルティメットを効果的に使って3ポイントを先取。諦めない攻めの姿勢でハイブリッドを制した。だが、第3戦めのエスコートでは攻めきれず、イタリアに押し切られて落としてしまい、先に2勝を許し王手をかけられてしまう。
データのない、慣れない相手を前にじりじりと追い詰められていく日本チーム。だが、大勢のファンの期待や声援を背負ってはるばる海を越えてやって来た、その勝利への意欲はまだまだ潰えない。 第4戦アサルトでは、イタリアに有利な形で先勝されてしまうも、リギリの戦いで2ポイントを取り返し、1対1。日本が攻撃側の時には狭い街路でのアイスウォール分断に苦しめられつつも、絶対にあきらめない姿勢で辛くもドローに持ち込んだ。
そして最終の5戦目。コントロールのマップはOasis、激しいキル交換の末に、勝負は2対2のサドンデスへともつれ込んだ。サドンデスのマップはNepal。日本が先制でエリアを占拠するが、その後はエリアを守り切れずイタリアにポイント先取を許してしまう。だが、2本目は日本が取り戻し、勝利へ希望をつないだ。
そして本当の最終戦、イタリアは再びメイが入った構成で再びエリアを制する。日本は不利な状況でも攻め続けるが、最後に崩れてチームキルを取られイタリアが勝利した。その後イタリアはスウェ―デンに破られ、ブラケットCからはスウェ―デンがグループステージへと進出した。最後まで粘り強く戦った日本だが、残念ながらあと一歩というところで及ばなかった。
11月1日に開催された総当たりのグループステージでは、スウェ―デンはグループAとして出場。イギリスに2-1で勝利したものの、アメリカ、フランス、韓国という強豪に敗れ、11月2日のプレイオフはアメリカ、韓国、デンマーク、フランス、中国、オランダの6カ国によって競われることとなった。
プレイオフは勝ち抜きのトーナメント方式。ここでこれまで3年連続で優勝し、今年もダントツの優勝候補だった韓国がアメリカに3-1で敗れ、まさかの敗退となった。ファイナルに残ったのは中国とアメリカ。2大大国による決勝は、会場全体からの熱い声援に支えられたアメリカチームが初の栄冠に輝いた。
2選手とYoukコーチに試合の感想と今後を抱負を聞いた
試合終了後に、日本チームのXeraphy選手とHaku先取、Youkコーチから、今回の試合の感想や今後の抱負をもらったので紹介したい。また、グループステージが開催されている11月1日に、日本チームのゼネラルマネージャーとして参加した、みずイロ氏から話を聞くことができた。「オーバーウォッチ ワールドカップ」出場の苦労話や、eスポーツを取り巻く環境など興味深い話を聞くことができたので、併せて紹介したい。
――イタリア戦の感想を教えてください
Xeraphy選手: 日本戦の前にイタリア対インドの試合があったので、全員で観戦していました。そこでイタリアはよくメイを使うということが分かり、メイ対策について話し合いましたが、スクリムなどでメイを出されてもうまく対処できていたので特に決めることなく試合に挑みました。
しかし試合をしてみると、相手のタンク2人とメイが非常にうまく動いていて、かなり苦戦しました。マップチェンジのタイミングで少し話せる時間があり、そこで対策を練り、2マップを取ることができました。最終マップでは相手のメイが強かったこともありますが、相手のタンクの動きがすごく上手く、1回も崩すことなく負けてしまいました。とても悔しいです。
Haku選手: 試合に勝てなかったのはとても残念でした。イタリアのプレイスタイルに対する練習をあまりしていなかったので、試合中にどうプレイスタイルを変えた方が良いか瞬時に判断するのは難しかったです。
Youkコーチ: 相手のメイにやられたという意見がありますが、それよりも自分たちがとるべきマップ(LTとネパール)をとりきれなかった事の方が問題だったと思います。
――昨年まで3連勝していた王者韓国がアメリカに敗れましたが、その試合を観戦した感想を教えてください。
Xeraphy選手: 「オーバーウォッチ」のオフライン大会を生で見るのは初めてで、試合が始まるまですごくワクワクしていました。まず驚いたのはアメリカの入場シーンです。毎回「ワールドカップ」はアメリカで行なわれているのでアメリカチームにとってはホームなのですが、歓声がすごすぎて会場が揺れた感じがしました。
アメリカには「オーバーウォッチリーグ(OWL)」で優勝したSFSのsuper選手、sinatraa選手、moth選手、韓国には同じくSFSのArchtect選手、ChoiHyoBin選手とコーチのCrusty氏が居て同胞対決があり、そこも見どころでした。
試合が始まり、両チームがキルをする度に湧き上がる歓声にすごく鳥肌が立ちました。特に目立っていたのは韓国はChoiHyoBin選手、Artchtect選手、アメリカはsinatraa選手、Corey選手らがキルをする度に歓声がものすごかったです。この試合はアメリカが勝ち、決勝もこの勢いのまま優勝しました。今まではずっと韓国が優勝していましたが、アメリカが優勝した瞬間喜ぶ声も聞こえれば悲しむ声も聞こえesportsでここまで熱くなれるのすごいなと思うのと同時に時代の変わり目を感じました。
Haku選手: 両チームの選手のレベルが高いと思います。アメリカチームにとっては母国での試合だったので、その影響もあると思いますが、アメリカチームはどの選手も一流で、チームワークも最高でした。
Youkコーチ: 会場の雰囲気が凄かったです。入場規制がかかってしまいアリーナに入れず行列ができるほどで、日本では観ることができない光景でした。
――今後の抱負を教えてください。
Xeraphy選手: 支援してくれた方、応援してくれた方、本当にありがとうございます。皆様のおかげでこの大舞台に立てました。1試合で負けてしまい本当に申し訳ございません。
私は現在GreenLeavesというチームに所属しています。来年から始まる太平洋地域で行なわれているPacific Contendersという大会に出場します。このWCで得た経験を活かし今まで以上に良い結果を残せるよう努力するので応援よろしくお願いします!!!
Haku選手: 日本代表チームのメンバーとして、ワールドカップに出場できたのは、日本のファンの応援のおかげだと思います。思っていた以上に、応援とサポートがあったので、本当に嬉しかったし、びっくりしました。今、現在、アメリカのアカデミーチームに所属していますが、次の一歩はOWLに入る事だと思います。このまま、プロとしてリーグに入れるように頑張ります。ファンのみなさんの期待にそえるように頑張ります。これからも応援をよろしくお願いします。
Youkコーチ: 僕は今までコーチとして日本で活動することで、チームが勝って日本の選手が海外にいけばいいと考えていました。しかし、今回の大会を通して、自分が海外のチームでコーチをすることを目標にするべきだと感じました。
ゼネラルマネージャーみずイロ氏に運営の苦労を聞く
――イタリア戦は残念でしたね。
みずイロ氏 : イタリアの選手たちが、それほど有名な選手たちではなかったので、勝てるかなと思っていたのですが、やはりヨーロッパの層は厚かったです。戦ってみて強かったかなと思うのは、相手のタンク陣とメイを使っていた選手です。メイがすごくうまくて、私たちもメイ対策ができていなかった訳ではないのですが、対応が少し遅れてしまったということがあって、負けてしまいました。振り返ってみると本当に強いチームだったと思います。
――今回はクラウドファンディングで集めて行かれたんですよね。上位チームはBlizzardが渡航費やホテルを出してくれますが、予選出場チームはそういったサポートが受けられないんですか?
みずイロ氏 : お金はいっさい出してくれないです。予選はオープントーナメント形式で、現地までくればエントリーできるし、ユニフォームは用意するよという感じですが、それ以外の費用はすべてこちらで用意しました。クラウドファンディングと少額のスポンサーを見つけて来ています。
――今回は、総勢何人で来られているんですか。
みずイロ氏 : 競技委員3人と選手7人の10人で来ています。ホテルはオレンジという場所にあるAirbnbで家を借りて民泊しています。
――10人全員で、ですか。
みずイロ氏 :はい(笑)。ベッドが8台と、ソファー2台です。2人はソファーで寝ていますね(笑)。
――なるほど。若さですね(笑)。
みずイロ氏 : 上位の10チームはホテルをとってもらえて泊まっているので、そういう差はあると思います。
――日本チームとして「オーバーウォッチ ワールドカップ」に出場するのはこれで何回目ですか?
みずイロ氏 : ワールドカップ自体は、2016年から出ていて、2016年、2017年、2018年と全部一応出ています。2016年にはオンラインで予選が行なわれたので、日本はオンライン予選で負けてしまいました。2017年からは予選自体もオフラインで行なわれるようになりました。2017年はオーストラリアで行なわれましたが、予選でそのオーストラリアに負けてしまいました。
去年は韓国のインチョンでオフライン大会があって、その予選ではグループ総当たりだったのですが、日本は4位でした。
――みずイロさんはいつから参加しているんですか?
みずイロ氏 : 私は、2018年にコミュニティリーダーという形で参加しています。
――今回の出場選手はみずイロさんが選抜されたんですか。
みずイロ氏 : 選抜はヘッドコーチのYoukを中心に競技委員会として3名で行ないました。流れとしては、まずはワールドカップの発表が行なわれて、競技委員会が立候補してファンやコミュニティの投票で選ばれ、組織されます。競技委員会はゼネラルマネージャー、コーチ、コミュニティ・リーダーの3人で組織されていますが、その3人がワールドカップ用のチャットグループに招待されて、ルールブックやスケジュールが配られます。
そのスケジュールに、この日までに選手を決めてくださいと書いてあります。結構近々で、こんなに早いのかという感じでした。そこから最初は19人の日本代表候補を招集しました。最初に12人まで絞って、そこから7人にするというステップを踏みました。19人の時には3チームに分かれて配信しながら公開トライアウトをすることで、日本のファンに向けて、こういうことをやっていますというアピールをしました。12人になってからは海外チームとスクリームする形でトライアウトしたり。7人になったら、そこからスクリームをスタートしました。それが9月くらいです。
――選手を選ぶうえで、方向性というか。テーマのようなものはあったんですか?
みずイロ氏 : テーマは特にはないと思います。日本で現在活躍しているメンバーの中で、強い選手を選出したというイメージです。
――チーム戦なので、ひとりひとりが強いだけではだめだと思うのですが、そういうチームとしての強みを出すための作戦はあったのでしょうか。
みずイロ氏 : 出場選手は、元々JUPITERというチームで活動していた選手たちと、Green Leavesというチームで活動していた選手たちが3人ずつ、それといわゆる「オーバーウォッチ リーグ」のチームで、アカデミーチームというのがあるんですが、NA(North America)のチーム「XL2」で活躍しているHaKu選手、その7名で成り立っています。
今回は、HaKu選手が入ったのが特徴的でした。彼は、NAのコンテンダーズに参加している非常にレベルの高い選手です。今19歳だからというのもあるかもしれないですが、今後世界が注目している選手です。その選手が日本代表に参加してくれました。彼が入ることで、他の選手たちが良い刺激を受けて、今までとはちょっと違う、他の空気が入ってきた感じのチームになったと思います。
――Haku選手の得意分野は何ですか?
みずイロ氏 : モイラとアナとかいわゆるサブサポートです。今回のメインはモイラです。彼は今オーバーウォッチリーグに一番近い日本人と言っても過言ではないと思います。
――ほかに注目している選手を上げるとすれば誰ですか?
みずイロ氏 : Green Leavesに所属しているTEN選手です。TEN選手は実力的に非常に高い選手です。今回はドゥームフィストを使っていて日本でもエースと言われている選手です。TEN選手はすごくやる気もあるし、この先オーバーウォッチリーグを目指していける選手かなと思います。
――TEN選手はいまおいくつですか?
みずイロ氏 : 2週間前に18歳になったばかりです。日本もすごく若い選手がどんどん出てきています。今回は24才くらいの人が主なプレーヤーだったんですが、10代の子たちが出てきて、その子たちがエースになってきているのが特徴的なところかなと。若い選手が多いですね。
――若いプレーヤーがどんどん競技シーンに参加しているんですね。
みずイロ氏 : TEN選手に関しては最近でてきた選手です。昔からいる選手でも、ta1yo選手はいま19歳と若いです。16歳くらいの時から3年連続で日本代表の選手です。英語ができるので、いわゆる日本の顔です。
――英語が話せる選手は多いんですか?
みずイロ氏 : 2人だけですね。今回はta1yoとHakuが話せて、他もできなくはないですが聞けるだけとかそういうレベルで積極的に話すことはできない。
――出場選手のみなさんが顔を合わせて一緒にプレイするのは今回が初めてなんですよね?
みずイロ氏 : 8月の頭頃にチームを結成して、日本代表としての練習はだいたい8月中ごろからスタートしています。最初は週3で途中から週5に変えて、結構がっつり練習しています。Haku選手はアメリカからオンラインで早朝に参加してもらった形です。オンラインではずっとコミュニケーションを取っていたんですが、こちらに来て初めて顔を合わせた感じです。
――Haku選手はどういう経緯でチームに入ることになったんですか?
みずイロ氏 : 競技委員会が組織されたタイミングで。Haku選手から「私も日本国籍を持っているので、トライアウトさせて欲しい」と私に連絡がありました。
――夏からずっとワールドカップのために活動されてきたんですね。
みずイロ氏 : そうですね。選手たちも自分たちのチームの練習もいろいろあるんですが。Haku選手なんかは、並行して大会も動いていたのですごく大変だったと思います。
――最終的な候補は、組織委員会が決定したんですか?
みずイロ氏 : そうです。競技委員会が決めます。
――オリンピックのように代表選考のための大会があったりするわけではないんですね。
みずイロ氏 : そうですね。近い感じになるのが先ほど言いました公開トライアウトですね。ただそれの順位で日本代表が決まるというわけではなく、どちらかというとサッカーのワールドカップと同じように監督が招集する感じです。
――どの選手もロールの中のヒーローは基本的にすべて使えるんですか?
みずイロ氏 : 人によるところもあります。特にダメージはヒーローが多いので得意不得意があって結構バラバラです。ただ、サポートやタンクの人たちはみんな、一通り使える感じです。使用するヒーローのことを通称メタと言うんですが、今メインで使われているヒーローは使えないといけないですから。
――アップデートによってメインが変わる可能性があるんですね。
みずイロ氏 : 難しいですよね。どのヒーローが強いか弱いかはアップデートで変わっていくので、得意なヒーローが強いときにはいいんですが、得意でないヒーローが強いときには、メタに合っていないとよく言うんですが、すごくやりづらそうで、結局結果が出ないという。オールラウンダーな人は結構強いです、結局はどれくらい練習できる人かというところですよね。
――各国の出場選手が出そろってくると、その選手に合わせてこのヒーローを使っていこうという対策はあるんですか?
みずイロ氏 : それは実際にあります。例えばイタリアの選手はメイを使っていたので、メイを使ってきたらこういう動きをしようということを決めて、対策をするということはあります。もちろんその代表選手たちの研究もしますが、本番とまったく同じになる場面はないので、なかなかそこまで研究しきれないところはありますね。
――どちらかというと、自分の得意技を伸ばしていって、後はその時の対戦相手によるという感じですか?
みずイロ氏 : 基本はそうですね。自分たちがチームとして強いメタに合った構成を試す。そのフィードバックをどんどんしていくという感じで動きを決めていく感じですね。
――今回の日本チームとして得意な作戦やルールなどはありましたか?
みずイロ氏 : 構成は、今は通称「ドゥームリーパー」と呼ばれている、「ドゥームフィスト」と「リーパー」を使うメタと、「オリーサー」、「シグマ」、「ルシオ」、「モイラ」を使う構成が今のスタンダードです。たまに「バスティオン」などが出てくる感じの、そういうメタなので、それを練習して、相手がこういうことしてきたらこうしよう、こういうことしてきたらこういう動きをしようというのを経験値として積み重ねていきます。
――どこのチームも今強いキャラで組んでくるから、ある程度構成は似たり寄ったりになるというということですか。
みずイロ氏 : そうです、実際、今見ていればわかると思うのですが、大体同じヒーローしか出てきていないはずです。もちろん変えてくるチームもあります。メイを使ってくるイタリアなんかもそうでしたが、基本は同じような形でやっています。
――各国の対戦相手の雰囲気はいかがでしたか。
みずイロ氏 : 今年はどこもすごく資金的に厳しそうでした。上位10チーム以外は遠征費用を全部自分たちで用意しなければならないので、実際に遠征費用を集めることができず、ここに来ることができなかった国も数多くあります。
今までは、選手たちのゲーム内のレートというのがあるのですが、レートの順番で国別のランキングがつけられて、そこの上位何チームが「オーバーウォッチ ワールドカップ」に参加できるという仕組みでしたが、今回はオープントーナメントということで、遠征費用があればどの国も参加できます。そのため、今まで参加してこなかったチームが参加していて、今まで参加できていたチームが参加できなくなったりということがありました。
私が衝撃的だったのは、パシフィックで一緒に戦っているタイ代表が、今回は就労ビザが間に合わずに参加できなかったということです。これは本当に、当日わかったくらいの話だったのですが。
――ギリギリまで参加の予定だったんですね。
みずイロ氏 : そうです。ビザが間に合わなかったそうです。難しいですよね。結局国同士の国交問題もすごく影響しています。日本はESTAがありますが、そういう壁があって参加できない国もありました。
日本チームもファンの方々や、スポンサーの方々に支えられて出場しているという気持ちがみんなにあると思うので、その分すごく熱がこもっていると思います。特に今回アメリカまで来て、「BlizzCon」の会場にきて参加することは初めてだったので、良い経験になったと思います。
――みずイロさんは、BlizzConは今回が初めてですか?
みずイロ氏 : 初めてです。
――参加してみての感想はいかがですか?
みずイロ氏 : 本当に来てよかったと思います。映像や、行った人のレポートやTwitterなんかですごいということは聞いていたんですが、やはり肌で感じると更に。
――規模がすごいですね。
みずイロ氏 : 東京ゲームショウを1社でやってしまっていますよね。しかもそのゲームが好きな人しかいないとことで。Blizzardのタイトルが好きな人は間違いなく楽しめるイベントだと思います。私は「スタークラフトII」と「ハースストーン」というゲームをずっとプレイしていて、「オーバーウォッチ」が出るタイミングで「オーバーウォッチ」のコミュニティを作ったんです。自分の好きなゲームのお祭りなので楽しいですよね。
私は英語はぜんぜんできないんですが、意外に英語ができなくても困らないですね。みんなゲームが好きな人たちだから、なんとななっちゃいますね。「オーバーウォッチ 2」の発表でも、あの場に何万人いたのかはわかりませんが、あの人数と一緒に自分の好きなゲームのアップデートのムービーが出て、しかも自分の大好きなヒーローのゲンジがムービー中で大活躍して、ゲンジが出た時の会場の沸きあがる声とか振動を一緒に体感できたのがすごくいい経験だし、ぜひBlizzardのゲームが好きな人たちはBlizzConに遊びに行ってほしいです。アメリカでやるので渡航費は高いですが、その価値はあるのかなと。私も来年はプライベートでこようかなと(笑)。
――クセになる感じですね。
みずイロ氏 : 本当にBlizzardのゲームが好きな友達とBlizzConに来るとめちゃくちゃ楽しいと思います。1回目は本当にカジュアルに来てみるといいと思いますが、2回目3回目はコスプレしてやろうかとか(笑)。自分でも自己表現ができる場であると思いますし、他の人たちが表現しているのを見ると、ちょっとやってみたいなと思うところもあると思います。それを肌で体感しました。
――今回はeスポーツだけど、次回はコスプレで参加するかもしれないと。
みずイロ氏 : そうですね(笑)。
――やはり「BlizzCon」のような会場だと。選手の熱量も違いますか?
みずイロ氏 : もちろん去年も同じくらい熱はこもっていたと思います。国を代表してきているという意味で、選手たちはみんな気合が入ってますね。勝ったら叫ぶし、負けたら悔しがる。一喜一憂が一瞬一瞬で決まっていく。予選は特にシングルトーナメントだったので、1回負けたら終わりという緊張感もあって、選手たちも本当に緊張していたし、他の国の選手たちも本当に緊張しながら参加していたと思います。
――予選試合の様子を見ましたが、イタリアはダークホース的な存在だったんですね。
みずイロ氏 : そうですね。コンテンダーズのチームに所属しているメンバーがほとんどいなくて、どこまでまとまってくるんだろうと思っていたら、すごく自分たちの弱点が分かっていてそれをカバーするような作戦をしっかり立てていました。イタリアのコーチがすごく優秀だったなと。とても強かったです。
――今後の予定を教えてください。
みずイロ氏 : そうですね。実際はこれで終わりではないんです。クラウドファンディングの返礼をしないといけないというところもあるので、そこはしっかりやらせていただきたいと思っています。
今回は皆さんの期待に添える結果ではなかったかなと思いますが、皆さんに支えられて、選手たちものびのびと練習もできましたし、活動もできたのでとても感謝しています。返礼品でしっかりお返ししたいと思っています。
遠征費用を集める大変さ。恐怖でしかなかった
――試合後、Twitterにメッセージを出されていましたが、励ましの言葉が多かったですね。
みずイロ氏 : 最初は、すごく厳しい言葉も多かったですが、あたたかい言葉をかけてくれる方も多いです。
――以前と比べて、日本のeスポーツのシーンの雰囲気に変化はありますか?
みずイロ氏 :どうなんですかね。あまり変わっていないんじゃないですか。「オーバーウォッチ」に限っていえば、好きな人だけが残っているという感覚です。日本の「オーバーウォッチ」シーンというのはあまり大きくないんです。「LoL(リーグ・オブ・レジェンド)」とか「レインボーシックス シージ」とかの方が大きいです。
――そういった規模感は、Nintendo Switch版が始まっても、今のところは変わらないですか。
みずイロ氏 : 変わっていないですね。だから、今回クラウドファンディングで280万円が集まったというのはすごい数字だと思います。応援してくれる人がたくさんいたおかげです。
――それだけの金額が集まるというのは凄いですよね。
みずイロ氏 : 今までコミュニティリーダーの方々が、コミュニティに対していろいろな施策をしてきてくれたからだと思っています。日本国内のゲーマーの方々、しかも著名な方々も一緒に宣伝をしてくれました。あとは選手たちと、いわゆる競技のシーンに関わっている人が、どれだけゲーム自体を盛り上げられるかというところが、すごく今後のカギになってくると思います。
人が少ないことをBlizzardのせいにする人もいるのですが、いつまでもBlizzardのせいにしていたら、本当にシーンがしぼんでしまうので。プレイ人口は、結局自分たちで増やさないといけない。もちろんBlizzardにも頑張ってもらわなくてはいけないですが、肝心の私たちがネガティブキャンペーンをしていたらBlizzardもやりようがないですしね。私たち自身が盛り上げて、それにBlizzardも乗っかってくれる形が一番望ましいかなと思います。私たちで「オーバーウォッチ」を盛り上げていきたいと思っています。
――せっかく日本語バージョンも出ているわけですしね。昔はBlizzardのゲームは英語以外ではプレイできなかったのに。
みずイロ氏 : 本当にそうです。ありがたい話です。
――来年も出場しようと思っていますか?
みずイロ氏 : 競技委員会は毎年コミュニティから選出されることになるので、来年また同じメンバーかどうかはわからないです。私も去年はコミュニティリーダーで立候補して、投票で選出されて。今年はゼネラルマネージャーということで立候補して選出されました。
選手たちは当然出たいと思っていると思います。そもそもこのワールドカップという場所は、スカウトの目に留まる場所でもあるので、選手たちは自分の実力を発揮すればオーバーウォッチリーグにいけるかもしれないと思って来ていると思います。だから日本としても、この場所をなくしてはいけないと思っています。
――やはり出てくる国は、その国自体がeスポーツが盛んで、スポンサーが付きやすいということなんでしょうか。
みずイロ氏 : そうかもしれないですね。まあ今回「オーバーウォッチ 2」が発表されたので、今後のワールドカップがどういった形になるかはまだわからないですね。
「オーバーウォッチ 2」でカジュアルユーザーが増えることを期待
――「オーバーウォッチ 2」の発表を見られての感想を教えてください。
みずイロ氏 :すごく面白そうだとは思います。「PUSH」という新しいモードも今日やってみたんですが、普通に面白かったです。大型アップデートがあったら、色々とバグが多いことがあるじゃないですか。そこはやはりBlizzardなのでクオリティが高く、しっかり完成されたゲームとして出てきているなという印象がありましたね。
――競技としては、どうでしたか?
みずイロ氏 : ちゃんと競技シーンになってみないとわからないという印象ですね。一体のロボットがいて、そのロボットがオブジェクトを運ぶ。そのオブジェクトが両チームにあって、ロボットをアンロックして運ばせるという形で、コントロールにすごく近い形式だと思いました。なので、競技でもコントロールっぽい感じになるかなと、ある程度ロボットの付近を占領しあうような戦いになるのではないかと思います。
――コントロールはエリアですが、今回は動くロボットを守る形ですね。
みずイロ氏 : お互いに取ったらディフェンドになるし、取られたらアタックになるしということを繰り返すようになりますね。マップ自体も線対称になっているのはコントロールと一緒ですね。
――プレイフィールに「オーバーウォッチ」と違うところはありましたか?
みずイロ氏 : プレイした感触は「オーバーウォッチ」と全く変わらなかったです。画面のインターフェイスに変わっているところはありましたが、ゲームエンジンの感覚は前作より気持ちよくなっています。
――「オーバーウォッチ」しか持っていない人でも、PvPでは「2」で実装されるすべてのコンテンツを遊べるということでした。
みずイロ氏 : それはいいですね。PvEがNintendo Switchで流行るといいですね。カジュアルなプレーヤーがどんどん増えてくれれないと。「オーバーウォッチ」の競技シーンでも応援してくれる人がいないと繁栄していけないので。
――カジュアルな「オーバーウォッチ」にストーリーモードが入ることで、一気にプレイする人が増える可能性はありますね。
みずイロ氏 : 私も期待しています。
――Blizzardもそういう層の発掘を狙っているのかもしれないですね。
みずイロ氏 : そうですね。シングルのゲームにマルチモードを追加するということはよくあるんですが、eスポーツを主にしているゲームタイトルに、逆にシングルを追加するというのは初めてですよね。Blizzardはeスポーツをすごく大事にしていると思いますが、eスポーツだけでマネタイズするのは難しいと気付いていると思うんです。eスポーツにまつわる色々なコンテンツを作っていく一環で、PvEを作ることで「オーバーウォッチ」自体にファンを付けなきゃという方向性なのかなと、だからNintendo Switchも出したのかなと、そんな気がします。日本だけの考え方になってしまうかもしれないですが、Nintendo Switchユーザーのようないわゆるカジュアル層の人達に楽しんでもらうことが大切だと思いますので。
――日本のプレイ層にも厚み出るといいですね。最後に今回の「オーバーウォッチ」を応援してくれた方へのメッセージをお願いいたします。
みずイロ氏 : 今回、応援してくださった方、クラウドファンディングで支援してくださったパトロンの方、本当に感謝しています。アメリカにこられたのは、皆さんの応援と支援のおかげだと思っています。結果が残せなくて本当に申し訳ないと思っています。私のマネージメントの力不足というのがもろに出てしまった思ってとすごく反省しています。
来年につなげていけるように、しっかり私自身も引き継ぎをしようと思っています。選手たちは引き続き、色々なチームで活動していくと思います。ぜひ応援をよろしくお願いいたします。
――ありがとうございました!
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