★ PS3/Xbox 360ゲームレビュー★
機械と融合できる人類はどんな社会を造るのか
自由度の高いサイバーパンクRPG登場
「 デウスエクス」
ジャンル:
  • アクションRPG
発売元:
開発元:
  • Eidos Montreal
プラットフォーム:
  • PS3
  • Xbox 360
価格:
7,980円
発売日:
2011年10月20日
プレイ人数:
1人
レーティング:
CERO:Z(18歳以上のみ対象)

 「デウスエクス(Deus Ex)」は、ウィリアム・ギブスンの小説「ニューロマンサー」や、士郎正宗のコミック「攻殻機動隊」のような、“サイバーパンク”と呼ばれるSFのテーマを扱った作品である。機械と人間を融合させる技術が開発され人を越える能力を人類が獲得できた時、社会はどう変化し、人類はどんな進化を目指すのか。本作はそういった架空の未来を描く。

 また本作は、リドリー・スコット監督の「ブレードランナー」を思わせる未来世界の描写も魅力的だ。暗く猥雑でそれでいながら確かな人々の生活を感じさせる2027年の都市が描かれる。世界に没入し、さらに能動的に探索できる感触は格別だ。「未来世界」に正面から挑んだ濃厚なSF作品をぜひ堪能して欲しい。


■ 恋人と生身を失った男が、企業犯罪の奥に潜むものを暴き出す

主人公アダム・ジェンセン。恋人と自らの肉体を失った事件を追う
サリフ・インダストリーの社長デヴィッド・サリフ。強さと弱さ、そして秘密を持つ魅力的な人物として描かれている
2027年のデトロイト。乗り物や服装のみならず、看板などに描かれる企業ブランドなども詳細に考察されているという

 「デウスエクス」の主人公アダム・ジェンセンは、肉体や脳に機械を埋め込み能力を飛躍的にアップさせることができるようになる人体拡張技術「オーグメンテーション」を扱う最大手サリフ・インダストリーのセキュリティーチーフだったが、謎のテロリストの襲撃に恋人の科学者ミーガン・リードを失い、自らも瀕死の重傷を負ってしまう。

 アダムはサリフ・インダストリーの社長デヴィッド・サリフにより頭部、胴体、腕、脚、視覚、背中、皮膚など体のほとんどをオーグメンテーション化される事で蘇る。襲撃事件から6カ月後、サリフ・インダストリーは再びテロリストの襲撃を受ける。サリフを襲う者達の意図は? アダムは生まれかわった体で、テロリストに襲われた工場へ向かう。

 「デウスエクス」は自由度の高いアクションRPGだ。プレーヤーはオーグメンテーションによって生まれかわった男アダム・ジェンセンとして、テロ襲撃の謎を追う。1つの局面でいくつかの選択肢が用意されている。テロリスト達がいる部屋を、正面から突破するか、かいくぐるルートを探すにしてもすぐ側を通るか、離れたところを探すかなど探索することで様々な攻略法が見えてくる。

 本作の戦闘場面では敵はかなりの確率で複数いて、見つかるとすぐ集中砲火を浴びてしまう事が多い。「スプリンターセル」や「メタルギアソリッド」などの隠れて進み、敵を倒したりやり過ごしていくステルスアクションがメインとなる。この緊張感が楽しい。もちろん戦闘中心で進んでいくことも可能だが、所持している弾が少ない場合が多く、敵を確実に倒す技量が求められる。ゲームバランス的に撃ちまくって正面突破というプレイは難しい。

 探索することで、隠された武器が見つかったり、PCをハッキングすることで意外な事柄がわかったりする。隠されたルートを発見するとボーナス経験値が入ることもある。メインミッション以外でも、サイドクエストが用意されていて、こちらに挑戦することで意外な事実が明らかになったり、より複雑な社会が見えてきたりする。世界の「幅」を楽しむゲームと言えるだろう。

 皮肉な口調のサイバーセキュリティの専門家プリチャードや、勇敢なヘリパイロットのマリクなど魅力的なキャラクターがアダムをバックアップする。そして一番の協力者であり雇い主のデヴィッド・サリフは最も丁寧に描かれているキャラクターだろう。世界にオーグメンテーションの素晴らしさを広げるという野望に燃え、野球好きの無邪気な面を見せたり、世間から糾弾させられたときには弱みも見せる。アダムを信じまかせる親しさと、何か秘密を持っている怪しさがある。街の住人達も話しかけると様々な反応があっておもしろい。

 筆者は本作をプレイする前は、一見無関係な事件を短いスパンで取り組みながら大きな謎に迫っていくステージクリア型のゲーム展開なのかな、と思っていたが、実際は、最初から「テロリストの襲撃の謎」という大きな問題にとり組み、真相を暴いていく展開だった。骨太の1本のストーリーが序盤から展開する感触は、SF小説を読み進める感じに近いと感じた。そこら物語は意外な方向に展開していく。このダイナミズムも楽しい。

 そしてプレーヤーは「オーグメンテーション」がもたらすテーマに直面していく。人類の能力を拡張させるこの技術は一方で「自然の摂理に反するものだ」と激しい反対運動を引きおこしている。アダムを含めたオーグメンテーション化を行なった人々は「オーグ」と呼ばれ、差別的なまなざしを向けられることもある。オーグメンテーションは人類が獲得した進化の力か、それとも忌むべきものなのか。オーグメンテーションの負の部分もアダムは見つめる事になる。テーマをしっかりと描いていることで、プレーヤーも人類の行く末に想いをはせることになる。優れたSF作品に触れる喜びはここにあると思う。


恋人の科学者ミーガン、皮肉な口調のサイバーセキュリティの専門家プリチャード、勇敢な女性パイロットのマリク
半年前のテロリストによる襲撃事件。オーグメント化された敵の前に、アダムはなすすべもなく倒される
多彩な顔を見せるデトロイトの街。意外なところで繋がってたり、パズル的なルート探しも楽しい


■ 戦うか、やり過ごすか、常に複数のアプローチが可能な自由度の高いゲーム性

敵の多い場所を進む場合は、基本的にステルスで進む
交渉次第で人質の命を助けることも

 「デウスエクス」では、「コンバット」、「ステルス」、「ソーシャル」、「ハッキング」の4つの方法を戦略的に組み合わせミッションを遂行していく。この中で最も多用するのがステルスだろう。アダムは敵が待ち受ける場所にたった1人で乗り込んでいく。 しゃがみ、物陰に隠れながらの移動は緊張感があり、このゲームの楽しい部分だ。

 一見無理な状況に見えても、ダクトがあったり、階段があったり、瓦礫を影にして進める場合がある。ダクトがダンボールなどに隠されて見えないこともあり、経験を積むことでルートを見つけられるようになる。移動可能なブロックを積み上げて足場にするなどちょっと前のPCゲームを思い出させるギミックもある。

 コンバットは全体的に敵の攻撃力が高めで、従来のFPSと同じ感覚では勝つことは難しい。ステルスやカバーアクションと組み合わせ、敵を確実に仕留めこちらの姿は極力見せないようにする。武器・弾薬の所持量はオーグメントの成長で増やすことはできるが、全体的にそれほど多くないため、ここぞというときに使いたい。オーグメントを使った格闘では1撃で敵を倒すことができるが、上限のある「エネルギーセル」を消費してしまうため、連続使用は難しい。

 戦闘が避けられない場面ではどんな武器をどう使うか考える必要がある。武器はレーザーポインターを付けたり、装弾数を増やすなどの改造が可能で、どの武器を強化していくかも考えていくことで有利になる。特にハンドガンは重装甲の敵でも頭を撃ち抜き一撃で倒せるアップグレードキットなどもあり改造しがいがある。グレネードには、集団に効果的なガスを発生させるものや、ロボットに効果的な電磁波を発生させる物などもある。効果的な活用を心がけたい。

 PCや端末をハッキングすることで、ドアの鍵を開けたり、情報を得たり、さらには敵の施設をこちらで使うといった事も可能だ。ハッキング画面はコンピューター空間の「ノード」を占拠していくことで行なう。ノードをどういう順番で占領していくかは重要で、ハッキングを感知されてしまうとPCが一定時間ロックされたりする。敵が所持していたり、マップ上に隠されて置かれている携帯端末「ポケットセクレタリー」にパスワードが記録されていることもあり、こういった形で情報を得ることもできる。高度なプロテクトがかかったPCをハッキングするためにはオーグメントのアップグレードが必要だ。

 ソーシャルは、火力を使うことなく、会話によって事態を有利に進めていくアプローチ。人質を取って立てこもる敵に人質を解放するように誘導したり、傲慢な人間を脅したり、悩む人を説得したりなどの展開が用意されているが、他の3つの方法に比べ登場頻度そのものは多くない。ただ、成功すればゲームの展開に大きな変化をもたらす。

 緊張感のある会話のやりとりは、実際にその人物と駆け引きしているようで楽しい。このソーシャルのアプローチはオーグメントにより相手の感情や反応を読み取り、さらにバリエーションが増え、こちらの望む反応を引き出しやすくなる。このように、自分のプレイスタイルに合わせて、自らの能力を変えていくのだ。


隠れて進み、ルートを探す。監視カメラなどにも注意だ
戦闘は仲間を呼ばれないように一撃必殺を心がけたい。力押しでは難しい
細かく探索することで武器や情報などが入手できる。右はハッキング画面。各拠点を支配下に置いていく


■ 能力を拡張せよ! 人類以上の能力を得るオーグメント

経験値が一定以上貯まると入手できるプラクシスポイントを使ってオーグメントを強化できる

 アダムは経験を積むことでオーグメントを強化させることができる。経験値が一定以上貯まると、「プラクシスポイント」が貯まり、これを割り振ることで機能を強化していく。ほぼ全身を強化可能で、成長させることで様々な能力を獲得できる。

 皮膚の強化はダメージ量を減らせるだけでなく、電撃に対する耐久性も獲得できる。さらにステルス能力を発揮させることも可能だ。肺を強化すれば毒ガスも平気になり、背部に追加装備を行なえば高いところからも飛び降りることができる。

 腕部の強化はもろい壁を壊せるようになり、より多くの荷物を持ち、重いものを運ぶことも可能になる。さらに銃の射撃時の反動を無くしてしまうことも可能だ。脚部は強化することにより、物音を立てずに移動できたり、3mのジャンプが可能となる。

 しかし、オーグメントの中でも最も機能が多いのが頭部だ。相手の感情にフェロモンを使って働きかける「ソーシャルエンハンサー」や、敵の位置をより細かく知るレーダーシステムの他に、ハッキングに対しても様々な能力がある。この他にも物語でも大きく取り上げられる全方位攻撃システム「タイフーン」を装備できるようにもなる。

 オーグメントの成長の中で筆者が最も効果的に感じたのはハッキング能力の効果で、パスワードを読み取ったり、ドアを開けたり情報を入手したりと、進める上で大きく役立った。その他のオーグメントはインベントリーの拡大も必要に迫られて、という感じで、強化の実感が薄いものもあった。思い通りの活躍をするためにはプラクシスポイントが足りないと感じ、どの機能を強化するか慎重になってしまうところもあった。強化の方向性と項目はもう少し洗練できたかなとも思った。

 とはいえ、オーグメントの強化はそのまま行動範囲の拡大になる。壁が壊せればショートカットが可能になり、腕部を強化すると自動販売機なども持ち上げられ隠し通路を発見できたりする。ゲーム後半では強くなった自分を実感できる場面も多い。2度目のプレイであえて違う強化を行なうことで全く違うゲーム展開を味わえそうだとも感じた。


様々な機能を強化していく。移動できるルートが増えるなど、性能がゲームプレイに密接に関係してくる
ステルスを起動させることで、赤外線センサーをごまかせる。中央は相手の性格を分析できる機能。右は周囲をまとめて倒せるタイフーンだ
椀部を強化することで壁も壊せ、敵のターレットやロボットも味方にできる。右はクリニックで買えるプラクシスキット。高価だがプラクシスポイントを得られる


■ 人類は何処へと向かうのか。壮大なテーマを描くSF作品。ただ、ゲーム性は少しレガシーな部分も

ミーガンの母の依頼。心が痛くなる悲痛な母の思いが伝わる
オーグメント化したテロリストと対決、事件の真相へと迫っていく

 「人類の未来」という重厚なテーマ、細部まで考証された世界観、自由度の高いゲーム性。「デウスエクス」は大きな魅力を備えたゲームとなっているが、その一方で昨今のゲームに慣れたプレーヤーを戸惑わせる難易度がある。まず、とにかく戦闘のバランスがシビアなのだ。最初の銃撃戦でいきなり倒されたり、見つかった瞬間あっという間に倒されたり、昨今のゲームにはない厳しさに驚かされる人もいるだろう。

 筆者が「デウスエクス」で感じたのは「少し前のPCゲームの匂い」である。本作はいつでもセーブできる。このため、1人の警備兵をやり過ごしたら即セーブ、見つかったら前のデータをロード、というような感じで慎重に進んでいく緊張感を持ったゲームプレイを求められる。この感触は「Half-Life 2」や「スプリンターセル」シリーズなど、PCでプレイした過去のゲームの記憶を思い出させた。

 もちろん、古さは懐かしさだけでなく、敵に見つかってしまうと瞬時に倒されてしまったり、敵の配置が見えにくいところを進まなくてはいけなかったり、運が絡むと感じさせる状況もあり、昨今の遊びやすさと演出を重視したFPSやTPSと比較すれば、もう少し詰められたのではないかと思うところもある。人によっては難易度が理不尽に感じるところもあるかもしれない、しかしこの感触も本作ならではの作品の体験を生んでいる。筆者はこの緊張感のある本作のリズムが好きだ。

 ただのノスタルジーではない独得の進化を見せているところも注目して欲しい。特に「デトロイト」と「ヘンシャ」という2つの都市は広大な地を歩き回れる点は、本作の大きな魅力だ。アメリカのデトロイトと、中国のヘンシャの対比も楽しい。地下の下水道や建物の屋根の上を進んだり、抜け道などの意外なマップの繋がりがあり、偶然、武器商人のいる場所を見つけたり、最初は遊び場を与えられた子どものように探索に夢中になれるだろう。ヘンシャで名高いクラブハウスはまともに入ろうとすると高い金を取られるが、いくつも忍び込む方法が用意されている。

 サイドクエストと聞くと簡単なお使いのような物を連想させられるが、恋人だったミーガンの死因をミーガンの母に請われて再調査するなど内容が充実していて、「デウスエクス」の世界に没入していく感触が楽しい。目的地への道のりは世界を歩いたからこそできるショートカットで進める。オーグメント強化により選択肢が増えることでさらにルートが増えたりする。

 「デウスエクス」は現在のゲームのトレンドとは違う部分も感じさせるが、世界観と雰囲気に強い魅力があり、きつめの難易度も挑戦心を掻き立てられる。世界に没入し試行錯誤をくりかえしながら進み1度クリアした後も、2回目のプレイでより完璧な方法を目指しながらも違うアプローチを試す、というように深く遊びたくなる作品だ。本作の独得の味わいをじっくり、たっぷり味わって欲しい。


新聞で世界の動きの一端がわかる。オーグメントには批判的な意見を持つ人も多い
多彩なサイドクエストや、プレーヤーの行動で変化する状況など、何度も遊びたくなる要素がある
中国の都市ヘンシャ。雑多なアジア的雰囲気の表現が楽しい


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(2011年 10月 20日)

[Reported by 勝田哲也 ]