PS3/Xbox 360ゲームレビュー

最強のボクシングゲームが日本上陸
新技術でリアルさとゲーム性が高次元で融合

「ファイトナイト ラウンド4」

  • ジャンル:ボクシングゲーム
  • 発売元:エレクトロニック・アーツ
  • 開発元:Electronic Arts
  • 価格:5,040円
  • プラットフォーム:プレイステーション3 / Xbox 360
  • 発売日:2010年1月28日(発売中)
  • プレイ人数:1~2人
  • レーティング:CERO:B(12歳以上)

飛び散る血と汗! リング上の風景を丁寧に描写する最新エンジンに注目

 全てのボクシングファンにとって絶対に見逃せないゲームが登場した。エレクトロニック・アーツが1月28日に発売した「ファイトナイト ラウンド4」は、最新の3Dグラフィックスと物理処理のテクノロジーを惜しみなく投入し、これまでにないレベルでリング上の戦いを表現したボクシングゲームだ。

 本作は昨年夏に海外で発売された作品の国内版であり、コンシューマーゲーム機用のタイトルとしては珍しく「日本語マニュアル付き英語版」という形態で販売される。海外で非常に高い評価を得た作品であるだけにゲーム内のローカライズも期待されるところだったが、もとより海外のボクシングシーンを中心として組み立てられたゲームであるため、英語のままでも大きな違和感はない。

 それよりも本作において注目したいのは、ボクシングゲームとして両立の難しい「リアルさ」と「ゲーム性」を、ともに高い次元で満たすゲームシステムだ。右スティックの直感操作で繰り出す各種のパンチや、左スティックで操るスウェーイング。操作の基本はシンプルながらも、その柔軟性の高さが非常に奥の深い駆け引きを実現する。そしてリング上に現われる風景は、まさにボクシングそのものだ。



■ 攻防一体の直感操作システム。強烈カウンターパンチでノックダウンを奪え

攻撃と防御は直感操作。アナログ入力の精度とスピードがモノを言う
物理エンジンがブレンドされたモーションシステムで、密着しての戦いがリアルに展開

 本作は2007年6月に発売された「ファイトナイト ラウンド3」の後継となるシリーズ最新作だ。開発元はEA Sportsブランド作品を数多く手がけるEAバンクーバー。近年のEA Sports作品では直感的な操作や物理エンジン技術の採用が積極的に行なわれているが、本作はその中でも特に最新技術の導入にこだわった作品となっている。

 まず特徴的なのは、右スティックの動きだけであらゆるパンチを繰り出すことのできる「トータル・パンチ・コントロール」。例えば、右上に倒せば右ストレートが、横から上にクイッと入力すればフック、斜め下から上に入力すればアッパー、と言う風に打ち分けることができる。また、R1ボタン(RB)を押しながらパンチを入力すれば、予備動作が大きいものの強力な一撃を期待できる「HAYMAKER」を繰り出すことができる。

 防御面もかなり直感的だ。スウェーイングはL2ボタン(LT)を押しながら左スティックを操作することで行ない、ブロッキングはR2ボタン(RT)と右スティック。ディフェンスのスキルは攻撃面の有利な状況を作るためにも重要だ。スウェーイングやブロッキングで相手のパンチを上手にかわすことができれば、1発ノックアウトも狙えるカウンターパンチのチャンスを得られるからだ。

 したがって本作では、攻防一体の試合の組み立てが重要になっている。ひたすらパンチを連打するようなプレイでは簡単にスタミナを失って動きが重くなるばかりか、動けなくなったところにカウンターパンチを食らってダメージを蓄積させることになる。防戦一方のプレイでも、連打を受け続ければブロックをこじ開けられてジリ貧だ。いかにバランスよくディフェンスし、隙を見つけて効果的なパンチを送り込むか。そこに本作のスタイルが凝縮されている。

 その上で本作における大きな進歩のひとつは、物理エンジンの的確な活用のおかげでボクシングで起こりうる様々な物理現象が的確に描写されるようになったことだ。前作では選手同士の間に見えない壁が存在し、ある一定距離以上は互いに近づけなかったところ、本作では体の各部位の当たり判定が厳密になったため、互いの頭がぶつかるほどの近距離まで間合いをつめることができる。その状態でパンチを繰り出せば、相手の腕にからまって姿勢が崩れるようなことも起こりうる。


前作に比べグラフィックスやモーションの質が向上したにも関わらず、フレームレートは前作を超える60fpsを実現。これまでにない完成度のボクシングゲームだ



マイク・タイソンは、顔から体つき、その動きまで全盛時の状態が完全再現されている
モハメド・アリ。長いリーチとスピードを生かしたボクシングで最強クラスのキャラクターだ
マニー・パッキャオ。ウェルター級の選手としては規格外のスピード

 密着してのインファイトボクシングが可能になったことで、各選手の個性がより良くプレイに現われるようになった。その代表格が、本作でメインフィーチャーされている選手であるマイク・タイソンだろう。アナログ操作のスウェーイングができることもあり、細かく頭を振りながら大型選手の懐に飛び込んでいく姿はまさにタイソンそのもの。

 もうひとりのメインフィーチャー選手はモハメド・アリだ。鋭いスピードと長いリーチで繰り出すアウトボクシングスタイルは、本作でインファイトボクシングがしっかりと描写できるようになったことで更に際立つスタイルとなっている。活躍した時代こそ異なれ、タイソンとアリという全くタイプの異なるチャンピオンのボクシングがしっかりと表現できるようになったことが、本作における顕著な進歩と言えるだろう。

 このほか本作では、各時代の高名なチャンピオンを多数収録している。元祖パウンド・フォー・パウンドのシュガー・レイ・ロビンソンから、現役最強のボクサーとも言われるマニー・パッキャオまで、各階級の名選手が50名以上登場するので、時代を超えた架空のビッグマッチを手軽に楽しめるというわけだ。

 当然ながら、階級が変わればボクシングのスタイルも違ってくる。本作では各選手の能力をパワー、スピード、スタミナ、タフネスなどの観点から10数項目にわけ、それぞれに100段階の数値を割り振っているが、同じスピードのある選手でもマニー・パッキャオとモハメド・アリの操作感は異質。軽量級の試合では1発のパンチがもたらすダメージが低いため手数で勝負という形になりやすいが、重量級の試合ではカウンター1発でマットに沈むようなシーンもよく見られる。

 軽量級から重量級まで、あるいはアウトボクシングからインファイトまで、様々なスタイルのボクシングを楽しめるのが本作のよい所だ。直感的な操作に、物理エンジンの多用など、一見奇をてらった感もする本作だが、その中身は実にマジメなボクシングゲームなのである。


ヘビー級の試合はパワーたっぷりで大迫力。ワンパンチが重いので、1発のカウンターで形勢が逆転することも多い

より軽量なクラスではフットワークを生かした手数勝負のボクシングが展開しやすい。鋭い動きでカウンターを狙おう



■ オリジナル選手でボクサーキャリアを追体験する「Legacy Mode」
 強豪相手に亀になるか、それとも果敢な攻めでチャンピオンを目指すか?

「Legacy Mode」はアマチュアトーナメントからスタート。最初は相手も弱いので安心だ
初期の能力値はこんなもの。トレーニングを繰り返して成長していく
試合を組めるのは自分のランクから±5位内ほど。まずは楽勝できそうな相手から選ぶのが吉

 本作のゲームモードは大別して2系統あり、ひとつは任意の選手を選んでワンマッチを戦う「Fight Now」。こちらは来客時のパーティーゲームとしてもオススメだ。もうひとつは自作選手もしくは既存選手を選んで、10数年にわたるボクサーキャリアを追体験する「Legacy Mode」だ。こちらは1人で長く遊べるゲームモードになっており、アマチュアトーナメントの選手からプロとなり、世界チャンピオンを目指す道程をプレイ。選手の成長要素もフィーチャーされている。

 自作選手でプレイする場合は、まずキャラクターメイキング画面からスタートすることになるが、これがかなり高機能で、顔の作りから肌の色といった見た目から、スタンスやパンチのモーションなど様々なボクサースタイルを設定できる。このうちスタイルに関連する要素は初期の能力値にも影響するため、キャラクターメイクの時点でパワー型・スピード型・精度型といった傾向を決めておくことが可能だ。

 またキャラクターメイキングでは、顔の作りを設定する際、プレーヤー自身の顔を取り込んで自分そっくりの選手を作ることもできる。この機能を利用するために必要なものは、デジタルカメラで撮影した正面・側面からの顔写真。あらかじめEA Sportsのウェブサイトにアップロードしたものを使うか、Xbox LIVE ビジョンがあればその場で撮影できる。

 自分そっくりのボクサーを作ったら階級を決めて、いよいよボクシング人生にデビューだ。「Legacy Mode」の開始時点でプレーヤーキャラクターは19歳の新米ボクサー。能力値は平均で60くらいの弱小選手なので、各階級の上位を目指すためにはトレーニングで能力値を上げていく必要がある。

 トレーニングは、試合と試合のインターバルに、1回~3回のセッションで行なわれ、次の試合までの期間を長くとるほど多くのトレーニングが行なえる仕組みだ。トレーニングメニューは「OPEN SPARRING」、「HEAVY BAG COMBOS」、「DOUBLE END BAG」といった種目別に6種類用意されており、それぞれのミニゲームをプレイして、その結果に応じて各能力が向上する仕組みだ。

 このトレーニングがなかなか曲者で、慣れないうちはミニゲームに失敗してほとんど能力が上がらないという状況になりがちだ。そこで、苦手なトレーニングメニューについては「50%のトレーニング効果」を保証してくれる自動トレーニングで処理してしまうのも妙計。得意なトレーニングについては自分でプレイして、各能力を効率的に上げていきたい。


写真から自分そっくりの選手を作成。本作のエンジンのクセのためか、どこぞのブラジル人選手っぽいものが誕生した

トレーニングは全6種類あり、すべて独自ルールのミニゲーム形式になっている。コツを掴むまで少々の失敗は必要だが、慣れれば効率よくパラメーターを上げられるようになる



ランクを上げるに従い、次第に大きな舞台で試合できるようになる
強豪相手にはディフェンススキルを磨くことも重要。スタミナ負けしないようボディ打ちに注意
10ラウンドを戦いきっての判定負け。良い試合をすれば相手とのライバル関係が築かれることも

 各試合のスケジューリングは基本的に自分で決めることができる。ただし注意しておきたいのは、多くのダメージを受けた試合の後は長い回復期間が必要であるということだ。1ラウンドKOで完勝すればほぼ1カ月おきの頻度で試合を組むことも可能なのだが、10ラウンド判定までもつれ込むような試合では深いダメージを負うため、回復期間に2カ月もかかることがある。しかも、これはキャリアの晩年になるほど影響が大きくなるので、若いうちに沢山の試合をしておきたい。

 とはいえ、ゲームを始めたばかりの段階では弱い相手も多いのが実情。まずは対戦相手の成績を見て、上位ながら能力値の低い選手を撃破していくのが効率のよい試合の組み方と言えるだろう。ただその作戦も、ランキング中位以上になってくるとなかなか難しくなってくる。各階級の20位内に位置する選手は、ほぼ間違いなく強豪といえる能力を持つためだ。

 少ないラウンドでKO勝ちを収めるのが難しくなってくると、いよいよ本作の真の面白さが見えてくる。10ラウンドを戦って判定で勝つにせよ、終盤のラウンドでKO勝ちを狙うにせよ、複数ラウンドを跨ぐ試合の戦略が重要になってくるのだ。

 本作のルールでは、各ラウンドの終了時、放ったパンチの命中率や、相手の意識を飛ばした回数、ダウンを取った回数に応じてプレーヤーにポイントが与えられる。プレーヤーはこのポイントを使って、「Health」(体力)、「Stamina」(スタミナ)、「Damge」(負傷)を回復させることができる。

 これが戦略的に非常に重要だ。スタミナを重視すれば終盤まで多くの強いパンチを放つことができ、体力を重視すれば最後まで被弾を恐れずに積極的に戦える。逆に、ダメージが蓄積しすぎた場合はしっかり回復しておかないと、負傷が危険水域に達した時点でTKO負けを取られる危険がある。

 これは敵に対しても言えることで、相手が自分よりも強豪の場合は、スタミナを効率的に奪って終盤のラウンドで大逆転、といった戦い方が有効だ。そのためには相手に多くのパンチを無駄打ちさせるディフェンススキルと、的確にボディ打ちを当てていく堅実さ、そして多くのスタミナが必要だ。あるいは、ジャブを中心に顔面ヒットをコツコツと重ねていき、体力を奪い続けて終盤にラッシュをかけて一気にダウンを取るという戦い方も有効である。

 うまく戦いを組み立てて強豪を撃破できるようになれば、いよいよチャンピオンベルトを手にするチャンスが巡ってくる。それまで数年間のキャリアを積んでいく中で、より多くのトレーニングを積み、自分の強みを明確にしていく。例えば筆者の場合は、左右のパンチ力とパンチ精度を重点的に育てて下位選手を効率よく破り、上位ランカーとの試合が組まれるあたりからフットワークと打たれ強さを鍛え、判定勝ちを視野に入れた育成を試している。

 「Legacy Mode」のゴールは選手の引退である。ある程度の年齢になるとダメージの回復に長期間を要するようになり、それ以上の成長が難しくなってくる。若年の選手に歯がたたなくなったとき、否応なく現役を退く日がくることだろう。それまでに多くの勝利とチャンピオンベルトを獲得し、「Greatest of All Time」の称号を獲得できるか。手ごたえ抜群で、何日もかけて取り組む価値のあるゲームだ。


パワー重視で育てていると弱点になるのがディフェンス面。特に上位ランクではワンパンチで沈めらることも多くなるので、しっかりスパーリングで鍛え上げておきたい

ダウンすると、10カウント内にバランスを取って起き上がるというミニゲームになる。2度目、3度目になるにしたがって難しくなり、4度目のダウンではもうほとんど起き上がるのは不可能

並み居る強豪を打ち破ってチャンピオンの座へ。その後は防衛を重ね、階級を上げ、伝説的な選手への階段を登っていく。引退するまでにどれほどの実績を残せるか、勝負してみよう



■ 人間同士のマッチはより「オープン」な打ち合いに。ゲームモードを追加するDLCも公開

オンラインランキング。試合を勝利する毎にポイントを獲得し、そのポイントで順位が決まる仕組み
オンライン対戦はとにかく激しい打ち合いになりやすい。ここぞというタイミングでしっかりカウンターを狙いたい
ヤバい!と思ったらすぐにクリンチしよう。追い打ちでダメージを蓄積するのが1番怖いからだ

 本作はPlayStation Network(PSN)あるいはXbox LIVEを通じたネットワーク対戦にも対応しており、既存の選手でワンマッチを戦う方法や、オリジナル選手で構成された世界ランキングシステムで試合を行なう方法がサポートされている。

 世界ランキングは大雑把にライト、ミドル、ヘビーと3階級に分かれており、それぞれの階級に対して自作のオリジナル選手を所属させることが可能だ。選手の能力値に関しては、各マッチの開始時に対戦相手と同等の平均値に調整される仕組みとなっているため、基本的に「キャラ勝ち」するようなシチュエーションは排除されている。

 筆者取材時点ではまだ国内未発売ということもあって、海外プレーヤーとのマッチングで対戦プレイを体験することになったが、気になるネットワークラグの影響は、それほど深刻ではない。元々、「トータル・パンチ・コントロール」の入力がアナログ的で、多少の先攻入力も可能であるために、多少のネットワーク遅延はそれほど気にならないのだ。

 とはいえ、相手のパンチの「出」を確認してから的確にブロッキングするというのは至難の業。そのあたりは対戦相手も同じで、ネットワーク対戦はCPU戦に比べてかなりオープンな殴り合いになりがちだ。そこで重要になってくるのがスウェーイングでパンチの狙いを散らすテクニックと、相手の動きを見越してカウンターパンチを準備する先見性である。

 と、口で言うのは簡単だが、実際の試合はやってみないとわからない。複数試合をネットワーク越しに対戦してみた感想としては、隙の多い強力パンチ「HAYMAKER」も結構当たるため、まずは攻撃的に出たほうが優位に立てやすいということだ。特にボディへのパンチが有効。ボディ打ちは相手のスタミナを奪い、スタミナが低い状態では顔面へのパンチダメージがより深まる。このため、のっけから屈んでボディへのジャブを連発するプレーヤーもいて面白い。


人間同士の戦いで実力が拮抗している場合、スタミナが重要になってくる。ラウンド間のポイント使用はしっかりと戦略的に行ないたい

DLCはコストパフォーマンスにちょっと疑問符がつく内容。収録選手のファン向け、ということかもしれない

 最後に本作の追加要素について紹介しておこう。海外では発売から既に半年近くを経過していることもあり、既にいくつかのDLCが配信されている。

 有料DLCのひとつは、「Champions Pack」と題する追加選手のパッケージ。オスカー・デラホーヤ、ジョージフォアマンなど5選手が収録され、PSNでは4.99ドル、Xbox LIVE上では400マイクロソフトポイント。少々価格が高い気もするが、各選手のファンならばそれでも購入したくなるものなのかもしれない。

 もうひとつの有料DLCパックは「Champions Pack II」(PSNで4.99ドル、Xbox LIVEで400マイクロソフトポイント)。こちらはエバンダー・ホリフィールドやバーナード・ホプキンズといった4選手をフィーチャーするほか、新たなゲームモードとして「Ring Rivalries」(過去の名カードを再現するモード)、「Old School Rules」(制限時間90分、KOまでラウンドが続く旧ルール)の2つをアンロックする。

 このパックは各要素毎に小額で購入することも可能だが、まとめて購入することもできる。とはいえ4選手の追加と、はじめからゲームに同梱されていてもおかしくないレベルのゲームモード2つの価格としては、やはり割高感がある。まあ、本作に心底ハマってしまえば、両方買ってしまうのも人情というものだ。

 

 というわけで、DLCの充実度と言う面ではイマイチな本作だが、ボクシングゲームとしての完成度は非常に高く、リアルさとゲーム性の両立という点においては過去最高の作品だ。ボクシングファンはもとより、今までにないタイプの格闘系ゲームを求めるゲーマーの方には是非手に取って欲しいタイトルである。

「Champions Pack II」では、往年の名カードを選べる「Ring Rivalries」、90分KOラウンド制で試合をする「Old School Rules」の2ゲームモードが収録されている。90分ルールは実質10分くらいでスタミナ切れになるので、ほぼKOでのみ勝負がつく



【スクリーンショット】

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(2010年 1月 29日)

[Reported by 佐藤カフジ ]