「OGC 2011」夏野剛氏 基調講演レポート
「スマートフォンの主役はアプリからWEBブラウザへ」と予測


5月31日 開催

会場:ベルサール秋葉原


 一般社団法人ブロードバンド推進協議会(BBA)は5月31日、ゲームやコミニュティサービスの事業者を対象としたカンファレンス「OGC2011」を開催した。今回で7回目となる本イベントは、元々は3月15日に開催が予定されていたが、東日本大震災の影響で延期となっていたもの。BBAは本イベントを「東日本大震災支援イベント」と位置づけ、会場における寄付金の募集や、参加費を大幅に下げるなどの施策を打った。

 この記事では、慶応義塾大学政策・メディア研究科特別招聘教授の夏野剛氏によるスマートフォンビジネスについての基調講演と、国際ゲーム開発者協会日本代表でゲームジャーナリストの新清士氏によるゲーム制作の規模変化についての講演を記載する。




■ 「主役はアプリからブラウザになる」とスマートフォンの未来を予想

この日配られた栄養ドリンクを手に持ち、「日本ほど栄養ドリンクが充実している国はない。ガラパゴスですね」と話す夏野剛氏

 夏野氏の基調講演では、近年スマートフォンが大きく躍進したこと受け、スマートフォンがモバイル業界に与えた変化、またこれから与えるだろう変化を、世界と日本の状況の違いを踏まえながら予測した。

 スマートフォンの登場によって根本的に変わったのは「主導がモバイル通信業界からインターネット業界へと変わったこと」と夏野氏は述べた。PCの技術でモバイル端末を作れるようになり、それまで主導権を握っていた端末メーカーと通信キャリアが、アップルとグーグルというインターネット業界に手綱を渡したことが、大きなポイントであり、転換点だったというわけだ。

 この転換によるメリットとしては、ネットワーク効率よりも優先される「徹底したユーザー利益の追求」、端末が共通化されることによる「世界市場の一体化」などが挙げられた。逆にデメリットとしては、インフラが整備されないままの導入加速による「回線パンクの恐れ」、特にAndroidの統一されていないアプリプラットフォームなどの「ビジネスモデルの未整備」などが挙げられた。

 スマートフォン時代の未来については、インターネット業界へと主導権が移ったことで「モバイルとPCのコンテンツ、アプリ、参入者はどんどん融合し、インターネットの進化にモバイルが取り込まれていくようになる」と述べた。市場に関わる企業や参入者が多くなることで、さらに進化は加速していくという。

 またスマートフォンのアプリについては、「月額課金ができず、制限の厳しい『App Store』が参入しにくい一方で、『Google Checkout』にクレジットカードの番号を預けている人は多くない」と指摘し、その上で「しかし、WEBブラウザはそうではない。WEBブラウザ経由で課金システムを開発してもいいし、その自由度は高い。HTML5への対応も進んでいけば、かなりの表現能力が出てきます。アプリからWEBブラウザへという流れは、ひしひしと感じています」と話した。

 夏野氏は最後に、「勝手な予言」と前置きを置いた上で、「2015年までにスマートフォンという言葉はなくなる」、「2020年までにモバイルキャリアの利益率は固定電話並みに低下する」と予測を立てた。さらに、「今の企業形態のままでは2020年までに日本のケータイメーカーは生き残れない」と厳しい予測も出したが、「まだ日本企業のモバイルでの経験値は高い。チャンスはあります」とその可能性を述べた。


PC技術を導入することでさらなる進化が予測されるスマートフォン。夏野氏の予言にも注目しておきたい


■ 北欧製ゲームから見習うべき「アマチュア精神」

国際ゲーム開発者協会日本代表、ゲームジャーナリストの新清士氏

 新清士氏は講演において、近年の北欧製ゲームの勢いと日本のゲーム業界を社会的背景から比べ、その問題と対策を述べた。

 新氏が「最近気になるゲーム」として挙げたのが、8ビット風グラフィックスの3D世界で遊べる「Minecraft」、鳥を撃ち出して目標を破壊する「Angry Birds」、白黒の靄がかかったような2D世界を冒険する「Limbo」などの作品。いずれも小規模ながらヒットを飛ばした作品ばかりだが、これらの共通点は、「すべて北欧製」、「小さいチームを基本としていること」、「価格が安い、もしくはフリーミアムであること」だという。

 新氏は、「文化的な問題と簡単に片付けたくはないが」としながら、北欧の社会的背景にそのヒットの要因を見ていた。「Limbo」を開発したデンマークは、消費税が25%という福祉国家であるため、失業保険も手厚く、働かなくてもずっと食べていけるほど支給が出るという。「キャリアを持つゲーム開発者が独立するはずです」と新氏は話した。

 またデンマークは世界一物価が高い国のため、DIYの精神が盛んで、何でも自分で作ってしまおうという土壌ができている。さらに、エンドユーザーがデザインの過程に能動的に参加し、その製品が彼らのニーズに合っているか、使いやすさはどうかを確認するデザイン手法の一種である「participate design」という文化がある。この考え方はコンピューターサイエンスの土台として使われ、「Linuxというコンピューター分野での最大の成功に繋がった(Linuxの開発者リーナス・トーバルズ氏はフィンランド出身)」という。「Minecraft」においても、ユーザーのカスタマイズも奨励されているが、その元にはこの精神がある。

 新氏はこの状況に対し、大手企業がゲーム業界を独占するのではなく、「ゲームを完全なアマチュアとして組み立てて、それが全世界でヒットできるケースが起こりうるようになった」と話した。

 その反面、新氏は日本の据え置き型ゲーム市場について、国民の所得の減少、貯蓄の低下といった要因がある上、携帯電話の普及による月額料金の支払いが発生するため、消費者にゲームを購入する余力がなく、市場は10年後も回復する可能性は低いとした。そこで開発者が取るべき方法として、新氏は上の北欧に習い、開発チームが小さくても可能な「スマートフォンスペックへの注力」、短期間でコストもかからない「アジャイル型の開発に慣れること」などを挙げ、短期間で集中的、かつコストのかからないを目指すことを提言した。


新氏が「このゲームの魅力だけで1時間話せる」とした「Minecraft」北欧製の優れたゲームの登場に、日本は見習うべきとした新氏のプレゼンテーション


(2011年 5月 31日)

[Reported by 安田俊亮]