【連載第88回】韓国最新オンラインゲームレポート

“オンラインゲーム大国”韓国のソーシャルゲーム最新事情
NaverやCyworldらポータルサイトが独自サービスを展開、大手ゲームメーカーもいよいよ本腰






 近年、世界的に注目されているソーシャルゲーム。全世界で約7億5千人が使用していると言われるソーシャルネットワーキングサービス(以下、SNS)「Facebook」や「MySpace」を中心に無数のソーシャルゲームが展開されており、年々とその市場規模は大きく拡大している。

 SNSは「Facebook」や「MySpace」だけに留まらず、それぞれの国々では多くの独自サービスが展開され、幅広くソーシャルゲームが浸透している。たとえば日本ではPC向けより携帯電話向けが先に普及したのが特徴的だが、「Mobage」や「GREE」、そして「mixi」といった日本独自のプラットフォームがすっかり根付き、ソーシャルゲームを軸に急成長を遂げている。

 ソーシャルゲームのブームはもちろん韓国にも来ている。韓国国内では大手インターネット企業を中心に独自のプラットフォームが展開され、ソーシャルゲームブームが巻き起こっている。欧米や日本に比べると、そのブームは後発で、市場規模もまだまだ小さいが、それなりに韓国ならではと言えるサービスが生まれつつある。本稿では、そういった韓国における最新のソーシャルゲーム事情についてお伝えしたい。




■ 韓国でもFacebookが人気、しかし参加する韓国メーカーは新参のみ

韓国でもFacebookは人気。しかし、残念ながら韓国メーカーが開発した韓国語のゲームはほとんどない
韓国最大手のNHNの検索ポータル「Naver」。NHNといえば「Hangame」だが、Naverも傘下のポータルサイトを通じてソーシャルゲームの展開を始めている

 まず基本的な部分から紹介していこう。ソーシャルゲームを代表するプラットフォームと言えばFacebookだが、韓国でも人気を集めており、2010年10月にFacebook Koreaも設立されている。Facebookにおける韓国ユーザーは約370万人。日本が380万人程度と推定されているため、ユーザー数的にはほぼ同じぐらいと言うことになる。

 しかし、メーカーの対応となると、日本とはずいぶん異なる。日本では多くの大手ゲームメーカーがFacebookに対して高い関心を示しているのに対し、韓国大手のゲームメーカーが、Facebookにソーシャルゲームを提供しているケースはまったくといっていいほどない。

 Facebookに進出している韓国メーカーの殆どは新しいメーカーで、その数も日本とは比べものにならないぐらい少ない。しかも、それらのメーカーは完全に海外市場だけを見ており、韓国語のサービスは提供されていないという状況である。韓国にユーザーは大勢いるものの、メーカーが関心を示していないため、市場的には極めて小さいと言える。

 実はこれには韓国における特殊なインターネット利用環境が影響している。韓国は約4,800万人の人口のうち、約80%がインターネットを使用しているというほどのインターネット国家だが、使い道は驚くほど偏っているのが現状だ。具体的にはその殆どが「Naver」、「Daum」、「Nate」という3つの検索サービスを中心とするインターネットポータルサイトを中心的に使用している。

 Facebookの月間アクティブユーザー約370万人に対し、検索最大手であるNHNの「Naver」の場合、週間利用者数2,600万人を誇る。月間で比較すると控えめに見ても優に10倍以上の利用者がいる計算になる。しかもこれらの検索サイトが独自のソーシャルゲームプラットフォームを展開し始めたため、Facebookやその他のSNSに行かなくてもソーシャルゲームが楽しめる環境が整っているのである。

 なお、大手ポータルサイトたちが展開するソーシャルゲームプラットフォームは、まだその規模は大きくないが、多くの韓国のインターネット利用者が集まる場所という大きいなメリットがある。このため韓国のゲームメーカーは、大手ポータルサイトのソーシャルゲームプラットフォームにソーシャルゲームを展開するという流れが早くも生まれつつあるのだ。


【Facebookゲーム】
Facebookでヒットしている韓国産ゲームはMAU(月間使用者)231万を記録している「TrainCity」(左)と、MAU 114万を記録している「Hero City」(右)。どちらも韓国語サービスは提供されていない。世界というより大きい市場を狙った結果だと思われる。「TrainCity」は7月5日から「Nate」においてもサービスを開始した



■ 徐々に成長している3つの大手ポータルサイトのソーシャルゲームプラットフォーム

 さて、次に具体的なプラットフォームを説明したい。まず、モバイル大手SK Communicationsが運営する「Nate」だ。「Nate」は会員数約2,500万人を擁する韓国最大のSNS「Cyworld」で展開し、「Cyworldアプリ」としてソーシャルゲームを展開している。大手ポータルサイトの中では、1番最初にソーシャルゲームプラットフォームを展開しており、約150のソーシャルゲームがサービスされている。Cyworldが韓国最大手のソーシャルゲームプラットフォームということになる。

 次に、Daum Communicationsが運営する「Daum」の場合、2つに分けてソーシャルゲームをサービスしている。1つはサービスを開始したばかりの「Yozm」というSNSを通じてサービスし、もう1つは同好会のようなコミュニティーサービス「カフェ」を通じてサービスしている。

 「Daum」は「カフェ」サービスがウリのポータルサイトで、「カフェ」の中にSNGを登録して、カフェの会員たちと一緒にプレイできるようになっている。「Daum」は、今年に入ってソーシャルゲームを展開したばかりで、16個のゲームが展開されていた。

 最後に韓国NHNは、「Naver」が展開しているコミュニティサービス「ブログ」、「カフェ」、「Me2Day」の3つにソーシャルゲームをサービスしている。登録されているゲームは約80タイトルで、韓国NHNのオンラインゲームプラットフォーム「Hangame」とはまったく別のサービスとして運営されている。

 これらのサービスで特徴的なのは、従来の韓国オンラインゲームとは全く異なる市場が構築されているということだ。「Cyworld」を見てみると、ソーシャルゲームを展開するのは殆どが新生デベロッパーで、ユーザー層も19歳から24歳の女子大学生が7割を占めているという。

 その特殊性は人気ゲームを見てみると確認できる。カジュアルなものからFPSやハードコアなものまで、様々なジャンルが集まっているが、人気ゲームとして名が知られているのは、ショップやカフェ、農場、牧場などを経営するシミュレーションゲームが殆どだった。これらのシミュレーションゲームは、韓国のゲーム市場ではあまり人気がない。従来のゲーム市場にはいなかったユーザーが新たにゲームを始めているという証拠だろう。

 これは特に女子が多く使っているSNS「Cyworld」との連携の影響が大きいと見られている。こういった傾向は、「Daum」や「Naver」でも同じだった。また、この中にもハードなプレーヤーもいて、ソーシャルゲームを上手くプレイするためだけに、友だちを増やすユーザーも多く見られた。

 ゲーム単体の規模としては最も人気を集めているソーシャルゲーム「AquaStory」が会員数170万ほど。会員数100万を越えるタイトルは「AquaStory」を含めてわずか3つだけで、まだその規模は大きくない。しかし、オンラインゲームでは比較的に少ない女子大学生のユーザーが多いところから、最近では大手メーカーたちも真剣にソーシャルゲームの展開を考えつつあるわけだ。


【ソーシャルゲームプラットフォーム】
「Nate」(左)、「Daum」(中)、「Naver」(右)のソーシャルゲームプラットフォーム画面。日本のMobageとGREEのようにどちらかに独占サービスするゲームは殆ど無く、3カ所でサービスされているのがほとんどだ

【AquaStory】
会員数170万人と最も人気を集めているSUNDAYTOZが開発した「AquaStory」。水槽のなかの魚たちを成長させることが目的のソーシャルゲームだ。友だちが多くなるほど水槽は大きくなって、飼える魚も多くなる。魚たちの表情や言葉が面白く、友達に自分の水槽を自慢するユーザーも多い

【Fashion City】
会員数100万を記録しているNok!Nok!が開発した「Fashion City」。プレーヤーは衣装ショップのオーナーとして、ショップを経営するシミュレーションゲームだ。「Fashion City」は日本の「モバゲー」や「Mixi」を通じても、今年中にサービスされる予定だという



■ 大手メーカーたちの動向は?今後の成長が注目される韓国ソーシャルゲーム市場

 その一方で、韓国の大手メーカたちは様々なアプローチで、ソーシャルゲームを展開している。

 まず、Nexonは2008年に初公開したソーシャルゲーム「NEXON STAR」を2010年4月から自社のポータルサイトにサービスするなど、大手メーカの中では最も早い展開を見せていたが、2011年3月にサービス終了。現在は、廃墟となったソウルを復元していくソーシャルゲーム「2012:SEOUL」を、自社のポータルサイトとスマートフォン向けに展開している。

 また、「Cyworld」と自社のポータルサイトでサービス中のブラウザ型のオンラインクイズゲーム「QuizQuiz R」をSNS向けに改良した「Q Play」を2011年6月からサービスを開始した。Nexonが自社タイトルを他社のプラットフォームだけで展開するのは意外にも今回が初めてだ。さらに、今年の3月にはNexon Americaを通じて、アメリカのソーシャルゲームデベロッパーA Bit Luckyに500万ドル(約4億円)を投資するなど、様々な方面でソーシャルゲームに力を入れている。

 Gravityはソーシャルゲームに積極的なゲームメーカーのひとつで、「Cyworld」に積極的にゲームを展開している。最初に投入したのが2010年3月の「ラグナロクオンライン」のIPを使用した「ラグナロクモンスターバトル」と、Gravityが韓国サービスを行なっているガンホーの「エミル・クロニクル・オンライン」のIPを使用した「ECOアクロニアディフェンス」というソーシャルゲームを「Cyworld」に展開していたが、残念ながらめぼしい結果が出ずサービス終了。2010年11月からは改めて3Dキャラクターを使用したファッションショップ経営ゲーム「Fashion Star」とマッチ3ゲーム「Jeweled Planet」を展開している。

 ほかにも、JC Entertainmentが農場経営ゲーム「ホイファーム」、Softmaxがファッションショップ経営ゲーム「FashionMALL」をCyworldのNateに展開している。なお、DeNAは今年の6月に韓国法人DeNA Seoulを設立したが、まだその活動について詳細な内容は明らかにされていない。

 韓国のソーシャルゲーム市場は、前述したように、まだその規模は日本ほど大きくないが、今までのオンラインゲームとは異なるユーザー層を獲得している特殊な市場だ。最近では、大手ゲームメーカーたちも参加し、さらにはDeNAが今年の6月に韓国法人DeNA Seoulを設立するなど、これからの成長が楽しみ市場である。まだ詳細な活動の内容が明らかにされていないが、DeNA Seoulの今後の活動も含めて、これからの韓国ソーシャルゲーム市場に注目したい。


【Gravity】
Gravityは「ラグナロクオンライン」や「ECO」のIPを使用したソーシャルゲームを展開していたが、これといった結果が出ずサービス中止となった。今までのオンラインゲームユーザーとは異なるまったく新しい市場である

【Com2us】
一方、大手モバイルゲームメーカーであるCom2usは、スマートフォン向けSNGプラットフォーム「Com2us Hub」を発表した。自社が開発したゲームとパブリッシングするゲームは「Com2us Hub」を通じてサービスされるという

(2011年 8月 3日)

[Reported by DongSoo“Luie”Han]