2017年3月25日 07:00
筆者にとって待ちに待ったアクションフィギュア「DX超合金 Sv-262Hs ドラケンIII(キース・エアロ・ウィンダミア機)」が発売された。本商品は「DX超合金マクロス」シリーズの最新作である。弊誌では定期的にこのシリーズを紹介しているが、それは筆者がシリーズファンであるためだ。その熱い想いは「DX超合金 VF-31Jジークフリード」レビューなど過去何度も語っている。
そのシリーズにおいて、「DX超合金 ドラケンIII」は特別な意味を持つ。変形メカニズムが全くの新設計なのだ。実はこれまでのシリーズのメインとなる商品の変形システムの基本構造は2011年(もしくは2008年)発売の「DX超合金 VF-25」を発展、洗練させたものだった。「DX超合金 VF-31」もそうだ。しかし今回、河森正治氏が全く新しい変形に挑戦し、バンダイの技術者がそれを見事に実現したのである。
また、“空中騎士団の白騎士が扱う可変戦闘機”であり、モチーフに“ドラゴン”を取り入れており、かなり「ファンタジー風」のアレンジをされているという所も、実在の戦闘機のテイストが強かった従来のシリーズとは大きく異なるところだ。「DX超合金 ドラケンIII」の“面白さ”を語っていきたい。
白騎士の駆る“黒き翼”。バルキリーを討つための剣
本商品のモチーフとなっている「Sv-262Hs ドラケンIII(キース・エアロ・ウィンダミア機)」はアニメ「マクロスΔ」の“敵役”の機体である。地球を祖とする人間とは異なる、惑星ウィンダミアのウィンダミア人の国家、ウィンダミア王国の「空中騎士団」に所属する機体で、エースである“白騎士”キース・エアロ・ウィンダミア専用機となっている。
ドラケンIIIはVF-21やVF-171を生産したゼネラル・ギャラクシーから引き抜かれた技術者チーム「SV・ワークス」が設計を担当している。Sv-262のSvという型式番号は「スレイヤー・バルキリー」という意味も込められているといわれ、設計思想には「対VF(可変戦闘機)」というものが色濃い。そしてアニメ「マクロス・ゼロ」で、反統合同盟勢力の主力機SV-51の流れをくむ機体という意味も持つ。新統合軍の「VFシリーズ」と戦うために生まれたドラケンIIIは、新統合軍から独立を宣言したウィンダミア王国にぴったりの機体と言えるだろう。
局地戦用の機体として設計されており、従来のVF以上の上昇力、加速性能、機動性を獲得した反面、燃料搭載スペースが少なく、継戦時間に不安がある。このため半自律で動く無人支援戦闘機「リル・ドラケン」と合体し、増槽・ブースターとして使用して改善を図っている。また、ウィンダミア星系で産出されるフォールド・クォーツを駆使した「リヒート・システム」により瞬間的に機体性能を上げることが可能で、新統合軍の最新鋭機「VF-31 ジークフリート」に引けをとらない高い戦闘力を発揮する。その中でもキース専用機のSv-262Hsは、王家に伝わるフォールド・クォーツにより、他の機体以上の性能を発揮する。
作品の世界観から離れた視点でもドラケンIIIはユニークだ。機体の形状はスウェーデンの戦闘機「サーブ 35 ドラケン」をモチーフにしており、機体のシルエットはそっくりだ。サーブ 35 ドラケンはエンジンが単発の小型機だが、ドラケンIIIはVF-31に劣らない大型の機体となっているが、両足を合わせて変形することでエンジンが単発に見えるなどこだわりが込められている。特に変形システムはデザインを手がけた河森正治監督自身が「今までとは大きく異なる変形システムにした」、とのことで、ファン注目の存在である。
腕の収納に大きな秘密! 全く新しい変形システム
いよいよ「DX超合金 ドラケンIII」を見ていこう。本商品もこれまでのシリーズ同様“完全変形”を実現しており、特に今作では、シールドやガンポッドも理論的には取り外さずに変形が可能だ。かなり設計デザイナーが苦労したことが感じられる商品である。
ファイター形態はサーブ 35 ドラケンを思わせるかっちりしたシルエットとなる。これまでのVFシリーズ以上に手足がどこにあるかわかりにくい、シルエットとなっている。劇中ではファイター形態での活躍が圧倒的に多かったドラケンIIIだが、印象的だった、「ガンポッドのみを動かした射撃姿勢」、ライバルのメッサーを倒した「機首のビーム砲の展開」がきちんと再現できるところもうれしい。
コクピットにはキースフィギュアが座る。YF-21やVF-27を思わせる装甲式コクピットキャノピーのほかにクリアのキャノピーも用意されている。ランディングギアは2つに折れ曲がる変形で足にきちんと収納される。面白いのはガンポッドの突起が折れ曲がり駐機時に邪魔にならないところだ。
いよいよ変形させていこう。機体下部のハッチを開いてから、翼を上に跳ね上げるところからガウォークへの変形は始まる。翼を本体から離すことで、戦闘機としてのシルエットを形作っていたかなりの部分がドラケンIIIの“足”であることに気がつくだろう。ここからロックを外すことで足を左右に開かせる。膝を逆関節で曲げていくと、バネ仕掛けで足が伸びるところが楽しい。足の先を動かし、“裾”部分の装甲版を動かすと、見る間に機体の胴体部分だったパーツがみるみるガウォークの足に変わっていくのが楽しい。
そしてドラケンIII最大の特徴である“腕”の変形だ。腕パーツは両腕を地面と平行に広げ、90度回転した形でファイター形態の“背骨”を形成している。この腕の収納は初見ではかなり驚かされる。腕はファイター時には極限まで縮められ、左右の肩ブロックが連結し、右腕は機体上部を、左腕は折り曲げられ尾部を形成しているが、ガウォーク変形でこれらが持ち上げられ、変形し、基部が回転することでしっかりした腕になる。実はこの変形はかなり複雑でタイトなため、何度か変形させた筆者はファイター形態でうまく腕が収納しきれず、ちょっと隙間が空いてしまっている。もっと構造を把握し、きっちりした変形をさせたい部分でもある。
ガウォークへの変形はもう1つ大きな“山場”がある。機体下部のガンポッドを接続している装甲版が、ダイナミックに移動し、機体上部に移動するのである。この移動は翼の基部も含む複雑なちょうつがいを動かす必要があり、1度翼を前に倒し、装甲版を上にくぐらせてから翼を戻す。初めて触ったときはこの移動の仕方がわからずかなり手間取ってしまったが、2回目以降、部品パーツの配置と意味がわかってから変形できるようになった。
しかしまだ装甲版の上部のパーツと翼部部の基部がこすれてしまっているので、もうちょっときちんとしなくてはいけないようだ。もう1つ、ガンポッド接続の装甲版の尾部部分のロックパーツが何度試してもうまくはめられない。このため、筆者は装甲版前部のロックパーツのみでガウォーク時のパーツの接続を行なっていて、実は説明書通りにできていない。シルエットそのものはきちんとなり、それなりに安定しているのだが、正直、ちょっと不安がある。もう少し各ブロックの位置やつながりを考えていきたいところだ……ここから先は次のガウォーク編で語っていこう。
部品の位置がわかればかっちり決まる変形。ドラゴンを思わせる翼、
基本パーツを動かしてから、細部の変形を行なうことでガウォーク形態が完成する。筆者を含めた多くの人が初めてで驚く部分は「翼の基部を変形させる」ところではないだろうか。スマートな流線型を形成していた翼が、回転し、折れ曲がり、機体上部に展開する。従来の「手足の生えた戦闘機」というシルエットを大きく変えるデザインだ。
最初このガウォーク形態のデザインが奇妙に感じていたのだが、モチーフに“ドラゴン”が取り入れられているというところで、納得があった。ドラケンIIIのガウォーク形態の翼の形はドラゴンの翼竜やコウモリを思わせる翼の形、と考えるとたしかにぴったりだと感じた。この翼の形状は、高速で飛ぶよりも、ホバリングと、地上すれすれで急旋回するヘリコプターの様な機動性をイメージさせる。最初は戸惑ったものの、いまは独得の機能性を感じさせるドラケンIIIのガウォーク形態は、筆者にとってかなりお気に入りである。
そして“盾の変形である。ドラケンIIIは尾翼が左右に展開、騎士のカイトシールドのような形に変形する。変形させるとキースの紋章がプリントされておりかなり豪奢な印象だ。上部に移動したガンポッドもフレキシブルに移動し、攻撃力の高さを感じさせる。右腕の機銃を展開させるのも良い感じだ。大きな足は、独得のバランスで、ガウォーク形態を手に持った感触は、ファイター形態とは大きく違う。ガウォークはバルキリーならではの形態であり、この独得の存在感がいい。
ここからいよいよバトロイドへの変形である。「DX超合金 ドラケンIII」はパーツのこすれや干渉にかなり注意を払っているのがわかる。部品ができるだけ当たらないように、細かく胸パーツを動かしたり、支柱パーツを動かしたりとしている。しかしそれでもやはり初見だとわかりにくいところがある。部品もできるだけ隙間などを生じさせないようにかなりの精度で作られており、だからこそ難しい。
複雑に胸と背中を支える支柱パーツを動かし、翼の位置を調整し、ガウォーク形態から直立の人型にしていく。ここは軟質のロックパーツが機能し、しっかりとコクピットを背中の装甲版が覆い、機首を腕ブロックが挟み込む。足を動かし、胴体を調整すれば、あっという間に人型の体型になる。
次は頭と胸部の変形だ。ドラケンIIIは機首がそのまま頭部になるという変形システムとなっている。これは実は“SV-51から続く伝統”という意味合いもある感じでにニヤリとさせられる。そしてSv-262Hsではジャッカルの頭部を持つアヌビス神のような、半人半獣のような“非人間的”な頭部となっているところが大きな特徴だ。見方によっては、ドラゴンのようにも見える。ドラゴンの意匠を取り入れたデザインと解釈するのが良いかもしれない。他の可変戦闘機と比べて、ひときわ異質なデザインである。
そして胸の装甲を固定し、取り外したガンポッドを変形させて構えさせれば、ドラケンIIIのバトロイド形態変形完了である。
高貴さを感じさせる金の装飾、半獣神を思わせる頭部。これまでにないバルキリー
ドラケンIIIを変形させることではっきりするのはその“豪奢さ”である。ダークブルーの基本色に映える金の塗装。そして体の各所に入れられたマーキングは兵器というより、中世の鎧のようなファンタジー色あふれるものだ。太股と胸部部分に右側だけ赤いラインが入っているところも目を惹く。
大口径のガンポッドはかなりの破壊力をイメージさせるし、盾の先端のとがった部分は打突にも使えそうだ。ドラケンIIIは最終回いきなり長剣を足から取り出しユーザーを驚かせたが、確かに剣が似合うデザインだ。これまでのバルキリーと大きく雰囲気が異なる、「ガリアン」や「ダンバイン」を思わせる独得の世界観を感じさせるものだ。
こういったケレン味あふれるデザインからか、派手なポーズをつけたくなる。盾を構えたり、銃口をあげさせてみたり、“決めポーズ”をさせてみたくなる。ドラケンIIIもこれまでのバルキリー同様どの形態も魅力的だが、バトロイドでポーズをとらせて飾っておきたいと考えるユーザーが多いのではないだろうか。
「DX超合金 ドラケンIII」はこれまで同様、非常に強い満足感を与えてくれるアイテムだ。特に足ブロックの大きさと太さがいい。このボリュームたっぷりのパーツを動かし、ポーズをとらせるのはとても楽しいし、すべてのパーツをかっちり収納したファイター形態もいい。サーブ 35 ドラケンを思わせるシルエットは、これまでのバルキリーと異なる感触があって、飛行をイメージしてて角度を変えて眺めたくなる楽しさがある。
ちょっと気になった点は「金属パーツの少なさ」だ。もちろんパーツのこすれや、強度、重量バランスというユーザーにはわからないところもあるとは思うが、背中や主翼を支えるパーツなど、これまでの商品では金属だったと思えるパーツが樹脂部品になっている。重量も心持ち軽くなっている気がする。翼部分は変形時何度も動かし、負荷もかかる部分なだけに特に気になった。
もう1つは商品の出来と全く関係ないのだが、やはり「アニメへの不満」がある。「マクロスΔ」はバトロイドの活躍シーンが少なすぎた。このためせっかくのハイクオリティの商品を手にしても、活躍を想像したポーズ付けができない。ここは何らかのメディアで補完していってほしい。
一方で、「マクロスΔ」が提示したファンタジー色を全面に出したドラケンIIIや、ブルーインパルスのようなイベント色の強いVF-31 ジークフリートはバルキリーの幅を広げたと思う。だからこそより現用兵器っぽい「VF-31 カイロス」や、ノーマルの「Sv-262」、贅沢を言えば「VF-171辺境宙域仕様」も「DX超合金」で出てほしい。
「DX超合金 ドラケンIII」は、これまでのシリーズ同様、玩具史にその名を刻むであろうすばらしい変形アクションフィギュアである。シリーズのノウハウを活かし、そして全く新しい変形システムを実現させた本商品は、手にすれば強い満足感が味わえるし、ここからどう発展していくのか、ワクワクさせてくれる。ぜひこの“進化の究極”ともいえる商品を手にとってほしい。
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