2017年3月29日 07:00
GAME Watch読者諸氏にとってはMSIといえば薄型ハイエンドノートを得意とするノートPCメーカー、また詳しい方はPCのパーツであるマザーボードやビデオカードを販売するメーカーというイメージがあるだろう。実はこのMSIには一般的な完成品デスクトップPC部門もある。そして満を持してこの2017年4月上旬に日本に上陸予定なのが「Aegis」、「Trident」の2シリーズだ。
フラグシップとなる「Aegis」シリーズは、細かく分けるとSLIに対応したAegis Ti、小型かつ高性能なAegis X3、性能は据え置きにコストを重視したAegis 3が存在する。その中でももっとも注目が集まるであろうAegis X3を事前に入手したので発表が目前に迫るいま、紹介していこう。
本機のスペックの詳細は以下の表を参考にしてほしいが、主な特徴としてはIntel第7世代CPU Kaby Lake最上位となるCore i7-7700Kを搭載し、GeForce GTX 1080 Tiの登場で最上位は譲ったものの、依然として圧倒的なパフォーマンスを発揮するGeForce GTX 1080、また高速なNVMe接続のSSDを2発RAID 0構成したものを採用するなどパワフルな仕上がりとなっている。
価格は予想価格ながら398,000円と高価なものとなっているが、同じAegis X3のエントリーモデルは290,000円からとのこと。MSIの完成品は価格よりもその性能や体験を重視する傾向にあるが、本製品はどのような魅力があるか探っていきたい。
【MSI Aegis X3】スペック | |
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CPU | Intel Core i7-7700K(4コア8スレッド、4.2GHz TurboBoost時最大4.5GHz) |
GPU | NVIDIA GeFore GTX 1080 |
チップセット | Intel Z270 |
メモリ | DDR4-2400 16GB SO-DIMM×2(合計32GB) |
ストレージ(システム用) | 256GB M.2 SSD×2(RAID 0 / NVMe接続) |
ストレージ(データ用) | 2TB 3.5インチHDD(Serial ATA 6Gbps、 |
光学ドライブ | スリムタイプDVDドライブ |
ネットワーク | 1000BASE-T、IEEE802.11a/ac/b/g/n(Killer Wireless-AC 1435 Combo)、BlueTooth 4.1 |
電源 | 600W(80PLUS Silver) |
OS | Windows 10 Home 64bit |
サイズ | 170 x 376 x 433 mm(横×高さ×奥行き) |
重量 | 9.69KG |
価格 | 398,000円(予想価格) |
まず、特徴的な外観/内観の特徴を見ていこう。外観は全高37.6cm、奥行きが43.3cm、重量も9.69kgと非常にコンパクトに仕上がっている。フロントパネルとサイドパネル(向かって右)にはRGB LEDを搭載、好みの色/発光パターンを選ぶことができる。また、最近採用例が増えつつある、引き出し式のフックが両サイドパネルに採用されており、ヘッドセットやVRデバイスをかけるのに便利だ。
本体は土台をベースに斜めに突き刺さるような形で設置されている。この独特の外見は、CPUやVGA、電源のそれぞれに独立した格納エリアを採用することで、効率的なシステムの冷却を実現するためのデザインであり、その冷却機構はSilent Storm Cooling 2 Proと呼ばれている。
基本設計は上部は正面からのファンでCPUやメモリ部を冷却し、サイドパネルからの吸気でビデオカードを冷却するデザイン。熱源となりやすいCPUとビデオカードは込み合った筐体内で隣接しているものの、エアフローをこのように分離することで高い冷却性と安定性を狙っている。なお、下部の電源は熱源から切り離されており、正面から入った風がそのまま背面から抜けていく形だ。
特徴的なのは、筐体前面にVRデバイス用の“HDMIコネクタ”を装備しているところだ。USBポートやイヤホンジャックが前面にあるのは一般的だが、HDMIコネクタは珍しい。これにより、わざわざ背面からケーブルを引っ張りだすということなく、スムーズなVR体験が可能だ。VRヘッドセットは、使わないときは取り外しておく形で運用している読者が多いと思われるが、そのたびにHDMIケーブルを背面に取り付けなければならないが、本製品では前面からすぐにアクセスできるため、VR体験をより容易なものとしている。VRヘッドセットのケーブルはもともと十分な長さを備えているため、もとから足りていないということはないだろうが、絡まる原因や邪魔になるといったことも軽減されるはずだ。
本体は持ち運びしやすいデザインとなっており、背面の取っ手を持つことで楽に持ち運びができる。据え置きのデスクトップのため、家庭内での持ち運びというより、あくまでもLAN PARTYなどに向けた装備だろう。
エアフローを切り分けたレイアウトは自作PCで各ケースメーカーによる似た取り組みはあるものの、ほかの市販品との互換性を持つためにゆとりをもった部分が多かったり、逆に各種妥協が必要なほど制限が厳しいものとなっているが、それをうまくまとめつつ、性能もスペースもといった欲張りな構成を実現できたのはパソコン部品メーカーならではである。
なお、本製品のビデオカードやCPUが設置されている箇所のサイドパネルには封印シールが施されており、開封すると同時に保証が切れる仕組みだ。ノートPCならいざ知らず、自作PCに関係しているメーカーがやることなのかと思い開けてみたのだが、結論として開けることは決しておすすめしない。非常に複雑な配置となっており、よくもここまで組み込むものかと思わせられる。反対側にはメモリスロット1基(使用済み)、M.2スロット2基(1基空きアリ)が用意されており、こちらは開けて交換する場合でも製品自体の保証が切れることはなさそうだ。
これらの環境によって駆動されるCPUとGPUだが、Intelの最新第7世代CPU Core i7-7700Kを搭載しており、4コア8スレッドと現状のゲームでは十分のスレッド数があり、クロックもデフォルトで4.2GHz、TurboBoost時で4.5GHzとクロックがゲームの快適差を分けることも多い中でその性能を期待させてくれる。また性能を十分に引き出せるようにCPUの冷却は簡易水冷クーラーを搭載している。
ただし、本機ではCPU倍率の制限がない”K”シリーズのCPUを採用しているが、BIOSならびに付属ユーティリティ上ではこれらの設定を行なうことができないのが気になるところ。各ホワイトボックスメーカーなどでも倍率変更を目的とせず、純粋な高クロックモデルとして採用されることもあるので決して悪いという評価にはならない。
MSIのゲーミングPCの特徴の1つとして自動オーバークロック機能を備えたモデルの1つであるのだが、こちらを活用しても特別クロックがあがることはなかった。これはシステムの安定性の限界までチューニング済みのためとの説明があったがソフトウェアのアップデートなどで更新されることに期待したい。
なお、Intel謹製のチューニングツール「Intel Extreme Tuning Utility(以下、XTU)」といったソフトを別途導入すればオーバークロックは行うことができた。
GPUはハイエンドゲーミングPCではすでに定番となったGeForce GTX 1080(GPU1620MHz/Boost1759MHz)を搭載。赤黒のコントラストが印象的な同社製GAMING GTX 1080 8Gを連想させるがスペック(GPU1683MHz/Boost1822MHz)は若干異なるようで、リファレンスモデル(GPU1607MHz/Boost1733MHz)と比べると本製品では20MHzほどのクロックアップが施されている。Boostクロックは1759MHzと設定されているが、GPU Boostの仕組みとして温度や消費電力、負荷状況に応じて余裕があればクロックを自動的にあげてくれるため、実際の検証中に最大1873MHzでの動作を確認している。
ストレージはシステム用にNVMe接続のM.2 SSD 256GBが2基、RAID 0として512GBで搭載されている。その速度は非常に高速なものとなっており、Read/Writeでいずれも3,000MB/sを超える結果を残している。データ用にはHDDが搭載されているが、容量が許すのであれば積極的にシステム側のSSD領域を使っていきたいところ。Fallout 4といったオフライン中心のゲームであればシステム側に、データアクセスよりネットワーク越しの通信が多発するオンラインゲームではデータドライブといった使い分けも考えたいところだ。
まずは簡単に定番のベンチマークで全体の性能に迫ってみよう。3DMark TimeSpyでは6,871をマークしており、先述のXTUを用いて4.8GHzへのオーバークロックを試してみたところ数値上では約9%ほどの性能向上が見られた。このスコアは4Kゲーム分野でも戦える性能が出ていることを3DMarkでは示している。VRMarkでも既存のOculus Rift、HTC Viveが快適に動くかどうかを示すOrange Roomでもスコア10,000以上を示しており、多くのゲームで快適にプレイできるだろう。
実際のゲームでの挙動も見ていくが、今回は発売されて間もない「Ghost Recon Wildlands」、「For Honor」、そしてハイレゾリューションパッチが登場し、話題となった「Fallout 4」を中心に定番である「ファイナルファンタジーXIV: 蒼天のイシュガルド ベンチマーク」で試している。なお、4K解像度についてはNVIDIAのDSR(Dynamic Super Resolution)を使用し、疑似的に4K解像度相当の負荷を作り出しているのであらかじめご了承願いたい。
まずはUBIからこの3月9日に登場した「Ghost Recon Wildlands」については、3月9日に登場し、本タイトルへのいくつかの最適化を施したNVIDIAの最新ドライバ”378.78”と、複数枚のビデオカード接続処理いわゆるSLI/CFに対応したパッチ1.5の環境下で計測を行なっている。
グラフィックスオプションがウルトラ環境では設定時に警告が出るほど重いタイトルなのだが、解像度1,920×1,080(以下、フルHD)では平均が59.74fpsとプレイするにはひとまず問題がなさそうな結果となり、4K解像度である3,840×2,160(以下、4K)ではいずれのオプションでも少し難しそうな結果となった。2,560×1,440(以下、WQHD)では“非常に高い”または“高い”グラフィックスオプションが目安となるだろう。
そもそも本タイトルのようなマルチプラットフォームに対応したゲームにおいてPC版で遊ぶ理由といえば、いわゆる高フレームレート液晶などを使ったハイフレームレートプレイやコンシューマー機には存在しない高画質設定などがある。
筆者自身、年齢による衰えもあって100fpsをこえるようなハイフレームレートでのプレイは残念ながら脳みそはついてきても腕がついてこない(というか最近は脳みそもついてこない)ため、ハイフレームレートの効果はそこまでないのだが、高画質は一目でわかる。さらにこの高画質でカクツキなくプレイできるのはPC版ならではであり、PS4/Xbox One専用タイトル以外はPC版以外の購入はあり得ないと思っているぐらい。
本機を使うからにはオプションを高めに設定し、高+ウルトラを組み合わせた設定と解像度は2,560×1,440で楽しんでもらいたい。シューティングゲームである以上、ハイフレームレートは必須要素でもあるのだが、本ゲームタイトル自体、いい意味でストーリーモードを遊ぶには脳筋プレイがある程度許されるのも本作の魅力だ。
下にスクリーンショットで同画質設定のフルHDとWQHDを比較してみた。その精細さは一目瞭然であり、本PCを購入する読者にはぜひともWQHD以上、できれば4Kのディスプレイもあわせて購入していただき、その世界に浸ってほしい。
そしてもうひとつPC版ならではの要素として、NVIDIA Anselに対応しており、超々高画質でスクリーンショットを撮影可能だ。
参考としてスクリーンショットを撮影したので見てほしいが、ここまでこのゲームは作りこんでいたのかと驚きを覚えるレベルである。ゲームのプロモーションなどで実ゲームには実装されていないような超高画質なスクリーンショットを見たことがある読者もいると思うが、本機能ではそれを自分の手で再現可能だ。
「For Honor」は同じくUBIから販売されているタイトルの1つでストーリーモードに加えてPvPが主な要素の1つとなっている。こちらは先ほどの「Ghost Recon Wildlands」と打って変わってシビアな入力や反射神経、そしてその判断力が試されるゲームだ。
一切のラグがない環境が必要となっており、高画質で世界観に浸っているとあっさりと亡き者にされてしまう。ストーリーモードはWQHDの解像度で確実に80fpsを超えてプレイするといったことも選択肢に入れていいだろう。
また、本作はPCゲームの主要インターフェイスであるキーボードやマウスでの操作は難しい。個人的には、コントローラー操作をお勧めしたい。ゲームや環境にあわせて入力デバイスに制限がないのはPC版ならではであろう。
「Fallout 4」では動作検証を行なうにあたってiniファイルを書き換え、60fps制限を解除したが、実際のゲームではこのままプレイをするとゲーム内速度が変わってしまうため、システムの性能を見るための目安のひとつとしてほしい。計測は建物や人物が多く存在するダイヤモンドシティで建物の間の通路をちょうど1周した際の平均値を出している。
人気国産MMORPGの「ファイナルファンタジーXIV: 蒼天のイシュガルド」ベンチマークについては4K解像度において非常に快適となる7000オーバーのスコアは逃してしまったものの、最高品質(DX11)ではいずれの環境においても実質プレイは問題ないものといえる。
最後に動作音については、本製品はこの筐体サイズにしては非常に静かである。通常コンパクトになればなるほど反比例するように大きくなってしまう傾向があることを考えれば評価できるポイントだ。
ただ、電源部については小口径ファンのためか、個体差なのか不明だが、検証に用いたモデルではファンの軸ブレ音のようなジーーーーという音が気になったものの、全体を通して見ると十分静かであり、生活音が聞こえるような部屋では大きく気になるようなことはあまりないだろう。
動作温度は上記の動作音を維持しつつもCPUはデフォルトクロック時、OC時ともに高負荷時で高温になることはなかった。またデフォルトとOCがともに最大温度がほぼ同じことを考えると、ファンの回転数をあげて対処していると思われるのだが、明確に違いが分かるほどの音を感じるということはなかった。ビデオカードの冷却も人気ならびに実績を積んだクーラーを搭載しているだけあって冷却も優秀だ。
使っていて気になったのはホコリ対策だ。このような小型かつハイパフォーマンスを実現するPCを検討するような方の多くは机の上に設置することを想定していると思われるのでそう気にする必要はないのだが、サイドパネルがメッシュになっており、ビデオカードの冷却用にそこからダイレクトに外気を吸う機構になっているのだ。
前述したように、本気は開けた瞬間にサポート対象外となるため、内部の清掃ができない。ホコリが貯まりやすい場所で長期にわたって使用すると内部にホコリが貯まり、パフォーマンスが低下する可能性がありそうなので、特に床の上などに直接おいて使うユーザーは本格的に埃がたまる前に定期的なエアダスターなどでの掃除をお勧めしたい。
まとめると期待したとおり、MSIらしい完成度の高さはデスクトップPCでも変わらなかった。小型PCの中でも妥協のない機能やギミックを搭載し、唯一無二のPCに仕上がっている。机の上を占領しない小型ゲーミングPCとしてもよいし、VRを体験するときはフロントから容易なアクセスもよいし、本機であれば例えばリビングに持ち運んで広いスペースで最大限VR体験ということも可能だろう。
性能面では、現行のPCゲームを遊ぶ用途としては必要十分であり、性能に対して非常にコンパクトかつ静かに仕上がっているため、あとは価格にさえ納得すれば購入して後悔することはまずないだろう。