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【ChinaJoy 2013】上海ホビーショップレポート 2013

“キャラを愛する世界中の人達”に高品質の商品を届けるグッドスマイル

7月26日~28日開催(現地時間)

会場:上海新国際博覧中心(Shanghai New International Expo Centre)

 今回、ChainaJoy 2013の取材と共に、昨年同様上海市内でのホビー事情の取材を行なった。今年はフィギュアメーカーとして知られるグッドスマイルカンパニーの上海オフィス「グッドスマイル上海」のセールスマネージャーを務める鈴木誠氏にインタビューを行なった。

 また、上海の観光地「豫園」にあるホビーショップ「SUPERMAN TOYS」も取材した。上海のホビーショップは小規模の店が多いが、こちらは特に品揃えが豊富で、来店する人達は必ずしも濃いホビーファンではないところに特徴がある。特に日本のホビーグッズに強い関心を寄せているところが印象的だった。

中国ならではの独特な市場で、高品質の製品を提供するグッドスマイル上海

グッドスマイル上海のセールスマネージャーを務める鈴木誠氏

 グッドスマイルカンパニーの上海オフィスは2012年にオープンした。実際に上海を中心とした中国の小売店に受注を開始したのは2012年3月となり、その前の段階で鈴木氏は上海に勤務するようになった。現在、グッドスマイルカンパニー上海オフィス所属の社員は6人で、鈴木氏をのぞく5人は中国人だという。

それまでのグッドスマイルカンパニーの中国でのビジネスは、現地販売代理店が担当していた。2012年から上海でのオフィスを立ち上げることで、本格的に中国での流通に力を入れるようになった。上海オフィス設立の大きな理由は「中国には日本のアニメキャラクターを好むユーザーがしっかりいて、彼らにちゃんとした製品を届けたい」という想いからだという。

 近年中国ではアニメのファンが増えており、イベントも盛んだ。フィギュアの人気もこういった流れに合わせ高まっている。グッドスマイルカンパニーが中国にオフィスを置いたのはしっかりしたハンドリングを行なうことで自社製品をきちんと中国国内で流通させることを第1の目標としている。

流通の中心は代理店を通じての販売だ。グッドスマイルカンパニーの製品の販売は“予約”がかなりのウェイトを占める。figmaやねんどろいど、スケールフィギュアなどの商品は半年近く前に商品化が発表され、サンプルの写真が公開される。ここからユーザーや小売店からの受注を受け工場での生産個数を決定していく。現地事務所を構えることで、日本と変わらないタイミングで情報を提供し、販促につなげることができているという。

 上海オフィスでは、中国のユーザーや小売店へ日本と同じようにしっかりと自社の情報提供を行なっている。いわば自社製品をアピールする“メディア”としての役割も担っているという。また販売した商品に対するサポートを日本と同様に行なっている。中国はまだ運送などでのトラブルも多く、その際に生じたパーツ破損などの対応を行なっている。
 グッドスマイルカンパニーにとって中国市場は重要な地域の1つとなっている。2012年末に販売したフィギュアの「アルティメットまどか」や「ねんどろいど 雪ミク いちご白無垢Ver.」は中国の平均受注数を大きく上回る商品となったという。

 先日上海で行なわれたCCG EXPO(中国国際アニメーション・ゲーム博覧会)にもグッドスマイルカンパニーは出展し会場でフィギュアの販売と展示を行なった。中国では様々なアニメイベントが中国全土で開催されているが、人がたくさん集まる大きなイベントにフォーカスしているのが現状だ。鈴木氏を始めとしたスタッフ総出で準備を行なっているという。

 鈴木氏には中国のホビー事情も聞いてみた。中国では、淘宝(タオバオ)というインターネットモールが大きいとのこと。様々な小売店が多彩な商品をネット販売しているほか、個人が販売に参加することも可能となっている。中国では最も多くの人が利用するインターネット通販の代表的な存在となっている。フィギュアの販売もこのサイトを通じて取引されることが多く、小売店の多くも淘宝で販売を行なっている。

 中国では、淘宝、そして一般の小売店の店頭にも“海賊版”が大量に出回っているのが現状である。CCG EXPOでも海賊版が販売されていたとのことで、見せてもらった。言われるとパーツの変形や塗装の粗さなど様々な違いに気がつかされるが、パッケージの印刷も本物をそのままコピーしていたり巧妙だ。こういったことへの取り組みも課題だという。

 かなり混沌とした側面もある中国市場だが、それでも“本物”を求めるユーザーは正規品を手に入れたいという想いを強く持っている。年収などの感覚を考えると、1万円近くするフィギュアの場合は、新卒の会社員の月収のおよそ1/3に当たる。日本人の感覚で言えば数万円の出費でこだわりのフィギュアを手にする、という感じだ。それでも熱心なファン達はキャラクターへ、フィギュアへの愛情を持って購入する。

 鈴木氏個人としては、“ビジネス”という側面よりも、“中国ファンの方たちにも日本と変わらないサービスを提供したい。”という想いで中国市場に取り組んでいる。今後ますますアニメーションへの注目が増えてくるであろう中国で、より楽しんでもらえる環境作りをしていきたいという意識は、上海オフィスのスタッフが共有している想いだという。

 グッドスマイルカンパニーが中国へ進出した理由で大きなものはビジネス以外にも「クリエイターの育成」がある。現在中国人のフィギュアの原型を作る「原型師」が3人誕生しているという。今後も現地の才能を持った人材を発掘・育成していきたいとのこと。こちらの取り組みも注目していきたい。

【グッドスマイル上海】
イベント時は鈴木氏を始めとしたスタッフ全員で取り組むという

豫園という観光地で、“濃いグッズ”を販売する「SUPERMAN TOYS」

日本のホビーグッズを大きくアピールする「SUPERMAN TOYS」
豫園は上海の代表的な観光スポットの1つ

 豫園は上海の代表的な観光スポットの1つである。昨年は豫園周辺にある玩具問屋街の写真を掲載した。をレポートした。玩具問屋街は上海内で流通する低年齢層向けの低価格のおもちゃが中心で、ぬいぐるみなどの他、伝統的な凧なども売っていたのだが、今回取材した「SUPERMAN TOYS」は全く様相が異なる。こちらでは、日本のホビーショップやアニメショップで販売されているグッズが販売されているのだ。

 ガンダムのプラモデルや、アニメキャラクターのフィギュア、ぬいぐるみ、さらにはアニメの設定資料集といった商品もあった。さらには立体マウスパッドやキャラクターの顔をかたどったうちわといった、正規の権利表記のない同人グッズも販売しているのだ。トランスフォーマーなどのアメリカのトイも扱っているが、中心は日本のグッズだ。

 店員に質問してみたのだが、店が独自に日本から輸入して販売している並行輸入品も多いとのこと。価格は上海の玩具やグッズから比べると少し高めだ。アイアンマンのねんどろいどは権利の関係上グッドスマイル上海では扱っていないとのことだったが、このお店では販売されていた。並行輸入品だと思われる。

 店には展示スペースも多く、カメラを向けて撮影している来店者も多かった。グッズに対してかなり知識を持っている店員も多いようで、客と楽しそうに話をしている姿も多く見られた。プラモデルは店員達が作って展示しているようだ。ちなみに1番人気はワンピースだという。

 「SUPERMAN TOYS」の面白いところは、純粋なホビーショップと言うよりも「土産物屋」という傾向も併せ持っているところだ。豫園という観光地にあり、店の外に向かって展示されているガンダムやドラえもんの巨大フィギュアに惹かれて入店すると、そこには濃いホビー空間が広がっている。フィギュアの完成度に驚き興奮した様子で話をするカップルなどフィギュアの進化をあまり知らないであろう人達の反応も見ていて興味深かった。

 日本でも昔は、フィギュアは一部のマニアのものであり、彩色なども自分で行なわなくてはならなかった。現在は、食玩やアーケードゲームの景品、コンビニエンスストアのくじで、驚くほど精密なフィギュアが入手できるようになった。そしてそういった商品はドンドン世界に浸透していっている。アニメのキャラクターの雰囲気をそのまま再現したグッズが、比較的安価に、手軽に入手できるようになっている。

 豫園は世界中から観光客が集まる場所だ。そこにこういったホビーショップができ、好評を博しているというのは興味深い。コアなファンが求め、コアなメーカーが実現させてきたホビーグッズは、今やマニアでない人達も魅了しつつある。こういった状況は日本だけでないということを改めて認識できた。

【SUPERMAN TOYS】
上海のホビーショップとしては規模が大きい。扱っている商品は多彩だ。観光の合間に思わぬディープなホビー空間に遭遇するという風景も面白い

(勝田哲也)