NVIDIA グローバルコンテンツマネジメント部 部長 飯田慶太氏インタビュー

GeForce ExperienceやPhysXなど、今年のコンテンツ&テクノロジー戦略を語る


4月29日、30日開催

会場:上海正大廣場 9F



 「GeForce LAN / NVIDIA Gaming Festival 2012」2日目には、NVIDIAコンテンツアンドテクノロジー事業本部 グローバルコンテンツマネジメント部 部長の飯田慶太氏へのメディアインタビューが行なわれた。飯田氏は、古くからのNVIDIAファンならご存じの通り、以前NVIDIAの日本法人でマーケティングを担当していた人物だ。現在は米本社所属で、NVIDIAとゲームを中心としたコンテンツを繋ぐビジネスを担当している。

 今回は、GeForce Experienceや今回発表されたPhysXタイトルについて質問することができたのでまとめておきたい。なお、より技術的な情報についてはNVIDIA directorof Development TechnologyのCem Cebenoyan氏に解説していただいた。なお、GeForce Experienceについて、気になる対応タイトルや対応するGeForceの世代、そしてビジネスモデルなどはノーコメントだった。これらについてはタイミングを見て改めて発表されるようだ。




■ 飯田氏「NVIDIAはコンソールライクな遊びをPCで提供したいという強い希望がある」

NVIDIAコンテンツアンドテクノロジー事業本部 グローバルコンテンツマネジメント部 部長の飯田慶太氏
コンテンツアンドテクノロジー事業本部の業務内容
GeForce Experienceの心臓部となるGame Testing Lab(GTL)

 飯田氏はインタビューに入る前に、自身が統括するコンテンツアンドテクノロジー事業本部について解説を行なった。そのビジネスの内容についてざっくり定義すると、GPUとドライバー以外すべて。メインはゲームとなり、日本ではスクウェア・エニックスやカプコン、北米ではEpic Gamesやid Softwareなど、PCゲームを提供している様々なメーカーと日々やりとりを行なっているという。GeForce、Tegraを問わずすべてが対象で、パートナーに対する各種ツールや教育プログラムの提供、プロモーション、マーケティングなど、日々PCゲームにNVIDIAのテクノロジーが使われていることをアピールしている。

 そして彼らにとって大きな新規ビジネスになるのがNVIDIA CEO ジェンスン・ファン氏がキーノートスピーチで発表した「GeForce Experience」となる。飯田氏は、GeForce Experienceがユーザーにとってインパクトが高い理由について、「すでに全世界に3億270万人のGeForceユーザーがいること。これはPC、コンシューマーを問わず、DirectX 9/Shader Model 3.0以上の環境だけの数字。そういったユーザーに、コンソールライクな遊びをPCで提供したいという強い希望がある」と説明。

 続けて飯田氏はGeForce Experienceをどのようにして実現しているかについて解説を加えた。飯田氏によると、NVIDIAでは2003年から、互換性、安定性のチェックのための自動テスティングのインフラ設備を整えてきたという。テスティングをするために、PCをセットアップし、ゲームをインストールし、コンフィグを設定する。たとえば「Microsoft Flight Simulator」では50ぐらいのオプションが存在するが、描画距離やシャドウクオリティなどを自動で設定して、自動で実行して、結果をはき出すということを行なっているという。

 これはゲームのリリース前だけではなく、リリース後もパッチやアップデート、DLCなどプログラムがバージョンアップする度に行なっており、マニュアルで処理したら膨大な時間が掛かるものを全自動で処理し、そのデータをゲームメーカーに提供してきたという。このデータは、メーカーが作成するゲームの子コンフィグ設定に役立てられてきた。

 その心臓部となるのが「Game Testing Lab(GTL)」で、サンタクララ、セントルイス、モスクワ、ソウル、上海などに拠点が置かれている。具体的な設備の内容については言えないということだが、全部で数千台のPCが設置されているという。こうしたバックグラウンドをベースに、BtoBのビジネスだったものをBtoCに切り替え、クラウドを通じてGeForceユーザーに有益な情報を提供していくというわけだ。

 ちなみにBtoBに関しては、発売の数カ月前からではなく、発売の4~5年前からお付き合いを初めていくという。飯田氏が“バーティカルスライス”と呼んだ北米のアプローチは、ひとつのゲームのレベルを完璧に作って、それを会社のマネジメントにゴーサインを貰うことで、ゲーム全体を作って行くという。そのお手伝いを4~5年前から進めているという。

 飯田氏は「ゲームメーカーの開発チームと私のチームが、5年先はこういうアーキテクチャを考えているので、こういう開発のアプローチを考えた方が良いという具合にアドバイスしながら一緒に未来の話をしていく。たとえば、Epic GamesのTim Sweenyさん、id SoftwareのJohn Carmackさん、カプコンの竹内さん、スクウェア・エニックスの橋本さん、岩﨑さんなどとは良く話をしている。ツールについてもβ版を提供して使って貰ったりする。NVIDIAはゲームの開発開始から出荷まで中に入って共同で制作しているイメージ」と語り、NVIDIAがかなり開発内部に入り込む形でPCゲームの開発が進められている実態が報告された。

 PhysXについては、PC、コンソールを問わず、250以上の対応タイトルが出荷されており、最近はモバイル向けが増えているという。飯田氏は「Angry Birds」を例に挙げ、グラフィックスより、動きの正しさ、シミュレーションのリアルなほうが、ゲームとしておもしろいという傾向があるので、Android向けにPhysXを使うケースが多いようだ。

【NVIDIA コンテンツアンドテクノロジー事業本部】
担当分野は「基本的にGPUとドライバー以外すべて」というコンテンツアンドテクノロジー事業本部。GeForce ExperienceやPhysXも担当となる




■ 飯田慶太氏インタビュー。PhysXによるGPUフィジックスに手応え。GFEの対応タイトル、ビジネスモデル、対応ハードは“まだ調整中”

NVIDIAコンテンツアンドテクノロジー事業本部 グローバルコンテンツマネジメント部 部長の飯田慶太氏
NVIDIA directorof Development TechnologyのCem Cebenoyan氏

Q:「Game Testing Lab(GTL)」でテストしたデータのメーカーに対する提供についてもう少し詳しく教えて欲しい

A:データをどう使うかはメーカーによるが、今回のGeForce ExperienceのようにCPU、GPU、OSなどのすべてのコンビネーションで試すというところまではしていない。GPUのいくつかのパターンを試している。ゲームに対する悪い影響といえばやはりフレームレートなので、フレームレートを気にしながら調整するようにしている。

 新しいハードウェアの場合は、メーカーに渡せないので一緒に話をしながら、アンチエイリアスではこういう影響があるという具合に調整している。ゲームによってもニーズが異なるので、たとえば「Counter-Strike」だと60フレームは必須だけど、MMORPGなら20~30フレームで構わないということもある。描画距離や影の有無によってもビジュアルインパクトは変わってくるので、何がファーストプライオリティかとメーカーからフィードバックを受けながら最適なグラフィックス設定をアドバイスしていく形になる。最終的には人間的な付き合いになる(笑)。

Q:1タイトルあたりのテスト時間は?

A:先ほども申し上げたように、我々はテストを自動で行なうフレームワークがある。ベンチマークがあるゲームはそれを利用する。それを走らせて、そのデータをサーバーに送り出すということは単純なので、シングルプレイのゲームなら、ゲームのビルド、ドライバーごとに数日でできる。ただし、MMOは、もっと時間が掛かる。MMOの場合は、すべてのコンビネーションをテストするのは難しいので、少しフレームレートが高い値に調整する。

Q:ベンチがないものはどうテストするのか?

A:NVIDIAがスクリプトを作る。詳細は話せないが、MMOだとベンチマークがよくあると思うが、ベンチがあるゲームのほうがテストしやすいので、MMOでも普通のユーザーが体験するようなベンチマークを準備してくれと伝えている。デバッギング、リグレッションテスティング、トップのゲームをフレーム毎に、描画のエラー、パフォーマンスの影響をテストする。

Q:アメリカ、ロシア、韓国、中国と世界中にラボがあるが、これはお互いに繋がっているのか?

A:そうです。自動テストティングは、リモートでコマンドを送って実行できる。上海、ソウルなどMMOの中心の地域は、レーテンシーが重視されるので、自動テストではなくテスティングの人間を多く配置している。あとは地域によって、OSの言語が異なったりしている。ただ、Windows7、このGPU、このCPU、このメモリでFPSデータほしいという場合は、ブラウザからパラメーターを入力するだけで、1番近いPCを探して、ベンチを走らせてイメージを作ってくれる。ファイルシステムもかなりアドバンス。この先は内緒(笑)。

Q:ベンチマークのスコアと実際のパフォーマンスに差があるようなゲームの場合はどちらを優先させるのか?

A:ベンチマークです。MMOの場合はそうです。ただ、「Call of Duty」のようなAAAタイトルの場合はベンチを作ってもそれっきりということがあるので、それをずっと使用するのはNVIDIAとしては理想ではないので、そういうときはNVIDIAが作ったベンチマークでテストすることもある。

Q:MMOにおけるレーテンシーの影響は、テストでどの程度考慮されているのか?

A:レーテンシーはフレームレートにはあまり影響がないので、なので描画に関するテストに関しては関係がない。テストに関しては非常に複雑なアルゴリズムがあって、AA、影、テクスチャなどの要素があるが、全部のコンビネーションでチェックを行なう。テスト回数は数千回にもなったりするが、結果を3Dで見ると複雑なチャートから、独自のアルゴリズムによってフレームレートとグラフィックスのバランスが良いポイントをはき出す仕組みになっている。高度に最適化されたフレームワークによってGFEを実現していく。

Q:「Angry Birds」はPhysXを使っている?

A:あるレベルでコラボレーションしているのは事実だが、PhysXを使っているかどうかはNDAなので言えない。Rovioさんに聞いてみて欲しい(笑)。アグリーメントの内容によってはPhysXを使っていても、使っていると言わなくていいということがあったりする。RovioさんとはPhysXだけでなく、次世代のゲームなどに関してもエンジンやテクノロジーについて話をする機会がある。たとえば、ゲームエンジンにUnityを使っているとすると、UnityとゲームメーカーとNVIDIAの3社でどういうことをしようかと話したりする。Tegra3が出るときに、Tegra3は4つのCPUコアがあるので、マルチスレッド、マルチコアをサポートしてもらう必要があるので、ゲームメーカーに対してUnityのUDKプログラムに参加するように促したりします。

Q:現時点で代表的なモバイル向けのPhysXタイトルは何か?

A:Tegra3向けに8~10タイトルある。最近リリースされたものだと「Demolition inc.」がある。街があって車が走っていて、そこにオイルをおいて、車を滑らせてビルに突っ込ませてビルを爆破していくというゲーム。破壊まわりでかなりPhysXを使っている。それから「Zombie Driver」のTegra3版もPhysXを使っている。車を走らせてゾンビをひき殺していく。ゾンビのラグドール処理などにPhysXを使っている。

 GeForce GPUを使ったPhysXタイトルはまだまだ少ないが、AGEIAの買収から現在に至るまで、GPUフィジックスをもっと使ってもらうために、PhysXとAPEXを完璧なものにするために、かなりのエンジニアをSDKとシミュレーションアルゴリズムの開発に割り当て、ツールを使いやすくするなどの改善を行なっている。

 昔はPhysX、APEXは詳しくないと、インテグレーションすることは難しかったが、今はインテグレーションを数日間でやってちゃんと動かして、アーティストがシミュレーションの見た目を調整するなど、簡単に物理シミュレーションの実装が可能になった。この環境が整備されたのが1年前ぐらいで、今後はもっとGeForce GPUを利用するPhysXタイトルはどんどん増えてくるのではないかと思っている。今年だけでGPUフィジックスを採用したPhysXタイトルは8タイトルもある。北米、欧州、日本でも今後どんどん出ていく。

Q:PhysXの物理エンジンとしての強みは?

A:1つは、ほかの物理演算ミドルウェアと比較すると、他のミドルウェアにはAPEXがないこと。Solverといって、パーティクルやリジットボディといったアルゴリズムがあるが、APEXがひとつ上のレイヤー、テクニカルアーティスト向けのスケーラブルなPhysXを使うフレームワークになっていて、コンテンツをオーサリングしやすい。

 2点目として、GPUフィジックスをフルサポートしていること。3点目、モバイルからPCまで全部サポートしていて、ここまでコンテンツをスケールしやすいフィジックス関連のミドルウェアはない。4点目、Unreal EngineやUnityといったトップクラスのエンジンにもPhysXは入ってるので、インテグレーションする手間なくすぐ開発にかかれる。

 あとライセンス費用の話はできないが、我々のビジネスはあくまでGPUを楽しんで貰うことなので、Havokのようにこの事業単体で黒字にしなければならないわけではなく、GeForceが売れればいい。さすがに無料ではないが、価格的にはかなり安い。ライセンシングも我々のチームが決めているので、たとえばTegraに素晴らしいゲームを供給して貰えるなら、すべてのPhysXのロイヤリティをゼロにするとか、かなり細かくネゴができる。

 PhysXは多くのゲームメーカーにも注目されている。ただ、PhysXはそんなに簡単に作れたものではないので、無料にはならない。逆にサポートの問題もあるので無料に市内方がお互いやりやすいという側面もある。先日ジェンスンのキーノートで、Giantさんの「PLA」や、Horizon3Dさんの「QQ Dance 2」、Snail Gameさんの「Age of Wushu」など、誰でもというと失礼ですが、簡単に素晴らしいものを作れるという時代になった。

Q:PhysXでGPUフィジックスを使うと要求スペックは上がるか?

A:イエス。エフェクトをマックスにする場合は、それ以上のGPUが必要になる場合が多い。ただ、i-cafeでは解像度が低く、2,560×1,600ドットのモニターはほとんどなく、MMOだとキャラの表示がネックになることなどを考えると、FPSに比べると、GPUよりCPUの使用率が高い傾向がある。GPUが使ってない部分がかなり多いので、それを使うだけになることも多い。550Tiでもたいていは大丈夫。「PLA」はハイエンドGPUが必要になる。

Q:GeForce Experienceのβ時の対応タイトルは?

A:まだ言えない

Q:GeForce Experienceのアプリケーションは? 単独のアプリケーションなのか、ドライバーにインプリメントされたものなのか?

A:それもまだ言えない。

Q:ユーザーによって最適と感じる値は異なる。GFEが最適な値を出した後に、ユーザーが微調整することはできるのか?

A:もちろんできる。本当はジェンスンのキーノートでデモをする予定だった。フロントエンドみたいなものなので、デフォルトの設定の状態から、最適化ボタンを押すと、ゲーム内で設定されるが、ゲーム内のコントロールパネルも調節される。ゲームを始める度に、GFEで最適化された設定になる。

Q:今後モバイル向けのサービスは? Tegra Experienceも視野に入れているのか?

A:「それは良いアイデアだ」とジェンスンが言うと思う(笑)。現在はTegra3に最適化されたゲームを、Google PlayではTegra2でもダウンロードできて、ガクガクの表示になってゲームのレーティングが低くなってしまうという問題がある。今後はTegraの2、3、4までといった具合に設定できるようになればいいなと思っている。

Q:対応するGeForceの世代は?

A:まだわからない。

Q:ビジネスモデルは?

A:まだ何も言えない(笑)。ジェンスンが言うとおり、まだすべての可能性を残しています。


【PhysX/APEX】
飯田氏が解説にもっとも時間を掛けたPhysX/APEX。今年だけで8タイトルの対応タイトルがリリース予定で、今後も強力にプッシュしていく方針だという

(2012年 5月 1日)

[Reported by 中村聖司]