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プラチナゲームズ稲葉氏が話す「アクションゲーム作りのセオリー」

ゲーム設計の順序、最優先すべきもの、その独自の開発哲学とは?

3月14日~18日開催



会場:San Francisco Moscone Convention Center

プラチナゲームズ プロデューサーの稲葉敦志氏

 プラチナゲームズでプロデューサーを務める稲葉敦志氏は、同社で開発するすべてのタイトルについて、最終的な責任を負う役割を担っている。

 プラチナゲームズはアクションゲームを得意とする開発会社であるが、GDC 2016では、この稲葉氏によって「アクションゲーム作りのセオリー」が語られる講演が実施された。稲葉氏が「会社でもこのような話はしない」という、普段は明かされないプラチナゲームズ独自の哲学が垣間見える講演となっていた。

アクションゲームは「受動的」。その設計方法とは?

 まず稲葉氏が話したのは、「アクションゲームは受動的なゲーム」ということについて。アクションゲームといえばプレーヤーが積極的にキャラクターを動かすようなイメージがあるが、実際は敵が出現したり、状況が変化したり、「何かが起こって、それに対応する」ことの集合がアクションゲームだとした。

 逆に、ホラーやアドベンチャーは「能動的なゲーム」になる。何が起こるかわからない中で行動し、その反応を体験するのがこれらのジャンルの特徴だ。アクションゲームと同様、本質とイメージがまったく逆となっているが、この理解がすべての基礎になる。

アクションゲームを構成する要素

 稲葉氏が提示した、アクションゲームを構成する要素は「ウリのポイント」、「拡張性」、「深さ」の3つ。

 「ウリのポイント」はそのゲームの顔になる要素で、たとえば「ベヨネッタ」では「ウィッチタイム」にあたるもの。1作につき3つほどは必要になるが、稲葉氏いわく「よくアイディア1つで作ろうする場合があるが、それはプロの発想ではない」とのこと。

 「拡張性」は、武器やスキルの増加など、同じ状況でも違う反応ができるようになるもの。色々と試してみたくなるような、横の広がりを指す。

 最後の「深さ」は、コンボシステムなど、プレーヤー自身が理解したり、熟練することで独自の遊びが広がる要素のこと。アクションゲームは、基本的な部分に触れるだけで面白い必要があるが、一方で「クレイジーなほどに上手くプレイする人」の要望に応えることも必要なので、「拡張性」と「深さ」はあって然るべきだとした。

設計の最優先は「状況」を想像すること

 ここで大事になるのは、システムの設計はプレーヤーの能力(機能)から考えるのではなく、「状況」から設計すること。とんでもない状況に置かれた主人公が、そのとんでもない力で切り抜けていく、という「状況」を想像する力がまずは必要になる。

 ただしこれは「文字で伝えるのはものすごく難しい」部分であり、「あまり文字で企画書を書きたくない」理由でもあるという。プラチナゲームズでは、ゲームデザイン部門ですべてを決め切ることはせず、VFXやプログラマーなど、他の部門に「いい感じにしといて」と委任するという。

 こうすることで各スタッフが嫌でも想像力を働かせるし、そうして上がってきたアイディアのそれぞれの個性を楽しむこともまたアクションゲーム制作には欠かせない。スタッフ全体の「状況作り」の能力を鍛えるためにも、この方法を採用しているそうだ。

 一方で注意点として、続編制作の場合もこの「状況から考える」原則を外してはならないとした。続編の場合は前作でシステムが確立しているため、機能優先で設計してしまいがちだが、それは根本的に間違っている。

 周りに説明する際もわかりやすいし、確かにウケはいいのだが、それが落とし穴でもある。自戒も込めて、「状況設計が最優先」の原則は常に意識し続けたい、と述べた。

リプレイバリューの本質とは?

 何度も同じ場面を繰り返させることが良いかというと、それはプレイが楽しさに繋がっていないといけない。繰り返す場面を無理矢理作るのは本質から外れており、そのようなゲームはたくさんあるのではないか。

 稲葉氏は、いわゆる「リプレイバリュー」は「プレーヤースキルの向上があるかどうかがすべて」とし、たとえば基本的なプレイだけでも十分楽しめるステージがあったときに、「拡張性」と「深さ」を得たプレーヤーが再度同じステージをプレイすることで、まったく違う遊びが可能になる。この状態こそが、「リプレイバリュー」と呼べるものではないかと話した。

キャラクターとストーリー

 稲葉氏は、特にアクションゲームの主人公は、説得力を伴った強い個性が必要だとした。設計の順番としては、状況を作り、機能を作り、それからキャラクターを作る。その際は、「ずば抜けたキャラクターを持つヒーローへの変身願望」を満たすように作っているそうだ。ちなみにこの場合、アバター要素など、プレーヤー自身を投影するようなシステムとは相性が悪い。

 一方、主人公の周囲のもの、武器や仲間が強力になっていくタイプは、アバターとの相性が良い。なお現在開発中のアクションRPG「Scalebound(スケイルバウンド)」はドラゴンの成長に重点を置いたタイプだが、ディレクターを務める神谷英樹氏の好みによって主人公は個性の強いキャラクターになるそうだ。

 またストーリーについては、開始の動機と終了の目標があれば十分で、「ピーチ姫が攫われたので助けに行く」はその究極だという。加えて、稲葉氏は「ストーリーから考えるアクションゲームは駄作になってしまう」とも話した。

 ちなみに「マッドワールド」は「非常に残虐な表現を楽しむゲーム」というコンセプトがあり、その設計に特化した作りになっている。ただしプレーヤー自身が「残虐な行為をしている」と自覚してしまうと嫌悪感を持ってしまうので、世界観に浸りきるためのストーリーを入れているのだという。

ゲーム全体の流れを見る「ハイレベルデザイン」

 これで一通りアクションゲームに必要な構成要素が揃ったが、アクションゲームを設計する上で、稲葉氏が大事にしている「ハイレベルデザイン」と呼ばれる工程がある。

 これは全体を通して、ステージの難易度や流れを決めていくというもの。単純に難易度を段階的に引き上げていくのは間違いで、プレーヤーがステージを連続でプレイしたときにどう感じていくか、をシミュレートしていくのが大事となる。

 たとえば最初の4ステージを設計する場合、ステージ1はやや高めの難易度にしておいて、ステージ2では難易度を少し落とす。ステージ3はステージ1と同等にして、ステージ4はステージ1よりも強くする。

 ステージ2のようなタメを作ると、ステージ3ではステージ1と同じ難易度でもそれよりは優しく感じるが、次のステージ4ではタメが効いてかなり難しく感じるのだという。こうしたタメがなく、段階的に難しくなるだけだとプレーヤーはただただ疲れてしまうので、最終的なゲームの評価が著しく下がる原因になるとした。

数字左が設定難易度、右がプレーヤーが感じる感覚。設計の順番で効果が変わる
こちらは失敗例。ただ段階を引き上げるだけだと、プレーヤーは疲れを感じて良い体験とはならない

「Transformers Devastation」

 なお2015年に発売されたアクションゲーム「Transformers Devastation」(日本未発売)は、あえてプレーヤーに「密度の濃い体験をさせ続ける」という極端な方針をとっているという。それにより、人によっては短く感じる人もいるし、密度が濃いので長く感じる人もいるはず、とした。極端な例ではあるものの、上記を踏まえた上での応用例でもあるそうだ。

 稲葉氏はこうしたアクションゲーム作りのセオリーを積み重ねていけば、感覚にダイレクトに訴えかけ、言葉や説明が不要な「国境を超越するゲームを作れるはず」だとした。

 また講演後、稲葉氏への質問の時間が設けられたのだが、そこで「ボス戦の作り方」と「DARK SOULS」シリーズをどう思うかという質問が出たのでその返答を紹介しておきたい。

 まず「ボス戦の作り方」については、思いもつかないようなアイディアが必要だし、プレーヤーが習得した技能や能力の先を行くものでないとダメだとした。だからこそ「腕の見せ所だし、楽しい部分ではないか」という。

 また「DARK SOULS」シリーズについては「ものすごくコンテンツの方向性がはっきりしている。私自身も好きだし、あの方向性で正解だと思う」と述べた。さらに「私たちはいきなり難しくはせず、ある程度適当に操作しても格好良いプレイができるし、高いスキルがあることでさらに格好良いプレイができるようにしている。色々なことを派手に見せる点でアプローチは違うが、どちらが正解ということはない」とした。

 アプローチは違うが、「国境を超越するゲーム」という点でいずれも高い評価を得ていることは間違いない。プラチナゲームズは現在発表されているだけでも、「NieR:Automata(ニーア オートマタ)」や「Scalebound」、さらに「スターフォックス ゼロ」など、多くの期待作が発売予定となっている。アクションゲーム開発の最前線を行くメーカーとして、今後のさらなる活躍を期待したい。

(安田俊亮)