【特別企画】上海ホビーショップレポート
独自の進化を遂げる中国玩具! 宝の眠る地下ショップ群を発見
これまで弊誌では、台湾や香港で現地ならではのホビー風景にスポットを当てて、レポートを行なってきた。そして今回は、上海でのホビー風景を取り上げていきたいと思う。中国ではゲーム機に関しては、流通・販売が法律で禁じられているが、玩具に関しては規制がない。バンダイやタカラトミー、レゴやハズブロなど、様々な外国ホビーメーカーが、代理店を通じて商品を展開している。
上海、そして中国ならではの風景としては、日本と全く異なる中国の“おもちゃ”が多数存在しているところだ。そこで今回は、百貨店の玩具売り場も取材してみた。中国オリジナルの特撮やアニメのキャラクター玩具をたくさん見ることができた。さらに、カードゲームの上海での人気や、20近くの輸入ホビーショップがひしめき合っている「都市風情街」などもレポートしていきたい。台湾レポート、香港レポートと合わせて、東アジアのホビー事情を楽しんで欲しい。
■ 中国オリジナルキャラクターが溢れる売り場、日本にはない玩具の数々
「ARMOR HERO XT」のソフトビニール人形。複数のヒーローが活躍する特撮だ |
着せ替え人形の「Kurhn doll」。中国ならではの服が楽しい |
ちびまる子ちゃんのままごとおもちゃ |
今回の取材で、最も面白く感じたのは、デパートで販売している、低年齢層をメインターゲットにした“おもちゃ”の展開である。日本とはっきり違う、中国独自の玩具の商品展開を見ることができた。
まず、ゲームとは異なり、玩具市場には「正規品」の流通ラインがきちんと形成されている。バンダイやタカラトミー、レゴやハズブロなどがきちんと商品展開を行なっており、デパートの玩具売り場の景色は、他国とは遜色がない。ガンダムのプラモデルや、ヒーローの玩具、ブロック玩具などは、英語や日本語のパッケージに、シールで正規の流通品であることを証明するマークが貼られている。こういったところは、台湾や香港と同じだ。
しかし、それだけでなく、上海では日本で流通していない独自商品も多数見ることができたのだ。バンダイは「CRYSTAL WARRIOR」というオリジナルのアニメ作品を中国で展開しており、巨大合体ロボットや、秘密基地、合体する乗り物といった商品を展開していた。また、「ウルトラマン」シリーズでは、ソフトビニール製のものではなく、関節のあるフィギュアを展開していた。日本の「ウルトラマン」シリーズでは低年齢層向けのソフトビニール製のものでもかなり作りが細かいが、こちらのフィギュアはシンプルなデザインで、遊びやすさにフォーカスしているように見えた。
広東のAULDEYという玩具メーカーは「ARMOR HERO XT」という鎧をまとったヒーローの玩具を積極的に展開していた。「ARMOR HERO XT」は複数のヒーローが登場するドラマで、ネットにアップされているオープニングを見てみたのだが、シリアスな雰囲気で、殺陣には中国拳法なども入っていて、興味深かった。画面から伝わる雰囲気は、「仮面ライダー」シリーズに近いものがあると感じた。AULDEYが展開する「ARMOR HERO XT」のキャラクター玩具のラインナップはかなり充実していて、変身ベルト、各ヒーローの武器、さらにはパワーアップした武器といった、「なりきり玩具」と呼ばれるものが多く、さらにソフトビニール人形、よりリアルな造形のフィギュアもあった。
この他にもAULDEYは、頭の大きなデフォルメタイプのロボットが合体するとバランスの取れたかっこいいロボットになる「FRUIT COMBO DEFENDER」や、バイクと乗り手が合体し、さらに複数のロボットが合体する「ULTRA BEAST FORCE」など、様々なヒーロー・ロボット玩具を展開していた。ヒーロー風の若者が、ヨーヨーを構えるパッケージの「BLAZING TEENS」といった商品もあった。
女の子向け玩具では、香港のSilverlitと上海のSCLAは、「ちびまる子ちゃん」をイメージキャラクターに、ケーキやクッキー、点心料理をつくるためのままごとセットを販売していた。掃除機やお風呂セットなどもあり、ピンク色のかわいらしいデザインだが、掃除機はちゃんと音が鳴ったり、かなり凝っていると感じた。点心セットの餃子の造形も本格的で、女の子の人気を集めそうなラインナップだった。
中国オリジナルの女児向け玩具では、「Kurhn doll」という、バービーやリカちゃんなどと同じ、「着せ替え人形」があった。服のラインナップに中国の民族衣装や、現代風にアレンジされた服などが多くて、独特の魅力があった。もちろんウエディングドレスや、ワンピース、様々な制服など定番のラインナップもあるが、そういった服を着ていても、リカちゃんやバービーとはまた違った味わいがあると感じた。中国ならではの着せ替え人形がある、ということが確認できた。
こちらはバンダイの中国オリジナル商品。ソフトビニール人形とは違うウルトラマンフィギュアが新鮮だ | ||
AULDEYが展開する中国オリジナルキャラクターの玩具。ラインナップは多彩だ | ||
「Kurhn doll」は服のラインナップが充実していて、人気の高さがうかがえる |
■ カードゲームの流行、宝の山そのものの“ホビー街”が広がる地下フロア
夏休みのためか、カードゲームショップには、多くのプレーヤーがいた |
「都市風情街」は中が暗くて、ちょっと怪しい雰囲気 |
大きな「聖闘士星矢」の人形。イベントなどで使われたものだろうか |
次に、低年齢層玩具から、上海の「ホビー」に目を向けてみたい。いくつかの百貨店やホビーショップを回ってきたのだが、特に面白かったのが上海人民広場駅周辺にあるショッピングモールの一角だ。ここにはトレーディングカードゲーム、ボードゲームの店が集中していた。
店舗はゲームをただ販売しているのではなく、コミュニティの機能が強く、店はカードを売るカウンターだけだけでなく、いくつもの対戦台が用意されていた。この区画には全部で6店舗ほどがかたまっていた。訪れたときは平日のためか休んでいる店もあった。開店している店は夏休みのため中高生たちが狭い空間に集まり対戦を繰り広げていた。
仲間とトレーディングカードゲームを行なっているだけでなく、店主とずっと話し込んでいる人も多かった。最近の人気タイトルを聞いてみたのだが、中国語版の「マジック:ザ・ギャザリング」、日本語版の「ヴァンガード」、同じく日本語版の「遊戯王ゼアル オフィシャルカードゲーム」が人気だという。さらにさまざまなボードゲームをプレイできる「ボードゲームカフェ」もあった。
China Joyでも、「マジック:ザ・ギャザリング」と「WORLD OF WARCRAFT Trading Card Game 」のブースがあった。特に「マジック」のブースでは、コンパニオンがゲームのルールを細かく教える、という出展方法で、来場者は真剣に説明に耳を傾けていた。もちろん対戦を楽しむファンの姿も多かった。上海では、現在カードゲームがブームなようだ。ブースでもユーザー達の関心の強さを感じた。
今回のホビー取材ではもう1つ「都市風情街」という地下街を訪れている。上海市の地下鉄駅「コウ西南路駅(South Shanxi Road)」から15分ほど歩いたところで、1930~40年代の上海の港と倉庫をイメージして作られた場所、ということだが、入口から真っ暗で、何とも怪しい雰囲気だ。インディーズ系の服やネイルサロン、そして並行輸入のホビーが購入できる場所として知られている場所だという。
この地下街には10以上の輸入ホビーの店がある1店舗ごとの規模はそれほど大きくないが、中にはぎっしりとホビーグッズが積まれている。面白いのは、店ごとにまさに店主の趣味そのもの、という感じで品揃えがはっきり異なっているのだ。香港のリアルなアクションフィギュアメーカー「ホットトイズ」の正規代理店を名乗る店は、ブルース・リーや、各国の兵士など、ホットトイズが数年前にあつかっていた商品を中心に店に置いていた。昨今の主力商品であるアメリカンコミックのヒーローフィギュアは、他の店の方が品揃えが良かったりするのだ。
日本のカプセルトイや食玩のフィギュアをずらりと並べているところや、超合金魂などバンダイの商品に力を入れているお店もあれば、戦闘機やミニカーなど欧米のトイを中心に置いてあるところもある。「トランスフォーマー」専門店のような店もあった。どの店も最新のものだけではなく、古い商品もあつかっていた。
店主のこだわりに感心させられたのは、メディコムトイの「リアルアクションヒーローズ」のウルトラマンをあつかったコーナーがあったこと。リアルアクションヒーローズは限定商品で、発売期間は短い上に、数年のスパンがある。店主がウルトラマンが好きで、何年も店に置いたままにしておかなくては、ウルトラマンシリーズを集めて展示できないのだ。商品を販売していると言うよりも、店主や店員のコレクションを見せられている気分になる。
そして、台湾や香港同様、ここでも「聖闘士星矢」の人気は高かった。最新のものから、過去のものまで商品は多彩で、黄金聖闘士12人を限定で発売したアテナを囲んで立たせたジオラマを作っているところもあった。びっくりしたのは、星矢の等身大フィギュアが置いてあったところ。イベントで使われたのか、玩具店の看板か、一体どんな経緯でここにあるのか、気になってしまった。
バンダイの「聖闘士星矢」シリーズは、現在、原作でほんの少ししか出てこなかった白銀聖闘士や、冥闘士(スペクター)なども商品化されている。さらに2011年からは「聖闘士聖衣神話EX」 というシリーズを展開し、1度発売された聖闘士をモチーフに新しい商品も展開している。コミックスが連載されていたのは1980年代である、なぜ「聖闘士星矢」はここまで息が長く多彩に商品が展開できるのか、その答えはアジア地域での根強い人気のためだろう。
この「都市風情街」は、香港や台湾で見たホビー店と同じ雰囲気を持っていた。そして規模と、より店主や店長の個性が見られる場所として優れている。ホビーに興味のある人にオススメの場所である。欲しいものを見つける、というのは難しいかもしれないが、現在は入手困難の“お宝”に出会える可能性は高い。
そして、なんと言っても今回の取材で最も楽しかったのは、百貨店での玩具売り場の品揃えだった。日本ではあまり見ることができない、それでいながら作りがしっかりしていて、独自の進化を遂げている玩具を見ることができたのは衝撃だった。ホビーに関しては、今後も色々な場所を見ていきたいと思う。
(2012年 7月 30日)