山村智美の「ぼくらとゲームの」

連載第16回

「逆転裁判6」をプレイしたら、ちょっと残念な気持ちになったのでいろいろ書いてみる話

この連載は、ゲーム好きのライター山村智美が、ゲームタイトル、話題、イベント、そのほかゲームにまつわるあれやこれやを“ゆるく”伝えるコラムです。毎週、水曜日に掲載予定。ちなみに連載タイトルは、本当は「ぼくらとゲームの間にある期待の気持ち」。新しい体験の、その発売を、いつでも楽しみにしている期待の気持ち。そのままだと連載タイトルとしては長すぎたので……「ぼくらとゲームの」。

・2016年6月30日 - 自身としてもいろいろと思うところが出てきたので、加筆・修正をさせていただきました(山村智美)

「E3 2016」の速報記事を大量に書き、ほとんど同時進行に「ファイナルファンタジーXV」のプレイレポートインタビューを作って、勢いそのままにPlayStation VRの最新版を体験しにソニー・インタラクティブエンタテインメントに行ってきたりした僕ですが、

その裏では6月9日に発売された「逆転裁判6」をチクチクとプレイしていました。

「逆転裁判」と言えば初代はゲームボーイアドバンス用ソフトとして登場した法廷バトルのアドベンチャーゲーム。ナンバリング最新作の「6」が発売され、今ではTVアニメも放送されていますが、初代作品の発売は2001年のことでした。

あれからもう15年も経ったんですねー。

僕はその初代作品の発売以来、大ファンです。
その後、スピンオフを含めて毎作品を発売日には欠かさず購入しプレイしてきました。

で、最新作の「逆転裁判6」なのですが、
もちろん最後まで楽しみました。楽しみましたが、
“いくつか気になった点”もありました。

以前には「逆転裁判5」の発売前にプロデューサーの江城元秀氏とシナリオディレクターの山﨑剛氏へのインタビューもさせて頂きましたし、このようなことを書くのは辛いのですが……。

次回作をさらに良い作品にして欲しいという気持ちで、お伝えしていきたいと思います。

今作で僕が一番感じたのは、

「作品の世界観もゲームシステムにも、ファンタジーなものが増えすぎなのでは」

ということでした。

もともと「逆転裁判」には、初代作品から“霊媒”というものがあり、霊の存在する世界。そういう意味ではファンタジックな要素(本稿で言うファンタジーは“架空”や“不思議なもの”の意)は元からありました。ですが、初代作品からあるファンタジーなアクセント“霊媒”はさすがに受け入れ済みとして、そこにさらに新しいものが増えた今作では、さすがにお腹いっぱいになってしまうのかなというところです。

ネタバレになってしまうので具体的な内容例をあげての言及は避けますが、架空の国という舞台設定であり、そこで起こる事件でも、独特な文化や歴史を背景にファンタジックな側面も入ってくるので、独自設定の上に独自設定が積み上がっている状態です。

これら独自の設定はユーザーさんに説明して理解してもらわないといけないですし、シナリオというのは細かに説明すればするほど整合性を取る(お話の矛盾をなくす)のが大変になり、それを解消するためにさらにテキストが必要になる、なんてこともあります。そうしたところから、どうしてもテキストが重くなるでしょうし、この条件下でのシナリオ作成には、ものすごく苦労されたのではと感じます。

逆に言うと、これだけ特殊設定と現実ベースな要素が入り交じる舞台設定で今作ほどのボリュームとクオリティのシナリオを創り上げていること自体が凄いことだと思います。

もちろん、日本が舞台のエピソードもありまして、そちらは舞台背景においては説明入らず、比較的スムーズに話が運ばれていきます。架空の独自設定の影響が少ないからか、キャラクターも活きがいいです。やはりシナリオを作りやすいのかなと個人的には感じるところ。面白いです。

「逆転裁判」における良いキャラクターというのを考えてみると(外見の好み等ではなく、シナリオ中で喋らせやすく、動かしやすく、活き活きと扱えるキャラという意味)、「こんな人どこかにいそうだけど……やっぱりいないよね」みたいな“普通をちょっと超えている程度にデフォルメ(誇張)されたキャラ”だと動かしやすそうですが、丸っきり見た目や生い立ちからも「こんな人は絶対にいない」という奇抜さになってしまうと、苦労されるのかもしれません。実際のところ、シナリオライターさんの身近にいる人に似ていたり、なんらかの完成されたイメージがあるポジションの人ほど話の中で動かしやすい喋らせやすいというのが、“シナリオ作りあるある”だと思います。

今作で言うと、個人的には「ヤマシノP(ニドミテレビの志乃山 金成)」あたりがかなりいい感じ。ちょっと懐かしい感じのテレビマンのイメージで、そういう分かりやすい特徴がそのまま個性となっており、話す言葉も普段のやり取りの感じまで見えてくるような生々しさ。「逆転裁判6」も“いいキャラ”います。

そうしたところも踏まえると、外見のインパクトよりも、会話からさりげなく伝わってくる内面の味わい人間味こそが“本当のキャラ人気”に結びつくのでは、と思えたところです。

異国の地、異国の国民、異国の弁護士と、身近さの得づらいものが積み重なっている中で、いかに魅力あるシナリオやキャラクターを出していくのかは、相当に苦労されたのでは
国際検事「ナユタ・サードマディ」。弁護士憎し、と言わんばかりに辛辣な言葉をぶつけてきます

テキストや演出について。

今回の「逆転裁判6」では、架空の国が舞台となっていて、その国独自の背景や文化、法律というのも入ってきており、さらにはキャラクターたちの過去や性格も知ってもらおうというシーンも加わっているので、事件そのものの情報と同時にキャラクターにまつわるバックボーンの情報量も多くなっていきます。

それを考慮してか、事前のシーンをもう一度みせる「回想」もかなり入ってくるのですが、「回想シーン」はプレーヤーにエピソードを思い出してもらうというメリットと同時に、同じ場面を繰り返し見せることでゲーム進行のリズムを止めてしまうというデメリットもあるように思います。今作の回想シーンは量が多めで、ストーリーや舞台が独特なぶん親切に伝える設計を心がけられたのだろうな、と思えるところです。

ですが、人によってはその丁寧さや親切設計がクドさに化けることもあるのかなと。例えば回想シーンは、再生スピードをより速めたり、シーンによっては思い出すきっかけになる一部分をフラッシュ的に見せる演出に置き変えたりされていると、より楽しみやすくなっていたかもしれません。

今作のキャラクターや物語の見せ方は非常に豪華です。動きの豊かなアニメーション、映像、凝ったカメラアングルなど、“ビジュアル的に楽しむ”という方面において、シリーズで最も豊か。かなり力の入ったものがあります。ここで充分に満足したというファンの人も多いはず。

システム面では、

「カンガエルート」、「ココロスコープ」、「みぬく」、「霊媒ビジョン」、「サイコ・ロック」と、シリーズ作を積み重ねているので、特殊な要素が多くなりました(これも個人的にはファンタジックな要素が増えた印象になるところ)。特に法廷パート中に出てくるシステム(サイコ・ロック以外)は、法廷でのビシバシとしたやり取りの流れを止めてしまっているように思えました。

僕は特に「カンガエルート」には思うところがあって。裁判のラストもラスト、BGMも最高潮のなか、最後に真相を順につきつけていく、それに真犯人や検事がリアクションしつつ、ときには弁護士と検事の異議ありのぶつかりあいも入りつつ、クライマックスの決めポーズへと達していく。そのカタルシスへのプロセスが、「カンガエルート」という枠にまとまってしまうのはもったいないなぁと。もちろん「カンガエルート」にも魅力はありますし、使い方次第だとは思うのですが。

自分の手でリズミカルに真相を突きつけていき、そこに検事や真犯人のリアクション、裁判長の木槌が混じるのが、クライマックスの醍醐味だったのではないでしょうか

「逆転裁判」のゲームとしてのイノチと言えるのは、プレイリズムの良さ、手触りの気持ち良さではないかと僕は思っています。

これは「逆転裁判」のみに限った話ではなく、“没頭してプレイし続けたくなるゲーム”と“プレイを一旦止めて休憩したくなるゲーム”の境目をわける、ゲーム全般への重要なポイントと考えています。

キャラクターのアニメモーションが豪華なので、前述のように眼で楽しめる魅力があり、それは間違いなく“時代に合わせた「逆転裁判」の進化”と思えます。実際、魅力的ですし“映像作品的な魅力”を好む人ほど評価の高まるポイントではないでしょうか。

ただ、ゲームとしてのプレイリズム、手触りとのバランス感覚を取るのが難しいところで。例えば、あるプレーヤーがキャラクターのモーション中に「早く次へ進ませて」と言わんばかりにボタンをポチポチしてしまっているようなら、それはゲームとしては気になるところ。

一部、演出シーンから戻っていくときに読み込みが発生するのも、ちょっと気になるという人がいるかもしれませんね。

今作をプレイして“「検事からのツッコミ、あげ足取り」がいかに大事なのか”ということも改めて考えました。プレーヤーはもちろん主人公たち弁護士側の立場なのですが、一方でプレーヤーが事件を考えていくうちに“シナリオや事件の真相への疑問やあげ足取り”な気持ちもところどころ生まれてきます。その代弁者が検事なんですよね。

「検事」のポジションは言うなれば漫才のツッコミ役的なのですが、ツッコミつつ次の話を展開させる前フリにもなる役割でもあり、プレーヤーの疑問を解消する補足説明役にもなっている。見事な構造です。

検事が鋭くて賢いツッコミを入れれば入れるほど、シナリオは鮮明に、面白くなり、クオリティも高まっていきます。しかも検事としての手強さも同時に出て、それに打ち勝ってエピローグへとたどり着いたときの気持ち良さも出てきます。

プレイさせていくテンポ作りとしては、いいところで画面が暗転して「つづく」の文字で区切るというのも大事に思います。

これの効果は絶大です。先の展開が気になるという気持ちを煽る“引き”の効果はもちろんとして、そこまでのストーリーに一旦のピリオドをつけ、整理しやすくもしてくれます。文章表現で言えば見出しや段落を変えたり、大きなものでは章の切り替えにあたるものでしょうか。

「逆転裁判」では探偵パートの終わりで「つづく」をつけたり、法廷パートでも「10分間の休憩」や「翌日持ち越し(から翌日の探偵パートへ)」という形でたくさん使われてきました。最新作「6」でも、もう少し「つづく」区切りを設けていたら、より楽しみやすいものになったように思います。少なくとも僕にとっては。

本稿は元の内容に加筆・修正をさせて頂いたのですが、

加筆・修正した箇所には“「逆転裁判6」をクリアまで楽しんだ”ということ、「これだけの作品を作るのにはかなりの苦労がある」ということ、そして「さらに良くなって欲しいという気持ち」というニュアンスが加わっています。

そして、充分に楽しんだ上で「こういうところが考慮されたら、もっと良い“進化した逆転裁判”になるのかも」という欲が出てきたというわけで。期待を込め、そしてより多くの人がうなるような傑作が生まれることを信じて。

配信開始となったダウンロードコンテンツの特別編「時を越える逆転」を楽しみつつ、次回作も楽しみに待ちたいと思います。

ではでは、今回はこのへんで。また来週。