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任天堂・DeNA共同記者会見。岩田社長「すべてはゲーム人口拡大のため!」

任天堂がDeNAと共同でスマートデバイス向けアプリを開発決定

3月17日 発表

共同記者会見には任天堂の岩田聡代表取締役社長とDeNAの守安功氏が参加。プレゼンテーションが行なわれた後に、約1時間じっくりと記者陣の質問に答えた

 任天堂とDeNAは3月17日、共同で発表会を行ない、業務資本提携を行なうと発表した。
会見場には任天堂の岩田聡代表取締役社長とDeNAの守安功氏が席を並べ、提携に至った経緯を説明した。

 今回の業務提携、資本提携では大きく2つの目的があり、1つは任天堂のIPを使用しスマートデバイス用のゲームタイトルを開発する。もう1つは新しい会員制サービスを共同開発する。スマートデバイス用のゲームタイトルについては各々違いはあるものの、アプリケーションについては任天堂が担当し、サーバー系システムや運営関連に関してはDeNAが担当するという。「ゲームの手触りのノウハウは任天堂が持っている」と言うことからアプリの開発の中心は任天堂が行なうようだ。

 両社ともに提携して開発を行なうことの理由に「スピード感」を挙げている。不得意なところを補完することで早期にゲームをリリースする。その目安について岩田氏は「今年中に何らかのアウトプットを出す」としている。

任天堂の強みとするクオリティに裏打ちされた世界的な知名度を誇るIPを使用しゲームを開発する。そしてDeNAがWebサービスの構築、運営をサポートする。提携の大きな鍵はスピード感を持ってゲームをリリースしていく点にある

すでに弊誌でもお伝えした次世代機「NX」の存在を発表。今回の提携とは関係ないが、ここで発表するということが、任天堂が何をゲームビジネスの根源として大事にしているかを示すものだ

 今回の発表の焦点の1つとなるのは、これまでスマートデバイス用アプリの開発をかたくなに拒否してきた任天堂が、DeNAと共同でスマートフォン用アプリの開発に乗り出すことだ。この点について岩田氏は「スマートフォン用アプリ市場は甘くない。簡単にもうけているように感じているかもしれないが、勝ち残っているのは一握り。その少数の一員に任天堂がなれないのであれば、やる意味合いはない」と語った。

 岩田氏は「スマートフォンと家庭用ゲーム機はゲームができるという点では同じだが、似て非なるものであると言うことを、我々の中ではっきり整理することができた」と言い、任天堂IPを最大限に活かしたタイトルをスマートフォンで提供し、任天堂に興味を持ってもらい、そこを入り口に専用機でしか味わえないゲームの「プレミアムな面白さ(岩田氏)」を、任天堂の専用機で提供するという流れを説明。

 岩田氏がたびたび繰り返される質問に対して何度も繰り返したのが「ゲーム専用機のビジネスを悲観してスマートフォン事業に投じるというのは誤解である」と言う点。それ故に直接関係ない、次世代ゲーム機「NX」を開発中である旨を明らかにしている。同社の根幹を揺るがす命題となるだけに、これだけは譲れないといったところだろう。

 「Wii Uへの移行などでうまくいかなかった時期もあった」と岩田氏は振り返りながらも、「コンテンツは誰が提供しているのかが重要」と語り、ニンテンドー3DSで“ダブルミリオン”タイトルが連発されている現状を理由に、悲観論が1人歩きしており、同社の示すゲーム専用機のビジネスの優位性に変更はないと説明。

任天堂はコンテンツが大切であると語る。そしてそれだけ支持を得ていることを数字をもって示した
記者陣からもあった、スマートデバイスにおけるゲームビジネスへの参入理由について。岩田氏は「ゲーム人口の拡大」を挙げ、その入り口の1つとしてスマートデバイスを利用し、最終的には任天堂のゲーム機で、ゲームの真の楽しさを味わってもらいたいという流れがある
スマートデバイスのゲームビジネスの問題点についても列挙。これに対して答えを見いだしたことから参入を決めたという。岩田氏は「タイミングが来た」と表現した

任天堂のスマートフォン参入の目的はこの「ゲーム人口の拡大」に集約される

 スマートデバイスの優位性については「接触頻度と1回あたりの時間は短いが接触時間が長い点は優秀」と認めながらも、スマートデバイスでのゲームアプリの現状について「ゲームの価値がすぐにデフレ化する。維持は容易ではない」と“サービスの運営”の難しさに言及。この問題についての任天堂としての答えとして「ゲーム専用機と同じ内容のゲームを出すことは一切ない」とキッパリ。スマートデバイスの特性に合わせた専用のタイトルを出すとしている。

 また前述のスマートフォンのゲームにおける“サービス運営”に関して任天堂は不得手と言い、そこを補完する意味合いでDeNAとの業務提携となる。なぜ資本提携にまで踏み込むのかというと、中長期的に今回の取り組みを行なうために、資本提携を行ない「お互いの経営にも興味を持って共同の案件を優先して行なう」ため。ちなみに今回の資本提携により、任天堂がDeNAの第2位の大株主となる。

 任天堂と言えば、子供達にも安心して商品を買い与えることができる優良企業というイメージだ。岩田氏も「30年かかって信頼を蓄積してきた」と自信を見せた。一方で、ソーシャルゲームのビジネスモデルに関しては、「ガチャ」など未だに金額を際限なく投入できるというネガティブな印象もある。実際この点についても岩田氏に質問が飛んだ。岩田氏は「すべてのFree to Playのアイテム課金制を否定するものではない」としながらも「任天堂として納得できないものは出さない」と語っている。実際、3DS用タイトルでFree toi Playのタイトルもすでに存在するので、際限なくお金を投入できないようなシステムと、その必要のないゲームのバランスなどを任天堂としてじっくりと追求していくと言うことではないだろうか。岩田氏は最終的には「DeNAさんと新たなるビジネスモデルを考えられれば最高」と目標の1つとして挙げている。

次の会員制サービスの具体的な発表はまたの機会に譲られた

 もう1つのポイントは任天堂の会員制サービスの共同開発だ。会見では「多彩なデバイスに対応し、任天堂のゲームへの架け橋となるような基幹サービス」と説明。例えばスマートフォンでゲームをプレイして得たポイントを家庭用ゲーム機でも利用できるようになるといったことが考えられる。これまで任天堂はクラブニンテンドーというサービスを行なっていたが、先日終了を発表。今回の提携に繋がったわけだ。「クラブニンテンドーに代わる中核の1つ(岩田氏)」ということで、その規模はかなり大きなものとなるようで、開始時期は秋を予定しているが具体的内容は今後改めて発表となる。

 実は任天堂の……と言うより岩田氏の心を動かしたのはこの共同開発にあるのかもしれない。岩田氏は守安氏の「黒子になってもいい」という言葉を何度か引き合いに出している。なぜ「DeNAを選んだのか?」の問いに「DeNAの情熱」と岩田氏は語り、前述の言葉を引き合いに出し「実績のある会社は前に出たいと願うとこもあるが、協力を厭わず、DeNAの主力級の方を会員制サービスの共同開発に出してくださると言うことで、任天堂に対して真剣である(と感じた)」と語っている。

 DeNAの守安氏は「ゲームファンとして慣れ親しんだ任天堂のIPを、スマートフォンでどこでもプレイできる。どんなゲームになるんだろうとワクワクする」とその興奮を隠さなかった。

 任天堂はハードとソフトの一体となった開発体制を強みに、これまでにニンテンドー3DSやWiiといったヒットを生み出してきた。実際ユーザーとしてみれば、ゲームの面白さを知り尽くしているとも言える任天堂が、スマートフォン用にどのような楽しみを提供してくれるのか楽しみであると同時に、任天堂がスマートフォンでアプリを出したとしても、任天堂が作るゲーム専用機のタイトルの面白さが揺るぐことはないことは、ゲームファンが1番わかっているはずだ。その行く末はわからないが、その展開に注目はしていきたい。

(船津稔)