ニュース
「Ryzen 7」で注目を集めるAMDが“Vega”とVRゲームの追加情報を公開
恒例のイベントで“CAPSAICIN”に加わった“Cream”の正体とは!?
2017年3月2日 11:41
GDC2日目の28日(現地時間)、AMDは「CAPSAICIN & Cream」と題してゲーム開発者に向けたイベントを開催した。イベントタイトルは、唐辛子の辛味成分であるカプサイシンに引っ掛けたもので、昨年のGDC 2016からSIGGRAPH 2016を経て、AMDのCPU/GPUがピリリとスパイシーで“一味違う”といった意味合いで今年のGDCでも使用されている。ただし、その“CAPSAICIN”に“Cream”がついているのが、例年とはちょっと事情が違ってしまっていることを暗示している。
今年の事情が違ってしまったのは、新年早々CES 2017で新アーキテクチャのGPU“Vega”を、本年の上半期に発売する見通しであると発表したことに加えて、つい1週間前に、“Zen”アーキテクチャのCPU「Ryzen 7」を、3月2日に発売することを発表したことが大きいのだろう。ゲーマーにとってより重要なGPU“Vega”の方は、残念ながら今回のGDC 2017に合わせて製品が披露されることはなかった。
とはいえ、本イベントでは、やはりホットな話題の“Vega”アーキテクチャのGPUの紹介を発端にして、次世代の4K VRや、シミュレーションを活かしたヘアの表現といった、ハイパフォーマンスを誇る“Vega”世代GPUが活躍するシーンが次々と紹介されたいった。
ゲーマーが実際に製品を入手して、“Vega”を体感できるようになるタイミングは初夏の頃と、もう少し先になってしまうが、“Vega”によってゲーム体験がどう変わっていくかのヒントは大いに得られたので、本稿でお伝えしていきたい。
新GPU“Vega”アーキテクチャの新要素を開発者向けにおさらい
ホスト役として登壇したRaja Koduri氏は、当然のように新GPU“Vega”の話題から進めていった。“Vega”は、ゲームプレイ、プロユースのグラフィクス、人工知能の3本柱をターゲットにしていることから、“Vega”はGDCに参加したり関心を寄せるゲーム開発者やゲーマーにとって非常に有用で、グラフィクスに対するハイパフォーマンスを実現するアーキテクチャは完全に新しいものになっているとした。
“Vega”アーキテクチャの具体的なウリは、HBM2ビデオメモリの性能を活かす広帯域キャッシュコントローラ(HBCC)、RPM(Rapid Packed Math)を内蔵し新しいデータ型をサポートする新演算ユニット、2倍のスループットを持つプログラマブルなジオメトリパイプライン、新ラスタライズ方式のピクセルエンジンの4つだ。これらが総合的に働くことで、グラフィクス性能が飛躍的に向上している。
Koduri氏は、まず次世代の解像度というべき4K VRのタイトル「the Sword of baahubali」の開発中画面を披露した。ただし、まだ開発中のファーストルックということもあってか、実際のインド人女優を“Vega”のGPUパワーを使って、リアルタイムにパフォーマンスキャプチャしたキャラクターにも関わらず、肝心のキャラクターの造形に生身の女優の良さが出ていない。またアセットの品質もプロトタイプ感が出てしまっており、いまひとつ4K VRの良さが伝わってこなかったのは残念った。9月には公開される予定だというから、それまでにクオリティが上がっていくことに期待しよう。
続いて、重量級ゲーム「Deus Ex Mankind Divided」を使って、HBCCによって平均フレームレートが50%向上し、最低フレームレートが2倍になっていることを示すデモが行なわれた。会場のデモ画面では、カメラの進行方向が転換して室内のアセットが多く画角内に入ると、HBCCをOFFにしたデモ機では、フレームレートが低下して画面がカクつく一方、HBCCをONにした側のデモ機は終始高いフレームレートを維持していた。
また、技術デモの域ではあるが、RPMによって2倍以上のレンダリングパフォーマンスが出ることを実証するヘアのレンダリングが実演された。RPMをONにしたデモ機は120万本、OFFにしたデモ機は55万本と2倍以上の開きがあるにも関わらず同程度のフレームレートという説明がなされたが、画面に動きがあったのは、両画面に表示されたパフォーマンスカウンターくらいであったため、RPMによる差異は確認することができなかった。デモの最後に、両者のレンダリング結果が違いとして示されたが、これは静止画で、髪の毛の本数が多い方が結果の品質が高いに決まっているため、これも参考程度にしかならない。
“Vega”の話題の最後に、LiquidSkyのCEO、Ian McLoughlin氏による「Battle Field 1」を実行するデータセンターの“Vega”マシンから、ゲームストリーミングによって、手元のSurfaceでプレイするデモが行なわれた。これは、いわばNVIDIAのGeForce Now for PC and MACのAMD版と言える。AMD自身のビジネスでないことから、NVIDIAとは若干立ち位置が異なるが、クライアントPCのグラフィクス描画ではなく、データセンターのサーバで高速な演算結果だけを担うゲームの仮想化ビジネスで本格的に巻き返しを図ろうとしていることを意味している。
Koduri氏による技術的な話題のしめくくりは、ハードウェアではなくAMDが主導的に進めてきたグラフィクスAPIのValkanとDirectX 12に関する話題だった。このセクションの1人目のゲストとして招かれたREBELIONのCTO、Chris Kingsley氏と共に、同社のシューティング「SNIPER ELITE 4」を題材にして、現行ゲーミングGPU「RADEON RX 480」のシングル構成とデュアル構成でフレームレートが2倍になることを示しながら、DirectX 12 APIを使っていても素直に2倍のパフォーマンスが出ることや、開発者向け「RADEON DUO Pro」でも同様にデュアルGPU環境で問題なく開発できるといった話題を交わしていた。
Kingsley氏に続いて2人目のゲスト、OXIDEのPrincipal Developer、Dan Baker氏が登壇して、同社の新世代「Nitrous」エンジンで開発中のVRゲーム「Not Enough Bullets」を披露した。早々に同作がクラッシュしてしまうというハプニングはあったものの、Baker氏の話では、“Ryzen”搭載PCでVRゲームとしての基準となる90fpsのパフォーマンスを得ることができているということだった。
AMDのVRへの取り組みと続々登場する新作VRタイトル
この後は、AMDでアライアンスを担当するCorporate Vice President、Roy Taylor氏とホスト役を交代して、VRの話題を中心にイベントは進行した。Taylor氏は、想像の世界に没入し続けるための理想的な条件として、120fps以上のフレームレート、10億単位の大量のエンティティ、16Kのディスプレイ解像度を挙げた。現実問題として、現時点ではこの条件を満たす状況にはなっていないが、想像力の世界に没入し続けるための“魔法”を打ち破ってしまう、まるで網戸越しに覗き見ているような現世代のVR世界を、より真実味のある世界にしていかなければならない、というAMDの決意を語った後、VRに関するトピックをゲスト登壇者とのトークを交えて紹介した。
まず最初に登壇したのは、HTCのGeneral Mabnager、Dan O'Brien氏で、VR HMDを展開するHTCとして、AMDのCPU/GPUパフォーマンス向上に関する取り組みが、VRの発展に対して多大な貢献をしていると謝意を述べた。これを受けて、HTCは、2016年に芽生えたVRが2017年は、より一般に浸透させていかなければならないと宣言。決意も新たにさらにVRの発展に取り組んでいく姿勢を見せていた。加えてO'Brien氏は、昨日、Vive用の新Trackerの開発者向けリリース日を、3月27日と告知したことについても触れていた。
続いて、「Battlefield」、「X-MEN」、「Stargate」に携わったキャリアを持ち、現在はAMDのDirectorを務めるFrank Vitz氏を招いて紹介したのは、Epic GamesのVRシューター「Robo Recall」だ。ここでVitz氏が触れたのは、ゲームの内容というより、ゲームのグラフィックス品質とパフォーマンスに関する技術的な事項で、今までの常識を打ち破る話題だ。Vitz氏によると、アンチエイリアスなしのディファードレンダリングよりも、MSAAによるアンチエイリアスを効かせた状態の方が、まったく同一のシーンで30%以上も速くなるというのだ。
もっとも、MSAAが有効にならないのは、従来からあるディファードレンダリングの弱点ではあので、この違いはフォワードレンダリングに変更することで、必然的に解決する問題であると捉えることもできる。ことVRに関して、フォワードレンダリングにアドバンテージがあるというのは、常に90フレーム以上を維持する、という条件の優先順位が高いことに起因する。高いフレームレートを維持するということは、ビデオメモリに対するアクセスが高い頻度に固定されるということになるため、ディファートの描画自体は高速だとしても、それ以前にメモリ帯域幅がボトルネックとなってしまい、結果的に描画が遅くなってしまう可能性があるのだ。
今回は、AMDのイベントであったため触れられていないが、VRでフォワードを検討する余地があることは、NVIDIAのGPUであっても同様で、このことはEpic GamesのUnreal Engine 4のマニュアルにも記載されている事項だ。
その他、新作VRゲームとして、「GARY the GULL」のLIMITLESS Studioによる「REAPING REWARDS」、「ROM: Extraction」のFirst Contact Entertainmentによる最初の拡張パック「Overrun」、Surviosの「Raw Data」といった最新VRゲームタイトルが次々と紹介されていった。
例年のように新GPUの発表や実機の初披露といったビッグニュースはなかったものの、「CAPSAICIN & Cream」では、AMDの取り組みに新しいフレーバーを加える多くの情報が飛び出した。最後にサプライズとして発表された、AMDとBethesda SoftworksのPCゲームに関する戦略的パートナーシップも、大きなニュースであった。AMDがBethesdaのゲーム開発をサポートする一方で、今後リリースされるBethesdaはAMDの「RADEON」GPUシリーズ、「Ryzen」CPUシリーズ、Vulkan APIや、AMDのサーバソリューションに向けて最適化されることになる。
「PREY」、「Elder Scrolls」、「Fallout」、「DOOM」、「Dishonored」といったタイトルをプレイするには、AMD製品の環境の方が快適になるのだ。今は、まだ発表されたばかりの段階だが、すでに昨年「DOOM」がVulkan APIに対応したという実績もあるため、今後は急速に両社の関係が深化するだろう。Bethesdaから新作情報が出る際に、ゲーム内容のみならず、プレイ環境に関しても注目する必要がありそうだ。