3Dゲームファンのためのグラフィックス講座

西川善司の3Dゲームファンのための「プレイステーション 4」グラフィックス」講座(前編)

PS4のグラフィックス性能はPS3の8倍。PS4世代でゲームは数千万ポリゴン時代へ突入する!

2月21日正式発表(現地時間)

 米国ニューヨークでプレイステーション 4(PS4)の発表が行なわれた。まだ、不確定な部分も多いようだが、当日の発表会で公開された情報や、筆者が取材を行なって得た情報等を元に、スペック周りの解釈を行ないつつ、グラフィックス視点でPS4世代のゲームがどうなっていくかまでを占ってみることにしたい。

【著者近影】

インプレスジャパンより2009年に発刊された「ゲーム制作者になるための3Dグラフィックス技術」だが、このたび、Wii UやPS4世代のグラフィックス技術までをカバーした、増補改訂版となってリニューアルされた。70ページ以上の増ページとなったが、価格は据え置き。表紙はスクウェア・エニックスの「Agni's Philosophy」のAgniちゃんに。よろしく。ブログはこちら

PS4のグラフィックス性能はPS3の約8倍!

ニューヨーク市内の劇場で行なわれた「PlayStation Meeting 2013」の様子。E3等で行なわれるプレスカンファレンスと比較すると会場規模は小さめだったが、会場内の熱気は相当なものであった

 まずは、当日発表されたPS4のスペック周りについて整理してみることにしたい。PS4のコアプロセッサとして採用されるのはAMDのAPUだ。APUとは「Accelerated Processing Unit」の略で、消費電力とパフォーマンスのバランスを最重要視して設計されたCPUとGPUを1チップに集約した統合型プロセッサだ。

 ただ、AMDの現行APU製品にPS4と同スペックと同じものがあるわけではなく、AMDが2013年内にリリース予定のノートPC向けAPUである28nm製造プロセス世代の「Kabini」コア世代のテクノロジーをベースにしたカスタムAPUとなる。

【PS4のコアプロセッサ】
PS4に採用されるAPUは、Kabini世代と同世代。ただし、PC向けのものとはスペックが違う
PS4のCPUはKabini世代のAPUに採用されるJaguarコア世代のものになる

 PS4に採用されるCPUは、このKabiniコアAPUに搭載予定とされているJaguarコア世代の64ビットCPUで、これが8コア搭載される。今回の発表では動作クロックは未定となっているが、動作クロックは2GHz前後になると思われる。というのも、Jaguarコアは、電力対性能の効率部分に焦点を当てた設計であり、高クロックでの動作が想定されていないためだ。

 GPUは、同じくAMDの新世代GPUコアアーキテクチャ「Graphics Core Next」(以下GCN)を採用するということが発表されている。今回の発表では、PS4のGPUは、このGCNが、コンピュートユニット(Compute Unit,以下CU)18基構成であると発表されている。GCN Compute Unitは、1基当たり32bit浮動小数点スカラプロセッサ(Stream Processor,以下SP)を16基一組として4組を内包する構造であるため、PS4のAPU全体では、16基×4組×18CU=1,152基のSPを搭載することになる。

 SPの個数が1,152基というと、同世代GCNコアのAMD製GPU、RADEON HD7000系のRADEON HD 7850」(SP=1,024基)とRADEON HD 7870 (SP=1,280基)の中間のスペックと言うことになる。すでにAMD RADEONの最上位モデルには、RADEON HD7900系が存在する。そのトップエンドのRADEON HD7970がSPを2,048基搭載していることを考えると、PS4のグラフィックス性能は、その半分+αくらいをイメージすることができる。

【AMD RADEON】
図はAMD RADEON HD7870のブロックダイアグラム。PS4に採用されるものは、丁度この図から[GCN Compute Unit]を2つ取り去ったようなものをイメージすれば良い
AMD RADEON HD7000系の最上位モデルRADEON HD 7970。PS4のGPUがSP=1,152基に対して、RADEON HD 7970はSP=2,048基。ハイエンドPC向けGPUは、PS4の約2倍のパフォーマンスがある

 今回発表された情報のなかには「PS4のGPUの性能は1.84TFLOPSである」というものがある。GCNコアであるという情報があるので、「SPが1,152基」、「GCNアーキテクチャではSPが1クロックで1積和算(2 Ops)を行なえる」という仮定の下に逆算すると

(1.84 TFLOPS÷2)÷1152=約800MHz

という動作クロックが導出できる。RADEON HD 7850が定格860MHzであることを考えるとリアルな値だ。

 今回発表された情報では、PS4のメモリ容量は、8GBと発表された。これはCPUとGPUが共有する形で利用される、いわゆるUMA(Unified Memory Architecture)構成というヤツだが、ゲーム機では珍しい構成ではない。なお、PS3ではCPU用メインメモリが256MB、GPU用グラフィックスメモリが256MBと切り分けられていた。

 メモリタイプはGDDR5と発表されている。メモリバス幅は非公開となっているが、256ビットとみられ、この値で仮定して、公開情報のメモリ帯域176GB/sからメモリ動作クロックを逆算すると

176GB/s÷(256bit÷8)=5.5GHz

という、昨今のGDDR5メモリのスペックらしいクロック値(データレート)が導出される。

【PS4のアーキテクチャ】
PS4の発表会でのアーキテクチャ解説の様子。x86系CPU搭載のゲーム機ということで初代Xboxを思い出す人も多かったのでは?

 多くの読者が気にする「PS3に対してどのくらいのグラフィックス性能が有るのか」という部分についても語っておこう。

 まず、2005年当時の本連載のPS3スペック解説記事をあたると、SCEの公式スペック値には「PS3のグラフィックス性能は1.8TFLOPS」とある。今回発表されたPS4のグラフィックス性能値は1.84TFLOPSなので、ほとんど進化がないことになってしまう。

 ただ、PS3の1.8TFLOPSは、Xbox 360との机上の性能値合戦の末にマーケティングサイドが「メガ大盛りにした値」なので、当時から信憑性には疑問符が付いていた。せっかくなので「PS4 GPU=1.84TFLOPS」の計算基準でPS3のGPUの性能値を再計算してみよう。

 PS3のGPUであるRSXのベースアーキテクチャはNVIDIAのGPU、GeForce 7800 GTXであった。これは頂点シェーダが8基、ピクセルシェーダが24基あり、頂点シェーダには4way SIMD演算器が1基、ピクセルシェーダには4Way SIMD演算器が2基搭載されていた。各SIMD演算器は1クロックあたりの積和算(2ops)が可能なので、RSXの動作クロックが500MHzだったことを踏まえてFLOPS値を計算すると

頂点シェーダ:(4SIMD×2ops)×8基×500MHz=32 GFLOPS
ピクセルシェーダ:(4SIMD×2ops×2基)×24基×500MHz=192 GFLOPS

 合計して224GFLOPSと言うことになる。PS4のGPUが1.84TFLOPSなので、

1.84TFLOPS÷0.224TFLOPS=約8.2

PS4のグラフィックス性能はPS3の約8倍強あるという推察ができる。

 ちなみに、PS3のグラフィックスメモリ性能値は22.4GB/sだったので、

176GB/s÷22.4=約7.9

となり、グラフィックス性能と同じくらいの約8倍ほどに引き上げられていることがわかる。「PS4のグラフィックス性能はPS3の8倍」というのが、ひとまずの受け止め方でいいのではないだろうか。

(トライゼット西川善司)