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「The Witcher 3: Wild Hunt」開発者がイベントワークフローを解説

ツールの完成度が35時間もの会話イベントの製作に貢献

3月14日~18日開催



会場:San Francisco Moscone Convention Center

CD PROJEKT REDのPrincipal Programmer、Piotr Tomsinski氏

 GDC 2016の最終日となった18日(現地時間)、CD PROJEKT REDのPrincipal Programmer、Piotr Tomsinski氏は、「BEHIND THE SCENES OF THE WITCHER 3: WILD HUNT」と題して、同社のアクションRPG「The Witcher 3: Wild Hunt」のイベント会話システムの開発ワークフローを解説するセッションを行なった。なお、「The Witcher 3: Wild Hunt」は、GDC 2016に参加した開発者が選ぶ「ゲーム・オブ・ザ・イヤー」にも選ばれている。

【 冒頭の「The Witcher 3: Wild Hunt」紹介ムービーより】

 「The Witcher 3: Wild Hunt」(以下「W3:WH」)を、”一本道ではないストーリーに基づいて進行するオープンワールドRPG”と定義したTomsinski氏は、ストーリーこそ本作の命という。トレーラームービーによる本作の紹介に続いて、Tomsinski氏は、プレーヤーにストーリーラインを理解してもらい、プレーヤー自身の意思に基づく適切な選択の機会を与え、選択がプレーヤーの感情を揺さぶる意味のあるものにするためには、本作のイベント会話システムが如何に重要かを説明した。

 とはいえ、35時間以上にも及ぶシネマティックなイベント会話をアニメーターがすべて手作業で作っていくには、いわばアニメーターの軍隊が必要で、到底現実的でないとした。ごくシンプルなシューターの幕間のカットシーンならともかく、RPGの会話イベントを手作りするのは時間数に関わらず、現実的でないのは自明で、当然の帰結である。「W3:WH」のストーリーイベントのうち、2.5時間分がカットシーンで35時間分が会話イベントシステムで制御されるのは、Tomsinski氏が言うように、カットシーンのアニメーションをこだわって作るのは非常にコストが高い。重要なカットシーンはリッチにコストをかけ、そこまででもない部分は、異なる解決策を取るのは自然なことだ。

RPGにとってのストーリーの重要性を説く
RPCのイベントシーン作成の悩みがよくわかる

カットシーンと会話イベントの対比。右下の小画面がカットシーン

 Tomsinski氏たちは、本作の会話イベントシステムの開発のために、独自のツールを開発している。ストーリーのシーケンスの作成する「QUEST GRAPH」と「DIALOGUE EDITOR」で構成される。よくある構成ではあるが、本作のツールはかなり作り込まれていて、作りやすそうに感じる。

 シナリオライターが創作したシナリオは、ノードベースの「QUEST GRAPH」で、ストーリーのシーケンスブロックを、一定の単位ごとに各ノードに置き換えて、分岐をフローのラインでつないでいく。「QUEST GRAPH」は階層化されているように見えるものの、なかなかのボリュームで管理が大変そうだ。それでもなお、フローの流れが視覚的にわかりやすく表示できるのは、この手のビジュアルスクリプトツールのメリットだろう。

QUEST GRAPH」の画面
「DIALOGUE EDITOR」の画面

 個々のノードの中身をオーサリングしていくのは、タイムラインベースの「DIALOGUE EDITOR」の役割だ。各ノード内では、キャラクター、カメラ、アイテム、ライト、フェイシャル、天候などを制御して変化させることができる。汎用的に使えるこのシステムに乗せてイベントノードを製作している場合でも、特定のポイントではがっちりとキメて作る一方で、よくある流れのありふれたイベントノードは、「GENERATOR」を使ってテンプレートからノードのタイムラインをジェネレートすることもできる。タイムラインベースの作業が、カスタムカットシーンを作成する作業より軽いとはいえ、いちいち手作業ですべてのノードのタイムラインノードを用意するのは骨が折れるから、大差ないものは楽にしてしまいましょう、ということだろう。

「DIALOGUE EDITOR」でのタイムラインベースの編集
「GENERATOR」は便利な仕組みだ
待機アニメーションの数々
注視点を管理するシステムは以外と冗長か

 こうして徹底的に省力化を図っているかと思うと、以外とこだわっているなと感じられる部分もあった。キャラクターの待機アニメーションは、立っている、立膝をついている、座っている、などのポーズの状態とそのキャラクターが攻撃的か決然としているといった内面的な感情の状態別に用意されており、他のキャラクターを注視するための目や首の向きのアニメーションも、かなりの数をデータとして持っている。

 これら会話イベントシステムのために、アーティストがデータであらかじめ用意しているアニメーションの総数は2400にも上るが、老若男女を考えると、これでも十分ではないという。亜人間のモンスターキャラクターと対話するシチュエーションもあり、さらに対応しなければならないタイプが存在する。で、どうするか。

アニメーションデータの総数は2400にも
モンスターとも対話しなければならないが……

 「W3:WH」の解決策は、キャラクターに「DIALOGUE EDITOR」上で、基本アニメーションデータをコントロールリグによって、その一部を上書きする機能だ。たとえば、基本のアニメーションがまっすぐ目の前を指差すようなものであった場合で、対峙しているキャラクターが真正面に位置していない場合でも、腕の向きや注視点をそのノードだけエディタで変更して、即座に例外を作ることができるようにしている。さらに、ほとんどのオブジェクトは他のオブジェクトにアタッチすることができ、アタッチした状態でオブジェクト間のアニメーションは、ちゃんと同期する。

【コントロールリグによる制御】

 「DIALOGUE EDITOR」で変更可能なのは、アニメーションに関するものばかりではない。ライティングや空気感などのビジュアルのポスト処理で行なう項目も自由に設定できる。天候や時間帯とそれに伴う太陽光源の制御も可能で、その結果、多様な最終出力を生んでいる。魔法エフェクトを割り付けることも可能で、会話イベントに必要な機能は一通り揃っている印象だ。「W3:WH」の会話イベント作成ツールはかなり出来がいい。

【ポストプロダクション要素】

 本作の会話イベントシステムの製作コンセプトも、そのためのツール自体も、それほど目新しいものではなかった。ただ、これは決して悪いということではなく、開発効率を上げようとすると、誰でも同じところに帰結するのは当然のことだ。大事なことは、ゲームそのものではないからといって軽視することなく、ツールに必要な機能をしっかりと作り込んでいることだろう。最終品質に直結する部分だから当たり前のことなのだが、なかなか手が回らずにおろそかになりがちではないだろうか。

ポストフィルタ適用後のイベントの1コマ

 プレーヤーのインプレッションを高めるために、RPGのみならず、シューターや格闘ゲームでさえ幕間のカットシーンが重要視されている昨今、そのボリュームも膨大なものになっている。アーティストの製作負荷を減らしコストを下げることと、高い専門技能を持ったアーティストによって丁寧に作り込まれたカットシーンを提供することはトレードオフの関係にある。このバランスをとることこそが、完成度の高いゲームを世に送り出すことにつながると感じられたセッションだった。

(谷川ハジメ)