2016年6月25日 10:00
「√Letter(以下、『ルートレター』)」は、15年前に文通した「10通の手紙」を頼りに、青春時代のペンフレンド「文野亜弥」を見つけ出すミステリーアドベンチャーゲーム。
角川ホラー文庫などでも活躍する藤ダリオ氏がシナリオを担当し、キャラクターデザインに箕星太朗氏、声優陣も日高のり子さん、皆口裕子さん、井上喜久子さんなどなど超有名どころが参加しているなど、「角川ゲームミステリー」作品として力の入った作品となっている。
そんな「√Letter ルートレター」のレビューをお伝えしよう。なお、プレイはプレイステーション 4版で行なった。
15年前に何があったのか?手紙がひもとく、青春人間ドラマのアドベンチャーゲーム
物語は、ある手紙を主人公が自室で見つけるところから始まっていく。15年前、主人公が高校3年生の頃に文通をしていた島根の女子高校生「文野亜弥」からの手紙。
その手紙を懐かしんでいると、そのなかに見覚えがなく消印もない謎めいた手紙を見つける。彼女からの最後の手紙、そこには、
「私は人を殺しました――」
と書かれていた。
手紙の言葉、消印のない手紙、15年前に一体何があったのか?
真相を突き止めるべく、主人公は一路、手紙の住所にある島根県へ……。
彼女からの手紙を頼りに、手紙の中に登場する彼女と仲の良かったクラスメイトを探しだし、一体15年前に何があったのかを探っていくというのが、本作の基本的な物語だ。
本作の舞台は島根県。主人公は旅館「松江荘」に宿泊しながら、ペンフレンド「文野亜弥」のこと、そして当時に何かあったのかを探っていく。
彼女の手紙に登場するクラスメイトは本名ではなくあだ名しかわからない。あだ名で書かれていたのは、「親友」、「サル」、「チビ」、「メガネ」、「ビッチ」、「デブ」、「ガリ」の7人。あだ名としては「親友」はさておき、他はなかなかひどいものばかりなのだが……。
「ルートレター」は非常にオーソドックスなスタイルのテキストアドベンチャーゲームだ。“移動”や“聞く”といったコマンドを選択してプレイしていく。昨今ではほとんどなくなってしまったコマンド選択型ADVだ。本作はマルチエンディングとなっており、5つ以上のエンディングが存在。そのエンディングの中にも昔懐かしいADVゲームを思わせるものがある。
ゲームの流れとしては、毎日1通ずつ文野亜弥との過去の手紙を読み返し、それにどんな返事を書いたかを選択肢のなかから選ぶ。そこから旅館を出発して、彼女のクラスメイトを探し出して会い、彼女がどこにいるのかや15年前に何があったのかを聞き出していく。それを1日1通、クラスメイト1人というペースで進めて行くのが、本作のおおまかな流れだ。
ただ、どのクラスメイトも、当時のこと、文野亜弥のことを話したがらない。ましてや、自分がクラスメイトの誰かだったことも認めたがらない。そこには何か秘密や事件の匂いもしてくるのだが……。
クラスメイトと思われる人物との会話が佳境に入っていくと、「追及パート」へ。相手の嘘やごまかしを崩せる証拠の品や言葉を選択していくが、5回間違えると追及パートの最初へと戻されてしまう。追及パートのクライマックスでは、「マックスモード」というゲージの動きに合わせて変化する言葉から、適切な言葉をタイミングよく選んでこちらの気持ちをぶつけていく。このパートを上手く乗り越えると、クラスメイトから15年前の思い出を聞き出せる。
この追及パートには上に書いたようなゲーム的な要素が組み込まれているのだが、決して難易度の高いものではなく……というよりほぼ、誰でも再トライすることなく進められるものだ。物語全体のシリアスなトーンからすると、この追及パートにはちょっとギャグ路線な相手キャラクターの表情などがあって、このパートのノリは人によって好みがわかれるところかもしれない。
プレイを終えて“オーソドックスで昔懐かしい”という印象になった「ルートレター」だが、本作のプロデューサーである安田善巳氏もインタビューにて、「1990年代の名作アドベンチャーゲームを思わせるような」と語られており、制作陣としてもあえて狙った、意識したというところがあったようだ。
その恩恵として、本作はとてつもなく遊びやすい。昨今の高度化したゲームについていけないという人でも、本作はじっくりまったりと、物語の魅力を楽しんでいける。
一方で、あまりに遊びやすく、もっと言えばかなりシンプルなゲームなので(それこそ1990年代初頭頃のADVゲームのように)、プレイの幅が狭くなっている。マップの各所を移動し、いろんなところを調べたりもできるが、それによって物語が分岐したりといったことは起きない(一部隠し要素にそういうものはあるが、ごく一部)。
コマンドの中には「考える」というものがあり、これが次にどこにいって何をすべきかのヒントになっているので、その内容どおりに進めればエンディングまで引っかかることなくたどり着いていく。
この「考える」というコマンドは決してヘルプ機能なわけではなく、次の展開へと進むために「考える」を使わないといけない場面もある必須のコマンド。また、主人公も脈絡なく次の展開で必須になるアイテムを自発的に購入したりしてくれる。そのため、本作をプレイする上で苦労することはほぼない。ほぼ、物語を順に読み進めるのみというプレイ感になっている。
そんななか、変化をつけてくれるのは“手紙”の存在。15年前の手紙にどんな返事を書いたかで後のエンディングが分岐していくのだが、これも全体の8割ほどは変化せず、終盤が変化するという形式になっている。もう少し序盤から展開が変化してくれると、周回プレイも楽しくなってくれたのだが。
とはいえ、分岐した物語のなかには突拍子もないユニークなものもあり、本作の世界観やキャラクターたちに馴染んでから楽しむそれらのシナリオは、むしろ本編よりも楽しいと思えるものもあったぐらいだ。
全体の感想としては、島根という物語の舞台や雰囲気が良く、その中で明らかになっていく、見た目よりも鬱テイストがある展開、そして周回プレイによって明らかになる真相と結末、さらにはボーナスシナリオ的なユニークなエンディング分岐と、好ましい部分が非常に多かった。
ただ、アドベンチャーゲームとしては非常にシンプルで、プレーヤーが自分で考える箇所が少ない点には物足りなさを感じてしまった。舞台設定や物語、キャラクターデザインと声優陣など、素材はとても良いのだが、シリアスなエピソードや人間ドラマ的に心情を描くシーンもあるという物語のトーンに対して、ちょっとギャグ路線なシーンは浮いてしまっていたとも思う。緩めにしたいのか、美しくしたいのか、ホラーにしたいのか、ミステリーにしたいのか。欲張った結果、どれもチグハグに混ざってしまっているような印象だ。
ちょっと厳しい評価にはなってしまったが、本作は、純然なコマンド選択式テキストアドベンチャーゲームを久々に遊びたいという人にオススメ。なお、角川ゲームスでは今後もミステリーアドベンチャージャンルに継続的に挑んでいくということなので、まずは本作を楽しみ、ここからの進化を期待していきたい。
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