「OCG 2011」レポート 世界市場で勝つアプリのヒント
バンダイナムコのFacebook進出事例など5つのセッションを紹介
昨年はオンラインゲーム&コミュニティサービスカンファレンスとして開催していた「OGC」。今年は略称こそ従来通りだが、その意味をOpen、Grobal、Contentsの頭文字に変え、「オープン環境が生み出すゲーム&コミュニティコンテンツ -グローバル化とクロスプラットフォームの新次元へ-」という副題で開催された。
内容もゲームだけではなく、Facebook、スマートフォン、ソーシャルと言ったオンラインの最新トレンドについて日本や世界の動向を紹介するセッションが集まった。この記事ではセッションの中から5つのセッションの概要をお届けしたい。
■ オープン化など、「Ameba」が考える5つのスマートフォン戦略
株式会社サイバーエージェント技術部門執行役員アメーバ事業本部ゼネラルマネージャー、長瀬慶重氏 |
ブログサービス「アメブロ」や仮想空間の「アメーバピグ」などを軸としたPC向けのサービス「Ameba」を展開しているサイバーエージェントは、「『Ameba』のスマートフォン戦略~『Ameba』が考えるオープン化~」というタイトルで自社のスマートフォン向けの新戦略を紹介した。登壇したのは株式会社サイバーエージェント技術部門執行役員アメーバ事業本部ゼネラルマネージャー、長瀬慶重氏。
PC向けのソーシャルプラットフォームの中では少し出遅れた感があったサイバーエージェントだが、講演では「AmebaSP」のオープン化やマーケットプレイスの設立など5つの戦略を提示した。「Ameba」は月に1~2億のペースでPV(ページビュー)を伸ばしているが、その中でもスマートフォンの普及に合わせてスマートフォンからのアクセスが右肩上がりに急増している。同社が調査したデバイス別のMAU(マンスリー・アクティブ・ユーザー)では、スマートフォンからのPVは他のプラットフォームに比べて20代が多く、48%と半数近くを占めている。
長瀬氏はデバイスのハイスペック化とモバイルのブロードバンド化によってユーザーニーズの多様化が進む。そこにきちんと向き合っていけるかが、今後成果を出せるかの重要なポイントだと語り、そのための5つの方策を紹介した。
スマートフォン向けのウェブサービスの強化では、PCの「Ameba」のコンテンツをスマートフォンのブラウザでも使えるよう対応を進めている。また、PCで人気の仮想空間「アメピグ」をスマートフォン向けに展開する方法を具体的に検討し、9月ごろに市場へ投入できるよう開発を行なっている。
スマートフォン向けのアプリではゲーム、エンタメ、教育、機能、ソーシャルの5分野に注力。2011年内に100本のアプリをリリースする予定だ。スライドでは現在女性向けに開発しているiOS用のペット育成ゲームや、男性向けのRPGが紹介された。ソーシャル系ではTwitterを自由に装飾できるアプリも紹介し「Androidと女性をキーワードにソーシャル系のアプリを積極的に投下していきたい」と語った。
広告戦略では、4月に株式会社ディー・エヌ・エーとの合弁事業によるアドネットワーク会社を設立した。リアルイベントを通じたアルファブロガーによるプロモーションの強化や、ユーザーの属性に合わせたプロモーション広告をログイン画面に表示してアプリへの誘導を行なうとともに、リワード広告でのマネタイズ支援などにも力を入れていく。
Android向けには、アプリマーケット「Ameba App Market」を立ち上げる。アプリではなくWEBベースのマーケットで、「Ameba」の仮想通貨であるアメゴールドを使って決済できるのが特徴だ。「Ameba」のウェブサービスの中にターゲットを絞った形で掲載することで、シームレスにアプリへ誘導するのが基本コンセプトになっている。
スマートフォンからの利用者はPCからの利用者とユーザー層が半数近くかぶっていることから、すでにアメゴールドを所有しているユーザーが多く課金への敷居が低いことや、自社の仮想通貨を使うことでリワード的にアメゴールドを還元するようなインセンティブを設けたダウンロードプランを設けることができるのも強みだとしている。
最後の戦略は、コミュニティプラットフォーム「AmebaSP」のオープン化だ。ソーシャルゲーム開発APIと、Twitterやmixi、Facebookなどの外部のソーシャルメディアと連携できるAPIを提供することで開発を支援し、アプリの数を増やしていく。WEB、アプリ、アドネットワークの3つで積極的にプロモーションしていき、「今年はスマートフォン元年ということで、積極的に臨んでいます。すべてのドメインに挑戦して結果を出していきたい」と語った。
■ 中堅企業が集まることで生まれるメリットを生かした「aima」
ACCESSPORT株式会社代表取締役の沈海寅氏 |
プラットフォームに関するもう1つのセッションでは、「ソーシャルアプリのメジャー化に向けてのACCESSPORTの両輪戦略」と題して、ACCESSPORT株式会社代表取締役の沈海寅氏が講演を行なった。「Ameba」や「ハンゲーム」、「Mobage」のような巨大プラットフォームを運営できない中堅の企業がどのように生き残りの戦略を模索しているかについて興味深い内容となった。
ACCESSPORTが運営しているアプリプラットフォーム「aima」は、会員数10万~100万程度の中堅のプラットフォーマーと、多くのプラットフォームにアプリを提供したいデベロッパーをつなぐPC向けのプラットフォームサービスだ。
「aima」はmixiとAPIの多くを共通化したプラットフォームで、mixiアプリを簡単に転用できる。中堅のプラットフォームは自社でAPIを開発することなく、統一した課金システムを持つオープンなプラットフォームを用意でき、デベロッパーは複数のプラットフォーム用にアプリを用意する手間を省けるというメリットがある。
現在は毎日新聞などのニュースサイトや、ポイントサイト、ネットカフェなど60近いメディアが参加し、利用したユーザー数は累計6,000万人以上にのぼる。デベロッパーとメディアは自由なやり取りが可能で、例えばいずれかのメディアのユーザーにポイントを絞ったキャンペーンも可能。ポイントサイトで貯めたポイントでの決済も行なっている。
現在も月に1社程度、新しいメディアが参加している。そのたびに、メディアが抱える新規のユーザーがどっと入ってくることになるので、アプリのアクティブユーザー数が段階的に伸びていき、減りにくいという強みがある。
ACCESSPORTはすそ野を広げるための支援にも力を入れており、株式会社トヨタマーケティングジャパンとともに行なった車に関するソーシャルアプリのアイデア公募を事例として紹介した。こちらの公募は70以上のメディアに紹介され、合わせて1,200以上もの公募が集まったという。沈氏は「小規模の投資と面白いアイデアで勝負をする時代が来た。1社で全部やるのではなく、各社がそれぞれの強みを生かしてシステムを作り、市場自体を大きくしていきたい」と語った。
■ KONAMIの失敗事例から世界市場の難しさを解説
株式会社バタフライ代表取締役副社長COO北川敦司氏 |
今回紹介する中では唯一、デベロッパー側の視点から業界を分析する内容となるのが、株式会社バタフライ代表取締役副社長COO北川敦司氏のセッション「SAPが考えるグローバル市場攻略法」だ。バタフライはモバゲータウン向けの携帯アプリ「モバ7」、「ルパン三世~もう一人の共犯者~」、「頭文字D」などを開発した会社で、今後iPhone、Android向けのソーシャルARゲーム「iButterfly Plus」のサービスを予定している。
セッションではグローバル展開の障害となっていた世界市場の傾向を、北川氏がかつて所属していたコナミデジタルエンタテインメントでの失敗事例を例に紹介した。
現在、世界のモバイル端末普及台数は約50億台だが、約80%は2GでコンテンツもSMSや音楽が中心となっている。日本、韓国は3Gの普及がほぼ100%に近いが、北米では約70%、欧州や中東は40%、ロシアや南米、中国などアジア、アフリカは10%以下とこれから普及が始まる段階だ。モバイルのゲーム市場は世界全体で増加傾向だが、その中でもアジアの需要が急増している。スマートフォンの普及率も上がっており、「いずれは2人に1人がスマートフォンを持つ時代が来る。ここへの投資は最重要課題としてやらなくてはいけない」と説明した。
北川氏はKONAMI時代に「悪魔城ドラキュラ(英語名:Castlevania)」で世界の携帯市場に戦いを挑んだことがある。結果は上手くいかなかった。その原因として、1つの国の中だけでも多種多様なキャリア、端末に合わせたアプリが必要になり、その苦労の割にはユーザー数が少ないために採算が合わなかったからだ。
スマートフォンの登場でOSが統一され、App StoreやAndroid Marketの登場で販売するための障壁は少なくなった。北川氏はiPhone、Androidに加え、Xbox LIVEとの連携で北米市場に強みを持つWindows Phoneにも注目したいと語った。
課金方式については、現在ではまだダウンロード課金が収益の多くを占めているが、今年から来年にかけて基本無料のアイテム課金が多くなっていくのではないかと予想している。また、今は通信速度の問題でアプリが主流を占めているが、今後はフィーチャーフォンと同じWEBブラウザ型に移行していくのではないかとも語った。
また北川氏は、「今、月額でたくさん会員がいるフィーチャーフォン向けのプラットフォームは、迷わずスマートフォン対応を進めていくべきだ」と言う。モバイルアプリでは日本が先行する形になっているが、すぐに追い抜かれてしまう可能性はある。この1年の間に蓄積したノウハウを海外に向けて持っていって欲しいと来場者を鼓舞した。
■ Facebookアプリ3年の歴史とバンダイナムコの進出事例
株式会社バンダイナムコゲームス第2スタジオ第2-5プロダクション第1課チーフ 定元国浩氏 |
グローバル展開に関するもう1つのセッション「ソーシャルアプリのグローバル展開における、ノウハウ・戦術 一挙紹介」は、PC向けのFacebookアプリの動向を紹介するとともに、クラウドや顧客サービスといった開発者向けのバックヤードのサービスに関するセッションとなった。
株式会社バンダイナムコゲームス第2スタジオ第2-5プロダクション第1課チーフ 定元国浩氏は、Facebookアプリ黎明期からの動向を紹介した。Facebookアプリは2008年にFacebookがAPIのオープン化に踏み切ったことでブレイク。Facebookを世界ナンバー1のSNSへと押し上げる原動力となった。
バンダイナムコゲームスは2010年8月にRPG「Treasure ABYSS」とサッカーゲーム「City of Football」をFacebookに提供した。他にも「パックマン」や「ディグダグ」などのクラシックタイトル、DSiウェアとして発売したソフト「コトバシる」などを試験的にFacebookアプリとして提供している。
北川氏はFacebookアプリ黎明期を「ツールの時代」として紹介し、まだゲーム性のないツールや、メッセージとともにプレゼントを贈り合うだけの単純なアプリで楽しんでいた事例を紹介。その後、PlayfishやPopCap Gamesなどのメーカーがミニゲームを作り始め、Zyngaの「Texas Hold'Em Poker」がヒットを記録した「ミニゲームの時代」がくる。
さらに「怪盗ロワイヤル」の原点ともいえる「Mob Wars」の登場と、それを模倣したZyngaの「Mafia Wars」が生み出したウォーズ系ゲームが大流行した「戦争の時代」、そして「Farm Town」とそれに続く「Farm Ville」が生み出した農場系の大ブーム「農場の時代」。そして現在に続く「多様化の時代」と変遷を説明した。
Facebookの魅力はもちろんその会員数の多さだが、個人でもアプリを公開でき、お金さえ払えばユーザーを絞り込んだFacebook Adに広告を出して集客もできる。「だがリスクも大きいので、戦略を練ってから挑戦してほしい」と、失敗しないためのTIPSを披露した。
まずサーバーは国内ではなく、ターゲットのいる場所に合わせておいた方がいいということ。バンダイナムコゲームスがサービスする際、最初に国内のサーバーを使おうとしたのだが、北米でプレイすると起動に1分半、欧州では3分半もかかってしまい、社内でクラウド化の検討が始まったのだそうだ。
そして最初から広い地域に広告を打って集客するのではなく、最初は狭い地域でユーザーを集め、その動向からゲームを改善した後、本格的に稼働した方がいいと語った。Facebookの画面右側に表示されるFacebook Adはユーザの居住地や趣味、趣向に合わせたきめ細かい絞り込みが可能で、ある特定のコミュニティの中だけで流行らせてみるといった実験を行なうこともできる。
他にもウォールを使ったユーザーサポートの事例や、英国でしか広告を打たなかった「City of Football」にトルコのユーザーが多く訪れた例などを紹介した。定元氏は、ソーシャルゲームはバランスゲームの「ジェンガ」のような「おもちゃ」だと例え、だからこそ人と遊ぶのが楽しいと語った。
■ データで見る「ソーシャルネイティブ」の動向
株式会社アスキー・メディアワークス アスキー総合研究所所長の遠藤諭氏 |
「『ソーシャル×スマートフォン時代』の新ネットユーザー像 ~1万人規模メディア・コンテンツ調査による豊富なデータから解き明かす~」と題したセッションでは、株式会社アスキー・メディアワークス アスキー総合研究所所長の遠藤諭氏が、国内最大のネット・コンテンツ調査「MCS(メディア&コンテンツ・サーベイ)」で得られたデータの一部を紹介し、現在のユーザー像を読み説いた。
この調査は全国の10~64歳の男女でPCからインターネットを利用している人を対象に、選択式のネットアンケートで行なわれた。調査期間は2010年11月下旬から12月中旬で、サンプル数は10,005人。調査項目は約536の設問で、PCだけでなくスマートフォンやタブレット、ソーシャルゲームを始めとしたゲームや、テレビ、書籍などのコンテンツなどについてもデータを収集している。
遠藤氏は冒頭にネイティブマップという世代別のグラフを示した。これはどの年代に生まれた人がどのコンテンツに触れてきたかを示すもので、今の20代以下は社会に出た時点ですでにソーシャルメディアがあった「ソーシャルネイティブ」だと説明した。この世代は物への消費意欲が低く、これまでのマーケティングではその実態がわかりづらかった。
セッションでは様々なデータから、ソーシャルメディアの利用者の年代別や性別、利用サービス別の傾向を分析した。またソーシャルネイティブの実態を、映画や漫画など、彼らが接しているコンテンツの傾向から読み解く「コンテンツターゲティング」についても紹介した。
□ブロードバンド推進協議会のホームページ
http://www.bba.or.jp/
□「OGC 2011」のページ
http://www.bba.or.jp/ogc/2011/
(2011年 6月 1日)