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ついにNA'VI王国が陥落! 「WGL The Grand Finals」決勝Tレポート
破竹の快進撃を見せた中国Elong。2つの想定外が巻き起こした熱狂に迫る!
(2015/4/27 13:46)
- 4月25日、26日開催
- 会場:Expo XXI(ポーランド・ワルシャワ)
4月26日、「World of Tanks」の世界チャンピオン決定戦「Wargaming.net League The Grand Finals(WGL Finals)」の決勝トーナメントが開催された。初日に行なわれたグループリーグの結果を受け、この日は8つのチームがノックアウトラウンドに挑む。その中には初めての出場となるアジアの2チーム──APAC代表のEL Gaming(Elong)、中国サーバー代表のYato Gamingの姿もあった。
この2チームについては、グループリーグの組み合わせの妙によって運良く進出できたに過ぎない、というのが現地の解説者を含む大勢の見解だった。「WoT」の強豪はロシア・CISおよび欧州であり、アジアのチームはまだまだそのレベルには届いていないのだと、皆がそのような常識を持っていたのだ。当然、ノックアウトラウンドでは早々に消えていくことになるだろうと思われた。
果たして、その予想は大いに裏切られた。そして、大勢によるもうひとつの予想も裏切られることになった。ディフェンディング・チャンピオンのNA'VI本命説である。想定外の出来事の連続、そして新しいチャンピオンの誕生に、会場は熱狂的とも言える盛り上がりを見せた。
これぞe-Sportsの醍醐味。そんなことを思わせた2つの番狂わせを中心に、決勝トーナメントの模様をレポートしていこう。
孔明の罠!? 中国Elong、“アンチ欧州戦術”で破竹の快進撃
まずは準々決勝、ベスト8の対決から。第1試合、アジア圏の生き残りであるElongは、ロシア・CIS圏のチーム、WP.SC6と対決。下馬評は、8:2でWP.SC6の勝利を予想する者が優勢を占めていた。
無理もない。ディフェンディングチャンピオンのNA'VIが言うように、ロシア・CIS圏のチームは世界で最もレベルの高い地域で戦っていると考えており、危険視するのは隣の欧州チームのみ。中国やアジアのチームについてはほとんど情報を持っていない中で、実際、グループリーグでは各チームともに中国・アジアのチームに対してほぼストレート勝ちを収めていたのだ。
Elongも、4月25日に行なわれたグループリーグではNA'VIを相手に0-5のストレート負けを喫している。ここで対決するWP.SC6はワイルドカード枠(各地リーグのトップとして出場ではなく、国際プレーオフを経由しての出場)であるから地域を代表する最強チームではないとはいえ、ロシア・CISのレベルでやってきたチームである。大方、ここでElongが消えるだろうと思われるのも無理はない。
たが試合が始まってみれば、中身は全く違うものになった。「ムロヴァンカ」で戦われた第1マップ、防衛側スタートとなったElongはWP.SC6を相手に3ラウンドを連続で取得したのだ。
Elongがとった作戦は明確だった。このマップでよく防衛ラインとなる南東の丘に主力5両を固めて待機させ、残る2両で北と東を索敵しつつ、相手が前進してきたタイミングに合わせてカウンター気味に突っ込んでいく、というプランである。Elongはこの作戦に全てをかけていたかのように、全試合でこの形を見せた。
この作戦は完全にWP.SC6の想定外であったようだ。しばらくの見合いの後、前進を始めたところで、いきなりElongの主力が横合いから塊となって突っ込んでくるのである。あまりもの見事な奇襲ぶりに、「ジャーンジャーンジャーン」、「げえっ 関羽」というセリフが聞こえてきそうである。これに全く備えていなかったWP.SC6は前後に隊列を分断され、各個撃破。驚くほどあっさりと、Elongが勝利した。
Elongは攻撃側となったラウンドや、後半のマップ「プロクホロフカ」でもやはり、一旦固まって様子を見てからタイミング良く突っ込んでいくというスタイルを徹底。交戦開始時の射線集中もよく決まり、優勢に試合を進めていく。WP.SC6はいくつかのラウンドでなんとかこれをしのいだものの、最後までElongの勢いは止まらずラウンド取得数5-3でElongが驚きの勝利を上げた。
中国のチームというのは、地力の差を把握しているからか、強豪地域チームを相手にする際にはこういった奇策を好む傾向があるようだ。同じく準々決勝でもうひとつの中国チームYato Gamingは、ロシア・CIS代表のHellraisersと対決し、「ムロヴァンカ」の東の森にラッシュをかけるという奇策で序盤のラウンドをもぎ取っている。これには現地の実況者も「こんな形は見たことがない!」と大興奮だ。
だが、そこはロシア圏で最強クラスのHellraisers。奇襲が通用したのは1回だけだった。奇策で取られたラウンド以降は、すぐに対策し、次のラウンドで取り返すという形で拮抗を続ける。そして試合は「プロクホロフカ」で4-4のマッチポイントに到達。Yato Gamingのまた新しいパターンの動きを素早く見抜いたHellraisersは、その裏手を取ることに成功し、鮮やかな集団戦に持ち込んでこれを退けた。Yato Gaming、奇策を駆使して非常に善戦したものの、一歩及ばず。ここでノックアウト。
一方、ベスト4、準決勝にあがったElongは、欧州代表のKazna Kruと対決。Kazna Kruは前日、グループリーグでAPAC代表のAreteを5-1の大差で破っている。また、今大会における優勝候補にあげられてきた欧州最強のチームSchoolbusをベスト8で破って上がってきたこともあり、その実力は間違いがない。さすがにここでアジア圏のチームはいなくなるだろうというのが大勢の予測であった。
前半戦は「ムロヴァンカ」。Elongは対WP.SC6で見せたのと全く同じ作戦を採用する。この作戦で一点突破するつもりなのだろう。しかし、Kazna Kruは「その作戦はさっき見た」と言わんばかりに懐の深い陣形で対応。Elongの突撃をいなし、序盤2ラウンドを勝利。攻守交代した3ラウンド目はElongの作戦があたったものの、次のラウンドではKazna Kruが車両構成に多少の手を加えることで(壁役のT-32、火力支援のM41を採用)、Elongの突撃の威力を減殺し、反抗に成功。前半戦は3-1でKazna Kruがリードする。
完全に奇策を封じられてしまったかに見えたElongだが、後半戦「クリフ」にてまたその威力を開花させた。中央の丘を巡って早期の衝突が起きやすいこのマップ、欧州勢は火力を重視して10連リボルバー砲を持つM41を2両入れる編成を好む。しかしM41は、開幕から1分あまりは初弾装填中のため火力が出せない。そこを見越した編成をとったElongは、全力でラッシュ、相手の準備が整う前に1両づつフォーカスして撃破、そのまま数的優位を維持して勝ち越す、という作戦をとったのだ。
これがあたった。Kazna Kruは「なぜ負けたのか」が理解できないふうに、同じ形で連続3ラウンドを落とす。EL Gamingがマッチポイントに到達してようやく戦術に変更を加えたKazna Kruだが、対応が遅かった。なんと、後半戦はElongが4タテで逆転勝利を収めた。
ここまで見て、Elongの狙いが明確にわかった。ロシア・CISおよび欧州勢(地域的に近いこともあり、人的な交流が多く、似たような作戦文化を持つ)がよく取る作戦を詳しく研究してきた上で、ピンポイントでそれを潰す“アンチ欧州”といえる作戦に掛けていたのだ。さすがの欧州代表Kazna Kruも、前の試合で見た動きには対応できたものの、初めて見るパターンには崩されてしまった。Elong、絵に描いたような作戦勝ちである。さすが孫氏兵法の国というべきか?!
こうして何となんと、完全にダークホースと化したElongは驚きの決勝進出を果たした。この結果を予想した者はほとんど、あるいはまったく居なかっただろう。
ディフェンディングチャンピオンNA'VI、永年のライバルHellraisersに敗れる!
準決勝戦のもう一方では、ベスト8でYato Gamingを破ったHellraisersと、Virtus.Proを破ったNA'VIが対決。Hellraisersはロシア・CIS地域で長く2強の片割れを演じてきたチームUnityを母体とするチームで、NA'VIとのメンバー交流(というよりは引き抜き合い)も多い。ロシア・CISのワンツーはNA'VIとHellraisersであり、その直接対決は、実質的にこの大会における決勝戦になると見られた。
試合はまさに、その期待通り、信じられないほど素晴らしいプレイの連続で飾られていった。ありえないほどの距離からの狙撃がガンガンあたり、素早い動きの中で一瞬のチャンスしかない射撃をものにしていく。「クリフ」で戦われた前半戦はまさにがっぷり四つの戦いで、思わぬ戦車の炎上といったランダム要素によって大きく左右される展開。両チームに大きな差は生まれず、2-2とタイスコアでの折り返しとなった。
「プロクホロフカ」での後半戦も同様にレベルの高い戦いとなったが、NA'VIがどうも振るわない。戦いの内容に明確な差はないのだが、接触直後の射線集中のクオリティの高さでわずかにHellraisersが上回った印象。同じような戦術感、同じような連動のノウハウを持つ2チームだったが、その出来栄えがわずかに上回った方、Hellraisersが着実に勝利を重ねていく。
弾薬庫誘爆で1発で吹き飛ぶという不幸もあった。こういったランダム性は、レベルの高い戦いにおいては水を差す余計な要素に思える。しかしそういった部分を踏まえても、クオリティで勝ったのはHellraisersだ。その射線集中は本当に見事であり、接敵するや4~5門の砲が同人相手の一両がに着弾し、「蒸発させる」ほどである。
こうしてロシア・CIS最強2チームの戦いは、Hellraisersの勝利に終わった。母体となった旧チームUnityから数えると、「WoT」の歴史において万年2位といわれたチームが、ついに永年のチャンピオンチームを破ったのである。これには会場も大いに盛り上がり、新たな時代の到来を感じさせた。
こうして決勝戦は、ロシア・CISの新王者となったHellraisersと、アンチ欧州戦術で予想外の進撃を見せてきたElongとの間で戦われることになった。
しかしこの決勝戦は、さきほどのロシア・CISからの2チームによる準決勝が「事実上の決勝戦」と言われたことを改めて確認する場となってしまった。決勝限定のBO7(7ラウンド先取)で戦われたこの試合、手の内を出し尽くしたElongに対して完全にクオリティで上回るHellraisersは、全く危なげのない試合運びで7-1で圧勝。2014-15シーズンの世界王者の座をHellraisersがものにした。
Elongが準々決勝、準決勝で見せた戦術はそれは見事なものだったが、やはりそれは奇策に属するものだったのだろう。ロシア・CISの上位チームともなれば、それを一度見れば対策が完了する感じである。決勝戦において、Elongの狙いがあたったシーンはまるでなかったと言っていい。それくらい差のある試合となったことは現実だ。
しかし、地力の差を作戦で覆すという「WoT」の醍醐味を見事に体現したという点で、Elongの活躍は大いに賞賛したい。それと同時に、ロシア・CISチームの強さ、その壁の厚さも痛感させるファイナルとなった。総合的に見ると、最新の序列としてはロシア・CISが間違いなく最強で、それに欧州が続き、アジアが猛追するという構図である。Elongのような奇策は対策されれば欧州勢にも通用しなくなるであろうため、次のシーズンに向けて、アジア勢がさらに新たな工夫を加える必要が出てきたことも確かだ。
こうして「WGL The Grand Final」は、アジア勢がサプライズを巻き起こしつつ、新たな王者Hellraisersを生み出すという結果で閉幕を迎えた。驚きと感動の連続となった各試合。力と工夫の双方で闘いぬいた各チーム。これぞe-Sports!という面白さをまざまざと見せつけ、世界的な人気の高さにも大いに納得できる内容を楽しむことができた。
次のシーズンでは日本勢の活躍にも期待したいところだ。「WoT」のアツい戦いはまだまだ続いていく。