2017年3月23日 07:00
「デウスエクス マンカインド・ディバイデッド」は、“サイボーグ”をテーマにしたSFRPGだ。この世界では“オーグメンテーション”という技術により人々は人体の一部を機械化し、失われた身体機能を回復させたり、より機能の高いパーツに付け替えるといったことを行なえるようになった。
しかしオーグメンテーション技術は暗い影に覆われた。人体を拡張しようとするのは善なのか、オーグメンテーションされた人々とそうでない人はどういった未来を築いていくのか? 「デウスエクス マンカインド・ディバイデッド」はこのテーマに鋭く切り込む作品だ。
弊誌では前回、特別企画「デウスエクス マンカインド・ディバイデッド」で学ぼう! “来るべき未来とその明日”で、本作の背景と、自由度の高いゲーム要素を紹介している。今回は序盤のストーリーやゲームの展開を紹介したい。多少ネタバレ要素があるので、注意して欲しい。
オーグへの恐怖から差別へ走る社会、それを利用とする陰謀
「デウスエクス マンカインド・ディバイデッド(以下、「マンカインド・ディバイデッド」)」は、“オーグ”となった人々が陰謀に巻き込まれ意思にかかわらず暴走してしまう「オーグインシデント」が巻き起こり、世界中で大きな悲劇が巻き起こってから2年後が舞台となる。主人公アダム・ジェンセンはインターポールに所属し、世界中のテロ組織と闘っていた。
人々のオーグへの恐怖は根深く、オーグを差別し、隔離しようとしていた。アダムが所属する“タスクフォース29”でもオーグは彼1人。隊のリーダーのマクレディはアダムに対し敵意をむき出しにし、アダムは部隊で孤立した存在だ。緊急任務として赴いたドバイで武器商人達の裏取引を阻止しようとしたタスクフォース29は逆に奇襲を受けてしまう。金色のマスクをつけた謎のオーグのテロリスト。テロリストは武器商人を殺し、アダム達へも銃口を向けた……。
その後、アダム達は本拠地であるプラハに戻ってくる。小さなオフィスの地下にインターポールの“秘密オフィス”があるのだ。しかしプラハは今やオーグ迫害の代表的な街として世界に知れ渡るオーグに厳しい場所となっていた。オーグの人々は「許可証」を与えられ、これを更新しないと、「ゴーレムシティ」というオーグ隔離施設のある街に送られてしまうのだ。プラハではオーグであると言うだけで警官から常に監視され、一般市民すらその苦境につけ込もうとする。プラハに着いたアダムの目の前には、目を背けたくなるような“差別”の現実がある。
そして……アダムには秘密がある。プラハでアダムを出迎えたのはアレックスという女性。彼女はハッカー・スパイ集団である「ジャガーノート・コレクティブ」の1員なのだ。アダムはインターポールであり、そしてジャガーノート・コレクティブの協力者という2つの顔を持つのである。アダムはアレックスから本部に仕掛けるある装置を受け取るのだが、そのときプラハの駅で“爆弾テロ”が起きる。そしてこのテロが、世界を揺るがす陰謀の幕開けだったのだ……。
「マンカインド・ディバイデッド」はこのテロからが本格的なゲームのスタートとなるのだが、実はいきなりちょっと厳しめの状況に立たされる。「爆破事故のせいでオーグメントに変調をきたし、それを直すためにオーグメンテーション専門の闇医者のコラーの居場所に行く」というのが最初のメインミッションなのだが、これが結構な歯ごたえなのだ。
正攻法でいこうとすると、一方の道をギャングが、そしてもう一方を警察がふさいでいて、突破できそうにないのだ。しかもサブミッションまで立ち上がり、かといってオーグメンテーションは直さないわけにいかず……一体どうすれば良いかと、途方に暮れてしまった。ここで腰を据えて色々試すと突破口が開ける。「デウスエクス マンカインド・ディバイデッド」はシリーズの流れを汲み、目の前の難問をどう越えていくか、どこに抜け道があるかを探すのが楽しいのだ。
NPCとうまく交渉はできないか、飛び移れそうな足場や、くぐれそうなダクトはないだろうか? ひょっとして下水道が通じているのでは? 解法は1つではない。こういった様々な方法が設定されており、これらを見つけるのが楽しいのである。ただ、いきなり難しいという部分には、フランス文化の香る地カナダのケベックにスタジオを構えるアイドス・モントリオールらしい、ヨーロッパ産のゲームのような歯ごたえも感じた。
「デウスエクス マンカインド・ディバイデッド」の冒頭は、「プラハ」での冒険がメインとなる。ミッションを進めていると様々なサブミッションが立ち上がってくる。さらに非常に多彩な“探索要素”が盛り込まれている。マップの面積そのものは「スカイリム」などのオープンワールドRPGに比べれば決して広くはないが、とにかく“密度”がすごいのだ。
入れる家、建物が多く、家の中には住人のコンピューターや保管庫などがあって、これらをハッキングで仕掛けを解除したり、抜け道を見つけて侵入したりすることで、アイテムを得ることができる。ダンジョンの隅々まで行ってしまう人、アイテムを集めるのが大好きな人など、やり込みプレーヤーには特に楽しい要素となっている。
なにより「シティアドベンチャー」としてすごく楽しいのだ。都市には様々な人が住んでて、多彩なドラマがある。ミッションとして受けることになるものもあるのだが、例えば、電子手帳風の「ポケットセクレタリー」に裏取引の条件が書いてあったり、コンピューターのメールに恋愛の悩みが書いてあったりと、アイテム1つで物語が展開することがあるのだ。プレーヤーは当事者と顔を合わせることなく彼らが直面した問題の結末を見届けたりすることもできるのだ。
メインとなるミッションだけでなく、サブミッション、さらには探索なども含めると、「マンカインド・ディバイデッド」はかなりやり応えのある作品となっている。ここに「オーグメントのアップグレード」の楽しさが加わり、探索の面白さはさらに膨らんでいく。実際筆者は夢中になってやりこんで、やめ時がわからなくなるほどのめり込んでしまった。序盤こそ独特のクセを感じるものの、ストーリー、ゲーム性、そしてボリュームも充実した楽しいゲームである。
次なる人類の姿? オーグメントを活用せよ
「マンカインド・ディバイデッド」の最大の魅力は「オーグメント」にある。アダムはボディに秘められた様々なオーグメントの機能を解放し、より強力な存在となっていく。ゲームではレベルアップするとプラクシス・キットが得られ、これを消費することでオーグメントをアンロックしていく。
「スマートビジョン」は壁越しに敵の姿を確認したり、部屋の中の仕掛けがわかる機能。「グラスシールド・クローク」は光学迷彩。ステルスが重要な本作ではこの機能があるとゲームの難易度が下がる。一方でエネルギー消費が激しいので、使いどころを見極める必要もある。「インプラント・リプリーザー」は肺の機能の拡張オーグメント。毒ガスが充満しているような場所でもエネルギーさえあれば進むことができる。
“エネルギー”は本作で非常に大事な要素だ。オーグメントを連続使用するとあっという間に底をついてしまうが、使う時間を短くすれば一定値まで回復する。また今作では至る所で入手できる「クラフトツール」を使うことで、「バイオセル」を作り、エネルギーチャージが可能となっているのだ。戦闘や、敵が多い場所を通り抜けるにはオーグメントの力が必要となる。バイオセルは切らさないようにしたい。
筆者は「エネルギー」関連のオーグメントは特に集中的にポイントを割り振った。また、ハッキングの「ステルス」を上げることで、ハッキングが容易になる。ハッキングはコンピュータの閲覧からドアの開閉、ターレットやロボットの遠隔操作などにも使える。街にはたくさんのロックされた扉やコンピューターがあり、これらをハックすることで経験値と様々なアイテムが手に入るのでオススメである。
そして今作では、「隠されたオーグメンテーション」がある。アダムの体には秘められた機能があり、これを解放するとさらに強力な能力を獲得できるのだ。アダムのボディを覆う「タイタン」。離れた場所からカメラなどの機能を止められる「リモート・ハッキング」、複数の敵を気絶させられる「テスラ」など魅力的なものばかりだ。ただしこれらは試作オーグメントであり使用にはリスクが伴う。どの機能をアンロックさせるかは迷うところだ。
オーグメンテーションは機能を獲得すると、アダムの行動範囲が広がるのがいい。ハッキングを強くすれば入手できる情報が増えより探索が楽しくなる。筋力を強化すれば重いものを動かすことができ、ふさがれていた道や、隠されていたものを見つけられる。足の機能を強化すればジャンプ力が増し、これまでたどり着けなかった場所に飛び移れる。
特に筆者のお気に入りは「ソーシャル・エンハンサー」だ。NPCの表情や瞳孔反応、発汗など様々なデータから対象の性格を分析し、彼がどのような会話の流れを好むかを分析する。このオーグメントをアンロックすることで会話に選択肢が増え、戦闘を回避できたり、時にはその後のNPCの対応を大きく変えることもできる。「マンカインド・ディバイデッド」では、レベルアップでどのオーグメンテーションを強化するか、悩ましいところではあるが、強くなった分ゲームがさらに楽しくなるのだ。
また、今作は武器の強化と使いどころも面白い。武器には徹甲弾やロボットなどに有効なEMP弾など複数の種類がある。インベントリには限りがあるので多くの武器や弾薬を持ち歩くことはできないが、弾を使いわけることで戦闘が有利に進められる。そしてクラフトパーツを使うことで武器の発射レートを上げたり、威力を上げるといったこともできる。ただ、武器の改造にはかなりクラフトパーツを使うので、お気に入りの武器に絞りたいところだ。
オーグが直面する地獄、この時代の苦難を人類はどう切り抜けるか
「マンカインド・ディバイデッド」の舞台はプラハだけではない、序盤のドバイも含め様々な場所が舞台となる。その中でもゴーレムシティは印象深い場所だ。ここはオーグが強制的に押し込められる“地獄”だ。警官達はオーグの人々を虐待している。オーグはただ耐えるしかなく、その怒りは蓄積されている。
ゴーレムシティは廃材を組み合わせたような街だ。オーグメンテーション機能を拡張したアダムにとっては様々な場所が進行ルートとして利用可能で、だからこそ探索に熱の入る場所でもある。単純に警官達を懲らしめたいという想いも生まれ、いつも以上に乱暴に切り抜ける場所になってしまった。こういった自分の中に生まれる感情も「ロールプレイングゲーム」ならではだろう。
オーグは不当に抑圧されている。特にプラハは豊富なサブミッションやエピソードでそのことが語られる。サブミッション「ゴールデンチケット」は、警官がオーグの偽造通行証を販売、偽造する職人を監禁している。悪徳警官を単純に倒そうとしても仲間の警官もいて、手を出せない。職人は街のギャングによって幽閉されており、容易にたどり着けない。さらに職人と出会った際も会話の仕方で展開が大きく変わる……と、「マンカインド・ディバイデッド」の面白さを凝縮したような凝ったミッションとなっている。
オーグが少なくなってしまっているために流通が少なくなったオーグメンテーションに対する体の拒絶反応を抑制するための薬品「ニューロポジン」に関する取引などもある。また迫害されてしまった関係からか、オーグとなった自分たちこそが「機械神」に愛された存在だと思い込む新興宗教も生まれ始めている。オーグを差別するオーグ化していない「ナチュラル」と、オーグの対立は深くなるばかりだ。
世界はより一層オーグを追い詰めていくように見える。「人間保護法案」により、オーグは機能を制限、もしくはオーグメンテーションを取り外されかねない状況になっている。人類にオーグは必要ないのか……「マンカインド・ディバイデッド」におけるオーグ問題は、人種問題などへの暗喩と言うだけでなく、今後我々が直面するであろう「人体拡張」という未来への可能性に対する、鋭い考察でもある。オーグは進化なのか、それとも恐怖なのか、現実の我々の世界は、どうなっていくのか、そういったことを考えさせられるのは、とても楽しい体験だ。
もちろんそういった大きなSF的なテーマだけでなく、“サスペンスドラマ”としても本作は充分面白い。有能な上司であるミラーは本当にアダムの味方なのか、ジャガーノート・コレクティブの思惑は? そして金マスクのテロリスト、プラハ駅爆破犯の正体は? なにより反オーグの方向に世界を持っていこうとする黒幕は誰なのか? 様々な謎が提示され、物語をぐいぐいと引っ張っていく。
さらに今回は発売前のため体験できなかったが、「マンカインド・ディバイデッド」は「ブリーチ」というモードもある。こちらはオンラインでスコアが競えるゲームモードで、プレイヤーはサイバー空間でアバターとなり、様々な難関を突破していく。スコアやクリアタイムをオンラインで競うチャレンジコンテンツで、本編よりもゲーム性に特化しており、本作のポテンシャルを別ベクトルで活かした作品となっている。
「マンカインド・ディバイデッド」は凝った世界観、アクの強いキャラクター、ボリュームたっぷりのミッションや探索要素を兼ね備えたやり応えたっぷりのゲームである。吹き替え音声の声優達の演技も楽しい。「本格SFRPG」として、サイバーパンク好きの人に薦めたい。プレイして、ゲームを楽しみ、そして人類の“明日”に思いを馳せて欲しい。
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