(2014/10/23 00:00)
いよいよ純国産のサバイバルホラー「サイコブレイク」が発売された。ユーザーの前に謎めいた“イメージボード”が提示されたのが2年半前。プレイすることで、あのボードに書かれたものが何だったのか、納得ができた。
そして「サイコブレイク」は、三上氏がイメージを提示したときに語った「相当気合を入れて、久々の純粋なるサバイバルホラーを目指しています。現場ベタ付きの僕がクオリティに関しては保証します。期待してください」という言葉に違わぬ、すさまじいクオリティのゲームとなっていると確認できた。
弊誌でもプレビューなどで積極的に取り上げた「サイコブレイク」だが、本稿ではもう1度ゲームの基本的な要素を紹介すると共に、じっくりゲームをプレイした上での感触を語りたい。ネタバレは極力避けるが、全く前知識なしでプレイしたい、という人は注意して欲しい。
プレーヤーの“心”が麻痺し、変わっていく。そのすさまじい恐怖の描写に圧倒される
主人公の刑事セバスチャンは、ある事件を追っている中、緊急の通信が入り、“大量死亡事件”が起きた場所に急行する。そこは古めかしい大きな病院であり、中には多くの患者や看護婦達の死体が転がっていた。病院の前には駆けつけたパトカーは止まっているものの、警官の姿はない。
銃声が聞こえ、セバスチャンは監視カメラを見る。そこには謎のフードの男が超人的な力で警官達を倒しているのが見えた。次の瞬間フードの男が後ろに現われ、セバスチャンは気絶させられてしまう。気が付くとセバスチャンは逆さまにつり下げられている。そばには同じように何体かの死体がつり下げられており、巨大な体の男がそのうち1体を“作業台”にのせ、解体を始めた。
「このままではいずれ自分も」と考えたセバスチャンは必死に逃走を試みる。セバスチャンの逃走に気づいた男は、チェーンソウを持って追いかけてくる。脚を切りつけられ、引きずって歩きながらも必死に逃走するセバスチャン……それは彼が巡る“地獄”への旅の始まりだった。次々と展開していく異常な光景は、とても現実とは思えない。全てが謎に包まれているが、はっきりしていることが1つだけある。セバスチャンが前に進むのをやめたとき。待っているのは“死”だけなのだ。
「サイコブレイク」では醜悪でグロテスクな、見ているこちらの神経がやすりで削られるような“恐怖”が次々とセバスチャンを襲う。身体に杭が刺さり、有刺鉄線を身体に巻き付けた“動く死体”にしか見えない怪物「ホーンテッド」、血まみれの4本の腕を持つ長い髪で顔を隠した「ラウラ」、頭を金庫で覆い、金槌で攻撃してくる「キーパー」など、様々なクリーチャーが容赦なく襲いかかってくる。
さらに恐ろしいトラップも盛りだくさんだ。ピアノ線やセンサーで爆発する爆弾はあらゆる所に仕掛けられているし、こちらを挽きつぶそうと迫ってくるローラー、触れたら即死の巨大な回転する刃、脚に絡みつき自由を奪う有刺鉄線をはき出す地雷、酸が降ってきたり、炎を吹き出すトラップもある。
金網や大きな刃物や焼却炉がある工場、ホーンテッドが徘徊する廃棄された農場、地殻変動で崩壊した街、謎めいた洋館に、不気味な病院……セバスチャンが進んでいく場所は一瞬で姿を変え、地理的に繋がっているように見えない。そしてあたりは常に血まみれで、ホーンテッドか死体かわからないものがごろごろしている。常に後ろはふさがれ、戻ることもできない。セバスチャンができることは、前に進むこと、襲いかかってくる困難と恐怖に立ち向かうことだけだ。
「サイコブレイク」の最大の魅力はその世界観だ。そこには、「よくもここまで考えつくものだなあ」と感心させられ、圧倒される“恐怖の描写”がある。廊下、迷い込んだ部屋、机に置いてあるもの1つとっても“怖い”のだ。薄暗く、不気味で、何かが潜んでいそうだったり、血まみれの死体を引きずったあとがあったり、オブジェクト1つ1つにすさまじいまでの“描写への執念”が感じられる。
本作は広大なオープンワールドタイプのゲームに比べればステージの面積は小さいが、だからこそ本作のステージ全てに開発者の“神経”が通っているのがわかる。開発者の気合いと、自負が感じられる。一切の手抜きなし、という感じだ。ここまでの作り込みを感じさせる作品は、個人的には初めてだ。これだけの力の入ったゲームが世に出る、そしてプレイできるというのは、大きな幸運を感じる。「すげえゲームだな」とプレイしていて、つくづく思ってしまうのである。
特に面白いと思ったのが、看護師タティアナがいる「病院」に対する、プレーヤーの感覚だ。ここでは電気椅子のような施設があり、ステージで入手できる「グリーンジェル」を使って能力を強化できる。ゲームでは鏡を通じて様々な場所からここに出入りできる。ある意味“避難所”といって良い場所だ。しかし、考えてみればここだってかなり怖い場所だ。グリーンジェルはホーンテッドの死体からも採取できる、明らかに身体に悪影響を及ぼすものだし、病室はベットと机とトイレしかなく、扉にも鉄格子がはまっているという独房そのものだ。
病院は電気はほとんどなく真っ暗だし、拷問機のような施設があるだけのきわめて不気味な場所なのだが、ここには化け物はいない。こんな不気味な場所なのに、ここに戻れるとホッとする自分がいる。こんな気持ち悪い場所で安堵しているその価値観と精神はかなりヤバイのではないだろうかと、プレイしていてふと思ってしまう。「サイコブレイク」はそのタイトル通り、自分の中の何かが壊れていくような感覚を自覚させられる作品なのだ。
「サイコブレイク」は、プレイしていてこちらの正気がゲーム世界の狂気に浸食されていくような、その突出した恐怖の表現と、「究極のサバイバルホラー」というテーマ、そして負荷が強いゲームバランスと、決して万人向きのゲームではない。筆者自身、「次は絵本の世界とかを扱った、ほんわかしたゲームがプレイしたい」と思ってしまったほどだ。精神が疲弊する、かなりとんがったゲームだ。
しかし、だからこそ、「サイコブレイク」は、これまでのゲームのなによりも“恐怖”と“サバイバル”というテーマに挑んだ作品だということは、しっかり主張したい。さらに本作は「ゲームバランス」に関しても、ものすごく踏み込んだ作品である。次ページでは、ゲームとしての側面から「サイコブレイク」を語っていきたい。