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「Downwell」開発者、もっぴん氏がその制作過程を語る

天才の所業か、偶然か。画期的システム「ガンブーツ」の発明

3月14日~18日開催



会場:San Francisco Moscone Convention Center

もっぴん氏

 内容の面白さに加え、当時現役の日本人大学生が1人で開発した、ということでも話題になったiOS/Windows「Downwell」。2014年開催のイベント「Tokyo Indie Meetup」で衝撃のデビューを飾ると、直後に海外パブリッシャーのDevolver Digitalとパブリッシング契約。その後さらなる開発期間を経て、2015年10月に発売されたタイトルだ。

 本作の内容は弊誌のレビュー記事にも詳しいが、足から下方向へ弾を発射する「ガンブーツ」を駆使して、画面を下へ下へと進んでいくアクションゲームとなっている。

 GDC 2016では、開発者のもっぴん氏が自ら「Downwell」について語る講演が行なわれた。「Downwell」はGDC恒例のアワード「Game Developers Choice Awards」でBest Handheld/Mobile Game部門、もっぴん氏のBest Debut部門の2部門にノミネートされている。これらの受賞を期待しつつ、本講演の内容をご紹介していきたい。

英語ネイティブの新世代、「Downwell」を作る

下スクロールの2Dアクションというアイディアはあったものの、当初はただ降りていくだけのゲームだった

 内容に入る前に注目しておきたいのは、本講演は全編英語で行なわれたということ。もっぴん氏は幼少期をニュージーランドで過ごしており、英語はネイティブそのもの。普段から英語のみのゲームも気軽に親しんでおり、欧米のゲームからも大きな影響を受けている。

 その流暢さは来場者からも「まず英語が素晴らしいし、日本人でここまで積極的にメッセージを発信するのも珍しい」と意見が出たほどで、まさに日本人ゲーム開発者の新世代、といった感じだった。

 講演では、もっぴん氏はまず本作制作のきっかけとして、2Dアクションゲーム「Spelunky」のモバイル版を作りたいと思ったことにあると明かした。

 アイディアとしては、2Dゲーム、画面縦持ち、縦軸方向のステージ、「Spelunky」のような要素のランダム生成といったものがあり、最初は左右の移動とジャンプだけで下方向へ進んでいくゲームをプロトタイプとして制作していった。

 会場ではその開発途中版がプレイされたのだが、この時点では「ガンブーツ」がなく、いたって普通のアクションゲームといった感じである。ただし画面は白黒+赤で彩られた独特のデザインがすでに完成されていて、並々ならぬ雰囲気がすでにある。

「ガンブーツ」がゲームをガラッと変える

もっぴん氏が宮本氏の箴言を引用したくなるほど「ガンブーツ」は発明だった
UIの以前以後。見た目にも洗練されていることがわかる

 そしてゲームシステムに革新が起きたのが、再三触れている「ガンブーツ」の登場である。足の下に向かって攻撃するシステムが生まれたことにより、ゲームが斬新で楽しくなり、動きや攻撃装備などゲームの可能性が一気に広がった。

 特に複数の問題があったわけではないのだが、もっぴん氏は宮本茂氏の「アイディアとは複数の問題を一気に解決するもの」という言葉を引用し、それほど「ガンブーツ」の発明が「Downwell」にとって画期的だったとした。

 「ガンブーツ」には、地面に触れるとリセットされる弾数制限を設ける、空中で敵を踏み続けることで加算されるコンボを導入するなどを加え、内容の充実を図っていった。弾数制限はプレイのテンポが良くなる、コンボはより上手いプレイへの動機付けになる効果があり、段々と製品版へと近づいていく。

 その後、エリアやアップグレード要素、音楽の制作など内容の磨き上げに15カ月ほど時間を費やし、製品版が配信されることとなる。総じて、「ゲームを楽しくするメカニックに集中し、それを中心にゲームを組み立てたのが良かったのではないか」、と結論を述べた。

 そして面白かったのは講演後の質問コーナー。「主人公のアニメーションが素晴らしいが、どのようにして作ったのか」という質問に対して、「仮のつもりだったので5秒で作ったんです……ごめんなさい(笑)」、「壁蹴りの要素はなぜ入れたのか?」との質問には「理由というか、『スーパーメトロイド』が好きで……。入れたかったからです……」などと、狙っているのかいないのか、「結構勢いで作ってるなこれ」と制作背景を思わせる回答が連発された。

 本人も「あまり質問されるとボロが出る」と笑っていたが、天才の所業か、それとも偶然か、その感じもフレッシュで大変良かった。今のところもっぴん氏は次回作に取り掛かっていないというが、自然と周りを笑顔にさせる本人の人柄も含めて、ぜひ次の作品を見てみたい。今後も注目の新星だ。

(安田俊亮)