ホビーレビュー

RG Zガンダム

開発者西澤氏インタビュー、これまでに無かったギミックを多数盛り込んで実現した完全変形

「RG Zガンダム」開発者、バンダイホビー事業部企画開発第二チームサブリーダーの西澤純一氏
変形でのポイントとなる頭部のスライド機構。アニメの設定そのまま、胸アーマーをくぐってせり出してくる
背中の薄さは本作の注目ポイント。可動部分が集中しているが、ウェーブライダーのスタイルも崩さない

――まず最初に、西澤純一さんのお仕事を教えていただけますか。

西澤氏: 私がバンダイに入社したのが1997年で、今年で15年目になります。最初の担当は設計、6年後に開発になりました。開発というのは「MSをどんなプラモデルにするか」というアイデアから、関節構造、どんなギミックを盛り込むか……といった、プラモデルのコンセプトや仕様を設定するチームです。

 設計というのは、開発から上がってきた要素を実際のプラモデルへ落とし込むチームですね。1つ1つ部品を3Dで設計していきます。開発からは「仕様書」という書類の形で来るので、これを実際のプラモデルにしていくのが設計です。開発と設計の綿密な打ち合わせで、徐々にプラモデルができていくのです。

 私が開発として初めて携わったのが「機動戦士ガンダムSEED」のアニメーションで登場した機体からのスピンオフである「MSV」が最初になり、それから現在まで、300以上のプラモデルを担当してきました。「SEED」や、「機動戦士ガンダムOO」、「機動戦士ガンダムAGE」のMSなども手掛けています。テレビシリーズに登場するものを最近はやっていますね。大体1つの開発には9~12カ月くらい、企画にもより1年以上かけるのもありますが、同時に3~4ライン手掛けている感じです。

――ガンダムのプラモデル、特にMGなどでは関節を動かすと装甲が連動するなど、アニメでの描かれ方以上のギミックを盛り込んでいる印象を受けます。こういった要素は開発が加えていくのでしょうか。

西澤氏: ガンプラには「MG」、「HGUC」、など様々なシリーズがあり、シリーズごとにコンセプトが異なります。これらのコンセプトに合わせてギミックを盛り込んでいきます。例えば比較的高額なMGならば、内部のフレーム構造を設定しますし、RGは“リアル”、“本物”を追い求めていきます。

――現在のガンプラ開発のチームでは、スタッフは何人でしょうか。

西澤氏: 開発は10人です。10人が様々なガンプラを企画しています。

――そして「RG Zガンダム」ですが、この製品が生まれた経緯を教えてください。

西澤氏: まず、RGというブランドは、ガンプラ30周年を記念し、1/1ガンダムを作る、というところからスタートしています。その1/1のガンダムが、そのままプラモデルとして手元にある“本物”の質感を持ったプラモデル、というのが基本となるコンセプトなのです。

 そして、「Zガンダム」ですが、Zガンダムの最大の特徴は、MS形態からウェーブライダーと呼ばれる高速移動形態への変形です。これまでバンダイは、Zガンダムの“変形”に何度もチャレンジしてきました。時にはパーツの差し替えや、アニメと同じ設定を試みるもの、オリジナルのギミックを盛り込むものなど、様々なアプローチを行なっていました。

 特に今回挑戦した1/144のサイズでの挑戦は、ガンプラ、そしてプラスチック製品というカテゴリーから見ても難しいものでした。その難易度の高い課題に挑戦したい、というのが今回の「RG Zガンダム」が生まれた理由です。

 今回のチャレンジで難しい部分は、アニメの設定の複雑さと共に、プラスチックという素材の“強度”の部分がありました。この問題に関してもある程度の解決策が提示できるという、現在の技術的な蓄積があったからこその挑戦となりました。その強度が確保できる、という部分がまさに「アドバンスMSジョイント」だったわけです。「RG Zガンダム」はアドバンスMSジョイントにより骨格を持つところも大きいです。

――Zガンダムはアニメの設定上、「ガンダムMk-IIのムーバブルフレームの技術が活かされた」というものがありましたが、これまでのプラモデルでは明確なムーバブルフレームは設定されていませんでしたよね。「RG Zガンダム」では、そこもきちんと設定されているのが驚きでした。

西澤氏: キットを見ていただくとわかるのですが、RGではこのランナー(パーツを保持する枠組み)のパーツそのものが、アドバンスMSジョイントによって“骨格”として設定されています。そしてRGの第9弾が「ガンダムMk-II」だったので、劇中同様「Mk-II」からの進化、といえる部分もありますね。

 アドバンスMSジョイントのお陰でパーツをそれほど細かくする必要が無く、強度を確保できる部分もある。RGというシリーズで、Zガンダムというモチーフに挑戦した大きな理由です。また、変形構造の難しさに関しても、このジョイントは1体化されているためにシンプルで強くなっています。

――変形でのセールスポイントはどこでしょうか。

西澤氏: ポイントとなるのは、首回りの変形機構です。頭のパーツが胸のパーツの中を通り、胴体に収納されるところ。背中側にレールが仕込まれており、胸のパーツを押し込むと連動して首が出ます。その後きちんと頭が固定されるロック機構もあります。アンテナが折りたたまれるのも1/144ではこれまでできていなかったことです。

 太ももにもロック機構があってMS形態、ウェーブライダー形態どちらもかっちりと決まるようになっています。ロックを外して稼動させ定位置に固定させるということができます。このフレーム自体もアドバンスMSジョイントと、強度を考えたABSの組み合わせとなっていますので、構造的な強さと自由度を両立させています。

 これまでのZガンダムのプラモデルと違うところとしては、“フロントアーマー”があります。これまでフロントアーマーは腰のユニットにくっついていたのですが、RGでは足についており、変形の時は脚と共に動きます。こちらの方が、アニメの設定に近いですね。一体化しているわけではないので、ポージングは自然に決まります。

――実際の変形のポイントをもう少し教えてください。

西澤氏: 背中ですが、肩部分も左右に広げられます。こうすることで肩が収納できます。頭をくぐらせる可動部も実はスライド機構も仕込んでいて、スライドさせることで隙間がなくせます。また、MS形態でも胸のアーマーをきっちりとはめ込むことができます。胸をくぐらせるときとのスライドは考えていますし、ロック機構も用意しています。

 腕は内側に折りたたまれ、足は外側にはまっていきます。背中の厚みをできるだけ抑えたことで、ウェーブライダー時の“機体の薄さ”がもたらされています。肩が内側に折りたたまれるので、それだけでかなりの厚みになる。そうなるとどこで薄くしていくかもチャレンジなのです。

 例えば肩を内側にたたむためのヒンジ(ちょうつがいのような支持構造)は機体の外に出すようにしていたりしています。ウェーブライダーの“薄さ”も注目してもらいたいポイントですね。

――今回のZガンダムのギミックに関して、西澤さん自身が特に“うまくいった”と感じた部分というのはありますか。

西澤氏: “背中の薄さ”ですね。Zガンダムは頭部が胴体に収納されてしまうので、体部分にフレームが作れないのです。その構造で、手や背中のパーツ、胸部アーマーなどを支えなくてはならないため、背中に様々な力が集中します。その背中の板は3mmしか厚みがありません。頭のスライド機構、腕の収納機構、さらに胸部アーマーのヒンジの支点も全部背中のパーツに接続されています。

――それだけ情報量と負荷がかかるパーツをプラスチックで実現するのは難しかったんじゃないでしょうか。金属パーツを使うというのもあったのではないでしょうか。

西澤氏: RGは“ガンプラ”、プラスチック製品です。このため金属パーツは使いませんが、“質感”という意味では金属の光沢を感じさせる「リアルスティック・デカール」というシールが用意されてまして、これを関節部などに貼り付けることで、金属製にフレームを使っているような雰囲気を出せるようにはしています。

【RG Zガンダム変形ムービー】

1/1 Zガンダムから逆算して作り出す“本物”の構造

説明書は開発者の考えもよくわかるという。「RG Zガンダム」は“構造物”をイメージして、足から組んでいるとのこと
ガンプラEXPOで展示されていた「RG Zガンダム」は、キットに同梱されている「リアルスティックデカール」を全身に使用していた。より“本物らしさ”が際立つ

――やはりプラモデルを作るときは、原作のアニメを何度も見返したりするのでしょうか。

西澤氏: もちろんそうですね。また3DモデルとしてMSのデーターは持っているので、こちらも使っています。ただ、Zガンダムの変形は過去何度もトライされているものであり、その後番組やテレビでそれらの試行錯誤がフィードバックされています。雑誌などでも変形のシークエンスを細かく解説していたりしているので、そういった膨大な資料から“本物”はどうか、という要素を抽出していく作業も行ないました。

 過去のプラモデルでは、アニメの変形を忠実に再現しよう、というベクトルのものもあります。今回はRGとして、「Zガンダムが実在したら変形はどうなるだろうか」ということも考えて設計してみました。本物だったら、アニメと違うところもあるのではないか、ということも考えてみました。

――ガンプラは進化し続けていると感じます。例えば説明書ですが、数年前から最初にコクピット、胴体から作り、そこから手足に行くという流れになっているものが多く、完成形をイメージしやすいなと感心したんです。一方、今回の「RG Zガンダム」は足から作るのですね。

西澤氏: RGは“建造物”をイメージしているので足から作る様にしました。ブランドによって作る順番が違う場合があります。説明書の手順はそのまま開発者がモデルを組み上げる順番ともなっています。武器を最初に作ったり、頭や腕から作るものもありますね。

 RGに関しては、1/1 ガンダム立像が根本にあります。あれは足から組み上がっていきましたからね。同じベクトルのRGも足から、と考えて説明書を書きました。1/1 ガンダム立像はある意味僕たち開発の“夢”の実現でした。その興奮があるからこそ、「RG Zガンダム」を実際1/1を作っているような気持ちになってもらいたいと考えて、足から組むようにしました。

 説明書は私達設計者がどう組み上げていたか、というところもわかると思いますね。立体物をイメージしている「RG Zガンダム」はまず足をしっかり組み上げたら、本作の最も根幹部分である“背中”を組んでいくようになっています。

――例えばZガンダムだと、変形の都合上お腹は空っぽで、コクピットブロックや頭などが収納されるスペースとなっています。こういったアニメの設定と、“本物”を考える上で齟齬が出てくる部分もありますよね。

西澤氏: Zガンダムを最初にデザインしたときどこまで考えていたかはわからない部分もありますが、ここから工業製品として考え説得力を持たせるための設計をしています。ここはこの厚みで、ここにはこの関節が必要になるはずで、ここはこういう機能を持つはずだ、というように順序立てて考えています。そこは必要であると共に、企画の楽しさでもあります。私のアプローチとしては、与えられる素材に対して“本物”という視点が常にあると思っています。

 “本物”という視点はパーツ分割にも込められています。できるだけパーツ数を少なくしながら強度を確保していくのですが、1パーツで作れない部分などもある。ボディはいくつで分解しているのか、フロントアーマーに白い部分と灰色の部分がありますが、ここは1パーツでも作れるはずなのに2色になっているのは、ここがメンテナンスハッチになっていて、開けることで内部にメンテナンスができるからだ、というように、「実際のZガンダムならどういう機能があるか」を考えているんです。精密さではなく、本物を想像し、逆算した設計です。

 MGでは特にアニメにはないフレーム構造や内部構造を再現し、プラモデルを作る人に画面には描かれていないMSの“実在感”を感じてもらうベクトルで作られています。一方のRGはアニメにリアルな説得力をもたらすのではなく、「アニメのモデルはこうだけど、現実化したときはこうなるんじゃないか」という、微妙に異なるベクトルを持っています。

――今後、「RG Zガンダム」で追加武装が出るなど、展開は考えているでしょうか。

西澤氏: 今回のガンプラEXPOでもリアルタイプのマーキングのザクが発表されたりしていますが、Zに関しては検討中です。

――西澤さんはもう次の作品を手掛けられているのですか。

西澤氏: 発表されているものですと「RG ディスティニーガンダム」ですね。この他にも色々なものを同時に動かしています。

スマートなMS形態から、手足の位置を変え、ウェーブライダー形態に。両腕が内側に折りたたまれる形にもかかわらず、“薄さ”を追求している
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