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【GTMF2013】オートデスクが提案する3D制作スタイル“リアリティキャプチャー”

実物からデジタルへ。デジタルから実物へ。リアルとデジタルを繋ぐ最新ソリューション

7月23日開催

会場:秋葉原UDX

受講料:無料

 7月23日、秋葉原にて行なわれた「Game Tools & Middleware Forum 2013」では次世代のゲーム開発に向けた様々なミドルウェアやアプリケーションが紹介されたが、DCCツールの大手オートデスクは今回新たに“リアリティキャプチャー”と呼ばれる手法について各種ソリューションを紹介している。

 講演「オートデスク流リアリティキャプチャー」で紹介されたのは、実物を元に3Dデータを作るために用意された最新ツール事例だ。映画・映像業界や建築・設計業界などでも用いられてきた手法がゲーム開発にも使える段階に来ていることについて、本稿でお伝えしたい。

実物を直接的にデジタルデータ化する手法 “リアリティキャプチャー”

オートデスクの渡辺揮之氏
リアリティキャプチャーの概念

 ゲームで使われる3Dデータは、モデルデータ、テクスチャデータ、モーションデータなど多岐にわたるが、最近の傾向として言えるのは、リアルさや情報量の豊かさを確保するために、それらのデータが現実に基づいて制作されるケースが極めて多くなってきているということだ。

 例えばモーションデータは、実際の人物に機器を取り付けるなどの方法でモーションキャプチャーを行ない、それを調整・編集してゲームで使う方法が一般的だ。テクスチャデータについても、撮影された写真をもとに編集を行なってゲーム用のデータとする方法がよく使われている。

 最近では3Dモデルデータについても、様々なセンサー技術を使い、形状を計測してデジタルデータ化するなどの方法で、実物をもとに制作されるケースが増えてきている。例えばKONAMI、小島スタジオによる新ゲームエンジン「FOX ENGINE」では、3Dスキャンによるモデルデータ制作がワークフローに取り入れられている関連記事)。

例えば人物の3Dデータをキャプチャーするライトステージと呼ばれる手法。全方位から形状・色を計測してデジタル化する
「ReCap」製品群
「ReCap Studio」で表示されるポイントクラウド。点のみで構成されている

 これらのように、各種のデジタルデータを制作するさい、現実のものを計測する方法を総称して“リアリティキャプチャー”と呼ぶ。本講演を行なったオートデスクのアプリケーションエンジニア、渡辺揮之氏はこのような基本概念を解説した上で、オートデスクが提供するリアリティキャプチャーのためのソリューション「ReCap」を紹介した。

 「ReCap」は複数のアプリケーションからなるリアリティキャプチャー関連製品の総合ブランド名のようなもので、「ReCap Studio」、「1 2 3 D Catch」、「Recap Photo」、「Recap Engine」といった製品群で構成される。

 これら関連製品に共通するデータ構造は“ポイントクラウド”と呼ばれる。これは計測された頂点の集まりで、各頂点は3D座標と色情報を備える。いわば3Dリアリティキャプチャーにおける生データと言う位置づけだ。このような頂点データを敷き詰めて3Dモデルデータを構成するため情報量は非常に大きく、これを専門に扱うアプリケーション「ReCap Studio」では最大200億頂点を扱えるという。

 もちろん、このままゲームで使うことはできない。軽量なポリゴンデータに置き換えるため、ポイントクラウドの各頂点をつなげてポリゴン化、DCCツール上にエクスポートし、例えばMudBoxのようなツールでリトポロジーを行ない、頂点のリダクションを行なってデータを整えるという流れになる。

 このあたりのデータ加工処理に必要な機能はおおむねオートデスクのDCCツール群でカバーされており、実物をもとにポイントクラウドのデータを取得する方法さえ持っていればゲーム開発者も本手法を取り入れることが可能な段階に来ているようだ。

 こうして取得した高詳細な3Dデータは、現在普及が進む3Dプリンタを使って、また「実物」へと再変換することも可能だ。映画「PACIFIC RIM」ではこの手法を使ってSF世界を彩るリアルなバトルスーツ等さまざまな小道具を作って撮影されているとのことで、リアリティキャプチャーの手法が面白い広がりを見せている。

膨大な点群で構成されるポイントクラウドのデータ。「ReCap Studio」ではその表示、計測、切り抜きなどの編集等が可能だ

写真から3Dデータを出力できるクラウドアプリ「ReCap」

写真からポイントクラウドを取得する
「ReCap Photo」
「ReCap Photo」のワークフロー

 「ReCap」を活用するためのキーとなるのは、どのようにポイントクラウドデータを取得するか、である。会場でのデモでは都市や工場など巨大構造物をポイントクラウドデータ化したものが紹介されていたが、このようなデータを取得するためには航空機にレーザー距離計など高度な装置が必要で、普通のゲーム開発者にとっては荷が重い。

 ただ、比較的小さな物体については遥かに手軽な方法が使える。特に幅広く使われることになりそうなのが「Recap Photo」だ。これはオートデスクのクラウドサービス「Autodesk 360」上で利用できるオンラインアプリケーションで、写真から3Dデータを作成できるというものである。

 仕組みとしては、物体を複数の方向から撮影した100枚前後の写真をもとに、自動計算して3Dの頂点データ(ポイントクラウド)を抽出するというものだ。撮影に使うのは普通のスチールカメラで良く、アプリケーションもクラウド上で動作するため高性能なワークステーション等が不要なため、幅広いシチュエーションで活用できる。

 「Recap Photo」では机の上におけるような小物類から、一軒家レベルの小規模建築までの3Dデータ作成をカバー。5~10度の角度偏差で撮影された数十枚~100枚前後の写真があれば高精度に変換できる。撮影対象が静止している必要があるため動物などはNG。また、基準点を計算する際のアルゴリズムの制限で、テカりが強すぎる物もNGとのことだが、それを避けても沢山のものが利用できそうだ。

1つの物体を多方面から撮影した写真から3D化するという手法のため、様々な静止物に対して活用できる
クラウドサービス「Autodesk 360」上で利用
オンラインで3Dモデル、テクスチャの取得ができる

 機能は「Autodesk 360」に統合されている。会場では、クラウド上に保存した写真データを指定して写真から3Dデータに変換する手順が披露された。変換にはそれなりの時間がかかるとのことで、変換が終わるとメールで知らせてくれる機能もある。

 会場デモも踏まえた印象としてはかなり手軽な使い勝手にまとめられている印象で、これならインディーズゲームの開発者にも問題なく利用できそうだ。小規模チームにとって3Dアセットの品質要求の高まりはコスト問題に直結する部分でもあるため、うまく活用できればゲームの品質を一段と高める救世主になるかもしれない。

 オートデスクのブースでは3Dプリンタで出力された“実物”も多数展示されており、その形状の自由さ、精密さに驚く開発者の姿も見られた。ゲームに使われた3Dモデルをそのまま使って、フィギュアなどグッズ類を作ってしまうのも面白いビジネスになるかもしれない。オートデスクが推進するリアリティキャプチャーの手法は今後、ゲーム業界に新たなスタンダードを築きそうだ。

取得したメッシュデータをDCCツール上で表示、調整の上ゲームで使えるデータにする。
色データはそのままだと現実の環境によって陰影がついてしまうので、照光の影響を排除するデライティングという処理が必要。講演ではこのためのソリューションとしてTANDENTのLightBrushというアプリケーションを紹介していた
オートデスクのブースでは3Dプリンタで出力された様々なオブジェクトが展示されていた。実物からデジタルへ、またデジタルから実物へという変換手法の発達は、今後さらに注目されるべきかもしれない

(佐藤カフジ)